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龍人の村編
12 side リュカ
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ケビン団長が渡した腕輪が割れると同時にルナ嬢の身体が傾く。咄嗟に伸ばした腕は古傷のせいで動きが鈍いはずの左腕だ。
「取り敢えずソファーに寝かせな」
目の前のソファーに彼女を寝かせると、婆さんは彼女の手を握り魔法で状態を確認する。黙って様子を伺っていると確認が終わったのか婆さんが手を放し息を吐き出した。
「参ったね……この娘は無自覚かい」
「婆さん、何が分かったんだ?」
「この娘は魔力が強すぎる。自分で自分を傷つけているんだよ」
婆さんが言うには体の中から自分を壊そうとしているらしく、その原因は彼女自身の心だと言う。
「恐らく無意識に魔力や自分の存在を否定しているんだね。何があったんだい?」
否定と言われ思い浮かんだのは、学園であった嫌がらせの数々と婚約者との不仲。
学園での嫌がらせは詳しくは知らないが、婚約者は最低な人物だ。日頃からルナ嬢には罵詈雑言を浴びせ、他の女性には優しくデートしたり贈り物もしていた。その事を婆さんに伝えれば、顔を引きつらせていた。
「婚約者の件以外にも、学園で酷い嫌がらせを受けていた」
「誰にも言わなかったのかい?」
「アランが手助けしていたが、家族……特に父親はどうかな」
迎えに行った時の二人の様子を思い出すと、ルナ嬢が父親を避けてい様にも父親が困惑している様にも見えたな。そなん事を考えている間に婆さんはアランに連絡を始める。通信機から呼び出し音が聞こえる事、数回。時を待たずして繋がった。
『師匠、ご無沙汰しております』
「堅苦しい挨拶はいい。ルナの事で確認したい事がある」
通信機越しに頭を下げるアランを止めると、婆さんはルナ嬢の魔法適正と学園での様子を尋ねたが、アランから返ってきたその返答に頭を抱えた。
「全適正かい……参った」
『魔法陣を作る事までなら三冊全て出来ました。完成直後、消滅する時には痛みを感じる事もあった様で、一度も発動はしなかったですね』
「痛み?……呪具のせいかね。そして、講師まで加担しての嫌がらせねぇ」
アランが学園内部を調査して判明した内容は陰湿かつ危険なものだった。筆記テストの内容が一人だけ難しくなっていたり、重要な連絡しないや授業自体に参加させない、危険で複数人で受けるような訓練を一人でさせる等。生徒だけでなく講師も加担していた為、アランだけでは防げなかった様だ。悔しさを滲ますアランは瞳の奥に怒りを溜め込んでいるように見える。
『勿論、厳正に処罰させて頂きます。学園長も対象です』
学園長も黙認していたとして、更に上の学問統括部長である王弟殿下に報告書を回したらしい。直接手が出せない分、容赦無い対応をする様だ。
「それならよし。さて、どうしたもんかね。あの娘自身が魔力に勝てるかどうか」
『魔力に勝つ?師匠、ニールセンさんに何が』
アランの疑問に婆さんが軽く説明する。婆さんの推測では否定的な言葉のせいで自分自身を責めているのだという。
「魔法が使えない事への罪悪感と急激に上がった魔力。タイミングが悪すぎだよ。このままじゃ体が持たないね」
『そんな……彼女が助かるにはどうしたら良いのですか?』
「一時的に魔力を抑えても同じ事の繰り返しだよ。本人の意識を変えて受け入れるしかないね」
本人の意識を変えるって無意識なのにか?婆さんは相変わらず無茶を言う。
アランとの通信を終えた婆さんがソファーの近くの棚から新しい腕輪を取り出した。女性が好みそうな華奢で模様に沿って花びらの様に宝石が嵌め込まれている。色とりどりの花が輝く腕輪を見て婆さんは唸り声を上げた。
「これじゃ足りないね。ドラゴンの涙石はあるかい?」
「小さいが四つあるぞ」
婆さんに言われて手持ちの涙石を渡せば、腕輪の内側に嵌め込み始めた。
涙石はドラゴンが泣いた時にたまにでる涙の結晶の様な物で本当の石ではないが貴重品だ。回復薬の材料になるが身に付けるだけで小回復の効果がある。しかし、ドラゴンは滅多に涙を流さない為に入手困難な材料でもある。ネグルは泣き虫だから入手可能だが、普通は一年に一個手に入れば良い方かもな。しかし、これを全部付けるとは……
「そこまで回復する必要があるのか?」
疑問をそのまま口に出せば何の躊躇いもなく婆さんが頷く。全ての涙石を嵌め終わるとルナ嬢に腕輪を嵌め、肩を撫で下ろした。
「これで暫くは大丈夫だが、この娘が変わるしかないね」
「変わる……人間の心がそう簡単に変わるとは思えないが」
「だから参っているんだよ」
そう言って考え始めた婆さんをただ、俺は眺めているしか出来なかった。
利き手である左手を、偶然とは言え治して貰ったのに俺は何も出来ないんだな。
グワッ、グワッ!
静まりかえっていた室内にネグルの声が響く。珍しく慌てた様のネグルに驚いていると、窓から無理矢理中に入ろうとしていた。
「待て待て家が壊れる。どうしたんだ……翁がルナ嬢を呼んでる?」
「あー、強い魔力に気付いたんだろうね。明日、連れて行っておやり」
「いや、あの数のドラゴンに怯えたりしないか?」
「大丈夫さ」
婆さんは簡単に言うが彼女は貴族の令嬢だぞ。本当に大丈夫かよ。
「取り敢えずソファーに寝かせな」
目の前のソファーに彼女を寝かせると、婆さんは彼女の手を握り魔法で状態を確認する。黙って様子を伺っていると確認が終わったのか婆さんが手を放し息を吐き出した。
「参ったね……この娘は無自覚かい」
「婆さん、何が分かったんだ?」
「この娘は魔力が強すぎる。自分で自分を傷つけているんだよ」
婆さんが言うには体の中から自分を壊そうとしているらしく、その原因は彼女自身の心だと言う。
「恐らく無意識に魔力や自分の存在を否定しているんだね。何があったんだい?」
否定と言われ思い浮かんだのは、学園であった嫌がらせの数々と婚約者との不仲。
学園での嫌がらせは詳しくは知らないが、婚約者は最低な人物だ。日頃からルナ嬢には罵詈雑言を浴びせ、他の女性には優しくデートしたり贈り物もしていた。その事を婆さんに伝えれば、顔を引きつらせていた。
「婚約者の件以外にも、学園で酷い嫌がらせを受けていた」
「誰にも言わなかったのかい?」
「アランが手助けしていたが、家族……特に父親はどうかな」
迎えに行った時の二人の様子を思い出すと、ルナ嬢が父親を避けてい様にも父親が困惑している様にも見えたな。そなん事を考えている間に婆さんはアランに連絡を始める。通信機から呼び出し音が聞こえる事、数回。時を待たずして繋がった。
『師匠、ご無沙汰しております』
「堅苦しい挨拶はいい。ルナの事で確認したい事がある」
通信機越しに頭を下げるアランを止めると、婆さんはルナ嬢の魔法適正と学園での様子を尋ねたが、アランから返ってきたその返答に頭を抱えた。
「全適正かい……参った」
『魔法陣を作る事までなら三冊全て出来ました。完成直後、消滅する時には痛みを感じる事もあった様で、一度も発動はしなかったですね』
「痛み?……呪具のせいかね。そして、講師まで加担しての嫌がらせねぇ」
アランが学園内部を調査して判明した内容は陰湿かつ危険なものだった。筆記テストの内容が一人だけ難しくなっていたり、重要な連絡しないや授業自体に参加させない、危険で複数人で受けるような訓練を一人でさせる等。生徒だけでなく講師も加担していた為、アランだけでは防げなかった様だ。悔しさを滲ますアランは瞳の奥に怒りを溜め込んでいるように見える。
『勿論、厳正に処罰させて頂きます。学園長も対象です』
学園長も黙認していたとして、更に上の学問統括部長である王弟殿下に報告書を回したらしい。直接手が出せない分、容赦無い対応をする様だ。
「それならよし。さて、どうしたもんかね。あの娘自身が魔力に勝てるかどうか」
『魔力に勝つ?師匠、ニールセンさんに何が』
アランの疑問に婆さんが軽く説明する。婆さんの推測では否定的な言葉のせいで自分自身を責めているのだという。
「魔法が使えない事への罪悪感と急激に上がった魔力。タイミングが悪すぎだよ。このままじゃ体が持たないね」
『そんな……彼女が助かるにはどうしたら良いのですか?』
「一時的に魔力を抑えても同じ事の繰り返しだよ。本人の意識を変えて受け入れるしかないね」
本人の意識を変えるって無意識なのにか?婆さんは相変わらず無茶を言う。
アランとの通信を終えた婆さんがソファーの近くの棚から新しい腕輪を取り出した。女性が好みそうな華奢で模様に沿って花びらの様に宝石が嵌め込まれている。色とりどりの花が輝く腕輪を見て婆さんは唸り声を上げた。
「これじゃ足りないね。ドラゴンの涙石はあるかい?」
「小さいが四つあるぞ」
婆さんに言われて手持ちの涙石を渡せば、腕輪の内側に嵌め込み始めた。
涙石はドラゴンが泣いた時にたまにでる涙の結晶の様な物で本当の石ではないが貴重品だ。回復薬の材料になるが身に付けるだけで小回復の効果がある。しかし、ドラゴンは滅多に涙を流さない為に入手困難な材料でもある。ネグルは泣き虫だから入手可能だが、普通は一年に一個手に入れば良い方かもな。しかし、これを全部付けるとは……
「そこまで回復する必要があるのか?」
疑問をそのまま口に出せば何の躊躇いもなく婆さんが頷く。全ての涙石を嵌め終わるとルナ嬢に腕輪を嵌め、肩を撫で下ろした。
「これで暫くは大丈夫だが、この娘が変わるしかないね」
「変わる……人間の心がそう簡単に変わるとは思えないが」
「だから参っているんだよ」
そう言って考え始めた婆さんをただ、俺は眺めているしか出来なかった。
利き手である左手を、偶然とは言え治して貰ったのに俺は何も出来ないんだな。
グワッ、グワッ!
静まりかえっていた室内にネグルの声が響く。珍しく慌てた様のネグルに驚いていると、窓から無理矢理中に入ろうとしていた。
「待て待て家が壊れる。どうしたんだ……翁がルナ嬢を呼んでる?」
「あー、強い魔力に気付いたんだろうね。明日、連れて行っておやり」
「いや、あの数のドラゴンに怯えたりしないか?」
「大丈夫さ」
婆さんは簡単に言うが彼女は貴族の令嬢だぞ。本当に大丈夫かよ。
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