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龍人の村編

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 得体のしれない恐怖に逃げたい気持ちをグッと押し込めて女性を見詰め返すと、彼女は微笑みを浮かべながら私に右手を差し出した。

「私が貴女を指導するソフィアだ」

「え?」

 驚き過ぎると人間、言葉が出ないって本当ね。長老と聞いたから勝手に年配のシワの深い人の顔を想像していたけど、目の前にいる人はどうみても私の母と同年代。脳内の情報が整理出来ずにいると、私の横に立っていたリュカ様から大きなため息が溢れた。

「婆さん、若作りしすぎだろう」

「婆さんって呼ぶな小僧!」

 うん?婆さんって事は祖母と孫?余り似てないわ。それに本当にシワやシミがなくて、羨ましいくらい綺麗な肌ね。あっ!そんな事気にしている場合じゃないわ!挨拶しなきゃ。

「こちらこそ、改めて宜しくお願い致します!」

 頭を下げ改めて挨拶すると、ソフィア様は嬉しそうに眉を下げて私の頭を撫でてきた。

「ゆっくり話すのは村に移動してからにしようじゃないか。乗りな」

 ソフィア様はそう言うとネグルに手招きして合図を送ると、それに合わせて身体を低くし彼の背中に乗った。え?まさかドラゴンの上に乗ってと言う事なの……大丈夫なの?落ちないよね?風は?

「ほら、大丈夫だから早く」

「あの荷物がまだ……」

「リュカがネグルの足に取り付けているから大丈夫だよ」

 そう言ってネグルの上から差し出されたソフィア様の手を取ると、引き上げられ背中に座らされる。ソフィア様って細い見た目と違って力があるなぁと呑気に考えていると、リュカ様が私の前に座った。うわ!視界がシャツの白しかない。

「ネグル、行こうか」

 リュカ様はネグルに声を掛けると大きな翼を広げたネグルが、ゆっくりと羽ばたき大空へ舞い上がった。羽音が聞こえたのは最初だけ。街の建物が点に見えるほど高く上がると風に乗って静かに進み始めた。静かにでも早く飛び続けているけど、景色がよく見えないのと自宅と学園しか知らない私には現在地の検討もつかない。山を幾つも越えた所でネグルのスピードが徐々に落ちて地面に近付く。山深い森の中に落ちると思ったら、着地した場所だけ木々が無く円形の広場の様に平らな地面になっていた。あれ?上から見えなかった気がするけど、リュカ様で見えなかっただけかしら?

「ルナ、降りといで」

 ソフィア様に促されネグルの背中を滑る様に降りると、大きな木々に隠れる様に綺麗に整えられた平らな道が続いていた。

「ルナは私と一緒においで」

「はい」

 ここが何処だか分からず辺りにキョロキョロ見ながら後ろをついていくと、途中で二つに分かれた道に差し掛かる。何の目印もない道を躊躇う事なく、ソフィア様は右に進んで行く。その先は木々光を遮られ暗くなっていた。

「あの……ここ何処ですか?」

「おや?リュカから聞いていないのかい。ここは村の入り口だよ」

「え?そうなんですか。何も聞いてなかったです」

 村の入り口と言われても門や建物は一つもなく、ただ森が続いている様にしか見えない。端さえよく見えない道を再び歩き出すと、両側に杭の様な小さな柱が現れた。
 小さな柱を境に一歩、踏み込んだ先には白い石造りの壁と陶器の茶色い屋根の家が建ち並び、真っ直ぐ伸びた石畳の道の先には大きな噴水がある広場が見えた。

え?森の中にこんなに開けた場所があるなんて……上から見えなかっただけ?奥には広い畑も見えるのに本当に見えなかったの?

「龍人の村へ、ようこそ」

 考えすぎて声の出ない私の横で、そう言ったソフィア様は楽しそうに笑っていた。

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