婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です！

龍人の村編

2

「リュカ、いつまでも待たせる気ですか」

 私は初めて聞く情報の多さにプチパニックになっていた時、のんびりとしたアラン先生の声が聞こえて少しだけ肩の力が抜けた。

「俺のせいじゃない。この生徒に絡まれていたんだ」

 リュカ様の言葉を聞いて右の眉だけピクッと動かした先生の視線が、エリザベスに止まると彼女の肩が大きく揺れる。エリザベスの反応に疑問を感じて様子を見ていると、先生から大きなため息が漏れた。えっと……先生、怒ってる？普段は優しくて滅多に怒らない先生だけど一体、何事かしら。状況が分からないわ。

「スミスさん、今度、騒ぎを起こしたら停学では済まされないと言いましたよね？」

「そんな！私、問題なんて起こしてません！女子寮の前に男性がいたから尋ねただけで……」

 エリザベスが違和感のない言い訳をしてきた。確かに今日は学園が休みとはいえ女子寮の前。しかも、リュカ様は騎士だから体格が良いしか弱い女子から恐怖を感じるかもしれないもの。

「嘘はつかない方が良いですよ。直ぐにバレますから……“再生”」

 でも、先生は彼女の言葉を信じていない様な態度をみせる。エリザベスが狼狽えていると、先生の手がぼんやり光り出した。その光が急に広がり私達三人を包み込んで、何事もなく光が消えた。私は何が起きたか分からず首を傾げていると、先生の手のひらの上に小さな立体の絵が現れる。その絵をよく見ると私達三人の姿。初めて見る魔法に私は興味津々だ。なにコレ！絵が動いてる!?凄い！魔法陣をもっと詳しくみたい！

「えっ？なに？」

 エリザベスも初めて見る様で驚いた表情になった。全員の視線が集中する中、それは突然聞こえだした。


『学園の面汚しのポンコツ魔法使い』

『授業をサボって男と遊ぶなんて良いご身分ね。何よ、学園に装飾品を着けて来るのは禁止よ！』

『止めて！』

『偉そうになによ。魔力はあるくせに、魔法の使えない出来損ないが』


 先生の手のひらにある絵が動き、それに合わせて声まで聞こえる。言われた言葉をそのまま再現されて、エリザベスの顔色はかなり悪くなった。

「これは姿ー像ーを映す開発途中の魔法で“映像”と命名されたものです。建物や植物等、全ての物が全てを記憶している。その記憶を取り出すとこうなります」

 先生の言っている事はなんとなく分かっけど難しい。まだ映像が小さいとか時間が短いとか文句を言っていても十分凄い。

「スミスさん、貴女も学園長の元に参りますよ」

 俯いて拳を握りしめているエリザベスは何も返事をしなかった。そんな姿に先生が呆れた様な表情でため息を吐くと、伝達魔法を何処かに飛ばした。

「一緒に来ないなら結構ですが、罪は消えませんよ」

「……して……」

 リュカ様に促され歩き出した私達の後ろからボソッとした声が聞こえて振り向くと、エリザベスが私を睨み付けている。その顔には納得出来ないとハッキリ書いてあった。ここまで感情を隠さない人も珍しいわね。のんきにそんな事を思って顔を前に向けようとした時、エリザベスと私の間にリュカ様が割り込んだ。彼の背中で視界が塞がれてエリザベスが見えなくなったけど、火の粉が飛んできた事で彼女が攻撃魔法を使った事を理解した。

「スミスさん、授業以外の魔法は禁止です」

 私の横でアラン先生の何時も細い目が大きく見開くと、エメラルドグリーンの瞳が宝石の様に輝く。その変化に気を取られている間に、エリザベスは植物です蔓に巻き付かれ動けなくなっていた。

「え？な、なんで？どうして……」

「警備員が来るまで、このままでいなさい」

 急に動けなくなり焦るエリザベスに、怒りを顕にしたアラン先生が鋭い視線を向けると、彼女はもう口を開く事はなかった。


……怒ったアラン先生……こわ！