婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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龍人の村編

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 大舞踏会の翌日、団長様が様子を見に来て腕輪も問題無さそうという事で、迎えに来た家族と一緒に帰宅した。でも着替えが終わる頃、リュカ様が訪問されて龍人の長老様と話がついたので、三日後に村へ向かうと言われて驚いた。急な話で両親が反対するかもと考えたが、あっさり了承されて今は出発の支度中。学園内を寮に向かって歩いていた。


『フリューゲルだとケビン団長と間違えそうなのでリュカと呼んで下さい』

 次の日の朝、屋敷まで迎えに来たリュカ様が挨拶の後に言ったのはそんな言葉。いや、お二人揃う事など滅多に無いからと断ったけど、いつの間にか了承させられていた。解せぬ。

 寮に着いたけど女子寮は男子禁制だからリュカ様を玄関前に待たせて、私は急いで教科書を取りに行った。
 暫く寮を開ける為、教科書以外は後日、家の侍女が片付けに行く事になった。人を待たせているから教科書を取ると、急いで戻る私の後ろから大きな声が飛んできた。

「学園の面汚しのポンコツ魔法使い」

 そう叫ぶのは同じAクラスのエリザベス・スミス男爵令嬢。座学で私に負けて以来、事ある毎に絡んでは人を貶してマウントを取ってくる。私の方が魔力が強い事を気に入らないみたいなのよね。

「授業をサボって男と遊ぶなんて良いご身分ね。何よ、学園に装飾品を着けて来るのは禁止よ!」

 男と遊ぶとかかなり誤解しているけど、“装飾品”と聞いて何を指しているのか分からず首を傾げる。そんな態度にイラついたのか彼女は黙って私の左手から腕輪を引き抜こうとした。

「止めて!」

 目的に気付いて後ろに下がって腕を庇うと、私の態度が気に入らなかったのか顔を赤くして睨み付けてきた。

「偉そうになによ。魔力はあるのに魔法の使えない出来損ないが!」

 “出来損ない”それも今まで何度も言われた言葉。何度、教えても魔法が使えない私に、一部の講師がクラス全員の前でそう言っている。アラン先生が気付いて個別指導に変更してくれなかったら、私は学園を辞めていたかもしれない。

「最近の生徒はマナーや言葉使いが悪いのですね」

 嫌な事を思い出して俯いていた私の頭の上から、リュカ様の平坦な声が聞こえて顔を上げると金色の瞳を細め冷たい光を放っていた。え?こんな表情……初めて見た。

「ここは関係者以外立入禁止よ!」

「大声で叫ばなくとも知っています。陛下と学園長の許可はある」

 リュカ様は懐から一枚の紙を取り出すと、エリザベスの目の前に付き出した。眉間にシワを寄せていたエリザベスだったが、文面を読み始めて徐々に顔色が悪くなった。

「う……そ……」

「嘘じゃありません」

「嘘よ!私は信じないわ!だって!こんな役立たずが、そんな筈無いわ!この嘘つき!」

 自分の事は何を言われても構わない。だって魔力はあるのに使えない事は事実だもの。でも、私と一緒に居るだけの他人まで悪く言うのは許さない。

「リュカ様が嘘つきだなんて失礼な事を言わないでよ」

「だっておかしいじゃない!魔法が使えない癖に大魔法使いソフィア様に弟子入りするのよ!!」

 え?大魔法使いのソフィア様って……この国で最強の魔法使いで魔法師団の団長の師匠で、一人で国の騎士団に匹敵すると言われている人よね!?
 驚き過ぎてぎこちない動きのままリュカ様に視線を向けると、私の視線に気付いて微笑み掛けてくれる。エリザベスへ向けていた表情と違い過ぎて、最早、別人に見えた。

「えっと……私に指導して下さる方は龍人の長老様と聞いていましたが?」

「えぇ、そうです。長老のソフィア様ですよ」

 笑顔で言われても私は困る。エリザベスも言葉を失って口をパクパクと動かしていた。

「ケビン団長に言われませんでしたか?今や貴女の魔力は彼をも越えると」

 ……言った……確かに言ったわ。同じかそれ以上って、だからってポンコツ魔法使いの私がいきなり最強の魔法使いの弟子って……

「ウソでしょ」

 思わず片言になった私の言葉は、吹き抜ける風と共に消えていった。

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