13 / 91
龍人の村編
1
しおりを挟む
大舞踏会の翌日、団長様が様子を見に来て腕輪も問題無さそうという事で、迎えに来た家族と一緒に帰宅した。でも着替えが終わる頃、リュカ様が訪問されて龍人の長老様と話がついたので、三日後に村へ向かうと言われて驚いた。急な話で両親が反対するかもと考えたが、あっさり了承されて今は出発の支度中。学園内を寮に向かって歩いていた。
『フリューゲルだとケビン団長と間違えそうなのでリュカと呼んで下さい』
次の日の朝、屋敷まで迎えに来たリュカ様が挨拶の後に言ったのはそんな言葉。いや、お二人揃う事など滅多に無いからと断ったけど、いつの間にか了承させられていた。解せぬ。
寮に着いたけど女子寮は男子禁制だからリュカ様を玄関前に待たせて、私は急いで教科書を取りに行った。
暫く寮を開ける為、教科書以外は後日、家の侍女が片付けに行く事になった。人を待たせているから教科書を取ると、急いで戻る私の後ろから大きな声が飛んできた。
「学園の面汚しのポンコツ魔法使い」
そう叫ぶのは同じAクラスのエリザベス・スミス男爵令嬢。座学で私に負けて以来、事ある毎に絡んでは人を貶してマウントを取ってくる。私の方が魔力が強い事を気に入らないみたいなのよね。
「授業をサボって男と遊ぶなんて良いご身分ね。何よ、学園に装飾品を着けて来るのは禁止よ!」
男と遊ぶとかかなり誤解しているけど、“装飾品”と聞いて何を指しているのか分からず首を傾げる。そんな態度にイラついたのか彼女は黙って私の左手から腕輪を引き抜こうとした。
「止めて!」
目的に気付いて後ろに下がって腕を庇うと、私の態度が気に入らなかったのか顔を赤くして睨み付けてきた。
「偉そうになによ。魔力はあるのに魔法の使えない出来損ないが!」
“出来損ない”それも今まで何度も言われた言葉。何度、教えても魔法が使えない私に、一部の講師がクラス全員の前でそう言っている。アラン先生が気付いて個別指導に変更してくれなかったら、私は学園を辞めていたかもしれない。
「最近の生徒はマナーや言葉使いが悪いのですね」
嫌な事を思い出して俯いていた私の頭の上から、リュカ様の平坦な声が聞こえて顔を上げると金色の瞳を細め冷たい光を放っていた。え?こんな表情……初めて見た。
「ここは関係者以外立入禁止よ!」
「大声で叫ばなくとも知っています。陛下と学園長の許可はある」
リュカ様は懐から一枚の紙を取り出すと、エリザベスの目の前に付き出した。眉間にシワを寄せていたエリザベスだったが、文面を読み始めて徐々に顔色が悪くなった。
「う……そ……」
「嘘じゃありません」
「嘘よ!私は信じないわ!だって!こんな役立たずが、そんな筈無いわ!この嘘つき!」
自分の事は何を言われても構わない。だって魔力はあるのに使えない事は事実だもの。でも、私と一緒に居るだけの他人まで悪く言うのは許さない。
「リュカ様が嘘つきだなんて失礼な事を言わないでよ」
「だっておかしいじゃない!魔法が使えない癖に大魔法使いソフィア様に弟子入りするのよ!!」
え?大魔法使いのソフィア様って……この国で最強の魔法使いで魔法師団の団長の師匠で、一人で国の騎士団に匹敵すると言われている人よね!?
驚き過ぎてぎこちない動きのままリュカ様に視線を向けると、私の視線に気付いて微笑み掛けてくれる。エリザベスへ向けていた表情と違い過ぎて、最早、別人に見えた。
「えっと……私に指導して下さる方は龍人の長老様と聞いていましたが?」
「えぇ、そうです。長老のソフィア様ですよ」
笑顔で言われても私は困る。エリザベスも言葉を失って口をパクパクと動かしていた。
「ケビン団長に言われませんでしたか?今や貴女の魔力は彼をも越えると」
……言った……確かに言ったわ。同じかそれ以上って、だからってポンコツ魔法使いの私がいきなり最強の魔法使いの弟子って……
「ウソでしょ」
思わず片言になった私の言葉は、吹き抜ける風と共に消えていった。
『フリューゲルだとケビン団長と間違えそうなのでリュカと呼んで下さい』
次の日の朝、屋敷まで迎えに来たリュカ様が挨拶の後に言ったのはそんな言葉。いや、お二人揃う事など滅多に無いからと断ったけど、いつの間にか了承させられていた。解せぬ。
寮に着いたけど女子寮は男子禁制だからリュカ様を玄関前に待たせて、私は急いで教科書を取りに行った。
暫く寮を開ける為、教科書以外は後日、家の侍女が片付けに行く事になった。人を待たせているから教科書を取ると、急いで戻る私の後ろから大きな声が飛んできた。
「学園の面汚しのポンコツ魔法使い」
そう叫ぶのは同じAクラスのエリザベス・スミス男爵令嬢。座学で私に負けて以来、事ある毎に絡んでは人を貶してマウントを取ってくる。私の方が魔力が強い事を気に入らないみたいなのよね。
「授業をサボって男と遊ぶなんて良いご身分ね。何よ、学園に装飾品を着けて来るのは禁止よ!」
男と遊ぶとかかなり誤解しているけど、“装飾品”と聞いて何を指しているのか分からず首を傾げる。そんな態度にイラついたのか彼女は黙って私の左手から腕輪を引き抜こうとした。
「止めて!」
目的に気付いて後ろに下がって腕を庇うと、私の態度が気に入らなかったのか顔を赤くして睨み付けてきた。
「偉そうになによ。魔力はあるのに魔法の使えない出来損ないが!」
“出来損ない”それも今まで何度も言われた言葉。何度、教えても魔法が使えない私に、一部の講師がクラス全員の前でそう言っている。アラン先生が気付いて個別指導に変更してくれなかったら、私は学園を辞めていたかもしれない。
「最近の生徒はマナーや言葉使いが悪いのですね」
嫌な事を思い出して俯いていた私の頭の上から、リュカ様の平坦な声が聞こえて顔を上げると金色の瞳を細め冷たい光を放っていた。え?こんな表情……初めて見た。
「ここは関係者以外立入禁止よ!」
「大声で叫ばなくとも知っています。陛下と学園長の許可はある」
リュカ様は懐から一枚の紙を取り出すと、エリザベスの目の前に付き出した。眉間にシワを寄せていたエリザベスだったが、文面を読み始めて徐々に顔色が悪くなった。
「う……そ……」
「嘘じゃありません」
「嘘よ!私は信じないわ!だって!こんな役立たずが、そんな筈無いわ!この嘘つき!」
自分の事は何を言われても構わない。だって魔力はあるのに使えない事は事実だもの。でも、私と一緒に居るだけの他人まで悪く言うのは許さない。
「リュカ様が嘘つきだなんて失礼な事を言わないでよ」
「だっておかしいじゃない!魔法が使えない癖に大魔法使いソフィア様に弟子入りするのよ!!」
え?大魔法使いのソフィア様って……この国で最強の魔法使いで魔法師団の団長の師匠で、一人で国の騎士団に匹敵すると言われている人よね!?
驚き過ぎてぎこちない動きのままリュカ様に視線を向けると、私の視線に気付いて微笑み掛けてくれる。エリザベスへ向けていた表情と違い過ぎて、最早、別人に見えた。
「えっと……私に指導して下さる方は龍人の長老様と聞いていましたが?」
「えぇ、そうです。長老のソフィア様ですよ」
笑顔で言われても私は困る。エリザベスも言葉を失って口をパクパクと動かしていた。
「ケビン団長に言われませんでしたか?今や貴女の魔力は彼をも越えると」
……言った……確かに言ったわ。同じかそれ以上って、だからってポンコツ魔法使いの私がいきなり最強の魔法使いの弟子って……
「ウソでしょ」
思わず片言になった私の言葉は、吹き抜ける風と共に消えていった。
5
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星里有乃
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました
砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。
けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。
そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。
消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。
救国の聖女「エミヤ」の記憶を。
表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる