[完結]まだ愛を知らない

シマ

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前編

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「すまない、婚約を破棄して欲しい」

 放課後の教室で、そう言ってきたのは私の婚約者だ。いえ、だったと言うべきかしら?

「理由を教えて下さる?」

「愛しい人が出来た。真実の愛を見付けたんだ」

 『真実の愛』彼は昔からこの言葉が好きだった。そして、私は、そんな彼を愛する事が出来なかった。

「畏まりました。では書類が揃いましたらご連絡下さい」

 少し驚いた表情を見せた彼に背を向け、帰宅の為に歩き出した。帰宅途中の車の中で、昔の事を思い返していた。


 彼と婚約してから三年。愛し愛される相手を求める元婚約者に、私は親愛以上のモノを感じた事が無かった。親と共に初めて顔を合わせた時も、私と元婚約者とでは天と地ほどの差があった。

「君は、どうして婚約を了承したんだ?」

「理由ですか?両親が決めたので、知りません」

 目を大きく開き驚いた元婚約者は、歳相応の幼さの残る表情をした。愛のない結婚は嫌だと大声で叫んだ時には、困り果てて泣きたくなりました。騒ぎに気付いた両親が私達を引き離してくれて、ホッとした事をよく覚えています。
それから定期的に交流をしてお互いを知る所から始めて、両家が納得してから正式な婚約を交わそうと決まったのは顔合わせから一週間ほどしてからでした。お互いに余り乗り気では無かったので、特に関係が進展する事も無かったですわね。


「あら?……私達は仮の婚約のままじゃないかしら?」

 書類が揃ったらなんて言ってしまったけど、両親に報告するだけで大丈夫そうね。だったら、どうして一方的に破棄なんて言ったのかしら?そう言えば会社の取引は、どうなさるの?まぁ、それはお父様とお兄様が判断される事ね。

「それにしても……真実の愛かぁ……羨ましいわ」

 婚約破棄は誉められた事ではないけど、真に愛する人が出来たと、しかもその人が受け入れてくれたなんて、私には奇跡に思えた。

 学校から帰宅した私は、帰宅していたお兄様に元婚約者との話を伝えた。

「彼から破棄を言ってきたのかい?」

「えぇ、どうやら真実の愛とやらを見付けたそうです」

 お兄様は顎に手を添えて考える仕草をした。小さな唸り声も漏れているけど、何か問題があったの?

「まだ、仮の婚約だから解消するのは簡単なんだけどね……破棄ねぇ」

「そうなのです。破棄って、どうしてかしら?」

「ちょっと調べた方が良いな」

 お兄様は、少し困った様な表情でそう言うとお父様に連絡する為、席を立った。

「学校に行き辛いなら、転校の準備もするから何時でも言ってね」

 部屋を出ていくお兄様の背中を見ながら、改めて言われた言葉を考えた。転校……こちらに居て元婚約者のお相手に誤解されたくは無いし、環境を変えてみるのも良いかも。学校を変えるなら新しい事にも挑戦してみたいわね。

「何処の学校にしようかしら……寮のある学校も良いわね」

 早速、インターネットで学校の資料を見ながらも、元婚約者の言った言葉が引っ掛かる。破棄って言い方が引っ掛かるのは何故かしら?
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