[完結]思い出せませんので

シマ

文字の大きさ
上 下
1 / 4

前編

しおりを挟む
「ヒース、手紙だってよ」

「ありがとう」

 貴族の子供が全員通わなければならないこの学園では、余程の理由がない限り寮に入らねばならない。一年後に卒業を控えた今、生徒会会長の仕事と家の仕事で多忙を極めていた。副会長の同級生から渡された手紙は父親から。珍しい相手からの手紙に、仕事の手を止めて内容を確認すると、婚約解消の手続きに必要な書類が同封されていた。

『早急にサインして返却する事』

 端的な内容の手紙に理解が追い付かない。婚約解消の書類には交流が無いと理由が書かれていた。同じ学園に通いながら、一切の交流がなければ婚約解消の理由になる。頭では理解出来ても納得出来なかった。

『確かに、お茶会も休日に出掛けなかったが交流がない?そう言う相手からの手紙も来ていないし、向こうから会いに来たこともないではないか』

 一方的に自分だけに責任があるような内容に納得出来ず、書類は残っていたが婚約者に会いに行くことにした。

直接会って確かめよう。

 そう思って一つ年下の婚約者がいる教室へ向かうと、侍女に手を引かれ濃い色の眼鏡を掛けた彼女が杖を頼りに歩いて帰宅しようとしていた。


……これは……どうして……


 自分の存在に気付いた侍女が親の仇の様に睨んでいる。怒りより憎悪と表現するのに相応しい表情の侍女が、彼女に何か囁くと首を傾げ返事をしている。ゆっくりと私の方に顔を向けた彼女の頬には大きなガーゼが貼られていた。

「何方かいらっしゃるのですか?」

「ッ……私だ」

 私の声を聞いても誰か分からないのか首を傾げ考える仕草をみせる。いったい何があったんだ?

「お嬢様、で御座います」

「あぁ、申し訳御座いません。長い事、お会いしておりませんでしたので、お声だけでは分かりませんでした」

「……その傷は……」

「傷はと聞かれましても訳なら手紙を出してご連絡いたしましたがお読みになられていないのですか?」

 その少し呆れた様な言い方にイラッとしたが、最近届いた手紙を放置していた覚えのある自分には何も言えなかった。

「仕事で忙しいと連絡していたはずだが?」

「えぇ、忙しいから会いに来るなと仰ったので手紙でお知らせいたしましたの。お読み頂けないなら、そうご連絡下されば良かったのでは?」

 今まで言い返す事のなかった彼女が言い返す姿に驚きながらも、婚約解消の理由を尋ねた。

「解消の理由は書類を見て頂けたらお分かりかと」

「分からないからここにいる」

 あからさまに大きなため息を吐いた彼女は、濃い色の眼鏡越しに私を真っ直ぐに見詰め返した。

「分からないとは驚きですわ。怪我の理由すら理解していないほど薄い関係での婚姻など無意味で御座いましょう?」

「ならば理由を教えてくれ」

「はぁ……それが人に物を頼む態度ですか?最後の情けでお教え致します。怪我の原因は貴方様で御座います」

「は?何を……」

「貴方様の態度が、婚約者を蔑ろにした態度が招いた結果で御座います」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

魅了魔法にかかって婚約者を死なせた俺の後悔と聖夜の夢

恋愛
  『スカーレット、貴様のような悪女を王太子妃にするわけにはいかん!今日をもって、婚約を破棄するっ!!』  王太子スティーヴンは宮中舞踏会で婚約者であるスカーレット・ランドルーフに婚約の破棄を宣言した。    この、お話は魅了魔法に掛かって大好きな婚約者との婚約を破棄した王太子のその後のお話。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※魔法のある異世界ですが、クリスマスはあります。 ※ご都合主義でゆるい設定です。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

処理中です...