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 両陛下との謁見は正直、二度したくない。

 それが私の感想だった。小さな部屋に案内されて四人でテーブルを囲み話をしたけど、緊張し過ぎて途中から冷や汗が酷かったわ。
 事件が放置されていた事に対して陛下が頭を下げた時には焦ったけど、謝罪を受け取ると直ぐに上げてくれたのでホッとした。慰謝料や見舞金、それに魔物になったジェットを仕留めた褒賞金も出ると言われた。支払い等の書かれた書面を渡され読んでいくと、最後に書かれた支払い金額の大きさに息が止まった。ギルマスじゃないけど豪邸が建つわね。受け取りを辞退しようとしたけど、それは逆に両陛下が困ると言われて渋々承諾した。

「城で働く気はないのか?」

「私はマナーも学もありませんし、両親も望んではいません。何より治療院の仕事が好きなので変わる気は御座いません」

「そうか残念だ」

 両陛下とも私がハッキリ断ると、引き下がってくれたのでホッとした。それとは別で王妃様が団長さん専属の侍女兼秘書を提案してきた時には吹き出しそうになったけど、それも丁寧にお断りさせてもらった。王妃様から直接言われるほど困っているのかしらね。横目で団長さんを見ると苦笑いしていた。



 謁見が終わると団長さんと再び馬車まで向かって歩いていた。雑談しながら歩いていると、馬車の前で待つ魔術師さんの姿が見えて手を振ると向こうも気付いて手を上げた。

「魔術師さん、お疲れ様。今日は宜しくお願いします」

「ルーシーさん、久しぶり~。こちらこそ宜しく~」

「あの!」

 急に声を掛けられ三人で振り返ると、騎士団の団員二人と女性がいた。

「先程はすみませんでした!」

 目に涙を溜めた女性は勢いよく頭を下げ肩が震えている。庇護欲を掻き立てる姿のはずが、何故かウソ臭く見えてしまう。私がスレてるからしらねぇ。それにしても誰に謝っているのかしら?

「もう良いから持ち場に戻りなさい」

 女性の謝罪に答えたのは団長さん。もしかし同行予定だった女性?手を胸の前で組んで強調したり、下から見上げみたり……あざとい?

「あー、またこの子かぁ。うざいなぁ」

 私の疑問は魔術師さんの言葉でほぼ確定かしら。あら?でも失神したのよね。その謝罪にしては私の方を一度も見ないわね。

「でも、ご迷惑をお掛けしましたのでお詫びをさせて下さい!!」

「必要無い。迷惑を掛けたと思うなら真面目に仕事しなさい。二人共、行こう」

 お詫びって何かしら。そんな疑問は彼女の次の言葉で分かった。日を改めてお茶をとかお詫びの品を贈らせて欲しいとか、結局は何かしらの理由をつけて団長さんとデートしたいって話なのね。団長さんモテモテじゃないの……あら?胸の辺りがモヤモヤする。

「ルーシー、行くぞ」

 巻き込まれない様に一歩下がって見ていた私の腰に手を回し、団長さんが馬車までエスコートする。私の背中には女性の鋭い視線を感じた。ちょっと!私を巻き込まないでよ。魔術師さんも笑っていないで助けて頂戴!

「さぁ、ルーシーさん。行こうか」

 うわ、この人……絶対わざと煽った。何の嫌がらせよ。団長さんも団員の人に邪魔だから連れて行けって指示を出して、それは好意を寄せる女性言うセリフじゃないわよ。馬車のドアが閉まる直前に見えた女性の顔は、真っ赤に染まりオーガの様に見えた。こわ!馬車が走り出してやっと肩の力が抜け、もうお城には来たくないと染々と感じた。

「ところで団長さん」

「うん?」

「女性トラブルに巻き込まないで頂戴」

「トラブルも何も、あの侍女は王妃様から処罰があるから問題ない」

 団長さんの説明では同行者がいなくて困っていた時、自分から志願してきたらしい。王妃様もそれならと直々に彼女にお願いしたとか。
 それなのに団長さんに媚び売って近付き過ぎて失神したから王妃様は静かに怒っていて、公私混同する様な人は要らないってハッキリ言っていたみたい。今頃、王妃様の所で叱られているはずって言われてもね……王妃様も普通に話していたから怒っているなんて気付かなかったわ。

「お城には見えない魔物がいるのねぇ」

「政略、策略のオンパレードだからね。しょうがないでしょ」

 魔術師さんがそう言うと団長さんも苦笑いしながら否定しない。と言うことは心当たりがあるのね。働かなくて良かった。そんな話をしていると魔物の森が見えて来た。馬車は危険だから私達を下ろすとお城に戻って行った。馬車が見えなくなった事を確認してから私が指笛を吹くと直ぐにサラが木々の間から飛び出して来た。

「ルーシー!もう大丈夫?何とも無い?」

「サラ、大丈夫よ。ごめんなさいね、沢山心配掛けたわね」

「本当だよ!もう!」

 私が両腕を広げると目に涙を溜めたサラが抱きつく様に胸の中に飛び込んでくる。頭を撫でながら落ち着くまで待った。

「本当にファイアドラゴンがいるんだね~」

 相変わらず緊張感の無い声で話を始めた魔術師さんにサラが視線を向ける。二人の視線が絡まると、魔術師さんが目を押さえて膝をつきサラが人形ひとがたに変わった。え?変化出来なかったはずなのに、急にどうしたのかしら。
 人の姿になったサラは見た目では私と同じ歳の女性で、産まれたままの姿の彼女に団長さんが上着を掛けた。

「見つけた。本当にいるんだね」

「うぅ、何だよ急に……目が……」

 目元を手で覆う様に押さえていた魔術師さんが顔を上げると、糸の様に細い目が開き金色に変わっていた。

「何だよドラゴン。君のせいなのか?」

「僕のつがいだからだよ」

「「番!?」」

 私と団長さんはお互いに顔を見合せ言葉を失う。

えっと……どう言うことなのかしら?



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