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 瞼に光を感じて開くと見知らね部屋で寝ていた。状況が分からず体を起こすと、部屋の奥のソファーで休む団長さんがいた。何時もの騎士団の制服ではなく、白いシャツと黒いスラックスのラフな服装で足を投げ出している。え?ここどこ?どうして団長さんが同じ部屋にいるのかしら?

「う……あぁ、起きたか」

 混乱する私を余所に背伸びをした団長さんは、ベッドの端に座ると、昨日の事を何処まで覚えているか聞かれた。どこまで……

「ギルマスが襲撃犯を引き取りに来て、その後……そうだわ……魔力が勝手に上がって……」

 確か団長さんが何か言っていたわ。サラが飛び回っていて……駄目だわ。これ以上、思い出せないわ。分からないと素直に伝えると彼は黙って頷いた。

「今までで制御不能になった事は?」

「制御不能」

 団長さんの言葉を反芻はんすうする。聞いた事もないし、そんな患者を診察した事もない。状況が全く分からず首を傾げると彼は腕を組んでため息を吐いた。

「魔力が多い人に時々現れる現象で、自分の意思とは無関係に魔力が急上昇するんだ」

「知らなかったわ。今まで一度も、そんなことなかったもの」

「そうか……恐らくなんだが……」

 団長さんが確証はないと何度も言いながら教えてくれたのは、ドラゴンに名前をつける行為は主従契約する為のもの。知らずにサラに言われるままに名前をつけたせいで仮契約の中途半端な状態らしい。そのせいで魔法が安定しない可能性があるなんて……

「あまり知られていないからな。魔力を放出が間に合わなかったから気絶させた」

 そう言った団長さんが私の首の付け根に手を伸ばした。何かを確かめる様にソッと触れた手は微かに震えている気がした。

「すまない。緊急事態とは言え気絶させた……痛みはないか?」

「ないわ。こちらこそごめんなさい。迷惑ばかりかけてしまって」

「いや、迷惑な事なんて何もない」

 そう返事をした団長さんは私の魔力がまだ安定していないから、また制御不能になる可能性が高いと教えてくれた。

「マーシャと同じ部屋で休むのは危険と判断して俺の部屋に寝かせた」

「は?」

 次から次に情報が入ってきて理解が追い付かない。俺の部屋?団長さんの……部屋?
 少しの間の後で意味を理解して血の気が引いた。助けて貰った上にベッドまで占領して、迷惑処の話じゃないわ!

「何度も迷惑掛けてごめんなさい」

 ありきたりな謝罪の言葉しか出てこない。迷惑かけた気まずさと、情けなさで顔を上げられずにいると深いため息が聞こえた。呆れられたわね……今日は森には行かないし、新しく住む所探しにギルドに行こう。
 何時まで経っても団長さんから何の返事もなくて、恐る恐る顔を上げると眉間にシワを寄せた団長さんがいた。その表情は何処か苦し気で見ているこっちまで胸が苦しくなりそうだった。

「団長さん?」

「いや……ル」

『マーク!ルーシーは起きたか!!』

 団長さんが何か言いかけた時、通信機か、ギルマスの大きな声が響いた。え?通信のボタン押してないわよね?

「いきなり煩いぞ。今から説明しようとしていた所だ」

『あー、悪りぃな。ルーシーも聞こえるか?』

「えぇ、ギルマス聞こえるわ」

『昨日のドラゴンの涙だが、全部ギルドで引き取りたい。詳しい話を聞いてから良い返事くれ』

 ギルマスは言いたい事だけ言って通信を切る。呆気に取られていると団長さんが、私が気絶した後の事を教えてくれた。気を失った私を心配したサラが泣いて、涙が結晶になったらしい。貴重なドラゴンの涙だもの、ギルマスも欲しいわよね。それに泣くほど心配掛けたのね。明日、謝らなくちゃいけないわね。

「メイソンが言っていたのはこれだ」

 団長さんが目の前に出したのは大きめの革袋で、私は両手で受け取った。ドラゴンの涙よね?そんな大きな袋は大袈裟な気がするけど……変ね、重いわ。
 そう思いながら袋を開けると、中には大小様々な結晶がぎっしりと詰まっている。…………嘘でしょ?昨日だけでこの量。

「これ、全部?」

「泣き止まなくてな。気が付けば足元に積み上がっていたんだ」

  困った様に眉を下げた団長さんが頭を掻いている。私は一つあれば薬は作れるし、前回貰った分も残っていたわね。

「明日、あの子に謝らなくちゃいけないわね。これは全部、ギルマスに渡すわ」

「分かった。後でメイソンが取りに来るだろうから直接、渡してくれ」

 私は黙って頷くとベッドから降りて彼に改めて謝ると、苦笑いしながら頭を横に振っていた。時間を聞けば今は昼前らしい。団長さんは今から仕事に行くからと、弟の一週間分の訓練内容が日替わりで書いてある紙を渡してくれた。

「暫く忙しくなりそうなんだ。もし俺が帰って来なければこの内容をして欲しい」

「分かったわ。明日はどうしたら良いかしら?」

「明日の謁見は俺が迎えに来るから家で待っててくれ。服装は普段着で大丈夫だ。恐らく昼前だろうから通信機で連絡する」

 私が了承すると彼は仕度を始めると言ったから部屋を出て、宛がわれている部屋へと戻った。



 部屋の窓から登城する団長さんを見送りながらこの先の事を考える。団長さんに甘えすぎだわ。早く新しい家を見つけて、弟の訓練なら通いでも出来るはず。

「ギルマスに新しい家の事を聞かなくちゃいけないわね」


 
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