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しおりを挟む「可能はあるよ。ジェットは双子だったの?」
姿勢を正した魔術師さんは真っ直ぐに私を見ながら確認してくる。私が頭を縦に振ると、“ヤバイね”と小さく呟いた。
「“銀色の生き物”として討伐された元ハンターが彼の双子の兄弟だったわ」
「あぁ、ギルドで預かっているアレね……だったら本当にヤバイよ。全ての反動がジェット一人に行く。もし対価に人間を使ったなら二人分の反動だ。何が起こるか分からないよ」
“何が起こるか分からない”それなら私がする事は一つ。お城に行かなくちゃ。団長さんが危ないわ。
「ハリー!」
「ゲッ!メイソン!」
大きな声と共に部屋に入って来たギルマスが、魔術師さんの前に来ると拳を頭に落とした。ゴンと鈍い音がして魔術師さんは頭を押さえて踞った。ギルマスもノックぐらいして欲しいわね。
「ルーシー、騒がせてすまん。体調はどうだ?」
「ありがとうギルマス。もう心配要らないわ。それより大変よ」
「あ?ハリーが何かしたか?」
真っ先に疑われた魔術師さんは首を大きく横に振って否定した。どれだけ信用ないのこの人。
「違うわ。ジェットが持っていた魔法道具は呪具だったのよ。今頃、反動でどうなっているか分からないわよ」
「呪具の反動?そんなに騒がなくても……」
「メイソン、マジでヤバイよ。銀色の生き物は死んだんだよね?」
ギルマスの言葉を遮って魔術師さんが話しす。ギルマスは驚いたのか目を丸くしていた。
「あぁ、間違いない。それに俺が作った捕獲用結界に入れてあるから、なんかあれば俺が分かるぞ」
魔術師さんは少し考える様な仕草を見せると、パンッと大きく手を叩いた。
「今から城に行こう!ジェットに反動の闇が集まるよ」
「何言ってんだ?闇が集まったら、どうなんだよ」
怪訝な表情のギルマスが質問すると、魔術師さんは指を立てて頷いている。えっと……何がしたいのかしら……なんか緊張感のない人ね。
「ジェットが、人間が魔物になるよ」
表情を変える事なく魔術師さんが“魔物になる”と言う。魔術師さんが読んだ古い文献には、“闇が集まり新たな魔物が産まれる”と書いてあったらしい。人間が魔物……ダイが変わったのも呪術の反動?
「使った期間は分からないけど、長ければ長いほど闇や災いが集まるんだ。時間がない」
魔術師さんが陽気な雰囲気を消して真面目にそう言うと、ギルマスも何か感じたのか黙って考えている。その時、ギルマスの通信機が大きな音でなった。
「何だ?」
『騎士団から応援要請です。囚人一名、名前は“ジェット”。痙攣後、暴れて様子が可笑しいそうです。誰を行かせますか?』
「騎士団……俺が行くと返事しろ。治療院から直で行く。ハリーとルーシーも一緒にだ」
『了解です』
ギルマスが通信を終わらせる横で、私も魔力を解放して戦う準備をする。幸い妹が準備してくれた服はパンツスタイルで、一つに束ねた髪を丸めてお団子を作り動きやくした。
「ルーシーさんの髪と目の色が変わった?」
「あぁ、魔力を全解放するとこうなるの。それより急ぎましょう。団長さんが心配だわ」
建物の外に出たら身体強化をして……
「はい!全員集合~」
城までの最短距離を考えていた私の耳に気の抜けた声が届く。緊張感のない魔術師さんの方を見ると、魔方陣が完成していた。え?この短時間で何の魔方陣を作ったのかしら?
「ほら早く、早く。お城まで転移するよ~」
「えっと……転移って、移動魔法最上級のアレかしら?」
「そう、そう!さぁ、一瞬で着くから行くよ~」
相変わらず緊張感の話し方で魔術師さんが手招きすると、ギルマスが大きなため息を吐きながら陣の中に入った。ギルマス……本気?こんな短時間で最上級の魔方陣を作れると思っているのかしら……
「コイツに緊張感も真面目さもないが魔法の腕は確かだ。ルーシー、行くぞ」
「……分かったわ」
ギルマスに酷いとか文句を言っている魔術師さんは、自分は国一番の魔術師だと言う。信じがたい事実に警戒しながら魔方陣の中に入った。
「は~い。転移~」
軽い口調でそう言うと魔法陣から光だし眩しさに目を閉じる。足元から風が吹き上げたかと思うと、一瞬で光は消えた。え?もう終わりなの?
驚きながらゆっくり目を開けた私の前には、城の外へと避難する人々。騎士団の誘導で次々と逃げていく光景はまるで戦火から逃げ惑う様に見えた。
「何だこりゃ……あの北の離れが大元か」
ギルマスの視線の先には他の建物とは少し離れた場合に独立して小さな塔があった。その塔の下から黒い靄が少しずつ溢れては下に引き寄せられていく。離れた場所からもその異様さがハッキリ分かった。
「災いが集まっているね。行くよ」
魔術師さんの言葉を合図に私達三人は、一斉に身体強化をして走り出した。後ろで誰かが戻れと叫んでいる。ギルマスが応援要請で来たと叫んでから後に続いた。
塔の真下に到着したけど、あるはずの入り口が見当たらない。小さな塔の周りを一周しても、黒い靄で外壁すら見えなかった。足跡もないわ……何処から入ったのかしら……
「ねぇメイソン……マークは何処?」
「あ?…………黒い靄の中だ!」
魔術師さんの言葉に片眉を上げたギルマスがサーチした途端、大きな声で叫んだ。靄の中と聞いて私は瞬間的に魔力を上げて強い風で靄を吹き飛ばしたけど、ユラリと大きく揺れただけで入り口を見付ける迄には至らなかった。
「ルーシーさん、メイソンも下がって。ここは僕の出番でしょう」
敵を目の前にしても緊張感の話し方で魔術師さんが前に出ると、胸ポケットから小さな木の破片を取り出し魔力を流す。一瞬だけ光った破片が大きくなり、魔術師さんの胸の高さまである大きな杖が現れた。
「さぁ、やるよ~」
そう言った魔術師さんが目を閉じて集中力を高める。魔力が揺らぎ杖に集まったと同時に目を開くと、彼の目は水色から金色へと変化した。
「集いし闇よ。我に従え。道を創りて我を導け……さぁ、案内しろ、お前達の大元、ジェットの元へ!」
魔術師さんの言葉に反応して溢れていた闇が纏まり左右に別れる。黒い壁の先には塔の入り口がハッキリ見えた。
「さぁ、お掃除に行こうか」
ニッコリと笑い魔術師さんを私は目が点になった。この人……こんなに軽いけど、本当は凄い人なの?
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