上 下
18 / 59

18

しおりを挟む
 昼食の後片付けはナタリーさんがしてくれると言うので、私は部屋を掃除したり乾いた洗濯物を片付ける。一通り終わった頃、兄妹が学校から帰ってきた。

「「ただいまー」」

 二人の元気な声が玄関から届き階段の上から顔を出すと、出迎えた団長さんに二人は何か言っていた。

「団長さん、お姉ちゃんを助けてくれるの?」

「どうしたんだ、マーシャ」

 妹からの突然の質問に、団長さんはしゃがんで視線を合わせ理由を尋ねる。俯いていた妹が顔を上げると、目には涙が溜まっていた。

「だってお姉ちゃんは何時も一人で頑張っているの。家の事もダイの事も……私……お姉ちゃんもいなくなったら嫌なの!」

 堪えきれずに泣き出した妹の頭を、団長さんが優しく撫でる。妹がそんな風に考えていたなんて思いもしなかった私は、階段から降りれずにそのまま上から二人のやり取りを見ていた。

「そうか心配だったんだな。怖かったんだな。大丈夫、大丈夫。俺もメイソンもマーシャのお姉ちゃんの事を守るから」

「本当に?」

「あぁ、本当だ」

 団長さんが笑顔で頷くと、妹は泣き笑いの顔で彼に抱き着いた。

「良かった!お姉ちゃんを助けてね」

「あぁ、約束だ」

 弟も二人のやり取りを見て、何処か安心したような表情に変わった。私……思っていた以上に二人に心配掛けていたのね。

「さぁ、皆さんおやつにしましょう。着替えて手を洗って来て下さいね」 

 団長さんと妹の会話が一段落すると、ナタリーさんが声を掛けた。おやつと聞いて兄妹は嬉しそうに返事をすると、二階に駆け上がって来た。

「お姉ちゃん、ただいまー」

「ただいま、姉さん」

「お帰り」

 二人が学校から帰るのを家で迎えたのは何年前かしら。両親が亡くなって治療院で仕事して、ハンターとしてクエストもして……寂しくないはずないのに、私はどうして気付かなかったのかしら。そんな事を考えながら二人に着替えを渡して私は先に一階へ降りた。食堂に行くと団長さんが先に座っていて、コーヒーを飲みながら書類を手に持っていた。

「あら、お仕事があるの?」

「うん?……あぁ、これか。急ぎではないが、君も後で読んで話を聞かせて欲しい」

 私の話と聞いて首を傾げていると、台所からお菓子を運んできたナタリーさんに怒られて話はお仕舞いになった。私には紅茶を渡してからナタリーさんは台所に下がり、入れ替わりで兄妹が入って来た。

「わっ!美味しそう!」

 二人にはホットミルクが出され四人でおやつを食べる。そんな不思議な時間の後で弟の訓練が始まった。妹と私は訓練場の端のベンチで見学する事になり様子を見ていると、団長さんは弟に魔法をどこまで習ったか確認していた。

「初級の魔法は一通り習ったんですが、僕の適正は風と水の様です。他は発動しなかったり、発動しても暴走します」

「暴走……君もルーシーと同じかもしれないな」

「姉さんと同じ?」

「魔力が多すぎて初級が向かない事があるんだ。魔力に合わせた魔法に変える必要があるが、今日は武器を選ぶ事と基礎練習にしよう」

 団長さんが私達を見て手招きする。妹も連れて二人の側に行くと、父から渡された武器を初めて兄妹にも見せた。

「これは?」

「お父さんの持っていた武器よ。手に取って鍵になる言葉を言わないと使えないのよ」

 初めて見る魔法道具マジックアイテムに興味津々の二人は、弟がイヤーカーフを妹は細身の腕輪を手に取った。何の躊躇いもなく手を伸ばす二人の姿は、団長さんが父の腕輪を手に取った時と重なり、もしかしたら武器が呼んだのかもしれないなんて考えてしまう。

「さぁ、鍵になる言葉を言ってみて。開放オープン

「「開放オープン」」

 兄妹の声が重なり光りを放つ。どちらが光ったのか分からずにいると、弟の手に剣が現れた。一般的な剣より細いその剣は初めて見る物だった。

「これは何かしら?」

「片手剣だ。サーベルより幅があるが俺の使う長剣より短い」

 そう言った団長さんが腰に着けていた剣を弟の剣の隣に並べると、幅は片手剣の方が細く長さは短い。突然現れた剣に驚いていた弟だけど、手に馴染むと言いながら剣を動かし眺めていた。反応しなかった妹は肩を落としながら私にアクセサリーを渡した。妹にはまだ早いわね。

「一度、武器は仕舞いましょう。閉鎖クローズよ」

閉鎖クローズ

 直ぐに武器が手から消えて弟の体にアクセサリーが装着されていた。目を丸くして瞬きする二人が可愛くて思わずニヤけてしまう。あー、本当にうちの子達は可愛いわ。

「武器が決まれば先ずは構えから始めよう。その前に基礎訓練だ。庭を十周走ってこい」

「はい!」

 大きな声で返事をした弟が訓練場を出て走り出した。妹も一緒に行くと後を追い掛けてついて行ってしまった。

「マーシャは見学のつもりだったのに」

「一緒に走るだけなら問題ないだろう。それよりさっきの書類なんだが二人には見せたくない」

「書類っておやつの前に見ていたアレ?」

「あぁ、アレはご両親の事故の捜査報告書なんだが内容が酷い」

「……夕食後に書斎に行くわ」

 団長さんが黙って頷いた事を確認すると、私は外を走る兄妹に視線を向けながら手元に残った武器をポーチに片付けた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。 その衝撃で前世を思い出す。 社畜で過労死した日本人女性だった。 果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。 父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。 正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。 家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...