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昼食の後片付けはナタリーさんがしてくれると言うので、私は部屋を掃除したり乾いた洗濯物を片付ける。一通り終わった頃、兄妹が学校から帰ってきた。
「「ただいまー」」
二人の元気な声が玄関から届き階段の上から顔を出すと、出迎えた団長さんに二人は何か言っていた。
「団長さん、お姉ちゃんを助けてくれるの?」
「どうしたんだ、マーシャ」
妹からの突然の質問に、団長さんはしゃがんで視線を合わせ理由を尋ねる。俯いていた妹が顔を上げると、目には涙が溜まっていた。
「だってお姉ちゃんは何時も一人で頑張っているの。家の事もダイの事も……私……お姉ちゃんもいなくなったら嫌なの!」
堪えきれずに泣き出した妹の頭を、団長さんが優しく撫でる。妹がそんな風に考えていたなんて思いもしなかった私は、階段から降りれずにそのまま上から二人のやり取りを見ていた。
「そうか心配だったんだな。怖かったんだな。大丈夫、大丈夫。俺もメイソンもマーシャのお姉ちゃんの事を守るから」
「本当に?」
「あぁ、本当だ」
団長さんが笑顔で頷くと、妹は泣き笑いの顔で彼に抱き着いた。
「良かった!お姉ちゃんを助けてね」
「あぁ、約束だ」
弟も二人のやり取りを見て、何処か安心したような表情に変わった。私……思っていた以上に二人に心配掛けていたのね。
「さぁ、皆さんおやつにしましょう。着替えて手を洗って来て下さいね」
団長さんと妹の会話が一段落すると、ナタリーさんが声を掛けた。おやつと聞いて兄妹は嬉しそうに返事をすると、二階に駆け上がって来た。
「お姉ちゃん、ただいまー」
「ただいま、姉さん」
「お帰り」
二人が学校から帰るのを家で迎えたのは何年前かしら。両親が亡くなって治療院で仕事して、ハンターとしてクエストもして……寂しくないはずないのに、私はどうして気付かなかったのかしら。そんな事を考えながら二人に着替えを渡して私は先に一階へ降りた。食堂に行くと団長さんが先に座っていて、コーヒーを飲みながら書類を手に持っていた。
「あら、お仕事があるの?」
「うん?……あぁ、これか。急ぎではないが、君も後で読んで話を聞かせて欲しい」
私の話と聞いて首を傾げていると、台所からお菓子を運んできたナタリーさんに怒られて話はお仕舞いになった。私には紅茶を渡してからナタリーさんは台所に下がり、入れ替わりで兄妹が入って来た。
「わっ!美味しそう!」
二人にはホットミルクが出され四人でおやつを食べる。そんな不思議な時間の後で弟の訓練が始まった。妹と私は訓練場の端のベンチで見学する事になり様子を見ていると、団長さんは弟に魔法をどこまで習ったか確認していた。
「初級の魔法は一通り習ったんですが、僕の適正は風と水の様です。他は発動しなかったり、発動しても暴走します」
「暴走……君もルーシーと同じかもしれないな」
「姉さんと同じ?」
「魔力が多すぎて初級が向かない事があるんだ。魔力に合わせた魔法に変える必要があるが、今日は武器を選ぶ事と基礎練習にしよう」
団長さんが私達を見て手招きする。妹も連れて二人の側に行くと、父から渡された武器を初めて兄妹にも見せた。
「これは?」
「お父さんの持っていた武器よ。手に取って鍵になる言葉を言わないと使えないのよ」
初めて見る魔法道具に興味津々の二人は、弟がイヤーカーフを妹は細身の腕輪を手に取った。何の躊躇いもなく手を伸ばす二人の姿は、団長さんが父の腕輪を手に取った時と重なり、もしかしたら武器が呼んだのかもしれないなんて考えてしまう。
「さぁ、鍵になる言葉を言ってみて。開放」
「「開放」」
兄妹の声が重なり光りを放つ。どちらが光ったのか分からずにいると、弟の手に剣が現れた。一般的な剣より細いその剣は初めて見る物だった。
「これは何かしら?」
「片手剣だ。サーベルより幅があるが俺の使う長剣より短い」
そう言った団長さんが腰に着けていた剣を弟の剣の隣に並べると、幅は片手剣の方が細く長さは短い。突然現れた剣に驚いていた弟だけど、手に馴染むと言いながら剣を動かし眺めていた。反応しなかった妹は肩を落としながら私にアクセサリーを渡した。妹にはまだ早いわね。
「一度、武器は仕舞いましょう。閉鎖よ」
「閉鎖」
直ぐに武器が手から消えて弟の体にアクセサリーが装着されていた。目を丸くして瞬きする二人が可愛くて思わずニヤけてしまう。あー、本当にうちの子達は可愛いわ。
「武器が決まれば先ずは構えから始めよう。その前に基礎訓練だ。庭を十周走ってこい」
「はい!」
大きな声で返事をした弟が訓練場を出て走り出した。妹も一緒に行くと後を追い掛けてついて行ってしまった。
「マーシャは見学のつもりだったのに」
「一緒に走るだけなら問題ないだろう。それよりさっきの書類なんだが二人には見せたくない」
「書類っておやつの前に見ていたアレ?」
「あぁ、アレはご両親の事故の捜査報告書なんだが内容が酷い」
「……夕食後に書斎に行くわ」
団長さんが黙って頷いた事を確認すると、私は外を走る兄妹に視線を向けながら手元に残った武器をポーチに片付けた。
「「ただいまー」」
二人の元気な声が玄関から届き階段の上から顔を出すと、出迎えた団長さんに二人は何か言っていた。
「団長さん、お姉ちゃんを助けてくれるの?」
「どうしたんだ、マーシャ」
妹からの突然の質問に、団長さんはしゃがんで視線を合わせ理由を尋ねる。俯いていた妹が顔を上げると、目には涙が溜まっていた。
「だってお姉ちゃんは何時も一人で頑張っているの。家の事もダイの事も……私……お姉ちゃんもいなくなったら嫌なの!」
堪えきれずに泣き出した妹の頭を、団長さんが優しく撫でる。妹がそんな風に考えていたなんて思いもしなかった私は、階段から降りれずにそのまま上から二人のやり取りを見ていた。
「そうか心配だったんだな。怖かったんだな。大丈夫、大丈夫。俺もメイソンもマーシャのお姉ちゃんの事を守るから」
「本当に?」
「あぁ、本当だ」
団長さんが笑顔で頷くと、妹は泣き笑いの顔で彼に抱き着いた。
「良かった!お姉ちゃんを助けてね」
「あぁ、約束だ」
弟も二人のやり取りを見て、何処か安心したような表情に変わった。私……思っていた以上に二人に心配掛けていたのね。
「さぁ、皆さんおやつにしましょう。着替えて手を洗って来て下さいね」
団長さんと妹の会話が一段落すると、ナタリーさんが声を掛けた。おやつと聞いて兄妹は嬉しそうに返事をすると、二階に駆け上がって来た。
「お姉ちゃん、ただいまー」
「ただいま、姉さん」
「お帰り」
二人が学校から帰るのを家で迎えたのは何年前かしら。両親が亡くなって治療院で仕事して、ハンターとしてクエストもして……寂しくないはずないのに、私はどうして気付かなかったのかしら。そんな事を考えながら二人に着替えを渡して私は先に一階へ降りた。食堂に行くと団長さんが先に座っていて、コーヒーを飲みながら書類を手に持っていた。
「あら、お仕事があるの?」
「うん?……あぁ、これか。急ぎではないが、君も後で読んで話を聞かせて欲しい」
私の話と聞いて首を傾げていると、台所からお菓子を運んできたナタリーさんに怒られて話はお仕舞いになった。私には紅茶を渡してからナタリーさんは台所に下がり、入れ替わりで兄妹が入って来た。
「わっ!美味しそう!」
二人にはホットミルクが出され四人でおやつを食べる。そんな不思議な時間の後で弟の訓練が始まった。妹と私は訓練場の端のベンチで見学する事になり様子を見ていると、団長さんは弟に魔法をどこまで習ったか確認していた。
「初級の魔法は一通り習ったんですが、僕の適正は風と水の様です。他は発動しなかったり、発動しても暴走します」
「暴走……君もルーシーと同じかもしれないな」
「姉さんと同じ?」
「魔力が多すぎて初級が向かない事があるんだ。魔力に合わせた魔法に変える必要があるが、今日は武器を選ぶ事と基礎練習にしよう」
団長さんが私達を見て手招きする。妹も連れて二人の側に行くと、父から渡された武器を初めて兄妹にも見せた。
「これは?」
「お父さんの持っていた武器よ。手に取って鍵になる言葉を言わないと使えないのよ」
初めて見る魔法道具に興味津々の二人は、弟がイヤーカーフを妹は細身の腕輪を手に取った。何の躊躇いもなく手を伸ばす二人の姿は、団長さんが父の腕輪を手に取った時と重なり、もしかしたら武器が呼んだのかもしれないなんて考えてしまう。
「さぁ、鍵になる言葉を言ってみて。開放」
「「開放」」
兄妹の声が重なり光りを放つ。どちらが光ったのか分からずにいると、弟の手に剣が現れた。一般的な剣より細いその剣は初めて見る物だった。
「これは何かしら?」
「片手剣だ。サーベルより幅があるが俺の使う長剣より短い」
そう言った団長さんが腰に着けていた剣を弟の剣の隣に並べると、幅は片手剣の方が細く長さは短い。突然現れた剣に驚いていた弟だけど、手に馴染むと言いながら剣を動かし眺めていた。反応しなかった妹は肩を落としながら私にアクセサリーを渡した。妹にはまだ早いわね。
「一度、武器は仕舞いましょう。閉鎖よ」
「閉鎖」
直ぐに武器が手から消えて弟の体にアクセサリーが装着されていた。目を丸くして瞬きする二人が可愛くて思わずニヤけてしまう。あー、本当にうちの子達は可愛いわ。
「武器が決まれば先ずは構えから始めよう。その前に基礎訓練だ。庭を十周走ってこい」
「はい!」
大きな声で返事をした弟が訓練場を出て走り出した。妹も一緒に行くと後を追い掛けてついて行ってしまった。
「マーシャは見学のつもりだったのに」
「一緒に走るだけなら問題ないだろう。それよりさっきの書類なんだが二人には見せたくない」
「書類っておやつの前に見ていたアレ?」
「あぁ、アレはご両親の事故の捜査報告書なんだが内容が酷い」
「……夕食後に書斎に行くわ」
団長さんが黙って頷いた事を確認すると、私は外を走る兄妹に視線を向けながら手元に残った武器をポーチに片付けた。
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