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 重症の団長さんを助手達が入院着に着替えさせ、個室の病室へ運んだと連絡がきて様子を見に行くとカーテンの隙間からさす太陽に照らされていた。

「直射日光は暑そうね」

 感じたままに言葉に出してしまう私は独り言が多いと注意をされる。また、独り言を言った自分に苦笑いしながら薄いレースのカーテンを閉めた。穏やかな寝息に一安心しながら、術後の容態確認の為に手首に触れた途端腕を捕まれた。え?

「……お前は……だれ……だ」

「痛いわね。ここは首都の治療院よ。貴方の部下って人達が運んできたわ」

 目を覚まして直ぐのせいか、ぼんやりしている団長さんは私の言葉を小さな声で反芻していた。

「首都……治療院……部下に……あぁ、俺は助かったのか……礼を言う」

 やっと状況を理解した団長さんは私の手を離してくれた。

「かなり危なかったわよ。出血が酷いわ。一週間の入院と右腕のリハビリが必要よ」

「一週間……その程度で?」

 ぼんやり天井を見ながら話を聞いていた団長さんは、驚愕の表情で私を見る。

「あのね、私はこれでも上級治療師よ。右腕を軽く動かしてみて」

 私の言葉を聞いて怪我の事を思い出したのか、慌てて身体を起こしてふらついた。出血が酷いと言ったじゃないの!貧血よ!

「貧血よ。ゆっくり動いて……そう慌てずにゆっくりよ」

「あぁ……右腕は……動く」

 ゆっくりと手を開いて閉じる彼は、自分の手を呆然と見ていた。

「城の治療師より凄いな」

「当たり前じゃない。ここはハンターも受け入れる治療院よ。貴方みたいな重症者は何時もの事よ」

 そうかと言いながらもずっと右腕を動かす彼を制して、怪我した時の状況を聞く事にした。部下の話は……

「怪我をした時の状況を教えて頂戴」

「状況……正直、よく解らん」

「どう言う意味?」

「そのままだ。急に剣で斬られて……何か忘れている気がするが思い出せない」

 【剣で斬られた】ねぇ……部下の人が貴族から聞いた話では【魔物に襲われた】……内容が違いすぎる。でも傷の状態から見ると団長さんの話の方が納得ね。斬られた後に腹部はどうしたのかしら……本人が思い出してくれたら良いけど無理は禁物ね。

「頭に瘤があるから思い出せないのなら仕方ないわね。今日は安静にして明日からリハビリしましょう。回復すれば記憶も戻るでしょうから、何か思い出したら教えて頂戴」

「安静?これ程動けば問題ないのでは?」

「馬鹿言わないで頂戴!治療魔法は万能じゃないのよ!」

「そうだが……これ程、手が動き傷痕も見えないのにか?」

 不思議そうに首を傾げる団長さんに頭が痛いわ。額に手をあてため息を吐き出すと、今の状態を一から説明する事にした。

「手術と魔法で傷は塞いだけど、定着するまでに時間が掛かるのは分かるかしら?」

「あぁ、糊で紙を貼るのと同じ様なものだろう?」

「まぁ、そんな感じね。紙を糊で貼ると乾くまでは動かすと剥がれるわよね。それと貴方の傷は同じって言えば分かるかしら」

「急に動けば傷が開くと言う事か」

 良くできましたと頷けば団長さんは困った様な顔をした。人が説明したのになんなのよ。

「君はまるで子供を相手のような事を俺にするんだな」

「あら、ごめんなさい。そんなつもりはなかったわ。幼い兄妹がいるからついね」

 彼の言葉を聞いて思わず肩を竦めておどけた。丁度その時、助手の一人が私を探しに来た。

「ルーシーさん、ご兄妹が来ました」

「こんな時間だったのね。ありがとう直ぐに行くわ」

 助手に言われて窓の外を覗けば下に二人の姿が見えた。手を振ると気付いた二人が大きく手を振り返す。そんな元気な姿に笑みが浮かんだ。

「直ぐに行くからお利口さんに待っててね」

「「はーい」」

 窓の外の二人に声を掛けた後、振り向けば団長さんが口を大きく開けたまま私を見ていた。失礼な態度ね。まぁ、同僚達にも兄妹にだけ態度が違うと言われるけどね。

「別人だな」

「よく言われるわ。また、明日の朝に」

 そう言い残して病室を後にする。自分の鞄を取ると同僚達に挨拶をしてから建物の外に出ると、私の優秀な助手達が兄妹の相手をしていてくれた。本当によくできた助手よね。私には勿体ないくらいだわ。

「トーヤ、ナギ、ゼクス見ててくれてありがとう。また、明日」

「「「お疲れ様でした!」」」

「お姉ちゃん、お腹空いた~」

 育ち盛りの弟がお腹を鳴らしながら駆け寄ってくる。膝をついて受け止めると、後ろに倒れそうになった。あら?今日は疲れたかしら……

「おい!」

 誰を呼んだか分からないけど、団長さんの声が届いて顔を上げた。その視線の先には……私?

「俺はマークだ。先生の名前は?」

 質問の意味が分からず首を傾げてから、病室でお互いに名乗っていなかった事に気付いた。あらら、今日は本当に疲れているわね。早く寝よう。

「ルーシーよ、団長さん。しゃあまたね」

 ヒラヒラと手を軽く振ると、私の両手は兄妹に繋がれる。三人で手を繋いで帰路についた私は、団長さんが窓辺と呟いた一言に気付かなかった。


『俺の顔を見ても怯えないんだな』

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