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花鳥中学校文化祭!
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ついにこの日がやってきた。
11月19日。土曜日。文化祭当日。さすがの私も昨日は緊張して寝るまで少し時間がかかった。
いきもの係の仕事もあるし、いつもより早く学校へ向かう。
久しぶりに、白魚の家から。
今日は修一さんや朋子さんも学校に来る。それと、うちのお母さんも。
私がベル役をすることを伝えると、おばあちゃんは地を這ってでも見に行く勢いだったらしい。まだ入院中だし、どうにか止めたとお母さんがぼやいていた。おばあちゃんったらどんだけ孫好きなのよ。嬉しいけど。
おばあちゃんは退院も間近で、歩くのもだいぶ良くなっているらしい。そのため、お母さんは昨日から家に帰ってきていた。久しぶりにお母さんとふたりで、色々な話をした。
もちろん、恭介くんのことも。
お母さんは驚いていたけど「まぁ、恭介くんならいいわよね。お父さんも、きっと喜んでくれてるわ」と言ってくれた。喜んでくれたお母さんのためにも、今日の劇はちゃんと成功させたい。
学校に着くと、恭介くんが校門の前で待ってくれていた。ポケットに手を突っ込みながら、校門に寄りかかっている。恭介くんってやっぱり足が長いなぁ。
「おはよっ」
「はよっす」
いつも一緒に登校しているから、学校で待ち合わせなんてなんだか不思議な感じ。学校には私たちのほかにも、文化祭の準備のために早く登校している生徒たちがいた。
職員室でウサギ小屋の鍵を借りて、掃除をしてから、餌やりをする。
ウサギ小屋に入ると、ウサギたちは恭介くんのまわりをウロチョロとしはじめた。
「おいおい、餌はあとだ。掃除してからな」
恭介くんがそう言うと、ウサギたちは小屋の隅っこに移動する。いつのまに、ウサギと会話できるように……? 掃除をしながら、恭介くんは話し始めた。
「今日が本番だと思うと緊張してたけど、いつもの仕事していると不思議と落ち着いてくる」
「ふふ、恭介くんらしいね。あ、そう言えば昨日恭介くんと付き合ってること、お母さんに言ったよ」
「マジか、なんて言ってた!?」
らしくない大声だったので、ウサギがびくっと跳ねる。それに気づいた恭介くんは「ごめんごめん」と謝りながら餌のセットをしはじめた。
「んーとねぇ。『恭介くんならいいわよね』って言ってた。今日の劇も見に来るし、おばあちゃんのためにビデオも録画するって張り切ってたよ」
「……マジかぁ~。また緊張してきた」
「大丈夫だよ。恭介くんの王子姿、すっごくかっこいいから」
「嬉しいけど、そういうことで緊張してるんじゃないんだよなー。愛奈は緊張してないのか?」
私はウサギ小屋のドアを慎重に開けながら話す。
「緊張してたけど、いざ学校に来たら覚悟が決まっちゃった。もうなるようにしかならないでしょ!」
「……相変わらずかっけーなぁ」
「ん? なんか言った?」
「なんにも。今日は頑張ろうな」
私たちの劇は午後からだ。それまでに、最終練習もしないと。さぁ。忙しくなるぞ!
***
最後のリハーサルも終わり、あとは本番の開始を待つだけになった。
私と恭介くんは他の役より衣装も装飾も派手なので、事前に着替えておく必要がある。
私は使われていない教室で馬場さんに手伝ってもらいながら準備をする。
ピンクのドレスを着てから、髪を編み込んでもらう。馬場さんが衣装係に立候補していたのも納得できる。器用に髪のセットまでこなしてしまうなんて、本当にすごい。
「白魚さん、ほんと髪きれいだよね。あ、ヘアアレンジ終わったらメイクもさせてね」
「メイクって馬場さんそんなことまでできるの!?」
「一応ね。こんなこと言ったら笑われるかもだけど将来はスタイリストになりたいの。だからオシャレに関連することはできるだけ勉強してるんだ」
「私たち、まだ中学二年生なのに……馬場さんってすごいね」
いつも馬場さんが色々な女の子をじっと見ている理由がわかったかもしれない。
「もう中学二年生なんだよ。白魚さんは将来の夢とかあるの?」
「……んー、私はまだわからない」
ずっと恭介くんの隣にいたいな、なんてことを思ったけれど、その言葉は飲み込んだ。
馬場さんのメイクに身を任せていると、なんだか少し眠くなってきた。髪の毛を触られる感覚や顔を触られる感覚が眠気を誘う。朝早かったからなぁ…と、うとうとしていた時「できたよ」という馬場さんの声で目覚めた。
目を開けて鏡を見ると、そこにはいつもの私はいなかった。
「うわぁ……! これが、私? 本当のお姫様みたい。馬場さん、すごすぎるよ」
煌びやかでボリュームのあるドレスに、ハーフアップされたヘアスタイル、パールのイヤリングは私が動くたびにキラリと輝いた。ほっぺたは桃色のチークに染められ、健康的で可愛い。目元のラメは夜空に浮かぶ星のようだった。
「そりゃあ、美しいベル役だからね。白魚さんはもともと可愛いけど、それが最大限に活かされるように頑張ってみた。舞台に立つから少し濃く見えるかもだけど、これでちょうどいいはずだよ」
「ありがとう!」
「どういたしまして。さて、次は鮫嶋くんのメイクにいかないと……」
「あ、そうだったね。本当にお疲れ様」
恭介くんは野獣役なので劇の間にも着替えなくてはいけない。最初は野獣の姿で顔にもメイクをすることになっている。そして、劇の終盤で急いでメイクを落として服を着替え、王子の姿に変わる。呪いが解けて王子になる瞬間は劇でも一番盛り上がるところなので、めちゃくちゃ重要な場面だ。
恭介くんの野獣の姿も、王子様の姿も楽しみだなぁ。
11月19日。土曜日。文化祭当日。さすがの私も昨日は緊張して寝るまで少し時間がかかった。
いきもの係の仕事もあるし、いつもより早く学校へ向かう。
久しぶりに、白魚の家から。
今日は修一さんや朋子さんも学校に来る。それと、うちのお母さんも。
私がベル役をすることを伝えると、おばあちゃんは地を這ってでも見に行く勢いだったらしい。まだ入院中だし、どうにか止めたとお母さんがぼやいていた。おばあちゃんったらどんだけ孫好きなのよ。嬉しいけど。
おばあちゃんは退院も間近で、歩くのもだいぶ良くなっているらしい。そのため、お母さんは昨日から家に帰ってきていた。久しぶりにお母さんとふたりで、色々な話をした。
もちろん、恭介くんのことも。
お母さんは驚いていたけど「まぁ、恭介くんならいいわよね。お父さんも、きっと喜んでくれてるわ」と言ってくれた。喜んでくれたお母さんのためにも、今日の劇はちゃんと成功させたい。
学校に着くと、恭介くんが校門の前で待ってくれていた。ポケットに手を突っ込みながら、校門に寄りかかっている。恭介くんってやっぱり足が長いなぁ。
「おはよっ」
「はよっす」
いつも一緒に登校しているから、学校で待ち合わせなんてなんだか不思議な感じ。学校には私たちのほかにも、文化祭の準備のために早く登校している生徒たちがいた。
職員室でウサギ小屋の鍵を借りて、掃除をしてから、餌やりをする。
ウサギ小屋に入ると、ウサギたちは恭介くんのまわりをウロチョロとしはじめた。
「おいおい、餌はあとだ。掃除してからな」
恭介くんがそう言うと、ウサギたちは小屋の隅っこに移動する。いつのまに、ウサギと会話できるように……? 掃除をしながら、恭介くんは話し始めた。
「今日が本番だと思うと緊張してたけど、いつもの仕事していると不思議と落ち着いてくる」
「ふふ、恭介くんらしいね。あ、そう言えば昨日恭介くんと付き合ってること、お母さんに言ったよ」
「マジか、なんて言ってた!?」
らしくない大声だったので、ウサギがびくっと跳ねる。それに気づいた恭介くんは「ごめんごめん」と謝りながら餌のセットをしはじめた。
「んーとねぇ。『恭介くんならいいわよね』って言ってた。今日の劇も見に来るし、おばあちゃんのためにビデオも録画するって張り切ってたよ」
「……マジかぁ~。また緊張してきた」
「大丈夫だよ。恭介くんの王子姿、すっごくかっこいいから」
「嬉しいけど、そういうことで緊張してるんじゃないんだよなー。愛奈は緊張してないのか?」
私はウサギ小屋のドアを慎重に開けながら話す。
「緊張してたけど、いざ学校に来たら覚悟が決まっちゃった。もうなるようにしかならないでしょ!」
「……相変わらずかっけーなぁ」
「ん? なんか言った?」
「なんにも。今日は頑張ろうな」
私たちの劇は午後からだ。それまでに、最終練習もしないと。さぁ。忙しくなるぞ!
***
最後のリハーサルも終わり、あとは本番の開始を待つだけになった。
私と恭介くんは他の役より衣装も装飾も派手なので、事前に着替えておく必要がある。
私は使われていない教室で馬場さんに手伝ってもらいながら準備をする。
ピンクのドレスを着てから、髪を編み込んでもらう。馬場さんが衣装係に立候補していたのも納得できる。器用に髪のセットまでこなしてしまうなんて、本当にすごい。
「白魚さん、ほんと髪きれいだよね。あ、ヘアアレンジ終わったらメイクもさせてね」
「メイクって馬場さんそんなことまでできるの!?」
「一応ね。こんなこと言ったら笑われるかもだけど将来はスタイリストになりたいの。だからオシャレに関連することはできるだけ勉強してるんだ」
「私たち、まだ中学二年生なのに……馬場さんってすごいね」
いつも馬場さんが色々な女の子をじっと見ている理由がわかったかもしれない。
「もう中学二年生なんだよ。白魚さんは将来の夢とかあるの?」
「……んー、私はまだわからない」
ずっと恭介くんの隣にいたいな、なんてことを思ったけれど、その言葉は飲み込んだ。
馬場さんのメイクに身を任せていると、なんだか少し眠くなってきた。髪の毛を触られる感覚や顔を触られる感覚が眠気を誘う。朝早かったからなぁ…と、うとうとしていた時「できたよ」という馬場さんの声で目覚めた。
目を開けて鏡を見ると、そこにはいつもの私はいなかった。
「うわぁ……! これが、私? 本当のお姫様みたい。馬場さん、すごすぎるよ」
煌びやかでボリュームのあるドレスに、ハーフアップされたヘアスタイル、パールのイヤリングは私が動くたびにキラリと輝いた。ほっぺたは桃色のチークに染められ、健康的で可愛い。目元のラメは夜空に浮かぶ星のようだった。
「そりゃあ、美しいベル役だからね。白魚さんはもともと可愛いけど、それが最大限に活かされるように頑張ってみた。舞台に立つから少し濃く見えるかもだけど、これでちょうどいいはずだよ」
「ありがとう!」
「どういたしまして。さて、次は鮫嶋くんのメイクにいかないと……」
「あ、そうだったね。本当にお疲れ様」
恭介くんは野獣役なので劇の間にも着替えなくてはいけない。最初は野獣の姿で顔にもメイクをすることになっている。そして、劇の終盤で急いでメイクを落として服を着替え、王子の姿に変わる。呪いが解けて王子になる瞬間は劇でも一番盛り上がるところなので、めちゃくちゃ重要な場面だ。
恭介くんの野獣の姿も、王子様の姿も楽しみだなぁ。
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