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彼女と彼氏
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ぎこちない帰り道、会話はなかったけど不思議と嫌な空気ではなかった。
手が触れそうで触れないような、風船に針を近づけているような、そんなドキドキがずっと体から溢れている。ふたりともいつの間にか早足になっていたのか、いつもより、うんと早く家に着いた。
鮫嶋家に着いたけど、修一さんはもちろん、朋子さんもまだ帰ってなかった。
私は自分の部屋に戻って、部屋着に着替える。ゆっくり息を吸い込んで、静かに吐き出す。おそるおそるリビングに向かうと、鮫嶋くんは制服のまま水槽の前に座っていた。
こほんと咳をして、自分の存在をアピールしてみた。それから、鮫嶋くんの隣に座る。
ふたりで水槽を見つめる。私達が帰ってきたのに気づいたのか、ブラック・ゴーストがひらひらと土管から出てきた。エアレーションの泡が弾ける音が聴こえる。帰り道で早くなった心音も、不思議と落ち着きを取り戻してきた。
「あのね……鮫嶋くん」
「――待って。俺から言わせてほしい」
鮫嶋くんの真剣な表情。きっと前なら睨まれていると思ったかもしれない。だけど、今の視線は熱く、真っすぐに私を捉えていた。
「あらためて、最近のこと本当にごめん。態度悪かったよな。愛奈を不安にさせたり、振り回したりしたと思う」
「ううん、それは私も同じだから。私こそ、ごめんね」
「それで……その、なんていうか」
ごくりと喉を鳴らして、鮫嶋くんの言葉の続きを待つ。落ち着いてきたはずの心音が、また大きくなっていく。
「俺、愛奈のことが好きだ。友達としてじゃなくて……恋愛対象として、大好きなんだ」
その言葉を聞いて、胸のなかにあった張り詰めた風船が割れたみたいに、弾けるみたいに。
全身の血が体を駆け巡る。私はきっと……ううん、絶対真っ赤な顔をしているだろう。
緊張で指先が震えてくる。返事、返事をしないと。
「わ、私も! 私も鮫嶋くんのことが好きです。友達としてじゃなく、恋愛の意味で、その……大好き……です」
恥ずかしすぎて呼吸ができない。思わず顔を伏せてしまう。鮫嶋くんがどんな表情をしているのか、見ることができない。
ふっと、私は背中側から抱きしめられた。
鮫嶋くんの心臓のリズムが、背中越しに伝わってくる。
「……本当に? 気を使って言ってるんじゃないよな?」
「鮫嶋くんこそ、本当だよね……?」
私は彼の手を握る。鮫嶋くんの指が小刻みに震えていて、私と一緒なんだとわかった。
「当たり前だろ。もう難しく考えるのはやめた。好きなんだ。ずっと、ずっと前から」
「……嬉しい。こんなに幸せな気持ち、人生で初めてかもしれない」
涙が頬を流れていく。今までの不安が、体の外に出ていったような気がした。
「嬉しくても、涙って出るんだな」
隣に座りなおした鮫嶋くんが、私の涙を優しく拭ってくれた。
「なんだか、今日は泣いてばっかりになっちゃった。それで、その……私を彼女にしてくれる?」
私がそう言うと、鮫嶋くんは天井を仰いだ。
「……夢じゃないよな。愛奈と付き合えるなんて、こんなことありえねぇ」
なんだかとても可愛く見える鮫嶋くんは、ひとしきりぶつぶつとなにかを呟くと、私の方に顔を向けた。
「これからよろしく頼む。あと、彼氏になったんだからもう鮫嶋くんはナシな。恭介って呼んでくれ」
「う、うん! よろしくね、恭介くん」
「あー、もう、かわいすぎ」
そう言うと恭介くんはまた私を抱きしめた。
とっても辛いことと、最高に幸せなことが同時に起こったこの日を、私はずっと忘れないだろう。
手が触れそうで触れないような、風船に針を近づけているような、そんなドキドキがずっと体から溢れている。ふたりともいつの間にか早足になっていたのか、いつもより、うんと早く家に着いた。
鮫嶋家に着いたけど、修一さんはもちろん、朋子さんもまだ帰ってなかった。
私は自分の部屋に戻って、部屋着に着替える。ゆっくり息を吸い込んで、静かに吐き出す。おそるおそるリビングに向かうと、鮫嶋くんは制服のまま水槽の前に座っていた。
こほんと咳をして、自分の存在をアピールしてみた。それから、鮫嶋くんの隣に座る。
ふたりで水槽を見つめる。私達が帰ってきたのに気づいたのか、ブラック・ゴーストがひらひらと土管から出てきた。エアレーションの泡が弾ける音が聴こえる。帰り道で早くなった心音も、不思議と落ち着きを取り戻してきた。
「あのね……鮫嶋くん」
「――待って。俺から言わせてほしい」
鮫嶋くんの真剣な表情。きっと前なら睨まれていると思ったかもしれない。だけど、今の視線は熱く、真っすぐに私を捉えていた。
「あらためて、最近のこと本当にごめん。態度悪かったよな。愛奈を不安にさせたり、振り回したりしたと思う」
「ううん、それは私も同じだから。私こそ、ごめんね」
「それで……その、なんていうか」
ごくりと喉を鳴らして、鮫嶋くんの言葉の続きを待つ。落ち着いてきたはずの心音が、また大きくなっていく。
「俺、愛奈のことが好きだ。友達としてじゃなくて……恋愛対象として、大好きなんだ」
その言葉を聞いて、胸のなかにあった張り詰めた風船が割れたみたいに、弾けるみたいに。
全身の血が体を駆け巡る。私はきっと……ううん、絶対真っ赤な顔をしているだろう。
緊張で指先が震えてくる。返事、返事をしないと。
「わ、私も! 私も鮫嶋くんのことが好きです。友達としてじゃなく、恋愛の意味で、その……大好き……です」
恥ずかしすぎて呼吸ができない。思わず顔を伏せてしまう。鮫嶋くんがどんな表情をしているのか、見ることができない。
ふっと、私は背中側から抱きしめられた。
鮫嶋くんの心臓のリズムが、背中越しに伝わってくる。
「……本当に? 気を使って言ってるんじゃないよな?」
「鮫嶋くんこそ、本当だよね……?」
私は彼の手を握る。鮫嶋くんの指が小刻みに震えていて、私と一緒なんだとわかった。
「当たり前だろ。もう難しく考えるのはやめた。好きなんだ。ずっと、ずっと前から」
「……嬉しい。こんなに幸せな気持ち、人生で初めてかもしれない」
涙が頬を流れていく。今までの不安が、体の外に出ていったような気がした。
「嬉しくても、涙って出るんだな」
隣に座りなおした鮫嶋くんが、私の涙を優しく拭ってくれた。
「なんだか、今日は泣いてばっかりになっちゃった。それで、その……私を彼女にしてくれる?」
私がそう言うと、鮫嶋くんは天井を仰いだ。
「……夢じゃないよな。愛奈と付き合えるなんて、こんなことありえねぇ」
なんだかとても可愛く見える鮫嶋くんは、ひとしきりぶつぶつとなにかを呟くと、私の方に顔を向けた。
「これからよろしく頼む。あと、彼氏になったんだからもう鮫嶋くんはナシな。恭介って呼んでくれ」
「う、うん! よろしくね、恭介くん」
「あー、もう、かわいすぎ」
そう言うと恭介くんはまた私を抱きしめた。
とっても辛いことと、最高に幸せなことが同時に起こったこの日を、私はずっと忘れないだろう。
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