鮫嶋くんの甘い水槽

蜂賀三月

文字の大きさ
上 下
22 / 37

心配だったから!

しおりを挟む
「おおおおおおお!?」

 教室中がざわめく。

 はい、言われなくてもわかっています。

 男子の憧れである桃ちゃんがベルの役をするって言ってるのに、どこからどうみても普通な私が美女のベル役に立候補するなんて、頭のネジが外れたと思われてもおかしくない。

「立候補してもいいなら……オレ、オレも野獣役がしたいです!」
「ボクも!」
「それならオレだって!」

 私の立候補につられて男子も野獣様の役に立候補をしはじめる。
 おそらく、桃ちゃん目当てだろう。

「ちょっと、鮫嶋くんが野獣役って言ったでしょう!?」
 
 桃ちゃんも騒ぎ出し、教室の空気は荒れに荒れた。

「ごおっほん! お前ら落ち着け! みんなが劇に意欲的なのよくわかったし、それは嬉しいが言い合いは良くない。人気の出そうな野獣とベルの役は、みんなが『この人にやってほしい』と思う生徒に投票する形にしよう。もちろん、立候補してない生徒にも投票してくれてかまわない。明後日のロングホームルームに投票してもらうから、それまでに各自考えておくように。それじゃあ、次は具体的に他にどんな役割が必要か考えていこう」

 投票?! 終わった……せめてじゃんけんで決めるなら私にも勝算があったのに!

 落ち込む私を後目に、熊谷先生はロングホームルームを進めていった……。

 ロングホームルームが終わったあとも、耳を澄ますと文化祭の話が聞こえてくる。
 美女と野獣のベル役については、特に話題になっているようだった。

「やっぱ美女なら兎沢さん? ほかのクラスの男子も喜ぶでしょ」
「でも、野獣役が鮫嶋くんなら、同じいきもの係の白魚さんの方がうまくいくんじゃない?」
「可愛さでは兎沢さんかもだけど、白魚さんだってでしょ可愛いでしょ」
「意外と草間さんもベル役が似合いそうだけど」
「私に投票があったらどうしよ~!?」
「いや、それはない」

 みんな楽しそうに、でも真剣に配役について考えてくれているようだった。
 今から私にできることがあるだろうか。演技力でもアピールする? とでも言いたいところだけど、生まれてこのかた劇の主人公なんてしたことがない……。

 桃ちゃんを見ると、男子生徒に積極的に声をかけているようだった。
 勝ち目、ないかもしれない。


     ***

 放課後、鮫嶋くんと一緒に帰り始める。
 今日は一段と無口になっていた鮫嶋くんだったけれど、下校時刻になってようやく重たい口を開いた。

「な、なんで俺があんな目立つ役に選ばれるんだ……」

 鮫嶋くんは、複雑そうな顔をしている。

「そ、それは……嫌かもしれないけれど、みんなが鮫嶋くんと打ち解けてきた証じゃないかな。元々イケメンだと思われてたけど、怖くて話しかけられなかっただけだと思うし」

「イケメン? 俺がか?」

「じゃないと野獣……ていうか王子様役にぴったりなんて言われないよ」

「野獣だけならまだわかるんだけど」

 鮫嶋くんって、自分に自信がないのかもしれない。目立つ役に担ぎ上げられたのは、正直かわいそうな気がしなくもないけれど……。

「ところで、愛奈はなんでベル役に立候補したんだよ?」
 
「そ、それは……」

 鮫嶋くんが好きだから。なんて言えるはずない。恋をしているのは自覚したけど、はっきり気持ちを伝えるのとはまた別の話だ。鮫嶋くんは不思議そうな顔をして私を見つめてくる。

「鮫嶋くんのことが心配だったからだよ! やっぱり鮫嶋くんのことをよくわかっているのは同じいきもの係で、同居もしている私が一番でしょ!? 鮫嶋くんが安心して野獣役をできるように、そう思ったの!!」

 本心じゃない言葉がぺらぺらと出てきてしまう。桃ちゃんに鮫嶋くんをとられたくなくて、勢いで立候補したなんて口が裂けても言えない。

「……ふーん。そっか。気遣ってくれて、サンキュ」

「ど、どういたしまして」

 しばらくは文化祭の準備でロングホームルームが頻繁にある。

 投票の日までに、なにかいいアイディアが思いつくといいんだけど。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

キミに贈る星空ブレスレット

望月くらげ
児童書・童話
美琴はアクセサリーデザイナーを目指す中学一年生。 おじさんがやっているアクセサリーショップ「レインボー」で放課後の時間を過ごしている。 学校での生活が上手くいっていない美琴にとって「レインボー」で過ごす時間は唯一自分らしくいられる時間だった。 けれど、そんな「レインボー」に年上のバイトの男の子、瞬が入ってくる。 態度も口も悪い瞬の登場で、美琴は自分の大切な空間が壊されたように感じる。 そんな中、美琴はひょんなことから瞬が年をごまかしてバイトをしていることを知ってしまう。 高校一年生だと言っていた瞬は中学三年生だった。 嘘をついていることを黙っていろと言う瞬の気迫に押され了承してしまう美琴。 瞬のついた嘘が気になりながらも二人は少しずつ距離を縮めていき――。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

処理中です...