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ざわつく心
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「で、クラスのみんなに鮫嶋家でお世話になってることがバレちゃったわけだ?」
朋子さんはケラケラと笑いながら、大根サラダを取り分けてくれる。
「はい……やっぱりみんなそういうの気になるだろうし、仲良しの子以外には言ってなかったんですけど」
「まぁ、別にやましいことをしてるわけじゃないし。事情があってのことだからそんなに気に病むことないんじゃない?」
「愛奈は意外とそういうの気にするんだよ。登下校が一緒なのは平気なのに、一緒に住んでることは恥ずかしいらしい」
鮫嶋くんに痛いところをつかれてぎくっとする。
「鮫嶋くんだって!『同居してるけど』って平然と言うから、みんな一瞬固まってたよ」
「あのタイミングであたふたしたらもっとおかしくなるだろ?」
私達の会話に朋子さんは声を上げて笑った。
「恭介のそういうところ、お父さんにそっくりだわ!」
黙々とご飯を食べてた鮫嶋くんのお父さんはニヤリとする。
「父さんは恭介よりは愛想よい学生だったけどなあ」
「これでも愛想よくしてるつもりなんだよ」
会話に花が咲く夕食は、とてもおいしい。
瑞々しい大根サラダ、しっかり焼いてあるハンバーグに、コンソメスープ。
舌鼓を打っていると、朋子さんがお箸を置いた。
「今日は気分がいいから、私もお酒飲んじゃおうかな」
「お、珍しいな」
鮫嶋くんのお父さんは、自分が飲んでいた瓶ビールを朋子さんが持ってきた小さなグラスに注いだ。
「ありがと。恭介から学校の話を聞くことなんて滅多にないから……なんだか嬉しくて」
「愛奈ちゃんのおかげだな」
「ほんと、うちの娘……じゃなくていつお嫁にきてもらってもいいわね」
「ちょ、またそんなこと言ってぇ!」
鮫嶋くんはなにも言わずにお茶を飲んでいた。
「恭介はまんざらでもなさそうだな」
「別に。嫌じゃないけど」
「もう、鮫嶋家総出でふざけないでください!」
笑い声がリビングを包む。
そうだよ、鮫嶋くんがまんざらでもないなんてこと……あるはずない。
私たちは、ただの友達。
今はただの……友達でしかないんだから。
***
10月に入ると、だいぶ過ごしやすい気温になってきた。
最近の夏は本当に暑くて、登下校だけでも大変だった。学生は夏が好き! みたいに言われることも多いけれど、暑さは好きな気持ちだけではどうにもならない。一緒に歩く人に、自分の額に浮かぶ汗や、シャツの染みを見られたくないもんね……。
「どうかした?」
鮫嶋家から登校することにも慣れてきた。秋の快適さについて考えていたら、鮫嶋くんに不思議そうな顔で見つめられていた。……鮫嶋くんっていつも涼しそうな顔をしてる気がする。汗もあんまりかかないような。
私だけが色々と気にしているようで、ちょっとだけ憎らしい。
「なんでもないよ。今日はメダカの水槽の水換えがあるから気合い入れなきゃと思ってたところ」
「お、頼もしい。愛奈は本当に生きものが好きだな」
「……鮫嶋くんもね?」
生きもののお世話をしているときの鮫嶋くんはルンルンとしている。うまく言えないけれど、まるで頭の上から音符マークが出ているような気がするのだ。
「おはよーっ」
教室に入ると、すでに教室にいた生徒が挨拶を返してくれる。雑談もそこそこに、私たちは教室の後ろに置いている水槽へと向かった。鮫嶋くんはじーっと水槽を見ている。
「やっぱり、もうちょっと柔らかい水草があったほうがいい気がするんだよな。その方が、メダカも卵を植え付けたりできるし」
「今度先生に話してみよっか?」
そう話していると、他の生徒も会話に混ざってきた。
「ふたりって本当に生きもの好きなんだなー」
「ね、いきもの係なんて嫌がる子が多いのに、ふたりは楽しそうに仕事してるよね」
私もそりゃあ生きものは好きだけど……、係の仕事をしていると鮫嶋くんの“生きもの雑学”を教えてもらえるのが面白かったりするのだ。水槽から3分の1程度の水を抜き、水が入ったバケツを捨てに行こうとした時だった。
「ねぇねぇ、鮫嶋くんはどんな魚が好きなのー?」
そのタイミングを狙ったかのように、鮫嶋くんの横に走ってくる女子がいた。
――兎沢桃さん。可愛くて、学年全体でも目立っている女の子。
「どんな魚でも好きだけど。家で飼ってるのは淡水熱帯魚だよ」
「淡水? それっておいしいの?」
「食ったことないからわかんねーって」
「やだぁ。鮫嶋くんっておもしろーい!」
楽しそうなふたりを横目に、水を捨てに行く。なぜだか、胸にざわりとした感覚があった。
痛いのか、重苦しいのか、どっちのかわかんない。
クラスのみんなと鮫嶋くんは、だいぶ打ち解けてきているように思う。
それはとっても嬉しいことのはずなのに、今みたいにときどき……ざわりとしたなにかが私の胸のなかを埋めていくことがあるんだ。
朋子さんはケラケラと笑いながら、大根サラダを取り分けてくれる。
「はい……やっぱりみんなそういうの気になるだろうし、仲良しの子以外には言ってなかったんですけど」
「まぁ、別にやましいことをしてるわけじゃないし。事情があってのことだからそんなに気に病むことないんじゃない?」
「愛奈は意外とそういうの気にするんだよ。登下校が一緒なのは平気なのに、一緒に住んでることは恥ずかしいらしい」
鮫嶋くんに痛いところをつかれてぎくっとする。
「鮫嶋くんだって!『同居してるけど』って平然と言うから、みんな一瞬固まってたよ」
「あのタイミングであたふたしたらもっとおかしくなるだろ?」
私達の会話に朋子さんは声を上げて笑った。
「恭介のそういうところ、お父さんにそっくりだわ!」
黙々とご飯を食べてた鮫嶋くんのお父さんはニヤリとする。
「父さんは恭介よりは愛想よい学生だったけどなあ」
「これでも愛想よくしてるつもりなんだよ」
会話に花が咲く夕食は、とてもおいしい。
瑞々しい大根サラダ、しっかり焼いてあるハンバーグに、コンソメスープ。
舌鼓を打っていると、朋子さんがお箸を置いた。
「今日は気分がいいから、私もお酒飲んじゃおうかな」
「お、珍しいな」
鮫嶋くんのお父さんは、自分が飲んでいた瓶ビールを朋子さんが持ってきた小さなグラスに注いだ。
「ありがと。恭介から学校の話を聞くことなんて滅多にないから……なんだか嬉しくて」
「愛奈ちゃんのおかげだな」
「ほんと、うちの娘……じゃなくていつお嫁にきてもらってもいいわね」
「ちょ、またそんなこと言ってぇ!」
鮫嶋くんはなにも言わずにお茶を飲んでいた。
「恭介はまんざらでもなさそうだな」
「別に。嫌じゃないけど」
「もう、鮫嶋家総出でふざけないでください!」
笑い声がリビングを包む。
そうだよ、鮫嶋くんがまんざらでもないなんてこと……あるはずない。
私たちは、ただの友達。
今はただの……友達でしかないんだから。
***
10月に入ると、だいぶ過ごしやすい気温になってきた。
最近の夏は本当に暑くて、登下校だけでも大変だった。学生は夏が好き! みたいに言われることも多いけれど、暑さは好きな気持ちだけではどうにもならない。一緒に歩く人に、自分の額に浮かぶ汗や、シャツの染みを見られたくないもんね……。
「どうかした?」
鮫嶋家から登校することにも慣れてきた。秋の快適さについて考えていたら、鮫嶋くんに不思議そうな顔で見つめられていた。……鮫嶋くんっていつも涼しそうな顔をしてる気がする。汗もあんまりかかないような。
私だけが色々と気にしているようで、ちょっとだけ憎らしい。
「なんでもないよ。今日はメダカの水槽の水換えがあるから気合い入れなきゃと思ってたところ」
「お、頼もしい。愛奈は本当に生きものが好きだな」
「……鮫嶋くんもね?」
生きもののお世話をしているときの鮫嶋くんはルンルンとしている。うまく言えないけれど、まるで頭の上から音符マークが出ているような気がするのだ。
「おはよーっ」
教室に入ると、すでに教室にいた生徒が挨拶を返してくれる。雑談もそこそこに、私たちは教室の後ろに置いている水槽へと向かった。鮫嶋くんはじーっと水槽を見ている。
「やっぱり、もうちょっと柔らかい水草があったほうがいい気がするんだよな。その方が、メダカも卵を植え付けたりできるし」
「今度先生に話してみよっか?」
そう話していると、他の生徒も会話に混ざってきた。
「ふたりって本当に生きもの好きなんだなー」
「ね、いきもの係なんて嫌がる子が多いのに、ふたりは楽しそうに仕事してるよね」
私もそりゃあ生きものは好きだけど……、係の仕事をしていると鮫嶋くんの“生きもの雑学”を教えてもらえるのが面白かったりするのだ。水槽から3分の1程度の水を抜き、水が入ったバケツを捨てに行こうとした時だった。
「ねぇねぇ、鮫嶋くんはどんな魚が好きなのー?」
そのタイミングを狙ったかのように、鮫嶋くんの横に走ってくる女子がいた。
――兎沢桃さん。可愛くて、学年全体でも目立っている女の子。
「どんな魚でも好きだけど。家で飼ってるのは淡水熱帯魚だよ」
「淡水? それっておいしいの?」
「食ったことないからわかんねーって」
「やだぁ。鮫嶋くんっておもしろーい!」
楽しそうなふたりを横目に、水を捨てに行く。なぜだか、胸にざわりとした感覚があった。
痛いのか、重苦しいのか、どっちのかわかんない。
クラスのみんなと鮫嶋くんは、だいぶ打ち解けてきているように思う。
それはとっても嬉しいことのはずなのに、今みたいにときどき……ざわりとしたなにかが私の胸のなかを埋めていくことがあるんだ。
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