鮫嶋くんの甘い水槽

蜂賀三月

文字の大きさ
上 下
3 / 37

イメージアップ作戦!

しおりを挟む
 慣れない家ではぐっすり寝られないかと思ったけど、どうやら私が思う以上に私の寝つきはいいらしい。
 和風の畳のにおい、木の香り、風の音はとても心地よく、知らないうちに眠っていた。

 昨日挨拶ができなかった鮫嶋くんのお父さんにも挨拶をして、朝食を一緒に食べる。
 お家と一緒で、朝食も和食! 私の家は基本的にはパンなので、なんだか新鮮だった。
 鮫嶋くんは朝はどんな感じなんだろうと気になったけど、いつもと変わらないクールな表情をしている。

 ――しばらく、鮫嶋くんと一緒に登校することになるんだよね。

 なんだかドキドキしながら、身だしなみを整える。
 あんまり待たせたら悪いから急がなきゃと思うのに、こんなときに限って前髪が変な気がする!

 あーもう! これで行くしかない!

「ごめーん! おまた、せ……?」

 急いで玄関まで行くと、すでに鮫嶋くんの靴はなかった。

「きゃー! 朋子さん、おじさん、行ってきますぅうう!」

「あ、ちょっと待って愛奈ちゃん!」

 朋子さんに呼び止められ、私はその場で足踏みをしながら振り向く。

「恭介、あんな顔だけど本当に悪気があってあんな顔してるんじゃないのよ」

「あ、あんな顔って……」

 私は苦笑いするが、朋子さんは気にせず続ける。

「無表情に見えるけど、昨日愛奈ちゃんと話していたこと、すごく嬉しかったと思うの。誤解されやすいけれど……どうか嫌わずに仲良くしてあげてね」

「……はい。私も誤解していた部分があったので、これからもっと仲良くしたいです。それじゃ、行ってきます!!」
 
「車に気をつけるんだぞー」

 背中におじさんの声を受けながら、急いで鮫嶋くんの背中を追いかける。

「ごめん! 私遅かったよね!?」

 鮫嶋くんは驚いたようにこちらを振り向く。

「いや、別に学校に間に合えばいいと思うけど……」

 ん? なんかおかしいような……。
 なんか、私、勘違いしてる?

「私、一緒に登校するって早とちりしてたかも。ごめん、今思えばそんな話全然してなかったよね……」

 鮫嶋くんも男の子だし、女子と一緒に登校なんて恥ずかしいよね。そんなことにも気を使えないなんて。私のバカバカバカ。想像のなかで自分の頭をポカポカと叩く。

「いや、俺は全然いいんだけどさ。俺なんかと一緒に登校したら、白魚に迷惑かかるだろ」

 鮫嶋くんはこめかみを触りながら申し訳なさそうに言う。
 無表情に見えるけど、よく見たらわかる。

「迷惑って、なんで?」

「学校のやつら、みんな俺のこと苦手だろ。怖がっているやつもいるし、そんな俺といたら白魚まで変な目で見られるからさ。だから登校は別々のがいいかと思って」

「そんなことないよ! 私たち、もう友達……だよね? だから一緒に登校しよ?」

 昨日まで鮫嶋くんに感じていた恐怖はもうなかったけれど、おそるおそる聞いてみる。

 鮫嶋くんの形のいい唇。その口角が上がる。

「白魚って変わってるな。知らねーぞ」

 友達かどうかの返事はもらえなかったけれど、鮫嶋くんのその笑顔に、私の胸は高鳴るのだった。


     ***


「愛奈、なんで鮫嶋くんと一緒に登校してるの!?」

 教室に着くなり、みんなの視線が痛い。

 特に仲良しの草間くさま飛鳥あすかちゃんは、私が自分の席に着くなり駆け寄ってきた。

「なにか脅されたり、殴られたりしてないでしょうね!?」

 飛鳥ちゃんは私の体に異常がないかをチェックしている。

「心配してくれるのはありがたいんだけど……鮫嶋くんはそんなことをする人じゃないよ」

「どういうこと? 詳しく聞かせなさいよ」

 私も、おばあちゃんのことがなかったら鮫嶋くんのことを勘違いしたままだったかもしれない。
 どうして一緒に登校しているのか、それまでの顛末を飛鳥ちゃんが納得するまで説明することになった。


 「……なるほどねぇ。愛奈がそういうならわたしは信じるけど」

 「ありがとう。本当に不良とか、悪い人じゃないと思うんだ」

 ブラック・ゴーストを愛おしそうに見つめる鮫嶋くんを思い出す。
 生き物にあんな優しい表情を向けられる人が、不良だなんて誤解されているのはおかしいと思う。
 できれば、なんとかしてあげたい。いい方法がないかなぁ。
 



 一時間目はロングホームルームだった。
 うちの中学校は半年に一回、係決めがある。
 放送係や図書係、保健係など、それぞれに関わる雑務を生徒ふたりが担当するのだ。
 
 今日は夏休み明けで新しい係を決めることになっている。

 たいてい、できるだけ楽な係に希望が集中して一番面倒な係が残ってしまう。

 「それじゃあ、次はいきもの係の希望はいるか? まぁ、いないよなぁ……」

 先生が苦笑いをしながら教室を見渡す。挙手する生徒は誰もいない。
 そりゃあそうだよね。この中学校はけっこう動物が多い。
 だからいきもの係の仕事も多くって、ウサギ小屋の掃除、ニワトリ小屋の掃除、教室で飼っているメダカの水槽の水替えも……。

 ――そうだ!

 私は勢いよく手を挙げる。

「お、白魚がいきもの係やってくれるのか!?」

 先生はえらく感動したような声色になる。
 クラスメイトも反対する人はもちろんいないし、ちょっとした拍手が起こったくらいだ。

「はい! 私と鮫嶋くんで、いきもの係をやります!!」
 
 そう答えると、教室中の空気が固まる。
 一呼吸置いてからざわつきだした。
 
「――鮫嶋くんがいきもの係って」
「動物の世話をするようには見えないけど」
「ぜったいダメだって」

「ダメなんかじゃない! みんなは鮫嶋くんのことを誤解してると思う!」

 はっきり言うと、みんないっせいに鮫嶋くんの方を見た。

 先生はハンカチで汗を拭いながら鮫嶋くんに聞く。

「白魚はあんなこと言ってるけど、鮫嶋はいきもの係なんて無理、じゃなくて嫌だよな?」

 鮫嶋くんは頬杖をついたまま、表情を変えずに、ぼそっと呟いた。

「別に、嫌じゃねーけど」

 先生はその返事に驚きすぎたのか、口を開いたまましばらく動かなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

キミに贈る星空ブレスレット

望月くらげ
児童書・童話
美琴はアクセサリーデザイナーを目指す中学一年生。 おじさんがやっているアクセサリーショップ「レインボー」で放課後の時間を過ごしている。 学校での生活が上手くいっていない美琴にとって「レインボー」で過ごす時間は唯一自分らしくいられる時間だった。 けれど、そんな「レインボー」に年上のバイトの男の子、瞬が入ってくる。 態度も口も悪い瞬の登場で、美琴は自分の大切な空間が壊されたように感じる。 そんな中、美琴はひょんなことから瞬が年をごまかしてバイトをしていることを知ってしまう。 高校一年生だと言っていた瞬は中学三年生だった。 嘘をついていることを黙っていろと言う瞬の気迫に押され了承してしまう美琴。 瞬のついた嘘が気になりながらも二人は少しずつ距離を縮めていき――。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

処理中です...