上 下
11 / 39
#2 Operation Skyblue

ep.12 スカウト

しおりを挟む


 ファイナリアシティを出発して一日。
 最初の夜はなにも考えることが出来ず、すぐに眠りについてしまった。
 翌朝、目を覚ますと、補給のために聞いたこともない駅に停車していた。プラットホームもない、本当に補給用のちいさな駅だった。峠の頂きに設置されているらしく、見晴らしがよい。
 昇りかけのお日様を眺めながら、峠の風を感じ、朝食をすませた。
 その後、すぐに発車した。
 午後からウィリアムが作戦会議を行うというので同席したメリーだが、長時間におよんだ議論、専門用語が飛び交い、細かい部隊編成や兵站に話が移るともうわけが分からなくなって、頭を冷やしてくると言い残し、会議室から逃げ出した。眠くてたまらないが、うとうとと居眠りでもしたら沽券に関わる。
 カートが使っていた部屋はウィリアムの部屋兼作戦会議室になっていた。
 会議室から出て、大あくびをしつつ、割り当てられた自分の部屋に戻る。メリーの使っていた部屋はそのままなので、リラックスしてベッドに転がった。
 列車は小刻みに揺れている。
 枕を抱えながら、頭の中を少し整理する
 はたして作戦はうまくいくのだろうか。
 狙いは、戦略的重要人物の救出。そこにリュミエールが含まれている。
 重要人物とされたロイヤルガードは、常に皇族の側を離れない存在だった。そのため、皇室と親しかった有力者をよく知っている。ロイヤルブルー亡き今、そのコネクションには価値があった。
 つまり、ウィルたち財団派は皇族派を取り込みたいのである。
 錦の御旗である皇族はほとんどが死亡または行方不明となっていた。それこそ、メリーがウィルが出会ったのは幸運の産物にすぎない。
 メリーにだって、それくらいはわかっている。
 金だけ持っていたって人は言うことを聞かない。統率する者が必要だ。
 それを革命政府に倒された皇族に求めるのだから、財団は革命政府との対立を望んでいるに違いなかった。
 世界が欲しいのだろうか。
 直接聞いても、はぐらかすに決まっている。

 ――でも、あなたはその器じゃないのよ。

 求婚した当時はメリーに対する情熱が感じられた。でも、今は?
 この作戦はなんと言ったか、リュミエールを助けましょう、だ。
 この作戦を機に、情勢が一挙に加速し、考え方が違う大きな組織同士が睨み合うことになり、いずれ全面戦争へ発展するかもしれない。
 戦争へのきっかけとする気なのか。

 ――その決断を私に。

 帝国再建のために一戦交えなければなりません、力をお貸しください、みなのカタキを討ちましょう。とでも言えばまた印象が違うのにそうは言わなかった。
 昔のウィルなら、大層な理想をぶちあげて、世界の流れを変えると豪語しただろう。
 作戦名にスカイブルーの名を冠し、まさにメリーを中心とした作戦のように見せる。

 ――私の気を引く為なのね。

 そういえば、求婚してきたときも船の名前にメリーの名を冠して、贈ろうとした。
 その時の言葉はなんだったか。
 世界を結ぶ大海原、すべてあなたのものだ。殿下は、海の女王となる。
 あれをウィルらしいとするならば、今回はどうか。なにかが違う。
 ウィルが主体で動いていない? 誰かが背後にいる? 例えば財団とか……とも考えた。
 だが、たとえ彼の提案が姑息だとしても、背後の人物がどんな人間であろうと、メリーは嫌とは言えない。言えるはずがなかった。
 救出対象はロイヤルガードだけでなく、帝国軍を支えた名参謀たちも含まれている。彼らは帝国軍の戦いを近代化させ、最新兵器をもってして帝国領土拡大を推し進めてきた帝国の頭脳であった。
 そんな名参謀たちも一瞬のスキを突かれ、民衆を扇動した革命軍の戦い方に敗北した。それは参謀が口を挟むような立派な戦いではないのだが、軍事行動を阻止できなかったと面では致命的な敗北だった。だが、たとえそのような最初にして最大の傷がつく経歴を持っていようと、まともな軍事行動する際には優れた手腕を発揮するのは誰の目にも明らかだった。
 メリーは会議中に気づいたことがあった。
 部隊編成の人事をめぐって、言い争う風景を目にして、人材が不足していることを感じた。
 ロイヤルガードと旧軍の参謀。大陸に覇を唱え続けていた帝国の首脳部ともあらば、のどから手が出るほど欲しい人材に違いない。
 同時に革命政府も戦力として組み入れたいと画策しているだろう。だが、彼らは一向になびく気配が無い。ならば、敵の手に落ちる前に消した方がましだ。きっとそう考えるのだろう。
 くだらない。
 そんなことのために、リュミエールが殺されてたまるか。
 怒りがふつふつとわいてくる。
 たとえウィルの思惑がどうであろうとこの作戦は成功させなくてはいけない。

「私が彼らを率いるのよ」

 言葉にすると、やけに重たい。
 戦いになる。
 傷つくものもあれば、きっと命を落とす者もあらわれるだろう。
 でも、ここで退くわけにはいかない。
 別の方法はないのだろうか。考えださなければならない。
 このままでは、本当に全面戦争だ。
 しかし、作戦を放棄することはできない。
 考えすぎて頭が少し疲れているようだった。
 リズミカルな列車の振動に身を任せ、眠ることにした。
 

 目覚めたときには外は薄暗くなっていた。
 ファイナリアの国境付近だろうか、わずかに窓の外に映る遠景には、地肌をさらした丘陵。やがて、緑の葉を茂らせた木々が豊かに立ち並ぶ森が目に入った。
 南廻りは麦畑が一様に広がっているが、北部は山岳地帯だと以前にカートが教えてくれた。そして、山越えに時間がかかることも。
 この様子では北回りなのだろう。
 南回りルートに比べ、時間のロスになる。だが、人口の少ない地域である。駅があるといっても補給用の人員が配置されているだけで、メリーが人目に晒される危険が少ない。革命軍の支配が影響が少ない地域でもあった。侵入ルートとしては南回りルートよりは安全に思えた。
 メリーはふと気がついた。
 そうだ、たしかカートも乗り込んでいるはずだ。
 じっとしているよりはいいと、カートがいるであろう、貨物車に向かった。
 案の定、彼は貨物車にいた。荷物の確認作業を新しい乗務員に教えている。制帽に制服はしっかりと着用し、新入りに教え込む先輩そのものだ。テキパキと指示しながら、自らも忙しく立ち回る様子が扉の窓越しによくわかる。じっと見つめていると、カートが気づいて、連結部までやってくる。表情はいたって真面目に。

「なんだ? 見ての通り、仕事中なんだが」

 いつも通りの口調だ。

「……どうするつもり?」
「なんのことだ?」

 声を小さくして、耳元でつぶやく。

「なにか企んでいるんじゃないの?」
「いや、なにも」

 返ってきたのは短い返事。

「なんで乗り込んできたの?」
「仕事をするためだ」
「本当に?」
「本当だ」
「私を運ぶ仕事は?」

 その問いに彼は仏頂面で黙った。

「お姉さまの元に連れて行ってくれるんじゃなかったの? もう引き渡したから、あとは私の責任ってこと?」

 返事はない。
 車輪の回る音だけが響いていく。

「おまえはこいつらについてきたことを後悔してるのか?」
「私の質問に答えて」

 また沈黙。カートは答えない。
 メリーはふぅとため息をつき、次の案を出す。

「ウィルの作戦は人手不足らしいわ。もし、その気があったら、手を貸し……」
「俺は俺の仕事をするだけだ」

 メリーの提案を遮るように言い、カートは制帽をかぶりなおした。また貨物車に戻ってゆく。

「なによ……!」

 素っ気ない態度につい腹がたって、乱暴に扉を閉める。自分でも驚くほどの大きな音がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...