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 もう迷いなんて何も無かった。ミーナが僕を愛してくれていて…だから身を引こうとしているなら、そんなこと僕は望んでなんていない。

「イリヤ、解いてっ」

 ベッドの柵に縛りつけられた手首を、ミーナは激しく動かして何とか逃れようとして叫んでいる。
 このままじゃ傷が出来てしまうから、馬乗りになると暴れ無いように、手首を押さえ付けた。

「解かないよ。逃げるでしょ?それか、助けを呼ぶ?」

 ミーナの耳もとで囁くと、憐れみを纏った目で僕を睨んだ。
 
「イリヤ…」

「そんなことしたった無駄だって事、分かってるでしょう?だってミーナはただの捕虜で、僕はこの国の王子だか…」

 言い終わる前にガンっという鈍い大きな音と共に、強い衝撃を額に感じた。

(ず…頭突き?)

 あまりの痛みに後ろに仰け反ると、ミーナは僕から身体を抜いて、今度は鳩尾に蹴りをくらわせて来た。

「イリヤっ!いい加減にして!」

 咳込む僕を涙目でミーナが見つめて怒鳴ってきた。

「そんな風に思ってたの?…最低っ…」

 そう言って大泣きしてしまった。女の人にこんな風に声を荒げて泣かれたことなんて初めてだったし、自分の言ったことに罪悪感が無かった訳じゃなかったから、慌ててミーナに謝った。
 泣きじゃくって、もう一度「解いて!!」と言うので、急いで手首を解いた。

「…嬉しかったのに。イリヤが来てくれたこと…」

 途切れ途切れに言いながら、ミーナは思いを伝えようと、必死に言葉を続けた。申し訳ない気持ちと、怒ってる所も泣き顔も可愛いという歪んだ気持ちでミーナを抱きしめた。

「ごめん…。本当はこんなことするつもりじゃなかった。ただ、僕はミーナがいないとダメなんだ」

 泣いていたミーナが、腕の中で段々と落ち着きを取り戻してきた。

「全部ミーナの為だったから頑張れた。ミーナと一緒になれないなら、こんな事無意味だよ」

 ブルームンを他種族も暮らしやすい国にしたことも、ガーディアンの制度を浸透させた事も。全てはミーナの為だった。この国も、国王も狂った『純血主義』だとは思っていたけれど、どうでも良かった。いっそこのまま滅びればいいと思っていた僕を、ここまでさせたのはミーナが願ったからだ。

 ミーナは僕の言葉に少し考えてから、やっと顔を上げてくれた。今日始めて目を見てくれた気がする。

「…私もイリヤの気持ち…考えて無かった。ごめんなさい」

 決意を固めたように手を握りしめると、緊張した面持ちで僕を見つめた。

「…そうね。もし子供が出来たら、きっとそれは運命だよね?」

 そう言うとミーナは僕の顔を引き寄せると、キスをして上に覆い被さった。

 まさかの展開に、今度は僕の方が言葉を失ってしまう。この展開に頭が付いて行かない。
 ミーナの舌が口内を這う。ずっと求めていたと言うように激しく吸い付く。息が出来なくて、大きく口を開くとミーナがクスリと微笑んだ。

「…ダメだよ?ちゃんと鼻で息してね?」

 まだ、呼吸も整わない僕の唇をなぞるように舌を這わせて、もう一度舌を絡めた。今度は、ちゃんと頬に添えられていたミーナの手が、身体をなぞりながら降りていく。
 服の上からでも分かるくらいに、硬くなっているにミーナの手が触れる。
 濃厚なキスをしながら、細い指を何度も何度も陰茎部に這わせて、妖艶な視線で僕を見下ろした。

「っ…!?」

 初めての時とは逆のパターン。こうなることは想像して無かった。指が触れる度に、自分の意思とは別にビクリと身体が震える。
 ミーナは唇を離すと、僕の耳元に顔を近づけた。

「…苦しそうだね?」

 それだけ呟くと、微笑みながら僕の身体からゆっくり降りていく。
 起きあがろうとする僕を「ダメ」と優しく静止すると、また微笑んで僕のベルトに手をかけた。

「ちょっ…ちょっと待って…何する…!」

 ミーナは何の躊躇もなくズボンをずらすと、反り立つ陰茎に舌を這わせた。

「ひぁっ…!まってっ…」

「…まって欲しかったの?…こんなに溢れてるのに?」

 きょとんとした顔を作ると、わざとらしく先端の透明な先走りを指に絡めて見せてきた。
 顔を真っ赤にした僕を「可愛い」と言いながらクスクス笑った。

(こんなはずじゃなかった…)

 完全に遊ばれている。当惑しきっている僕を弄ぶかのように、今度は先端を口に含んだ。

「うっ…っく…」

 ちゅぷちゅぷとやらしい音が、静かな部屋に響きわたる。もう何も考えられない。根本から舌を先端まで這わせてみたり、吸い付いたり。

(口の中…気持ちいい…)

 清純な感じがしたミーナは、いなかった。元々7歳年上だ。そういうことは、色々経験してきていたのかも。そんな話はしたことが無かったから、気付かなかっただけで…。

「あっ…っ…」

 快楽に支配されていく。先端を口に咥えながら手で扱かれると、我慢してても声が漏れた。ミーナの頭が上下に動く度に、亀頭や陰茎を舌で刺激する。もう無理だ。下腹部が疼いて、今すぐ精を解き放ちたいという衝動に駆られる。

「…っやめて…ミーナ」

 ミーナの髪を撫でながら、荒い息遣いで何とか言ってみたけれど、全く聞き入れてくれる気配はない。それどころか舌を巻き付けて、陰茎を更に刺激してきた。
 ミーナからはふっ…ふっとやらしい息遣いが漏れる。

「っ…!!口っ…離して!」

 理性の限界だった。ミーナの口の中に思いっきり射精してしまった。
 何も考えられない。肩で息をしながらも、ようやく口を離したミーナを見て青ざめた。

「ごっ…ごめ…」

 ベットのそばを見渡したけれど、ティッシュがどこにあるのかとか、初めて来たので分からない。
 慌てる僕を尻目に、ミーナはゴクリとそれを飲み込んだ。

「ずっと我慢してくれてたご褒美…。本番はこれからでしょう?」

 そう言って、妖艶に微笑みかける。いつもの優しい笑顔も大好きだけれど、こんなミーナもいいな。とか思ったり。
 顔を赤くしながらも、激しく頷く僕を見ると、ミーナはまた微笑んだ。

***

 ジーナが孤児院に着いたのは昼過ぎだった。孤児院の外庭にいるエレンとガイアを見つけると、一目散に走って行った。

「あの、バカ王子…今日ミーナに会いに来た?」

 子供達と戯れていた2人は、いきなりのジーナの来訪に戸惑いを浮かべて、顔を見合わせている。

「朝一で来たみたい。イリヤ君、会えることに、すごく喜んでいたって」

 エレンは弟の話しをしているかのように、可愛いね?と付け足した。

「今日ミーナは休みだから、寮にでも会いに行ったんじゃないのか?詳しくは聞いて無いけど」

 ガイアは子供達にこの人誰?と聞かれながら適当にあしらった。

「エレン、あいつのこと可愛い弟みたいに思ってるかもしれないけれど、違うから。本当に計算高いクソガキだから。ガイアも、何で止めないかな?」

「俺達もついさっきここに来たんだ」

「…ジーナさんどうしたの??イリヤ君とケンカでもした?いつもは仲良しなのに…」

 ジーナの暴言に、エレンは驚いているようだ。ガイアはエレンに「大丈夫」と声をかけると、子供達に向こうで遊ぶ様に言った。
 子供達は「えー」「一緒に遊ぼうって言ったじゃん!」と、口々に不満をこぼしながらも、孤児院の中へ入って行く。全員がいなくなったのを確認すると、ガイアは重い口を開いた。

「イリヤがミーナに会いに来るなら、きっとこの日だろうなって…」

 ジーナはガイアのセリフを聞いて頭を抱えてしまった。

「気付いてたなら教えなさいよ。…私はオスカに言われて、ハッとしたの」

「え?何?どう言うこと?」

 エレンは、1人不思議そうにジーナとガイアの顔を交互に見ている。

「エレンは、知らなくていいよ」

 ガイアは言ったが、エレンは納得しなかった。

「二人ばっかり分かっててずるいよ!ここまで聞いちゃったんだから話して!」

 ジーナは、ため息を吐いてからガイアに話すように促した。ガイアは渋々口を開く。

「…今日は4年に1度のサキュバスの発情期だ」

「…はつ…じょう…き…?」

 エレンは自分で言いながら、顔を赤らめた。
 そう。サキュバスの発情期。サキュバスは、魔力を自分では作れない悪魔族でも最下層の淫魔という種族。ただ、他人の魔力を自分の魔力に出来るという特性を持っている。普段は魔力が少なくなると、性交で魔力を吸収するだけだ。
 だけど4年に1度必ず閏年に、一斉に発情期を迎える。魔力のストックが多いとか、少ないとかは関係なく魔力を求めて性交を繰り返す。

 だから魔力の高いオスカは狙われる。今日一日は身を隠す。と今朝言ったきり、ジーナの前に姿を表さなかった。

「そこで、やっと気付いたの。…ミーナってサキュバスとのハーフだったって…」

「!!止めないと!!」

 エレンが、ハッとしてガイアの顔を見たけれど、ガイアは青ざめた顔で首を横に振った。

「今更止めたって無駄でしょう?…本当に、目的の為なら手段を選ばない…最低最悪のクソガキだわ」

 3人は大きなため息を吐いた。
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