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新しい魔法
7.魔王戦開始(テル)
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レイが早口で唱えた呪文から聞き取れた古代語はこうだ。
『手を離れた魔力』
『対象を包み込む』
『同じ魔力を持つ者以外、触れることは許されない』
『触れる物全てから対象を守れ。あらゆる最適の手段で』
つまり、ユリアに注ぎ込んだはずの魔力を自分の魔力だと感知して操っている。
放出された魔力は、厚みのある繭となりユリアを包み込む。そして、その繭に少しでも触れると、カウンター魔法が繭の魔力から放たれる。
(思いついても簡単にできることじゃないよな)
アスカの属性付与魔法と同じ、魔力を操るという性質だけど大きく違う。
属性付与魔法は、魔力を対象の体内で変換して、魔法を無にする『防御魔法』。
レイの魔法は対象から魔力を溢れさせて、その魔力に触れるとカウンター魔法が発動する『攻撃魔法』。
しかも、アスカは手動で、レイは自動だ。
(…ほんと厄介…攻略法を考えよう)
レイは次々と上級魔法を広範囲に乱れ撃ちする。
ユリアは反射神経の良さと、その素速さでレイの広範囲魔法をかいくぐり、敵に近づく。
二人はお互いの弱点を補える関係で…。多分共闘に向いている。
(まぁ…レイ一人でも充分厄介だけど)
「ゼル…分かっていると思うけど…」
「はい。ユリアさんに近づかないように攻撃を…ですよね?」
ゼルは普段、グローブで戦うけれど、今日はクナイを装備している。多分、アスカに聞いて、こうなることを予測していたんだろう。
(さすがゼル。古代語も理解しているし、言わなくても察してくれる)
ユリアのことはゼルに任せて大丈夫そうだ。
「アスカは他人の魔力量感知ができるんだよな?」
「感知してる。ユリアを守ってる魔力も見えてるから。多分…ユリアを守る魔力の範囲はユリア起点に数十センチ。それ以上は近づけないよ?さっきみたいなカウンターが発動するから」
「助かる。変化が有ればすぐ教えて欲しい」
「任せて?私はユリアを注視する」
アスカはウィップを手に何かを思い付いたようだ。
「シュウはユリアとレイの動きを見ながら、攻撃の指示を頼む」
「分かった」
アスカもシュウも戦い慣れているから、自分のできることを把握してる。
俺が指示を出す必要もない。
(後は…俺だ…)
厄介な魔王の魔法を封じる必要がある。
顔色ひとつ変えずに上級魔法を乱れ撃ちするレイを睨んだ。
(悪魔族は近距離戦に弱い…距離を詰めるか…)
レイが『新しい魔法を試したい』と言ったから、今日は聖剣じゃなく大剣を装備した。
あらゆる剣の中で、唯一魔法を斬ることができる剣だ。
マジックブレイクで魔法を斬るには、コツがいる。
剣を振るう瞬間しかその効果は発動しないから、一歩間違えれば魔法が直撃してしまう。
それに、振るうスピードが遅いと発動しないから…。それも魔法直撃コースだ。
(…そんなヘマはしないけど…)
「へぇ…さすがテル。マジックブレイクを使いこなすんだ…」
「まぁね。今日はレイとの戦いを想定してたからな」
「魔王て…。酷い言われようだな…」
「何が酷いんだよ。的を得てる」
間合いを取り後退するレイに、そう言い放った。
(マジックブレイクを知ってるのか。悪魔族なら当たり前か。…それなら、欠点もバレてるな)
「いつまでそのスピードで振るえるのか見ものだね?俺の魔力はそう簡単に尽きないよ?」
欠点は魔石で作られているから非常に重いこと。それを何度も振るわないといけないから…正直しんどい。
さっさと終わらせたいけど、余裕のフリをして笑った。
「はっ…?こっちもそう簡単にスタミナ切れにならない」
煽ってくるレイに強がりを吐きながら、俺に向かって放たれる魔法の炎を斬り裂いた。
「テル君!後ろっ!」
シュウの声に振り返ると、ユリアが魔法をかいくぐりながら、俺に向かって突進してきた。
今のユリアはまずい。ユリアが攻撃しようと俺に触れた瞬間に、攻撃魔法が発動してしまう。
レイへの攻撃を一旦やめて、身体を翻しユリアと距離をとった。
「さすがユリア」
「うん!任せて?レイにはテルを近づけないから」
(コンビネーション良すぎなんだよ…。さすがバカップル!)
ユリアが双剣を振りかぶった瞬間に、今度はゼルがユリアに向かって赤く光るクナイを投げつけた。
クナイはユリアに触れる数十センチ手前、魔力の繭に触れた瞬間、今度は氷魔法で弾かれた。
「うわぁっ!!びっくりした…」
やっぱりカウンターが発動する。けど、ユリアもそれに慣れていないから動きを止める。
その隙にゼルが俺のそばに駆け寄ってきた。
「テルさんダメですね。死角からの攻撃、頭上…。あと、アスカさんに属性付けてもらった武器で攻撃したんですが…。全部魔法で防がれます。ユリアさんに攻撃は当たりませんね」
今のは炎の属性を付けたクナイだったらしい。その場合、打ち勝つ氷属性の魔法が発動した。
(そんなことまでオートなのかよ…)
「…全部ダメ…。魔法攻撃もことごとく弾かれた」
駆け寄ってきたアスカもそう呟いた。
「でも、分かったことがあるんだよね」
アスカは勝ち誇った笑みを浮かべて、早口で俺とゼルに伝えた。
「まず、ユリアを包んでいる魔力の繭だけど…。攻撃を受けるたびに少しずつ薄くなってる」
ユリアの体内を流れる魔力は、無尽蔵に作られるものではない。
「…ということは、絶えずユリアを攻撃すれば、いずれは無くなるってことか?」
「そういうこと。でもただ魔法を使えばいいってことじゃないよ?魔法の威力もオートなの」
「…どういうことですか?」
「魔力を早く使い切る為には、それなりの強い攻撃をしないといけない。要は、ただのクナイで攻撃するだけじゃ、大してユリアを包む魔力は消費されないってこと」
「え~…面倒ですね」
(どこまで厄介なんだよ…)
ユリアにかかっている遠隔操作魔法は、簡単には破れないってことが分かった。
「…ゼル…攻撃対象を交代しよう。全力でレイを叩いてくれ。癪に障るから」
「了解です!!」
「テル君…。私も気付いたことがあるんだけど…」
今度は俺たちの戦いを、離れたところから見ていたシュウが声をかけてきた。
「多分レイ君の魔法はユリアにあたるよ?」
そういえば、レイの唱えた古代語の中に『同じ魔力を持つ者以外、触れることは許されない』という部分があった。
対象は『人』だと思い込んでいたけれど、よく考えたら『魔法』も同じ魔力を持つものだ。
それに、ユリアはレイの魔法を避けている。
「さすがシュウ。よく気付いたな…」
「すごいですね!」
勝てる見込みが出てきたとゼルと作戦を練り直して、ほくそ笑んだ。
『手を離れた魔力』
『対象を包み込む』
『同じ魔力を持つ者以外、触れることは許されない』
『触れる物全てから対象を守れ。あらゆる最適の手段で』
つまり、ユリアに注ぎ込んだはずの魔力を自分の魔力だと感知して操っている。
放出された魔力は、厚みのある繭となりユリアを包み込む。そして、その繭に少しでも触れると、カウンター魔法が繭の魔力から放たれる。
(思いついても簡単にできることじゃないよな)
アスカの属性付与魔法と同じ、魔力を操るという性質だけど大きく違う。
属性付与魔法は、魔力を対象の体内で変換して、魔法を無にする『防御魔法』。
レイの魔法は対象から魔力を溢れさせて、その魔力に触れるとカウンター魔法が発動する『攻撃魔法』。
しかも、アスカは手動で、レイは自動だ。
(…ほんと厄介…攻略法を考えよう)
レイは次々と上級魔法を広範囲に乱れ撃ちする。
ユリアは反射神経の良さと、その素速さでレイの広範囲魔法をかいくぐり、敵に近づく。
二人はお互いの弱点を補える関係で…。多分共闘に向いている。
(まぁ…レイ一人でも充分厄介だけど)
「ゼル…分かっていると思うけど…」
「はい。ユリアさんに近づかないように攻撃を…ですよね?」
ゼルは普段、グローブで戦うけれど、今日はクナイを装備している。多分、アスカに聞いて、こうなることを予測していたんだろう。
(さすがゼル。古代語も理解しているし、言わなくても察してくれる)
ユリアのことはゼルに任せて大丈夫そうだ。
「アスカは他人の魔力量感知ができるんだよな?」
「感知してる。ユリアを守ってる魔力も見えてるから。多分…ユリアを守る魔力の範囲はユリア起点に数十センチ。それ以上は近づけないよ?さっきみたいなカウンターが発動するから」
「助かる。変化が有ればすぐ教えて欲しい」
「任せて?私はユリアを注視する」
アスカはウィップを手に何かを思い付いたようだ。
「シュウはユリアとレイの動きを見ながら、攻撃の指示を頼む」
「分かった」
アスカもシュウも戦い慣れているから、自分のできることを把握してる。
俺が指示を出す必要もない。
(後は…俺だ…)
厄介な魔王の魔法を封じる必要がある。
顔色ひとつ変えずに上級魔法を乱れ撃ちするレイを睨んだ。
(悪魔族は近距離戦に弱い…距離を詰めるか…)
レイが『新しい魔法を試したい』と言ったから、今日は聖剣じゃなく大剣を装備した。
あらゆる剣の中で、唯一魔法を斬ることができる剣だ。
マジックブレイクで魔法を斬るには、コツがいる。
剣を振るう瞬間しかその効果は発動しないから、一歩間違えれば魔法が直撃してしまう。
それに、振るうスピードが遅いと発動しないから…。それも魔法直撃コースだ。
(…そんなヘマはしないけど…)
「へぇ…さすがテル。マジックブレイクを使いこなすんだ…」
「まぁね。今日はレイとの戦いを想定してたからな」
「魔王て…。酷い言われようだな…」
「何が酷いんだよ。的を得てる」
間合いを取り後退するレイに、そう言い放った。
(マジックブレイクを知ってるのか。悪魔族なら当たり前か。…それなら、欠点もバレてるな)
「いつまでそのスピードで振るえるのか見ものだね?俺の魔力はそう簡単に尽きないよ?」
欠点は魔石で作られているから非常に重いこと。それを何度も振るわないといけないから…正直しんどい。
さっさと終わらせたいけど、余裕のフリをして笑った。
「はっ…?こっちもそう簡単にスタミナ切れにならない」
煽ってくるレイに強がりを吐きながら、俺に向かって放たれる魔法の炎を斬り裂いた。
「テル君!後ろっ!」
シュウの声に振り返ると、ユリアが魔法をかいくぐりながら、俺に向かって突進してきた。
今のユリアはまずい。ユリアが攻撃しようと俺に触れた瞬間に、攻撃魔法が発動してしまう。
レイへの攻撃を一旦やめて、身体を翻しユリアと距離をとった。
「さすがユリア」
「うん!任せて?レイにはテルを近づけないから」
(コンビネーション良すぎなんだよ…。さすがバカップル!)
ユリアが双剣を振りかぶった瞬間に、今度はゼルがユリアに向かって赤く光るクナイを投げつけた。
クナイはユリアに触れる数十センチ手前、魔力の繭に触れた瞬間、今度は氷魔法で弾かれた。
「うわぁっ!!びっくりした…」
やっぱりカウンターが発動する。けど、ユリアもそれに慣れていないから動きを止める。
その隙にゼルが俺のそばに駆け寄ってきた。
「テルさんダメですね。死角からの攻撃、頭上…。あと、アスカさんに属性付けてもらった武器で攻撃したんですが…。全部魔法で防がれます。ユリアさんに攻撃は当たりませんね」
今のは炎の属性を付けたクナイだったらしい。その場合、打ち勝つ氷属性の魔法が発動した。
(そんなことまでオートなのかよ…)
「…全部ダメ…。魔法攻撃もことごとく弾かれた」
駆け寄ってきたアスカもそう呟いた。
「でも、分かったことがあるんだよね」
アスカは勝ち誇った笑みを浮かべて、早口で俺とゼルに伝えた。
「まず、ユリアを包んでいる魔力の繭だけど…。攻撃を受けるたびに少しずつ薄くなってる」
ユリアの体内を流れる魔力は、無尽蔵に作られるものではない。
「…ということは、絶えずユリアを攻撃すれば、いずれは無くなるってことか?」
「そういうこと。でもただ魔法を使えばいいってことじゃないよ?魔法の威力もオートなの」
「…どういうことですか?」
「魔力を早く使い切る為には、それなりの強い攻撃をしないといけない。要は、ただのクナイで攻撃するだけじゃ、大してユリアを包む魔力は消費されないってこと」
「え~…面倒ですね」
(どこまで厄介なんだよ…)
ユリアにかかっている遠隔操作魔法は、簡単には破れないってことが分かった。
「…ゼル…攻撃対象を交代しよう。全力でレイを叩いてくれ。癪に障るから」
「了解です!!」
「テル君…。私も気付いたことがあるんだけど…」
今度は俺たちの戦いを、離れたところから見ていたシュウが声をかけてきた。
「多分レイ君の魔法はユリアにあたるよ?」
そういえば、レイの唱えた古代語の中に『同じ魔力を持つ者以外、触れることは許されない』という部分があった。
対象は『人』だと思い込んでいたけれど、よく考えたら『魔法』も同じ魔力を持つものだ。
それに、ユリアはレイの魔法を避けている。
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