セイレーンのガーディアン

桃華

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日常への帰還

30.甘えていい(テル/シュウ)

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 身体を起こして精で溢れたゴムを引き抜いた。そこには血が付いていて…。やってしまったと青ざめた。

(多分シュウは無理をしている)

 結構荒々しく抱いた自覚はある。少しでも動いたら、ナカが絡みつくように俺のを締め付けてくるから…。
 止まらなくなった。奥を突き上げてゴムをつけていても、膣壁の収縮が分かるくらいに擦り付けて…。細い腰を掴んで激しく打ちつけた。
 よがる声がまた掻き立てるから、何度も何度も腰を打ち付けた。
 
(ガッツいてしまった…)

 体格差があることも忘れるくらい…。理性を飛ばしてしまってた。シュウは無理をしていたんだと思う。

 「足りない」と言ったことを後悔した。さっきみたいに欲望のままにシュウに突き入れたら、今よりもっと後悔するだろう。
 シュウは初めてで…。それに、壊れそうな程に華奢な身体だった。浮かれ過ぎて壊してしまうところだった。

「……身体は……大丈夫?」

 そっと触れた肩は小刻みに震えている。シュウは虚ろな瞳にうっすら涙を浮かべながら、荒い息を吐いている。
 その表情を見ているだけで、さっき精を吐き出したばかりの雄芯は、また緩く勃ち上がる。
 それがバレ無いように額に唇を落とした。

「…ん…平気…」

 荒い息遣いを悟られないようになのか、口元を手で覆いながらシュウはそう呟いて顔を綻ばせる。
 そうやって無理をするのはきっと俺の為なんだろう。

(嬉しい…けど…ダメだ…)

「うそ。シュウ…疲れてるだろう?」

「大丈夫だよ…?その……。想像以上に大きくて硬くて、初めは不安だったけど…傷の治癒は得意だし」

 思いがけない発言に、目を丸くして笑ってしまった。

「……変なこと…言ったよね?」

 俺が笑うから、シュウはブランケットを引き寄せて、真っ赤になった顔を隠した。

「違うの。私だけ……気持ちよかったの……かなって……」

「…え…?」

「同じくらい…気持ちよくなってほしくて…」

(何それ…可愛いすぎるだろ…)

 「足りない」と言った俺に応えようとしてのシュウの発言。めちゃくちゃ俺のこと好きじゃん。と、赤くなる顔を手で覆った。
 好きの重さなんて、そんなものは計れないけど、もし計れたとしたら俺の方が重いと思ってた。
 でも…。少なくてもシュウは俺の願いを叶えたいと思ってくれていた。
 もしかしたら、シュウも俺と同じくらいには好きなのかもしれないと自惚れずにはいられない。

 可愛い発言をして、ブランケットに潜るように顔を隠しているシュウの髪に触れてみた。

「俺こそ変なこと言ってごめん。…シュウに無理させたい訳じゃないからさ?」

「……」

やけに静か…それに返事もない。

「今日は初めてだし、ゆっくりと慣らしていけば…」

「………」

「……シュウ?」

 ブランケットを捲ると、シュウはぐっすりと眠ってしまっていた。寝息が聞こえるくらいに深い眠りについている。

「……おやすみ……」

その頬にそっと触れて口付けた。

(色々あった一日だった)

 決意も後悔も…。本当、色々ありすぎて戸惑った。だけど、一言で言えば『最高』な日だった。
 そう思いながらシュウの隣りで目を閉じた。

(まぁ……。今日も眠れないけど……)

******

(もう…朝……?)

 薄明るくなった部屋で、ベッドから身体を起こした。
 目覚めたのは見慣れない部屋で…。部屋には私一人しかいなかった。
 一人残された私は、二回りほど大きいスウェットシャツを身につけている。

「…あれ………?」

 呟いてからハッとして顔を覆った。自分から「触れて欲しい…」なんて言ってしまったんだ。
 このままじゃ意識し過ぎてしまって、また醜態を晒してしまうと思ったから。

 それから、身体を重ねて満足してしまった私は…そのまま意識を失ってしまった。

(あんな感じなんだ……)

 婚約のこともそうだけど…。触れてくれたことも、あんな風に乱れたテル君を見られたことも…。なんだか夢のようで…嬉しくて仕方なかった。

 普段は冷静で理性的。本能のまま、自分勝手な事をするような人じゃない。
 それなのに…。私を抱いている時のテル君はなんていうんだろう。

(『雄』だったな…)

 抑えられないと、頬を高揚させて獣のように息を荒くした。
 貪りつくように私の身体に舌を這わせて…吸い付て、私を見つめるその瞳はギラついていた。
 普段は見せない表情を私は知ってしまった。そのことが恥ずかしいけれど、嬉しかった。

「………」

(…思い出しちゃった…)

カッと顔が熱くなる。

(私…最後になんて言った?)

ベッドの上で悶えながら顔を覆っていると、部屋の扉が開いた。

「あ…おはよう、シュウ」

 起きている私に気付いたテル君が、微笑みかけてくれる。シャワーを浴びたばかりなのか、少し頬を赤く染めて、手にはカップを乗せたトレイを持ちながら。

「うゎあっ…!!お…おはよ…ぅ…」

 真っ赤になって答えると慌てる私に「飲んで?」と、温かいココアを渡してくれた。
 ありがとうと、消え入りそうな程小さな声でお礼を言うと、トレイからカップを手に取った。
 
「身体は大丈夫?」
「下腹部に少し違和感あるけど…大丈夫」
「…無理してない?」
「平気だよ。心配してくれてありがとう」
「それなら…良かった」

 それだけ言うと髪をなでて、テル君が私の隣りに腰を下ろした。
 色々と先回りして気を遣ってくれている。自惚れかもしれないけど、それは私のことを大切だと思ってくれているからで…。何となく照れくさい。

 テル君といると、自分の知らない自分がどんどん溢れてくる。

 強くありたいと思っていた私が、初めて甘えても良いのかなと、思わせてくれる人だった。
 戸惑いながら恐る恐る差し出した手を、テル君はなんの戸惑いもなく優しく包み込んでくれるのを知っている。

(テル君のおかげでいつの間にか…自然と笑えるようになった)

 顔を綻ばせながらココアに口を付けた。甘い香りが口いっぱいに広がっていく。

「…幸せそうだね。何かいいことでもあった?」

 微笑みながらテル君が私に声をかけた。

「……うん。そうだね。テル君のおかげでいいことしかなかった」

 同じように微笑み返した私を見て、テル君は何故か顔を手で覆い隠してしまった。

「どうしたの…?」

「………朝から可愛いなって……」

「!!」

 指の隙間から赤い顔を覗かせながら、そんなことを言われた私は、つられて真っ赤になってしまった。

「……あの……今日は……仕事入って無い…??」

「うん。パーティーの疲れもあるだろうから、休んでいいって…どうしたの?」

 良かった。と、胸を撫でおろしながら、不思議そうにしているテル君の顔を見上げた。

「……話したいことが…沢山あるの…」

忘れていた思い出のこと…
思い出した想いのこと…
私を救ってくれた言葉のこと…
それに今の私を救ってくれた言葉も…
好きなところは、ありすぎて全部は伝えられないかもしれないけれど。

 テル君は嬉しそうに「いいよ」と、微笑んで私の手を握ってくれた。

 昨日、伝えきれなかった沢山の想いを伝えよう。
 上手く話せなくても、テル君はきっと私の手を離したりはしないから…。
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