セイレーンのガーディアン

桃華

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日常への帰還

22.もしもの話し①(レイ)

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 パーティー終盤を迎えるころ、もう一度俺とテルは壇上に上がるように国王から促され、その場で贈呈されたのは住居の鍵だった。

(さっきのレプリカと一緒に渡せよ…)

「段取り悪いって思ってるだろ?」

 不機嫌な表情がバレてしまったのか、国王は笑いながら話しかけてきた。
 「そうだ」と、言う前に隣に立っていたテルに小突かれた。酔っているのかいつもよりも強いチカラだったから、危うく転ぶところだった。

「さっきの式典で渡された物は一応神聖な物だけど、これは僕からの好意の品物だからね。さぁ、もう一度功績を上げた二人に拍手を…!」

 みんなお酒が入ってしまっているから、さっきの式典とは違い拍手が鳴り止まないし。
 壇上に上がってきた、ファリスやギルバートにもみくちゃにされるし。散々だった。

 ようやく壇上から解放されて、ユリアを探した。そしたら、顔をほんのり赤くしながら椅子に座っているのを見つけた。
 シュウとアスカは俺に気がつくと、手招きして呼ぶから駆け寄った。

「途中飲み過ぎって止めたんだけどね?ほら、ユリア水貰ってきたよ…?」

 アスカが水のグラスを手渡そうとしているけれど、俯いてしまっている。何とかグラスを取ろうと伸ばした手は空を掴んでいるし。
 アスカは無理矢理グラスの水を飲ませている。

「……ダメだね」
「量が量だったから仕方ないよ」

 シュウは見かねてユリアに手を翳した。アルコールも毒だし、治癒魔法が効いて飛ばせるんだろう。

「待って!ぜんっっぜん…酔ってないよ?だからこのままがいいの…」

 気付いたユリアは、慌ててシュウの翳した手を遮り、蕩けた表情で拒否してるけど…。呂律が回っていない。

「そこ否定する?どう見ても酔ってるよ」
「レ…イ…?」

 ユリアは顔を上げてもう一度「レイだ~」と、赤い顔で笑って、飛びついてきた。
 首にまわされた腕と触れた頬が、俺より熱くなっている。

(…まあ…可愛いけど……)

「治癒魔法かけてもらった方が…」
「おかえり~。待ってたの…ずっと待ってた…」
「うん。待たせてごめん。ユリア、飲み過ぎだからシュウに治癒魔法を…」
「みんな楽しそうで、いっぱい飲んだの」
「良かったな。でも飲み過ぎだから…」
「テルが幸せそうだった」
「うん。そうだな。分かったから…」
「あ、白桃のシャンパンが美味しかったよ?あと青いカクテルも…」

(…会話にならない…)

 見かねたアスカはため息を吐いて、俺の肩を叩いた。

「……もう、パーティーも終わるからさ、家に連れて帰ったら?」
「そうだね?これだけ喋れるなら大丈夫だよ。水分取って休ませてあげて?」

 二人に言われて頷いた。立てると言って聞かないユリアは、立ち上がって揺れている。

「危ないと思ったらすぐに連絡してね?」

 それだけ言うと、壇上の国王に呼ばれて、シュウは小さく手を振りながらその場を離れた。締めの挨拶が行われようとしているらしい。

「私もそろそろゼルを回収しに行くわ?もう、収集付かないだろうし…。一人で大丈夫?」

 俺の胸に寄りかかるユリアを心配そうに見つめてアスカが呟いた。

「大丈夫。むしろ早くこの場を去りたい」

 これ以上誰かに捕まるのは嫌だった。アスカにそう伝えると、ふらつくユリアの背中に手を回しながら会場を後にした。

***

 会場を抜け出した後、ユリアは夜風に当たりたいと言うから、二人でお城の庭園を歩いた。
 小さな池の辺りが気に入ったのか、そこにあるベンチに座りたいと言って、ユリアは俺の前をふらふら歩いている。

「ふふ…気持ちいい…ふわふわしてる」

「手…貸して?真っ直ぐ歩けてないから」

「え~。歩いてるよ~」

 言ってるそばからふらつくから、ユリアの肩を抱いた。

「レイは優しいね?私…今日はレイとずっと一緒に居られて嬉しかったんだぁ」

「そう?」
 
 確かに、ユリアはただ無表情で立ってただけの俺の隣りで、ずっと嬉しそうに微笑んでいた。そう言ってくれるならそばに居て良かった。

 一歩外に出ると夏なのにひんやりとした風が頬をなでる。堅苦しいネクタイを緩めてシャツのボタンを外すと、解放感にふうと息を吐いた。
 露出高いドレスを来たユリアが寒そうに震えたからジャケットをかけた。
ユリアは虚な瞳で見上げと、へへへと笑いながらありがとうと呟いて足を止めた。
 
「…レイ…すきぃ…。あのね、すきなところ…いっぱいあるの…えっと…」

優しいところが好き
強いのに弱いところも
たまに強引なところも好き
視線が好き
綺麗な真紅の瞳が好き
長いまつ毛も鼻筋が通ってる綺麗な顔も好き
薄い唇も嬉しいとき静かに上がる口角も
長い指も頬を撫でる時の仕草も好き

「少し高めの体温も…温かくて好き」

そう言って指を折りながら、楽しそうに呟いている。

(いや…普通に照れるけど…)

「それ…さっきからずっと言ってる」

「何度でも言いたいの…うわぁっ!!」

「座ってから聞くよ」

 このままだとベンチに辿り着くまでに時間がかかりそうだから、千鳥足のユリアを抱き上げた。
 酔っ払いのユリアは何度も「すき」と言いながら首に腕を巻き付けて、俺の胸に身体を預けた。

「…レイ…今日のテル、幸せそうだった?」

 ベンチにそっとユリアを降ろすと、ありがとうと言う代わりにそんなことを聞いてきた。

「…??そうだな。まぁ…浮かれてたな」

 その答えにユリアは口の端を少しだけ上げて、微笑みながら俺の顔を見上げた。

「…私…酔ってるよね?」
「……酔ってるよ」
「……じゃあ……今から話すことは、酔った勢いで言ったことにするね……?」

 それだけ言うと、ユリアは隣に座った俺の手を握りしめた。
 心なしかその手は震えているような気がした。

「ユリア…?」

「…レイ…もしもの話だよ…?もし、私がイーターに囚われそうになったらさ…」

 握った手は夜風に当たったせいか、少しだけ冷たくて、見つめる瞳は微笑んでいるようで泣いているようだった。

「もしそうなったら……レイの手で私を殺して…?」

 そう呟いたユリアの声は、出会ったばかりの『強い』と思ったユリアの声で…。そんなユリアに、俺は目を見開いたままで、何も言えなくなってしまった。
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