セイレーンのガーディアン

桃華

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日常への帰還

21.手回し(シュウ)

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 両親とグラスを合わせた後に、アスカが「おめでとう」と言って来てくれた。
 アスカは両親と少し話をしてから、ビュッフェの食事をお皿に盛り付けて「これ、美味しい」と教えてくれた。

 そう言えば一緒にいたはずの、ゼル君がいない。
 どこかな?と、探す私に苦笑いしながら少し離れた人だかりを指差した。

「ゼル…?あそこで身動き出来なくなってる」

 その人だかりはクラスの子やガーディアン。他の学年の子とか、ありとあらゆる年齢層の女性が集まっていた。(男の人も何故か大勢いるけど)
 優しいゼル君は全員に笑顔を振り撒きつつ、お酒とかはやんわり断っている。

「会場入った途端にあれよ?ビュッフェの物も取りに行けないから、もう放っといていいかなって…。お腹空いたから」

「ははは。入院中も看護師がゼル君の病室に入り浸るから大変だったよ。だから、アスカちゃんがゼル君の彼女だって触れ回ったんだ…」

 お父様が言ったセリフで、私とアスカは凍りついた。お母様はくすくす笑っている。

「王妃!!笑い事じゃないですよ!」

 あははと笑いながらお父様が、アスカの肩に手を置いた。

「それだけじゃ弱いかなって、「現代最後の魔王種と呼ばれるオスカさんの娘だ」ってことも伝えておいたよ?レイ君、有名だからみんなびびっちゃった」

「~~!!そのせいで私が病室入った時、変な空気になったんだ!!」

「ゼル君もノリノリだったよ?「僕の方が好きだ」って」

 ゼル君のそれは本心だろうけれど…。

「お父様…」

 不憫すぎて頭を抱えた。アスカはため息を吐いて「悪ノリが過ぎる」と、言い捨てている。

「そうでも言わなかったら、ゼル君休めなかったんだ。ありがとうアスカちゃん」
「もう…ゼルが休めたなら、それでいいですよ」

 全てを諦めながらアスカは、お皿のピンチョスを食べている。
 そんな話しをしているところに、頬を赤くしたテル君が戻ってきた。

「みんなはもういいの?」
「たくさん話せたからもういいよ。それより…アスカそれ美味しそう」
「あっちにあったよ?取ってこようか?」
「ん…。ありがとう」

 お父様達はそのタイミングで「あとは、若い者達で楽しんで」と言って去って行った。

「シュウは両親と話しできた?」
「う…うん。ありがとう。もう十分だよ…」

 なんて両親を見送りつつ、テル君は私の左側に立った。触れた身体はいつもより火照ってる気がする。

「じゃあ…行ってくるね…」
「あー!こんな所に三人揃ってるじゃん!!シュウ、おめでとう!!!」

 アスカが行こうとしたタイミングで、Bチームのみんなが現れた。

「シュウ!!おめでとう!!」
「襲撃の時は大変だったけど…回復してよかったよ…」
「うわっ!二人共順番に渡せって」

 ギルバートやヒナタが私にシャンパンのグラスを差し出すのを、テル君が慌てて奪い取った。

「アスカ、大変だったな?」
「今も…大変だけど。何この状況…」
「お祝いだからな。大目に見てやってくれ」
「…そうね」

 Bチームの悪魔族ロックは、私じゃなくアスカにシャンパングラスを手渡し、乾杯している。

(仲良しだな…)

 ロックとアスカは魔法学の時には、いつもパートナーを組む。お互い属性の相性が良く、連携も取れている。だからこそ、アスカも気を許している。

 そんな二人の様子を眺めていると、私の周りにも人だかりが出来ていた。
 いつの間にか色々な人に囲まれてめちゃくちゃになった。

「シュウ様おめでとうございます」
「二十歳のこの日をお祝いできるなんて、光栄です」

「あ…、ハイ。ありがとうございます」

 もう何度目の乾杯か分からない。シャンパンもどんどん渡される。そして、それはグラスを合わせた後でテル君が飲んでいく。

(テル君、大丈夫かな?)

 量が量だから心配になって、その顔を見上げた。
 テル君自身もみんなから渡されてるし。加えて私のも全部飲んでる。
 止める間も無くカクテルを飲み干して、空になったグラスを近くにいたボーイに渡した。

 その横顔を見つめた。私が見つめていることに気がついたのか、テル君も視線を私にむけた。

 目が合うと優しく微笑んでくれるから、私も自然と口の端が上がった。

(…その顔好きだったな…)

 その笑顔も、剣を握るゴツゴツした手のひらも。子供の頃も好きだった。

(あの頃より…今の方が好きだけど)

 私と目が合うと、薄い口元の端を少し上げて微笑む。その瞬間も好き。
 そう言えば、照れた時に口元を片手で隠して視線を逸らす癖は昔と同じだ。

(褒めるとそうしてたな…。それは可愛かった)

 見上げたままでクスッと笑ってしまった。

(そういえば…キスする時に親指で唇をなぞるのも…癖なのかな?)

 そんなことを考えて、視線を唇に移した。さっきのキスの時も手を頬に置いた時…触れられた。

(あれ…好きだな…)

「何…?いいことでもあった…?」
「あっ…!!う…うん!何でもないよっ!?」

(私…何考えてた…?)

 挙動不審で頬を押さえながら、くるりと向きを変えようとすると、履き慣れていないピンヒールのせいでバランスを崩してしまった。
 受け止めてくれたテルの胸にすっぽりと収まってしまった。

「…大丈夫?」

 どちらの心臓の音か分からない、速い鼓動の音が響く。

「…2人でこっそり抜け出そうか?」

 耳元で囁く声に驚いて顔を上げた。口元に視線がいってしまい、また照れて俯いた。

 頷きたかったのに。抜け出したいと言いたかったのに。いつも通り緊張して真っ赤になり、そして声が出せなくなった。

「…冗談だよ…」

 そんな私の気持ちを勘違いしたテル君は、そう言って体を離した。

「ち……違うの……」
「シュウ、お誕生日おめでとう!」
「これ食べた?美味しいよ?」

 慌ててテル君の袖口を掴んだその瞬間、今度はユリアとミリヤが現れた。

「あ…まだ食べてない…かな?」

(タイミング…が…)

 引き攣った笑顔でユリア達と話をしていると、今度は離れた所からテル君を呼ぶ、イリーナの声がした。

「まずい…。教官に挨拶行くの忘れてた。ユリア、シュウのそばにいてやって?なんならレイを呼んできてさ…」

「分かったよ…って…。テル!!…行っちゃった」

 残された私とユリアは目を見合わせた。

「テル…忙しそうだね?」
「うん。プレ1stになったから、挨拶とかもあるんじゃないかな?」
「シュウ、あの後テルと話せてる?」

 ユリアが心配して声をかけてくれた。その優しさに勇気が出て来た。

(自分の想いは…言葉にしないと)

「うん…あの…ユリア?…お願いがあるんだけど?」
「何なに?シュウのお願いなら、何でも聞くよ!?」

「あっ…その、大したことじゃないんだけど…」

 いざ口に出そうとすると恥ずかしくなって、口篭りながらユリアの耳元に顔を近づけた。

「今夜は、テル君と二人きりにさせて?」

 私の言葉にユリアは目を大きく見開いた後で、私に抱きついた。

「いいよ!!もちろんだよ!!」

 そう言いながら、ユリアはアスカも誘おう?と、手招きして呼んでいる。

 まだドキドキと高鳴る胸を抑えながら、ユリアの腕の中で顔を赤らめた。
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