セイレーンのガーディアン

桃華

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国王からの依頼

4.隠しごと(テル)

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 学校が休みの日の早朝だったから。校内のカフェを利用するのは、寮の生徒くらいだ。
 
 空いている店内の適当な席に座り、二人ともモーニングセットを頼んだ。
 シュウは上の空で窓の外を眺めていた。
 料理がテーブルの上に並べられても、それに手を付けずに何か考えごとをしているようだった。

「…食欲ない…?」

 声をかけるとシュウはハッとして机の上を見ている。料理が並べられたことも気がつかなかったみたいだった。

「…ご…ごめん!…いただきます」

 慌てて手にしたコーンスープを手にすると、フーフーと息を吹いて冷ましている。
 今朝のシュウは、やっぱりどこか変な気がする。

「もしかして、お願い聞かないって言ったこと…まだ怒ってる?」

 スープを飲んでいる手が止まる。ゆっくりとカップを下ろして、見つめる俺に微笑んだ。

「…怒ってないよ。私も卑怯だったし。普通に挑んでも勝てないだろうなって…。だから、テル君が疲れてることも知ってて狙ったから…」

 そう言ってカップを両手で包み込んでいる。やっぱり元気がない。

(でも…俺も国王と同じ思いだし…)

 ここで混血のことがバレてしまうのは得策じゃない。
 シュウにいらぬ敵を作ってしまうことは明確だし。純血主義者が騒ぎだして、この国自体大変なことになりそうだし。

「疲れて無くてもシュウなら俺に勝てたと思うけど?」

 とりあえずご機嫌とり。話しを変えようと頬杖をつきながらそう言った。

「…?」

「俺はシュウを攻撃できないもん」

「手首掴んで倒したよね?…あれ、結構痛かったよ?」

 シュウはクスッと笑ってくれた。さっきよりも声色も明るくなっている。

「俺も余裕なかったから。ごめん。今度から力加減気をつけるよ。……でも、シュウも鳩尾に蹴りを入れるのはやめて?あれ、ものすごく痛かったから」

「そうだね。ごめんね?気をつけるよ」
 
 鈴を転がすように笑うから。つられて俺まで笑ってしまった。
 どうやらご機嫌とりは成功したみたい。
 可愛く笑うシュウのことを見つめていると、その視線に気がついたのか、笑うのを辞めて咳払いをした。

「テル君?その…さっきのお願いは忘れていいから。無理を言ってしまって…ごめんなさい」

 またそうやって聞き分けのいいことを言う。そんな言葉を言わせたい訳じゃ無かった。
 お願いをされること自体は嫌じゃなかった。誰かを頼ることをしないシュウが俺を頼ってくれたんだ。
 叶えてあげたいって思ったのは嘘じゃない。

「…他の願いは無いの?それじゃ無かったら、叶えるよ」

 少し考えた後にシュウは静かに、カップを置いて俺を見つめた。

「それじゃあ…。ユリアとテル君のことをアスカとゼル君にも話して欲しいの…。」

「……そうくる?」

 またしても…の、可愛くないお願いに大きなため息をついた。

「アスカは頼りになるよ?…それに、ゼル君のお母様はスケープゴートだったから…」

(ゼルのことも気付いていたのか…)

 そう言えばアスカが二回目にゼルを助けた時治療したのも、この養成校への入学手配を行ったのも全部シュウだと言っていた。
 
「二人とも本人の口から聞きたいと思うんだよね…。隠されているのは辛いから。それに、秘密を明かすってことは信頼している証拠になるし。イーターの動きが活発になっている今だから、味方は多い方がいいよ?」

「二人を信頼していない訳じゃない。でも、そんな簡単な事じゃないことも分かるだろ…?」

 イーターに襲われる可能性と、人伝いにユリアのことがバレてしまう危険性。
 それを天秤にかけた時、どちらを取ればいいのかはまだ判断がつかない。

「簡単なことじゃないけど、二人に話して良かったって思う日がきっと来るよ。私を信じて欲しいの」

 決めかねる俺の手を取ると、シュウは全てを見透かしたように微笑んだ。
 
「……隠している本人も辛いよね?」

 その発言はシュウ自身も大きな隠し事をしているから出て来た言葉だ。

「……分かったよ。今から二人を呼ぶ。どうせ、レイとユリアは家に二人でいるだろうし…家でみんなに話すよ。それでいい?」

 何故か安堵のため息をつきながら、シュウは良かったと呟いて顔を上げた。

「うん。ありがとう……。テル君がそう言ってくれたから…私も決心がついた」

「何の…?」

 少しだけ間を空けてから顔を上げて微笑んだ。

「……最後に……私のことも、みんなに話すよ……」

 俺を見つめるシュウの瞳はどこか儚げで、微笑む顔は覚悟を決めているようだった。

 あの時、シュウの表情にほんの少しだけ違和感を感じたんだ…。

 それなのに俺はその違和感をやり過ごして、ポケットの中からスマホを取り出した。
 そして、今朝別れたばかりのアスカに連絡を入れた。アスカの言うことだったら、ゼルも聞くだろうから、そっちの方が楽だ。

 もしかしたら寝ているかもしれないと思っていたけれど、意外とアスカはすぐに電話に出てくれた。

「アスカ…ゼルを連れて、今からもう一度家に来れるか?…話があるんだ」
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