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日常への帰還
17.即位式(ユリア)
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シュウが出て行った後、すぐにドレスに着替えた。
私に用意されていたドレスは、淡いブルーの背中の大きく開いたホルターネックのチュールドレスだった。ハーフアップにした髪には、白い小花の飾りがつけられている。
ヒールで鏡の前に立ってくるりとまわってみた。
(背中開きすぎかな…?)
「ユリア似合ってる。可愛いね?」
返事をしながら振り返ると、シャンパンベージュのドレスに着替えたアスカが立っていた。
(これは…アスカしか着こなせない)
長身でスタイルの良いからか、胸元の大きく開いたマーメイドラインのドレスを着て、長い髪をアップにしていた。
腰まで入ったスリットから、白い太腿が露わになっている。
「ゼル達もうすぐ着くって」
「……ゼル君がアスカのその姿を見たら、倒れるんじゃないかな?」
「…ユリア…真顔で何言ってるの?」
呆れたように言うけれど、ゼル君絶対に倒れると思う。妖艶な雰囲気のアスカにそれは似合い過ぎている。
「それよりシュウ…大丈夫かな?」
私にツッコミを入れた後で、アスカは時計を見ながら言った。もうすぐ式典が始まる時間だ。
「間に合っていればいいけど…」
「もっと早く気付いてあげられたら良かったね?」
「まぁ、私は今回シュウが自分から言ったことに驚いたけどね」
「確かにそうだね…」
幼い頃周りは敵ばかり。心を開いていた人にも裏切られる。そんな生い立ちのせいでシュウは自分の存在をずっと否定していた。好意を向けることも、向けられることも苦手だった。
きっとシュウは嬉しいことも嫌なことも微笑んで受け入れてきたから。甘えることが苦手で、いつも強がってしまうから。
(そう…テルが話してた…)
それを見抜いて支えたいと思えたテルを凄いと思った。
そのことを聞いた時、からかったつもりなく「愛のチカラ?」と、テルに聞いたら殴られてしまったけど。
(本当にそう思ったのに…)
「最近シュウの様子がおかしかったのも、それが理由だったのかもしれないね?」
「え……?太ったからじゃなくて?」
「そう。今まで気付かなかった自分の気持ちに気付いて、テルとどう接していいか分からなくなっていたとか…?」
確かにここ最近のシュウを思い返してみたら、変な感じになる時、大抵そばにいるのはテルだったし。
ぼーっとしているシュウの視線の先に居たのはテルだった。
「………」
「………」
「……有り得るね」
「有り得るでしょ?」
「だとしたら…可愛いすぎるんだけど…」
「だね?」
アスカと二人で「きゃー!!」なんて悶えてしまった。盛り上がっている所で控え室の扉をノックする音が響いた。
「ゼル君が来たのかも」
そう言ってアスカは控え室の扉を開いた。
「こんばんは。レイさんも連れて……」
「ありがとう……ゼル……どうしたの?」
私の予想通り現れたのはゼル君で。これまた予想通り、アスカの姿を見た途端に扉の前で顔を紅くして固まってしまっている。
「……ゼル君大丈夫?」
「…っ…アスカさんが綺麗すぎて意識が飛びました」
「……」
言った通りになったでしょ?と、アスカに視線を送る。
視線を逸らしながら『降参』とばかりにアスカは手を挙げている。
「どうでもいいけど…早く中に入れよ?」
ゼル君の後ろからレイが悪態をついている。アスカは大きなため息を吐きながらゼルの手を引いて招き入れた。
「大袈裟なんだから…後ろ詰まってる」
小言は言うけど、アスカはなんだかんだゼル君には優しいことも知っている。
それに…アスカはゼル君を大事に思っていることだって知ってる。
あの襲撃の時にアスカは「ゼルを助けて」と泣いたんだから。
(…と…いうか…)
「ゼル君。どこの王子様?」
「……テルさんに同じこと言われました」
どうやら、私たちの思考はやっぱり兄妹だったみたい。
***
即位式が始まる5分前に現れたシュウとテルは、幸せそうに微笑み合っていた。
その表情だけで『返事』ができたんだなって分かってしまう。
私とアスカで「おめでとう」とシュウに声をかけると、照れながら「ありがとう」と返してくれた。
「皆様お揃いですね?…ではこちらへ…」
詳しく聞く前に、案内係の人が来てしまったから。あまり話は出来なかったけれど。
ほんの少し緊張しながらステージへと登壇した。
即位式の会場には養成校の教官や、ガーディアンの制服を着た…いかにも位の高そうな人が沢山いた。
シュウの誕生パーティーの会場は、別室になるようだけれど…。そこでは、ウェルカムパーティーが開かれているらしい。
養成校のみんなは、そっちの会場にいるみたい。
(こっちはあくまで正式な式典だもんね…)
緊張と共に私たち四人はステージに並んだ。
クラス1stになるテルとレイの二人は私たちの後に、ナイトの称号を与えられることになっているから、私たちが先だ。
まず初めはシュウの名前が呼ばれた。そして次はアスカ。その次は…私だ。
国王から名前を呼ばれ、一歩前に出て一礼して跪く。
国王から祝福の言葉と共に『聖なる武器』を渡される。それを両手で受け取り頭上に掲げて一礼する。
(何とかできた……二人のを見てたからだけど…)
本来、即位式で授けられるはずの『聖なる武器』。
それを私たちは、イーターから狙われているからという理由で、ガーディアンになる前から国王から渡されていた。
だから、今日渡される聖なる武器はレプリカだ。
「即位式は綺麗な方がいいけど、本物作るのは疲れるから。適当にそれっぽく作るよ。記念に持って帰ってね?」と国王は笑っていた。
シュウには、銃と白銀の銃弾。
アスカには、ウィップ。
ゼルには、メリケンサックとグローブ。
私には、双剣。
実際には全部すでに貰った物のレプリカだけれど、使っている本人が見間違えるくらい精密にできている。
全員渡されたタイミングで、お辞儀をしてステージから降りた。
(やり切った…)
次は、テルとレイがステージへと上がり二人揃って一礼して、国王の前に跪いた。
国王は二人の両肩に剣を置き刀礼を行う。
それから二人は誓いの言葉を口にして立ち上がった。
それから国王は二人の胸にブルームン王国の紋章を付けて、聖なる武器を渡した。
(もちろんレプリカだけど)
テルには、大剣。
レイには、ダガーナイフ。
厳かに行われた即位式は滞りなく終わった。
私に用意されていたドレスは、淡いブルーの背中の大きく開いたホルターネックのチュールドレスだった。ハーフアップにした髪には、白い小花の飾りがつけられている。
ヒールで鏡の前に立ってくるりとまわってみた。
(背中開きすぎかな…?)
「ユリア似合ってる。可愛いね?」
返事をしながら振り返ると、シャンパンベージュのドレスに着替えたアスカが立っていた。
(これは…アスカしか着こなせない)
長身でスタイルの良いからか、胸元の大きく開いたマーメイドラインのドレスを着て、長い髪をアップにしていた。
腰まで入ったスリットから、白い太腿が露わになっている。
「ゼル達もうすぐ着くって」
「……ゼル君がアスカのその姿を見たら、倒れるんじゃないかな?」
「…ユリア…真顔で何言ってるの?」
呆れたように言うけれど、ゼル君絶対に倒れると思う。妖艶な雰囲気のアスカにそれは似合い過ぎている。
「それよりシュウ…大丈夫かな?」
私にツッコミを入れた後で、アスカは時計を見ながら言った。もうすぐ式典が始まる時間だ。
「間に合っていればいいけど…」
「もっと早く気付いてあげられたら良かったね?」
「まぁ、私は今回シュウが自分から言ったことに驚いたけどね」
「確かにそうだね…」
幼い頃周りは敵ばかり。心を開いていた人にも裏切られる。そんな生い立ちのせいでシュウは自分の存在をずっと否定していた。好意を向けることも、向けられることも苦手だった。
きっとシュウは嬉しいことも嫌なことも微笑んで受け入れてきたから。甘えることが苦手で、いつも強がってしまうから。
(そう…テルが話してた…)
それを見抜いて支えたいと思えたテルを凄いと思った。
そのことを聞いた時、からかったつもりなく「愛のチカラ?」と、テルに聞いたら殴られてしまったけど。
(本当にそう思ったのに…)
「最近シュウの様子がおかしかったのも、それが理由だったのかもしれないね?」
「え……?太ったからじゃなくて?」
「そう。今まで気付かなかった自分の気持ちに気付いて、テルとどう接していいか分からなくなっていたとか…?」
確かにここ最近のシュウを思い返してみたら、変な感じになる時、大抵そばにいるのはテルだったし。
ぼーっとしているシュウの視線の先に居たのはテルだった。
「………」
「………」
「……有り得るね」
「有り得るでしょ?」
「だとしたら…可愛いすぎるんだけど…」
「だね?」
アスカと二人で「きゃー!!」なんて悶えてしまった。盛り上がっている所で控え室の扉をノックする音が響いた。
「ゼル君が来たのかも」
そう言ってアスカは控え室の扉を開いた。
「こんばんは。レイさんも連れて……」
「ありがとう……ゼル……どうしたの?」
私の予想通り現れたのはゼル君で。これまた予想通り、アスカの姿を見た途端に扉の前で顔を紅くして固まってしまっている。
「……ゼル君大丈夫?」
「…っ…アスカさんが綺麗すぎて意識が飛びました」
「……」
言った通りになったでしょ?と、アスカに視線を送る。
視線を逸らしながら『降参』とばかりにアスカは手を挙げている。
「どうでもいいけど…早く中に入れよ?」
ゼル君の後ろからレイが悪態をついている。アスカは大きなため息を吐きながらゼルの手を引いて招き入れた。
「大袈裟なんだから…後ろ詰まってる」
小言は言うけど、アスカはなんだかんだゼル君には優しいことも知っている。
それに…アスカはゼル君を大事に思っていることだって知ってる。
あの襲撃の時にアスカは「ゼルを助けて」と泣いたんだから。
(…と…いうか…)
「ゼル君。どこの王子様?」
「……テルさんに同じこと言われました」
どうやら、私たちの思考はやっぱり兄妹だったみたい。
***
即位式が始まる5分前に現れたシュウとテルは、幸せそうに微笑み合っていた。
その表情だけで『返事』ができたんだなって分かってしまう。
私とアスカで「おめでとう」とシュウに声をかけると、照れながら「ありがとう」と返してくれた。
「皆様お揃いですね?…ではこちらへ…」
詳しく聞く前に、案内係の人が来てしまったから。あまり話は出来なかったけれど。
ほんの少し緊張しながらステージへと登壇した。
即位式の会場には養成校の教官や、ガーディアンの制服を着た…いかにも位の高そうな人が沢山いた。
シュウの誕生パーティーの会場は、別室になるようだけれど…。そこでは、ウェルカムパーティーが開かれているらしい。
養成校のみんなは、そっちの会場にいるみたい。
(こっちはあくまで正式な式典だもんね…)
緊張と共に私たち四人はステージに並んだ。
クラス1stになるテルとレイの二人は私たちの後に、ナイトの称号を与えられることになっているから、私たちが先だ。
まず初めはシュウの名前が呼ばれた。そして次はアスカ。その次は…私だ。
国王から名前を呼ばれ、一歩前に出て一礼して跪く。
国王から祝福の言葉と共に『聖なる武器』を渡される。それを両手で受け取り頭上に掲げて一礼する。
(何とかできた……二人のを見てたからだけど…)
本来、即位式で授けられるはずの『聖なる武器』。
それを私たちは、イーターから狙われているからという理由で、ガーディアンになる前から国王から渡されていた。
だから、今日渡される聖なる武器はレプリカだ。
「即位式は綺麗な方がいいけど、本物作るのは疲れるから。適当にそれっぽく作るよ。記念に持って帰ってね?」と国王は笑っていた。
シュウには、銃と白銀の銃弾。
アスカには、ウィップ。
ゼルには、メリケンサックとグローブ。
私には、双剣。
実際には全部すでに貰った物のレプリカだけれど、使っている本人が見間違えるくらい精密にできている。
全員渡されたタイミングで、お辞儀をしてステージから降りた。
(やり切った…)
次は、テルとレイがステージへと上がり二人揃って一礼して、国王の前に跪いた。
国王は二人の両肩に剣を置き刀礼を行う。
それから二人は誓いの言葉を口にして立ち上がった。
それから国王は二人の胸にブルームン王国の紋章を付けて、聖なる武器を渡した。
(もちろんレプリカだけど)
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