セイレーンのガーディアン

桃華

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日常への帰還

13.似たもの同士(テル/シュウ)

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 めちゃくちゃ緊張した。今までの人生の中で、一番の勇気を出したかも知れないプロポーズは…散々だった。
 国王からの用を済ませてお城から出た所で、ずり落ちるように城壁にもたれかかって息を吐いた。

(……具合悪くなってきた……)

 指輪をはめる手は震えていたし顔も多分……紅くなってた。

 下手に真面目なシュウだから、俺を気遣って「国王が言ったことは気にしたいで」と言うのは分かっていた。

 そこをなんて言って「俺自身がシュウと婚約したいんだ」って分かってもらおうか…。それを考えていたのに。

 考えていた言葉なんて吹っ飛んでしまった。

 危険なことしてまた「シュウがいなくなるかも」なんて、不安になるくらいなら…。あんな顔を見るくらいなら、ずっとそばにいたいってことを伝えたかった。

 それにそばにいて欲しい。シュウを幸せにしたいって言いたかった。もうシュウが強がって笑わなくてもいいように…思い詰めなくていいように守るし、守りたい。

 それなのにその言葉は出て来なくて…。代わりに言ってしまった言葉で「狂ってる奴」になってしまった。

 シュウは戸惑って…そして目を丸くしたまま固まっていた。

 まぁ…俺も自分の発した言葉に固まったけど。そのせいで肝心なことは言えなくなった。

(あー…失敗した……)

 国王の電話が無かったらシュウの返事をそのまま聞くところだった。正直、連絡があって助かったと思った。

 あのままだとシュウに『無理』って言われかねなかったから「返事は慌ててない」って言って………逃げた。

 何でだろう。シュウの前だと『俺らしくない』。きっとそれは、シュウが大切で嫌われたくないから。
 絶対にカッコいい俺でいたかったのに、やり直したいくらいダサかった。

(……本気で具合悪くなってきた)

 そして今…。ブルームン王国の正装である白いジャケットを羽織った王子様のような場違いな服装で、自分の家にレイを呼びに来たところだ。
 プレクラス1stになるからパーティー前に要人への挨拶とか、その他諸々を済ませる手筈だったのに…来ないから。

「うぁ…っお帰り!テル!!」

 玄関の扉を開けた途端に出て来たユリアに驚かれてしまった。
 開いた途端にいるから驚いたのは俺の方だ。ユリアの左手の先には、不機嫌な顔をしたレイが立っている。一応…レイは白いジャケットを羽織った正装だ。

「…今…レイをお城に連れて行こう…と…」

「まだいいよ…」

「よくないよっ…!!」

「…時間とっくに過ぎてるから。手間をかけるなよ…」

 とりあえず用意を整えてくれたユリアに感謝して、嫌がるレイの首根っこを掴んだ。

「まって!!テルに聞きたいことがあるんだった!パーティーの時さ…シュウがどんな格好だったら嬉しい?」

「……何だよいきなり」

「あ……っ!シュウから式典のドレス変えようかな?って連絡あって。どうせなら、テルの意見を聞こうかなって…」

 確かに真紅のビスチェドレスはシュウっぽく無かった。スリットも腰辺りまで入っていたし。露出度かなり高めだったし。

(普段ですら妖艶あれなのに…。あのドレスは絶対にまずい)

「そうだな…。色は白がいいかな。ロングドレスとか着こなせそう。髪は…下ろしている方がいいかな」

 身体のラインも綺麗だし。それに合った少しタイトなものでも着こなせるかも。緊張しているときの照れながら耳に髪をかける仕草が好きだから、下ろしている方がいいと思ったり。

「……似合いそう」

 想像しただけで口の端が上がってしまう。二人きりで会えるのなら、露出が多いイブニングドレスでも悪くはない。むしろ、そこにシュウがいるだけでいい。

「分かった!そんな感じね?うん。じゃあ、私も一緒にお城に向かうよ。行こうか!二人共!」

 やけに張り切って胸を叩きながらユリアは外へと出て行った。

(何で…あいつが張り切るんだ?)

 呆然とユリアの後姿を見送っている俺のことを、レイが何故かじっと見つめてきた。

「何だよ…」

「別に?…似たもの同士だなって。お前とシュウは。鈍感で真面目な所とか特に」

「いきなりなんだよ。ケンカ売ってるのか?」

「…時間ないんだろ?行こうか

 大きな欠伸をしながらレイは俺の肩を叩いた。

「……は……?」

***

「ごめん!!巨乳好きは忘れて!!テルはシュウがそうだから好きになった訳じゃないから!!」

 遅れて衣装選びを手伝いに来てくれたユリアは、開口一番にそう言って深々と頭を下げた。

「…え…?…あ…うん…そうなんだ…?」

 私への『好きの』理由が巨乳それだなんて、思っていなかったのだけど。
 そもそもが好きな雰囲気のことを知りたくて聞いたはずだった。

(私…焦り過ぎて上手く伝えられ無かったのかも…)

 青い顔をして謝るユリアは、そのを間違えていて、テル君の好みは真逆の可能性もあり得る。

(…どうしよう…もう…分からない…)

「ユリア、フォローになって無いから!余計にシュウを混乱させてるから!」

 一緒にドレスを選んでいたアスカは、またしてもお腹を抱えて大笑いしてる。

「ごめんシュウ…。でも大丈夫だから!電話の後テルに直接聞いたの。もちろんシュウに聞かれことも話して無いから安心してね?」

「なるほど、それなら確実だし…。やるじゃんユリア」

 アスカに褒められたユリアはコホンと、咳払いして私の手を取った。

 テル君はレイ君に用があって、一度家に戻って来たみたいだ。
 お父様からレイ君を呼ぶように言われて、嫌がるレイ君を無理矢理お城へと連れて行ったらしい。その時にこっそり聞いたと、ユリアは話してくれた。

「ドレスは白い色が好きだって。あと髪は下ろしてる方が……好きだよ?」

 隣で聞いていたアスカが「これなんか良さそう!」と、オフホワイトのビスチェドレスを私の身体に当てがった。
 胸元を青く透き通った宝石が彩り、その縁を金の刺繍で上品に飾りつけられている。

「うわぁ…綺麗…。シュウに似合いそう」

 ユリアがそう呟いて私の隣に立った。

「…二人ともありがとう。そうだね…指輪のカラーにも合ってるし」

「え……指輪…?」

「そう言えば…薬指のリング…どうしたの?」

 頭の上で二人は顔を見合わせている。そう言えば「好みのドレスに替えたい」とは話したけれど、指輪のことは伝え忘れていた。

「実は、今朝渡されたんだ。忙しいのに…無理やり時間作ってくれて…優しいよね」

 私の言葉に二人とも声が出ないくら位に驚いている。さっきの私と同じだ。
 顔の前に手を上げて、二人に見えるように指輪をかざした。

「エンゲージリングだって。結婚しようって。そんな雰囲気無かったのに。いきなり言うから…驚いて、今の二人みたいに固まってしまって。嬉しかったのにすぐに返事出来なかったの。だから…パーティーの時にその返事をしたくて…」

「「それを先に言ってよね!!」」

 勢いよくアスカに肩を掴まれて、またしても「本当鈍感!」と言われてしまった。

「私とユリアでテルと二人きりにしてあげるから…絶対に返事するんだよ?」

 そう私を叱るアスカとは違って、ユリアはどこか不安そうに私を見つめた。

「おめでとう…で、いいんだよね?シュウは嬉しかったんだよね?」

 ユリアがそう聞くから、私は頬を染めながら小さく頷いた。

「良かった…。私に任せて?テルの好みにオーダーするから!」

「…う、うん?」

 ユリアは胸を撫で下ろしながら、在中のスタイリストさんに何か耳打ちをしてくれている。

「かしこまりました。シュウ様、時間も有りませんのでどうぞこちらへ…。他の皆様も、用意したドレスに着替えてくださいね?」

 急かすように言うその言葉に時間を確認して青ざめた。とっくに準備を始める時間は過ぎている。
 二人に謝りながら急いでドレスに着替えることにした。
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