セイレーンのガーディアン

桃華

文字の大きさ
上 下
195 / 236
日常への帰還

5.疲れた一日(テル)

しおりを挟む
 居残り訓練は意地で1回で終わらせた。

(疲れた……)

 天使族のいない俺たちは、対象者に傷がついた時点で終わりになる。そうなったらもう一度やり直し。

(それだけは絶対に嫌だ)

 明日はパーティーの準備があるし、明後日はシュウの誕生日と即位式を兼ねたパーティーがある。行事が満載だから、これ以上疲れたくは無い。

 今までにないすごい集中力で、対象者に一切傷はつけさせなかった。レイと二人で他の六人と、モンスターから対象者を守りきった。

(ペアがレイ以外だったら無理だったけど)

 レイはつくづくすごいと思う。高度な魔法の連弾に早撃ちをこなし、最近はコントロールも良くなっていて無駄がない。

「……テルのせいだからな…」

 心の中で褒めてやっていたのに。まだ根に持っているらしい。更衣室へ行った後も、シャワーを浴びている最中も、ずっとぶつぶつ文句を言っている。

(いい加減にしつこい…)

「悪いと思ったから、俺の方が動いてた」
「それは当たり前だろ?偉そうに言うなよ」
「…………」

 言い合いをしながら、食堂へと向かった。気付いたゼルが手を振って呼んでいる。

「あ、お二人とも!意外と早かったんですね?」

 食堂には何故かゼルしかいなかった。女子達は?と、聞く前にゼルは気をきかせて飲み物買って来ると、席を立って行ってしまったし。
 隣のテーブルにはBチームのファリスと、ギルバートが同じように、疲れた顔をして座っている。
 いつもはうるさいファリスですら、無言で机に突っ伏している。

(まぁ、煩いから良かったけど…)

 そしてレイは座った途端に机に突っ伏して動かなくなった。

(寝てるのか!?!?)

 悪魔族は魔力回復の為に眠るというけれど、レイは眠るのが早すぎる。
 ある意味特技だな。なんて思いながら自分も机に頬杖をついた。

 ゼルが飲み物を持って戻って来た。ありがとうと受け取ったが、レイは一切起き上がらない。

「他のみんなは?」

「僕もよく分からないんですよ。シュウさんを呼びに更衣室に行ったんじゃないでしょうか?」

 ゼルもどこへ行ったか知らないらしいけれど…。イリーナが来た後からいなくなったようだから、多分それで間違えない。
 それならまだ戻ってこないだろう。女子の話しは長そうだし。

 そんなことを考えていると、アスカがシュウの手を引いてすごい勢いで走ってきた。

「アスカさん?どうしたんですか?…慌てて…」

 ゼルはアスカの為に椅子を引いたけれど、そこには目もくれず詰め寄ってきた。

「ねぇ、テル!!どう言うこと!?」
 
 アスカの顔がニヤけている。多分ろくでもない事だろう。

「…何が?」

 少し遅れて、みんなのカバンを抱えたユリアもやってきた。息を切らしながら、俺と目が合うと何故か慌てて逸らした。

(…何だよ態度悪いな…)

 なんて思いながら、しれっと目を逸らして、ゼルから受け取ったジンジャーエールに口をつけた。

「シュウの胸が大きくなったの、テルのせいだって。ブラウス止まらなくて困ってた」

「ブッ…!」

 口にした飲み物を盛大に噴いてしまった。ゲホゲホと咽せて咳込みながら、笑っているアスカを睨みつけた。
 アスカが大声を出すから周りから注目を浴びてしまっている。

 好奇の視線が突き刺さる中、ゼルが慌てて大丈夫ですか?とタオルを差し出してくれた。

(何の話しだ!?自制してるし、今のところプラトニックな関係保ってるんだけど!?と、いうか必死に我慢してるけど!?)

 叫びたかったけど声が出ない。いや、叫べなくて本当に良かった。
 後ろから真っ赤な顔をしたシュウが焦ってアスカの腕を掴んでいる。

「ちっ…違うの…!!大きくなったんじゃなくての!!」

 シュウが焦って抗議している。確かにブラウスのボタンが留まってないし、谷間が露わになっている。無理に留めると弾けそう。

(じゃなくて、なんだそれ?)
 
「テル君…私が食べてるか心配して、おやつとかくれるから…。つい食べ過ぎて…もう2キロも増えたって話しで…」

 大声で叫んでしまったシュウは、更に真っ赤な顔で顔を隠している。

(……なんだ。そっちか。確かにそれは俺のせいだな)

 退院した後もずっと顔色良くなかったから。シュウは忙しくなると、食べることを後回しにして倒れるかと思って不安だった。
 それで、必要以上の餌付けをしてたかもしれない。

(最近のシュウの行動は太ったからだったのか?…知られたく無かっただけ?)

 だとしたら、またその行動が可愛いすぎて笑ってしまう。

「…分かったから…とりあえず、これ着て?」

 上着をシュウに被せた。耳まで真っ赤になりながら笑う俺を見上げた。

「心配してくれているのは、嬉しかったんだよ?」

 潤んだ瞳で髪を撫でながら、目が合うと、視線を逸らし固まってしまった。

(やっぱり動揺してる)

 いつも通りの焦りっぷりに、笑ってしまいそうになったから。思わず手で顔を覆った。

「うん。悪いのはアスカだな」

「そうだよ…アスカ……何で太ったことバラしちゃうの……」

(いや、言ったのシュウ自身だけどな)

また、笑いそうになった。

「大丈夫だよ…!シュウは少しぐらい太っても綺麗だから!」

「ユリアの言う通り。それに、胸が大きくなっただけじゃん。バラされてもいいでしょう?」

「アスカ!!もう何も言わないで!」

 涙目のシュウに対してアスカはごめんと謝りながらも、笑いながら流れた涙を拭ってる。

「あー、楽しかった。うん。シュウが元気そうで良かったよ」

「本当。さっきまで元気無かったからさ。心配してたんだよ?」

 なんて、ユリアとアスカは満足そうに椅子に座って笑っている。
 どうやら二人は最近のシュウを心配して、理由を探ってくれたようだ。
 シュウも二人に大袈裟に頭を下げて、謝っているし。

「みんな…ごめんね?…大したことないことなのにね」

 なんてポツリと呟いた。その表情はまだどこか切なくて、少しだけ不安になった。

「……二人の前に俺に謝れよ。テルとアスカお前らも」

 さっきまで、机に突っ伏して寝ていたレイが怒って顔を上げた。さっき吹いたジンジャーエールを全て被ったらしく、髪が濡れている。

「…レイって、テンポ遅いよな?」
「ぶっかけといて、何言ってんだ?この場で殺してもいいんだけど?」
「レイ!テルがごめんね?髪拭くよ?それとも洗おうか?」
「…ユリアが洗うの?一緒にシャワー浴びる?ここまだ学校だけど…」
「アスカっ!?何言いだすの?」

 ユリアが慌ててタオルでレイの濡れた髪を拭きながら、笑ってるアスカと言い合いになってる。
 レイはユリアが髪を拭くと満足そうに大人しくなった。

(ユリアは猛獣使いだな…)

 ひとまず落ち着いたし、シュウの悩みも分かったから良かったけれど…。本当に疲れた一日だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...