セイレーンのガーディアン

桃華

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日常への帰還

2.教官からの指令(ユリア)

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 ようやくカレーパンを食べ始めたところで、ゼル君が疲れた顔でアスカの隣に座った。

「ゼル…。思ったよりも早かったのね?」

「シュウさんが事情を説明してくれたので、釈放されました」
「まぁ、ゼル君…止めようとしていただけだしね」

 私が言ったセリフにゼルは苦笑いしている。

「あの二人を止められなくてすみませんでした…」

 ゼル君は申し訳無さそうにするけど、あの二人の危険な喧嘩の仲裁に入れる方がすごい。

***

「危ない!!」

 私とアスカは、少し離れた場所からレイの叫び声を聞いた。シュウが顔を上げた時にはもう遅かった。
 魔法の炎が渦となりシュウは囲まれてしまっていた。
 固まって動けないシュウの元へ、テルがいち早く駆けつけていたのが見えた。
 シュウの手を取りすぐさま自分の背中に押しやると、盾となり炎の渦を大剣で薙ぎ払ってくれていた。
 あんなにも早く動けたってことは、テルもシュウの様子が最近おかしいって気づいていたんだと思う。
 私はテルが放り投げた対象者の元へ向かった。Bチームの『ギルバート』が狙っているのが見えたから。
 できる限りの猛スピードで向かい、対象者に降り下ろした刀を受け流した。ギルバートの攻撃の手は止まない。
 私はその場にすぐ向かうことは出来なかった。

「っ!…ごめんなさい…」

 私の耳にテルに謝るシュウの震えた声が入ってきた。
 そこにレイが明らかに怒っている表情で、二人歩み寄って行くのが見える。

(あ…これはまずい…レイがやらかしそう)

と、思った時には遅かった。

「あのさ…シュウ。ポンコツ過ぎるんだけど?」

「…ごめんなさい…」

 レイの暴言に、明らかに落ち込んでるシュウの声が聞こえる。そっちが気になってしまって、ギルバートに片方の剣を弾かれてしまった。
 そっちに気を取られてる場合じゃない。もう片方の剣で、受け流して対象者の手を引いた。

(とりあえず近づこう…)

「レイ!いい加減にしろよ…。お前のせいだろ?」

 テルのキレた時の心音が聞こえる。普段だったら冷静に対処してたのに。
 何故か襲撃後、テルもピリピリしているから。言い合いになってしまっている。

「俺のせい?違うだろ?訓練に身が入って無いシュウのせい…」

「……今…何て言った?」

「シュウは訓練に身が入って無い。まだ全快できてないってアピールするくらい休んでれば…」

(…言い過ぎ…っ!)

「レイっ…!!」

 私が何か言う前に!テルがキレて大剣をレイに向かって降り下ろした。
 それを予想していたレイは、氷の魔法を腕に纏わせて斬撃を受けている。

「テル君っ!まって…っ!」

 シュウの声がする。最早二人とも訓練中だってこと忘れてる。

「二人とも落ち着いてくださいっ!…巻き込まれて死人がでます!」

 揉めていた二人に気づいて、駆けつけてくれたのはゼルだった。
 テルを羽交締めにして、レイから引き離そうとしてくれていた。
 それでも止まらなくて、氷で大剣が固定されてるテルは、剣を捨てて殴りかかろうとしているし。それをゼル君が必死で押さえてくれているし。
 アスカはモンスターを近づけ無いようにしていたのを辞めて、ゼル君が守っていた対象者の元へと向かっていったし。
 レイは別の魔法を放とうと、もう片方の手をかざしているし…。
 Bチームは攻撃の手を止めてはくれないし。(勝てば終わりと言われていたから)

もう…カオス…。

「あなた達!?フィールド訓練中に何やってるの!?」

 騒動に気付いたイリーナ教官が駆けつけてくれた時は、正直ホッとした。そして四人はこっ酷く怒られていた。

「…アスカとユリアは今日はもういいわ…」

 呆れてため息を吐いたイリーナ教官は、それだけ言うと四人の元へと向かった。

***

 ここまでが、ついさっき起きた出来事の詳細だ。

「ゼル君は何も悪くない。むしろ助かったよ。あんなの誰も止められない…」

 私の言葉にアスカも頷いている。

「残りの三人は?どうしたの」

「えっと…。テルさんとレイさんはBチームとのチーム戦を二人だけでやって、勝てたら解放してもらえるそうです。二人とも、お互いに嫌だと言い合ってましたけど…」

 その情景がリアルに浮かんでくる。大きなため息を吐いてアスカと二人で頭を抱えた。
 ゼル君は終わらないんじゃ無いですか?と、にこやかに言ってる。
 それには二人で激しく頷いた。

「シュウさんは…やっぱりここ最近の様子がおかしかったから。教官が話をしようと言ってどこかへ連れて行きました」

 さすがイリーナ教官だ。私達が動く前に動いてくれた。


 三人でそんな話をしていると、今度は食堂にイリーナ教官が現れた。
 私達を見つけると小走りでこっちに駆け寄って来た。

「…ユリアとアスカ、ちょっといいかな?ゼルは…悪いけど、少し待ってて?」

 アスカと私も目を見合わせて、戸惑った。お互い何故呼ばれたのかわからないし、それに一緒に話をしていたはずのシュウの姿が見えない。

「「はい」」

 アスカと二人で向かうと、イリーナ教官は困り顔で椅子に座った。

「悪いけど、シュウの悩みを聞いてあげてくれない?二人も気付いていると思うけど…最近のシュウはおかしい」

 イリーナ教官が知っている限り、こんなことは初めてらしい。王妃も心配していると言っていたから、よっぽどのことだ。

「色々あったから…仕方がないとはいえ、このままだと…シュウをAチームから変更せざるをえない」

 苦渋の判断となるけどそうせざる終えない。と首を振った。
 シュウ一人が崩れると、ここまでチームが崩れるなんて思ってもみなかった。
 こうなる前のシュウは完璧で…。正直、シュウ頼りになっているところも大きかった。
 フィールド訓練でシュウは、要所要所をになっている。いつも冷静沈着。周りの状況を把握して、サポートしつつ、自分の仕事をしっかりとこなしていた。

(だからこそ、私達は他を気にせず自分の役割に集中できていたんだ…)

 もしシュウを変えたとして、その役目が誰かに務まるとは思えないけど…。

「大会までは1ヶ月をきっている。もう日がないの。なるべく早く元のシュウに戻して欲しい。もう…お願いと言うより指令ね?シュウが崩れると、相乗して崩れる奴もいるし…」

「…テルですね?」

「そう。そんなタイプには見えなかったんだけどね…。だから、リーダーを任せたのに」

「そんなタイプじゃ無かったんですけどね…」

 私の知ってる昔と、今のテルは別人だ。
 昔のテルは愛想はあるしいつもみんなの中心にいたけれど、どこか一線引いてた。
 それは自分の出生のことや、私のこともあったからなのかもしれないけれど…。来るもの拒まず、去るもの追わずって感じ。深入りすることはなく、一歩引いて見てるから感情に流されず、常に冷静。誰かの為に怒るような人じゃなかった。
 それなのに…。シュウのこととなると感情的になるし、冷静さを失っていた。

(私が眠ってる間に一体何があったんだろ…)

「…とりあえず私達も心配してたんです。なので話は聞いてみます。ね、ユリア?」

 考えていると、アスカがイリーナ教官に向かってそう言った。
 いきなり話を振られた私は頷いて、その指令を引き受けることとなった。
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