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王妃の思惑
13.本音(テル/レイ)
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王妃の演説が終わった後。俺達三人で鎮まり返った。
こんなに大勢の群衆が、簡単に掌を返した。やっぱり王妃は色々な意味で、強すぎる人だった。
「良かったですね?国王じゃなくて、王妃様の演説で…」
「そうね。国王じゃ、ここまで思い切ったことは言えなかったと思うよ。王妃とシュウを犠牲には出来なかったはずだしね?」
アスカの言う通りだ。王妃は自らを『穢れを持ち込んだ悪女』だと言い切って、シュウを『その穢れを清めた聖女』に仕立て上げた。
自分が悪役になることに、少しの躊躇いも無かった。これが王妃のシュウに対する愛情なんだろう。
(自己犠牲の精神までシュウにそっくりだな…)
これで全てが丸く収まるとは思ってはいない。まだルシウスも生きているし。
それでも、黒を白にひっくり返した王妃の演説で、しばらくはルシウスに加担する者も減るだろう。
何となく肩の荷が降りた気がした。結局は、全てが王妃の思惑通りになった。
シュウが感じていた『罪悪感』と『自分の存在意義』は、王妃が王妃が『聖女』だと言い切ったことで払拭出来たと思う。
最高な形で幕を降ろしてくれた。タブレットの画面を落とすと背伸びをしながら立ち上がった。
「テル君……?あれアスカも…?」
ベッドから声がして振り返ると、シュウが半身を起こして目を擦っている。
いつもみたいに真っ青な顔はしていなかった。
「おはようございます。僕もいますよ?」
ゼルが椅子から立ち上がって手を振っている。不思議そうに見つめるシュウは、時計を見て慌てて立ち上がった。
「もう…お昼過ぎてる!?」
「おはよう。寝坊してしまった聖女様?」
アスカが意地悪くシュウに向かってそう言った。
「……聖女……?何のこと?」
揶揄うアスカに聞きながら、俺の隣りに歩み寄ってきた。
シュウが寝起きすぐに、立ち上がることが出来たこと。それだけで嬉しくなる。「後で説明するよ」と微笑んだ。
「体調は…どう?良さそうだけど」
「うん。すごくいいよ?嘘みたいに身体が軽いの。聖力も戻ってきたみたい。…それに身体の傷も…治ってる…」
何が起こったのか分からないと、腕の傷を確認しながら呟いた。その言葉にゼルも食いついて「僕もです!不思議ですよね?」なんて言っている。
この場で真相を知っているのは俺だけだ。面倒だから今は不思議のままにしておこう。
(…色々あったけれど、レイとユリアに感謝だな…)
「後で全部教えるよ。それより、おはよう。シュウ?」
「あっ…!おはよう。テル君…」
にこりと笑う俺にシュウも微笑み返してくれる。少し照れた表情の、はにかんだ笑顔。
聖女でも悪女でもどちらでもいい。敵がイーターでも、純血主義者でもそんなこと知らない。誰が何を思っていて、どう言われても構わない。この笑顔は俺だけが知っていて、俺だけに向けられているんだから。それだけで充分だ。
見上げるシュウの頬を撫でると、また口角が上がった。本当は今すぐに抱きしめたかったけれど、二人の目の前だからそこは堪えた。
「…元気になって良かった」
そう言うとシュウは頬を染めながら、こくりと頷いて微笑んでくれる。
(本当に良かった…)
ーー守りたい者はもう決めた。俺はシュウの為に戦うーー
もう一度強く思いながら、シュウの髪を撫でた。
「少し遅いけれどみんなで朝食を食べようか?」
「いいですね?アスカさん行きましょうか?」
「え…?あ、待って!?」
ゼルが戸惑うアスカの手を引いて病室を出て行ってしまった。いつも通りの光景にシュウと目を見合わせて笑った。
「ゼル君元気だね。良かった…」
「そうだな。じゃあ、俺たちも行こうか?」
差し出した手に躊躇なくシュウは手を重ねてくれた。
寝顔を見つめながら…思ったことを、また思った。守るためなら俺は何だってやるよ。もう覚悟はできている。
***
「何度も言うけれど、一体いつまでこの部屋にいるつもり?」
国王様御一行は全くこの病室から、出ていく気はない。この場に留まり続けて、ずっと話しをしている。
その合間にユリアの状態を確認した、国王が「ユリアは眠っているだけで、状態は安定している」と診察してくれた。
俗に言う『魔力』が完全に切れた状態だ。あれはキツい。けれど丸一日眠ればある程度回復する。国王も心配ないと行ってくれていた。
「今のところ、安全が確保出来ているのはこの部屋しか無い。後の部屋は盗聴器や監視カメラ、色々仕掛けられてる危険性があるんだ。諦めも肝心だよ…レイ?」
イリーナ教官が呟いた言葉に絶望を感じて座り込んだ。
「あのさ…、勘違いしてない?俺だって、重傷が治ったばかりだ。それに……」
こっちだって疲れてる。これだけの『回復』を行った魔力は俺がユリアに注いだ魔力なんだけど?そう、言いたかったけどやめた。また、ジーナが色々とうるさそうだ。
「何よ?」
「……何でもない」
そう言った所で部屋のインターフォンが鳴った。今度はシュウとテルだ。
「やっと目覚めたみたい…。今開けるわね?」
王妃が待ってましたと言わんばかりに扉を開いた。
「お母様…。私が『聖女』だってどう言うこと!?!?」
部屋に入った途端に、シュウは王妃に詰め寄った。王妃はクスッと笑うとシュウの手を取った。
「だってそうじゃない?本当のことしか言ってないわ?」
「……私は、サキュバスの血を浄化なんてしてない。見た目だって。髪は黒いし…それに目は青くない…」
「見た目はね。発情期がないことも本当じゃない?」
「…それは浄化じゃないでしょう?」
「あら、シュウ?私の演説をちゃんと聞いていたのかしら?…そっちじゃないわ。私が言いたいのは『魔力変換』よ」
そういえば、シュウはユリアから俺の魔力を『ドレイン』したことがあった。あの時なんて言っていたのかは、正直覚えてはいないけれど『魔力変換』ができるのか。
(…だとしたらそれは『浄化』だ…)
『魔力』と『聖力』は相反するものだ。絶対に混ざり合うことはないはずなのに。魔法として攻撃する力で治癒なんて出来ないはず。
「もしそれが出来るのなら…それこそ、国王を超える『聖人』になりますね?」
俺が呟いた言葉に王妃がにっこりと笑って頷いた。
「レイ君の言う通り。それが出来るから『聖女』なの」
「…シュウ…そんなことが出来るの?」
そばにいた国王が一番焦っている。それに、小さくシュウが頷いた。
王妃だけがその事を知っていたようだった。
「聖域魔法を教えた時に知ったの。シュウは誰にも言わないでと言っていたけれど」
王妃は話しを続けた。医療行為として、悪魔族の子供の暴発する魔力をよく『ドレイン』していたシュウは、その後に行う『治癒魔法』の質が格段に上がっていた事に気づいたらしい。
そこでシュウにどうしてか尋ねたら、魔力変換を行っていると言ったそうだ。
「その時に思ったの…。え…シュウ、すごっ!!…て」
「何?その軽い言い方…」
思わずツッコミを入れてしまうような、王妃の言い方だった。体内で混ざりはしない。反発する力を変えることができるなんて胡散臭いし、俺だったら信じられない。
「イリヤの血を引いているのよ?それくらいの事は出来るだろうなって思っていたもの。シュウは特別なの…。それなのに、自分では気付かないくらいに当たり前としてそれを使いこなしてしまうくらいにね?だからこそ、発情期はないのだから」
王妃の言った言葉は耳が痛かった。俺は、溢れる魔力を使いこなせなかった。魔力が高いという、特殊な力を持ちながら使いこなせず暴発させるしかなかった。
シュウはその特殊な力を無意識に操れていたのなら…。その力に支配されずに日常を送れていたのなら…。
(俺よりもずっとすごい…)
「…一つ気になっていたんだけど…。サキュバスのように魔力に惹かれたりはしなかったの?ずっと、レイがそばにいたんだよな?」
テルが重い口を開いた。
「うん。惹かれたりとかは無かったかな…?ただレイ君に関しては…その…」
何故か言いにくそうに、シュウがこちらを見たり俯いたりしてる。
今のシュウの言いたいことが分かる。何となく昔から感じてたし、気付いていた。俺自身シュウに何の興味も無かったから、別にどうでも良かったけれど。
「何?…別に何聞いてもいいよ。あと、そーゆー態度とるとみんな勘違いすると思うよ?」
現にテルがさっきから睨んでるし。面倒くさい。
「あの…私…レイ君が大嫌いだったから」
俯いて叫ぶように言った言葉に一同唖然としている。いい子のシュウから「嫌い」という言葉が出たからだと思うけれど。
「昔から自分ばかり辛い思いしてるって顔して、甘えてるって思っていた」
「まぁ、そんなところだと思ってた」
何も言えず目を見開くみんなに変わって、俺がため息と共に呟いた。
「あの頃私も同じように辛かったの。それなのに…って、そうやって勝手にヤキモチ焼いてた。そんなこと思ってしまう自分も嫌で…。レイ君を見ると更にイライラしてしまった」
続けて話すシュウに、テルが吹き出して笑ってる。
「でも、今はそんなこと思ってないよ?マイペースだなとは思うけれど…。個性だなって!ごめんなさいとも、ちゃんと思ってて…」
その場にいる全員が笑い始めた。国王ですら「確かに度を越したマイペースだ」と、同意して頷いている。
(何だ…この空気は…)
だんだんとイライラしてきた。シュウに向かって、ベッと舌を出して応戦した。
「大丈夫。俺も嫌いだったから。いつも見下したように俺を見てて、いい子きどってるシュウとは仲良くなれないって思ってたから」
「もう…やめなさい。二人共…。落ち着いたら大会があるのよ?」
イリーナ教官が頭を抱えて言う。
テルは嬉しそうにシュウの髪を撫でて、良かったと言っている。この二人の関係が何なのかは知らないし、興味もないけれどテルは多分シュウが好きなんだろう。
(どこがいいんだ?こんな気の強いやつ)
そう思ったけれど口には出さない。また皆んなに責められるのは俺だろうし。
「情報量が多すぎて頭が混乱してきたけど」
咳払いと共に、国王は皆んなの顔を見渡した。
「とりあえず…第一にシュウの体調が元に戻って良かった。もちろん、レイ君もね?」
シュウは国王に向かって、小さくお辞儀をしてる。
「それと、イリーナ。君の処分も今日の活躍を考慮したものにで、近日中にくだすよ」
言われたイリーナ教官も、深くお辞儀をした。
「あとミーナ…。本当に、危険なことはしないでほしい。それと、ジーナさん。毎回毎回、ミーナに加担するのはやめて欲しいんだけど」
「ごめんなさいね?同じ下につくのなら、私は迷いなくミーナを選ぶから」
それを聞いた王妃は口元を隠しながらくすくす笑っている。国王はまた大きなため息を吐いた。
そんな、国王の肩に王妃は思いっきり輝く笑顔で手を置いた。
「さあ…!明日からは、元通りの日常生活に戻りましょう。変わってしまうこともあるけれど、全てはいい方向に向かっているから。みんな笑顔で、明日を迎えましょう?何かあっても、私もイリヤ国王もいるから。何も心配しなくていいわ」
「それ…君が言うの?…」
呆れ顔の国王と対照的な王妃の笑顔。まぁ、この二人がこの国を治めてくれているのだったら、安心できるかな。なんて思ってしまっている俺は…何も知らずに眠っているユリアの顔を見て微笑んだ。
こんなに大勢の群衆が、簡単に掌を返した。やっぱり王妃は色々な意味で、強すぎる人だった。
「良かったですね?国王じゃなくて、王妃様の演説で…」
「そうね。国王じゃ、ここまで思い切ったことは言えなかったと思うよ。王妃とシュウを犠牲には出来なかったはずだしね?」
アスカの言う通りだ。王妃は自らを『穢れを持ち込んだ悪女』だと言い切って、シュウを『その穢れを清めた聖女』に仕立て上げた。
自分が悪役になることに、少しの躊躇いも無かった。これが王妃のシュウに対する愛情なんだろう。
(自己犠牲の精神までシュウにそっくりだな…)
これで全てが丸く収まるとは思ってはいない。まだルシウスも生きているし。
それでも、黒を白にひっくり返した王妃の演説で、しばらくはルシウスに加担する者も減るだろう。
何となく肩の荷が降りた気がした。結局は、全てが王妃の思惑通りになった。
シュウが感じていた『罪悪感』と『自分の存在意義』は、王妃が王妃が『聖女』だと言い切ったことで払拭出来たと思う。
最高な形で幕を降ろしてくれた。タブレットの画面を落とすと背伸びをしながら立ち上がった。
「テル君……?あれアスカも…?」
ベッドから声がして振り返ると、シュウが半身を起こして目を擦っている。
いつもみたいに真っ青な顔はしていなかった。
「おはようございます。僕もいますよ?」
ゼルが椅子から立ち上がって手を振っている。不思議そうに見つめるシュウは、時計を見て慌てて立ち上がった。
「もう…お昼過ぎてる!?」
「おはよう。寝坊してしまった聖女様?」
アスカが意地悪くシュウに向かってそう言った。
「……聖女……?何のこと?」
揶揄うアスカに聞きながら、俺の隣りに歩み寄ってきた。
シュウが寝起きすぐに、立ち上がることが出来たこと。それだけで嬉しくなる。「後で説明するよ」と微笑んだ。
「体調は…どう?良さそうだけど」
「うん。すごくいいよ?嘘みたいに身体が軽いの。聖力も戻ってきたみたい。…それに身体の傷も…治ってる…」
何が起こったのか分からないと、腕の傷を確認しながら呟いた。その言葉にゼルも食いついて「僕もです!不思議ですよね?」なんて言っている。
この場で真相を知っているのは俺だけだ。面倒だから今は不思議のままにしておこう。
(…色々あったけれど、レイとユリアに感謝だな…)
「後で全部教えるよ。それより、おはよう。シュウ?」
「あっ…!おはよう。テル君…」
にこりと笑う俺にシュウも微笑み返してくれる。少し照れた表情の、はにかんだ笑顔。
聖女でも悪女でもどちらでもいい。敵がイーターでも、純血主義者でもそんなこと知らない。誰が何を思っていて、どう言われても構わない。この笑顔は俺だけが知っていて、俺だけに向けられているんだから。それだけで充分だ。
見上げるシュウの頬を撫でると、また口角が上がった。本当は今すぐに抱きしめたかったけれど、二人の目の前だからそこは堪えた。
「…元気になって良かった」
そう言うとシュウは頬を染めながら、こくりと頷いて微笑んでくれる。
(本当に良かった…)
ーー守りたい者はもう決めた。俺はシュウの為に戦うーー
もう一度強く思いながら、シュウの髪を撫でた。
「少し遅いけれどみんなで朝食を食べようか?」
「いいですね?アスカさん行きましょうか?」
「え…?あ、待って!?」
ゼルが戸惑うアスカの手を引いて病室を出て行ってしまった。いつも通りの光景にシュウと目を見合わせて笑った。
「ゼル君元気だね。良かった…」
「そうだな。じゃあ、俺たちも行こうか?」
差し出した手に躊躇なくシュウは手を重ねてくれた。
寝顔を見つめながら…思ったことを、また思った。守るためなら俺は何だってやるよ。もう覚悟はできている。
***
「何度も言うけれど、一体いつまでこの部屋にいるつもり?」
国王様御一行は全くこの病室から、出ていく気はない。この場に留まり続けて、ずっと話しをしている。
その合間にユリアの状態を確認した、国王が「ユリアは眠っているだけで、状態は安定している」と診察してくれた。
俗に言う『魔力』が完全に切れた状態だ。あれはキツい。けれど丸一日眠ればある程度回復する。国王も心配ないと行ってくれていた。
「今のところ、安全が確保出来ているのはこの部屋しか無い。後の部屋は盗聴器や監視カメラ、色々仕掛けられてる危険性があるんだ。諦めも肝心だよ…レイ?」
イリーナ教官が呟いた言葉に絶望を感じて座り込んだ。
「あのさ…、勘違いしてない?俺だって、重傷が治ったばかりだ。それに……」
こっちだって疲れてる。これだけの『回復』を行った魔力は俺がユリアに注いだ魔力なんだけど?そう、言いたかったけどやめた。また、ジーナが色々とうるさそうだ。
「何よ?」
「……何でもない」
そう言った所で部屋のインターフォンが鳴った。今度はシュウとテルだ。
「やっと目覚めたみたい…。今開けるわね?」
王妃が待ってましたと言わんばかりに扉を開いた。
「お母様…。私が『聖女』だってどう言うこと!?!?」
部屋に入った途端に、シュウは王妃に詰め寄った。王妃はクスッと笑うとシュウの手を取った。
「だってそうじゃない?本当のことしか言ってないわ?」
「……私は、サキュバスの血を浄化なんてしてない。見た目だって。髪は黒いし…それに目は青くない…」
「見た目はね。発情期がないことも本当じゃない?」
「…それは浄化じゃないでしょう?」
「あら、シュウ?私の演説をちゃんと聞いていたのかしら?…そっちじゃないわ。私が言いたいのは『魔力変換』よ」
そういえば、シュウはユリアから俺の魔力を『ドレイン』したことがあった。あの時なんて言っていたのかは、正直覚えてはいないけれど『魔力変換』ができるのか。
(…だとしたらそれは『浄化』だ…)
『魔力』と『聖力』は相反するものだ。絶対に混ざり合うことはないはずなのに。魔法として攻撃する力で治癒なんて出来ないはず。
「もしそれが出来るのなら…それこそ、国王を超える『聖人』になりますね?」
俺が呟いた言葉に王妃がにっこりと笑って頷いた。
「レイ君の言う通り。それが出来るから『聖女』なの」
「…シュウ…そんなことが出来るの?」
そばにいた国王が一番焦っている。それに、小さくシュウが頷いた。
王妃だけがその事を知っていたようだった。
「聖域魔法を教えた時に知ったの。シュウは誰にも言わないでと言っていたけれど」
王妃は話しを続けた。医療行為として、悪魔族の子供の暴発する魔力をよく『ドレイン』していたシュウは、その後に行う『治癒魔法』の質が格段に上がっていた事に気づいたらしい。
そこでシュウにどうしてか尋ねたら、魔力変換を行っていると言ったそうだ。
「その時に思ったの…。え…シュウ、すごっ!!…て」
「何?その軽い言い方…」
思わずツッコミを入れてしまうような、王妃の言い方だった。体内で混ざりはしない。反発する力を変えることができるなんて胡散臭いし、俺だったら信じられない。
「イリヤの血を引いているのよ?それくらいの事は出来るだろうなって思っていたもの。シュウは特別なの…。それなのに、自分では気付かないくらいに当たり前としてそれを使いこなしてしまうくらいにね?だからこそ、発情期はないのだから」
王妃の言った言葉は耳が痛かった。俺は、溢れる魔力を使いこなせなかった。魔力が高いという、特殊な力を持ちながら使いこなせず暴発させるしかなかった。
シュウはその特殊な力を無意識に操れていたのなら…。その力に支配されずに日常を送れていたのなら…。
(俺よりもずっとすごい…)
「…一つ気になっていたんだけど…。サキュバスのように魔力に惹かれたりはしなかったの?ずっと、レイがそばにいたんだよな?」
テルが重い口を開いた。
「うん。惹かれたりとかは無かったかな…?ただレイ君に関しては…その…」
何故か言いにくそうに、シュウがこちらを見たり俯いたりしてる。
今のシュウの言いたいことが分かる。何となく昔から感じてたし、気付いていた。俺自身シュウに何の興味も無かったから、別にどうでも良かったけれど。
「何?…別に何聞いてもいいよ。あと、そーゆー態度とるとみんな勘違いすると思うよ?」
現にテルがさっきから睨んでるし。面倒くさい。
「あの…私…レイ君が大嫌いだったから」
俯いて叫ぶように言った言葉に一同唖然としている。いい子のシュウから「嫌い」という言葉が出たからだと思うけれど。
「昔から自分ばかり辛い思いしてるって顔して、甘えてるって思っていた」
「まぁ、そんなところだと思ってた」
何も言えず目を見開くみんなに変わって、俺がため息と共に呟いた。
「あの頃私も同じように辛かったの。それなのに…って、そうやって勝手にヤキモチ焼いてた。そんなこと思ってしまう自分も嫌で…。レイ君を見ると更にイライラしてしまった」
続けて話すシュウに、テルが吹き出して笑ってる。
「でも、今はそんなこと思ってないよ?マイペースだなとは思うけれど…。個性だなって!ごめんなさいとも、ちゃんと思ってて…」
その場にいる全員が笑い始めた。国王ですら「確かに度を越したマイペースだ」と、同意して頷いている。
(何だ…この空気は…)
だんだんとイライラしてきた。シュウに向かって、ベッと舌を出して応戦した。
「大丈夫。俺も嫌いだったから。いつも見下したように俺を見てて、いい子きどってるシュウとは仲良くなれないって思ってたから」
「もう…やめなさい。二人共…。落ち着いたら大会があるのよ?」
イリーナ教官が頭を抱えて言う。
テルは嬉しそうにシュウの髪を撫でて、良かったと言っている。この二人の関係が何なのかは知らないし、興味もないけれどテルは多分シュウが好きなんだろう。
(どこがいいんだ?こんな気の強いやつ)
そう思ったけれど口には出さない。また皆んなに責められるのは俺だろうし。
「情報量が多すぎて頭が混乱してきたけど」
咳払いと共に、国王は皆んなの顔を見渡した。
「とりあえず…第一にシュウの体調が元に戻って良かった。もちろん、レイ君もね?」
シュウは国王に向かって、小さくお辞儀をしてる。
「それと、イリーナ。君の処分も今日の活躍を考慮したものにで、近日中にくだすよ」
言われたイリーナ教官も、深くお辞儀をした。
「あとミーナ…。本当に、危険なことはしないでほしい。それと、ジーナさん。毎回毎回、ミーナに加担するのはやめて欲しいんだけど」
「ごめんなさいね?同じ下につくのなら、私は迷いなくミーナを選ぶから」
それを聞いた王妃は口元を隠しながらくすくす笑っている。国王はまた大きなため息を吐いた。
そんな、国王の肩に王妃は思いっきり輝く笑顔で手を置いた。
「さあ…!明日からは、元通りの日常生活に戻りましょう。変わってしまうこともあるけれど、全てはいい方向に向かっているから。みんな笑顔で、明日を迎えましょう?何かあっても、私もイリヤ国王もいるから。何も心配しなくていいわ」
「それ…君が言うの?…」
呆れ顔の国王と対照的な王妃の笑顔。まぁ、この二人がこの国を治めてくれているのだったら、安心できるかな。なんて思ってしまっている俺は…何も知らずに眠っているユリアの顔を見て微笑んだ。
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