183 / 236
王妃の思惑
6.大切な仲間の為(テル)
しおりを挟む
王妃がここまでした理由は『魔法を産み出す力』を持っているからだった。
自分がユリアの力を実際に確認することで、セイレーンの力の使い方を教えられるかもしれない。
そう考えてのことだったと話してくれた。
もちろんレイを治したかったことも、国王を休ませたかったことも本心だったけれど。…王妃の思惑の全てはユリアのことを考えてのことだった。
「二人を騙すようなことをしてしまって、ごめんなさい」
そう謝る王妃はどことなく寂しそうに呟いた。
「だって…もう解る人いないでしょう?ユリアちゃんに、力の使い方を教えられる人だっていない。でも、私ならそれができるかもしれないから」
(…そうだ。この人は母さんのことを研究していた人だった)
そもそも少ない種族だし、色々教える前にエレンもいなくなってしまったから。私は自分はできる限り研究して、その力の使い方をユリアちゃんに教えてあげられる様になりたい。
昨夜のことを元に、早急に力の操り方をユリアちゃんに教えられるように研究する。
力を使いこなせるようになれば、必ずそれはユリアちゃん自身を守る武器になる。
きっと、ユリアのことはこのまま隠しておくことなんてできない。
「隠し事はいつかはバレてしまうから。…だからエレンの為にも私が絶対に力になるってそう決めてたの」
「王妃の思惑がそれなら、大成功ですね」
ユリアは魔力を吸収して、フルパワーの歌を歌った。
そして、歌の力を王妃は確認することもできた。
それはユリアに力の使い方を教える為。
誰にもユリアのことを知られずに。全てを隠したままで。
「ユリアのことを…そこまで考えてくれていたんですね?」
同じ種族ではなくとも王妃の能力で、それは可能なんじゃないかと思えた。
そこまで考えて、動いてくれていた二人に頭を下げると、眠っているユリアの代わりに「ありがとうございます」とお礼を言った。
そんな俺に王妃はにっこり笑って同じように頭を下げてくれた。
「何も心配しないでね。ユリアちゃんの事は私が必ず守ってみせるから」
「私たちがよ?」
「そうね。私一人じゃできなかった。全てジーナがいてくれたから」
「任務の失敗は『死』を意味する世界で生きてきたから。でも今回のことは失敗すると死ぬどころか、国が滅びるようなものだったから。少し気を張ったわよ?」
ジーナはそう言って笑うと、ポケットから取り出したタバコに火を付けた。
王妃はその行動を分かっていたかのように灰皿を目の前に差し出した。
「…ジーナは仕事が終わると昔からこうするの。普段は一切吸わないんだけどね。ルーティンみたいなものよ?」
王妃は不思議そうに見つめる俺の視線に気がつくと、そっと近づき耳元でそう呟いた。
多分二人はお互いを分かるくらいに、裏から俺たちを守って、支えてくれてきたんだ。
ジーナは細く長い煙を吐きながら、何かを思い出すように目を閉じた。
「……私を救ってくれたのがエレンだった。大切な仲間の子供は同じように大切なの。あなた達二人は…何があっても私たちで守るから」
両親とジーナとの間に何があったのかはわからない。きっとお互いを大切に思っていて強い絆があるのだろう。
「もちろん。レイあなたも大切よ?」
「聞いてないし、ちゃんと分かってるから言わなくていいよ」
目を逸らして言うレイは多分照れている。そんな二人に王妃も微笑んでいる。
「私もシュウと同じくらい、みんなのこと大切に思ってる…」
そう言った王妃の言葉にシュウのことを思ってしまった。
王妃のことが大好きで…「自分が男だったら…」と、ずっと産まれてきた事を悔やんでいた。
それはシュウも王妃のことが『大切』だったから。
シュウは自分がどれだけ傷付いても「傷ついた」とは言わず、女の自分を否定することで、王妃を守っていたんだと思う。
守ってもらってばかりの俺たちと同じじゃ…シュウは報われない。
「…俺が言うことなんかじゃないことは分かってますが…。シュウも王妃の事を大切に思っていますよ?」
「そうね。だからこそ今回の襲撃は許せない…」
王妃の瞳に『怒り』の炎が宿っていた。
「私が傷付くだけなら…これ以上のことはしなかった。脚が片方無くなろうが『悪女』だと罵られようが、別に何も思わなかった。ただ、シュウを巻き込んでしまったことは許せない…」
王妃はドレスを翻し立ち上がった。そのタイミングで、ジーナが俺の肩を叩いて耳元で微笑んだ。
「安心して、テル君。ミーナはかなりご立腹だから」
「これから襲撃事件について、イリヤが国民に向けて演説を行うスケジュールだけど、眠らせておいてあげましょう?私が代わりに行うわ?」
さっきから、病室に来るのに何でそんな着飾ってるんだと不思議だった。
初めから王妃はその場に国王を行かせる気なんてなかったんだ。
「それって…いいんですか?」
「仕方ないわ?イリヤは明日まで起きないんじゃないかしら?寝かせておいてあげましょう?」
「王妃!護衛として俺も向かいます!」
王妃に向けての批判が高まっていることは知っている。
王妃は純血の国に、災いをもたらした張本人と言われて群衆の批判の的になっている。
その張本人が群衆の前に出るなんて死にに行くようなものだ。
テルの主張にも王妃は余裕の笑みで振り返る。
「……もし私が殺されでもしたら、イリヤがこの国を崩壊させるでしょうね?彼にはそれだけの力も人望もあるから。それもまた面白いかも」
「…狂ってるな」
そう呟いたのはレイだったけれど、俺もその意見に同感だ。
「ミーナ…。子供達を揶揄うのは辞めなさい?テル君、安心して?イリーナと私が護衛だから」
ジーナの言葉に王妃はクスッと笑顔を見せてから「そろそろ行きましょう?」と、病室を出て行った。
自分がユリアの力を実際に確認することで、セイレーンの力の使い方を教えられるかもしれない。
そう考えてのことだったと話してくれた。
もちろんレイを治したかったことも、国王を休ませたかったことも本心だったけれど。…王妃の思惑の全てはユリアのことを考えてのことだった。
「二人を騙すようなことをしてしまって、ごめんなさい」
そう謝る王妃はどことなく寂しそうに呟いた。
「だって…もう解る人いないでしょう?ユリアちゃんに、力の使い方を教えられる人だっていない。でも、私ならそれができるかもしれないから」
(…そうだ。この人は母さんのことを研究していた人だった)
そもそも少ない種族だし、色々教える前にエレンもいなくなってしまったから。私は自分はできる限り研究して、その力の使い方をユリアちゃんに教えてあげられる様になりたい。
昨夜のことを元に、早急に力の操り方をユリアちゃんに教えられるように研究する。
力を使いこなせるようになれば、必ずそれはユリアちゃん自身を守る武器になる。
きっと、ユリアのことはこのまま隠しておくことなんてできない。
「隠し事はいつかはバレてしまうから。…だからエレンの為にも私が絶対に力になるってそう決めてたの」
「王妃の思惑がそれなら、大成功ですね」
ユリアは魔力を吸収して、フルパワーの歌を歌った。
そして、歌の力を王妃は確認することもできた。
それはユリアに力の使い方を教える為。
誰にもユリアのことを知られずに。全てを隠したままで。
「ユリアのことを…そこまで考えてくれていたんですね?」
同じ種族ではなくとも王妃の能力で、それは可能なんじゃないかと思えた。
そこまで考えて、動いてくれていた二人に頭を下げると、眠っているユリアの代わりに「ありがとうございます」とお礼を言った。
そんな俺に王妃はにっこり笑って同じように頭を下げてくれた。
「何も心配しないでね。ユリアちゃんの事は私が必ず守ってみせるから」
「私たちがよ?」
「そうね。私一人じゃできなかった。全てジーナがいてくれたから」
「任務の失敗は『死』を意味する世界で生きてきたから。でも今回のことは失敗すると死ぬどころか、国が滅びるようなものだったから。少し気を張ったわよ?」
ジーナはそう言って笑うと、ポケットから取り出したタバコに火を付けた。
王妃はその行動を分かっていたかのように灰皿を目の前に差し出した。
「…ジーナは仕事が終わると昔からこうするの。普段は一切吸わないんだけどね。ルーティンみたいなものよ?」
王妃は不思議そうに見つめる俺の視線に気がつくと、そっと近づき耳元でそう呟いた。
多分二人はお互いを分かるくらいに、裏から俺たちを守って、支えてくれてきたんだ。
ジーナは細く長い煙を吐きながら、何かを思い出すように目を閉じた。
「……私を救ってくれたのがエレンだった。大切な仲間の子供は同じように大切なの。あなた達二人は…何があっても私たちで守るから」
両親とジーナとの間に何があったのかはわからない。きっとお互いを大切に思っていて強い絆があるのだろう。
「もちろん。レイあなたも大切よ?」
「聞いてないし、ちゃんと分かってるから言わなくていいよ」
目を逸らして言うレイは多分照れている。そんな二人に王妃も微笑んでいる。
「私もシュウと同じくらい、みんなのこと大切に思ってる…」
そう言った王妃の言葉にシュウのことを思ってしまった。
王妃のことが大好きで…「自分が男だったら…」と、ずっと産まれてきた事を悔やんでいた。
それはシュウも王妃のことが『大切』だったから。
シュウは自分がどれだけ傷付いても「傷ついた」とは言わず、女の自分を否定することで、王妃を守っていたんだと思う。
守ってもらってばかりの俺たちと同じじゃ…シュウは報われない。
「…俺が言うことなんかじゃないことは分かってますが…。シュウも王妃の事を大切に思っていますよ?」
「そうね。だからこそ今回の襲撃は許せない…」
王妃の瞳に『怒り』の炎が宿っていた。
「私が傷付くだけなら…これ以上のことはしなかった。脚が片方無くなろうが『悪女』だと罵られようが、別に何も思わなかった。ただ、シュウを巻き込んでしまったことは許せない…」
王妃はドレスを翻し立ち上がった。そのタイミングで、ジーナが俺の肩を叩いて耳元で微笑んだ。
「安心して、テル君。ミーナはかなりご立腹だから」
「これから襲撃事件について、イリヤが国民に向けて演説を行うスケジュールだけど、眠らせておいてあげましょう?私が代わりに行うわ?」
さっきから、病室に来るのに何でそんな着飾ってるんだと不思議だった。
初めから王妃はその場に国王を行かせる気なんてなかったんだ。
「それって…いいんですか?」
「仕方ないわ?イリヤは明日まで起きないんじゃないかしら?寝かせておいてあげましょう?」
「王妃!護衛として俺も向かいます!」
王妃に向けての批判が高まっていることは知っている。
王妃は純血の国に、災いをもたらした張本人と言われて群衆の批判の的になっている。
その張本人が群衆の前に出るなんて死にに行くようなものだ。
テルの主張にも王妃は余裕の笑みで振り返る。
「……もし私が殺されでもしたら、イリヤがこの国を崩壊させるでしょうね?彼にはそれだけの力も人望もあるから。それもまた面白いかも」
「…狂ってるな」
そう呟いたのはレイだったけれど、俺もその意見に同感だ。
「ミーナ…。子供達を揶揄うのは辞めなさい?テル君、安心して?イリーナと私が護衛だから」
ジーナの言葉に王妃はクスッと笑顔を見せてから「そろそろ行きましょう?」と、病室を出て行った。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる