セイレーンのガーディアン

桃華

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王妃の思惑

6.大切な仲間の為(テル)

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 王妃がここまでした理由は『魔法を産み出す力』を持っているからだった。
 自分がユリアの力を実際に確認することで、セイレーンの力の使い方を教えられるかもしれない。
 そう考えてのことだったと話してくれた。
 もちろんレイを治したかったことも、国王を休ませたかったことも本心だったけれど。…王妃の思惑の全てはユリアのことを考えてのことだった。

「二人を騙すようなことをしてしまって、ごめんなさい」

 そう謝る王妃はどことなく寂しそうに呟いた。

「だって…もう解る人いないでしょう?ユリアちゃんに、力の使い方を教えられる人だっていない。でも、私ならそれができるかもしれないから」

(…そうだ。この人は母さんのことを研究していた人だった)

 そもそも少ない種族だし、色々教える前にエレンもいなくなってしまったから。私は自分はできる限り研究して、その力の使い方をユリアちゃんに教えてあげられる様になりたい。
 昨夜のことを元に、早急に力の操り方をユリアちゃんに教えられるように研究する。
 力を使いこなせるようになれば、必ずそれはユリアちゃん自身を守る武器になる。
 きっと、ユリアのことはこのまま隠しておくことなんてできない。

「隠し事はいつかはバレてしまうから。…だからエレンの為にも私が絶対に力になるってそう決めてたの」

「王妃の思惑がなら、大成功ですね」

 ユリアは魔力を吸収して、フルパワーの歌を歌った。
 そして、歌の力を王妃は確認することもできた。
 それはユリアに力の使い方を教える為。
 誰にもユリアのことを知られずに。全てを隠したままで。
 
「ユリアのことを…そこまで考えてくれていたんですね?」

 同じ種族ではなくとも王妃の能力で、それは可能なんじゃないかと思えた。
 そこまで考えて、動いてくれていた二人に頭を下げると、眠っているユリアの代わりに「ありがとうございます」とお礼を言った。

 そんな俺に王妃はにっこり笑って同じように頭を下げてくれた。
 
「何も心配しないでね。ユリアちゃんの事は私が必ず守ってみせるから」

よ?」

「そうね。私一人じゃできなかった。全てジーナがいてくれたから」

「任務の失敗は『死』を意味する世界で生きてきたから。でも今回のことは失敗すると死ぬどころか、国が滅びるようなものだったから。少し気を張ったわよ?」

 ジーナはそう言って笑うと、ポケットから取り出したタバコに火を付けた。
 王妃はその行動を分かっていたかのように灰皿を目の前に差し出した。

「…ジーナは仕事が終わると昔からこうするの。普段は一切吸わないんだけどね。ルーティンみたいなものよ?」

 王妃は不思議そうに見つめる俺の視線に気がつくと、そっと近づき耳元でそう呟いた。
 多分二人はお互いを分かるくらいに、裏から俺たちを守って、支えてくれてきたんだ。
 
 ジーナは細く長い煙を吐きながら、何かを思い出すように目を閉じた。

「……私を救ってくれたのがエレンだった。大切な仲間の子供は同じように大切なの。あなた達二人は…何があっても私たちで守るから」

 両親とジーナとの間に何があったのかはわからない。きっとお互いを大切に思っていて強い絆があるのだろう。

「もちろん。レイあなたも大切よ?」
「聞いてないし、ちゃんと分かってるから言わなくていいよ」

 目を逸らして言うレイは多分照れている。そんな二人に王妃も微笑んでいる。

「私もシュウと同じくらい、みんなのこと大切に思ってる…」

 そう言った王妃の言葉にシュウのことを思ってしまった。
 王妃のことが大好きで…「自分が男だったら…」と、ずっと産まれてきた事を悔やんでいた。
 それはシュウも王妃のことが『大切』だったから。
 シュウは自分がどれだけ傷付いても「傷ついた」とは言わず、女の自分を否定することで、王妃を守っていたんだと思う。
 守ってもらってばかりの俺たちと同じじゃ…シュウは報われない。

「…俺が言うことなんかじゃないことは分かってますが…。シュウも王妃の事を大切に思っていますよ?」

「そうね。だからこそ今回の襲撃は許せない…」

王妃の瞳に『怒り』の炎が宿っていた。

「私が傷付くだけなら…これ以上のことはしなかった。脚が片方無くなろうが『悪女』だと罵られようが、別に何も思わなかった。ただ、シュウを巻き込んでしまったことは許せない…」

 王妃はドレスを翻し立ち上がった。そのタイミングで、ジーナが俺の肩を叩いて耳元で微笑んだ。

「安心して、テル君。ミーナはかなりご立腹だから」

「これから襲撃事件について、イリヤが国民に向けて演説を行うスケジュールだけど、眠らせておいてあげましょう?私が代わりに行うわ?」

さっきから、病室に来るのに何でそんな着飾ってるんだと不思議だった。
 初めから王妃はその場に国王を行かせる気なんてなかったんだ。

「それって…いいんですか?」

「仕方ないわ?イリヤは明日まで起きないんじゃないかしら?寝かせておいてあげましょう?」

「王妃!護衛として俺も向かいます!」

 王妃に向けての批判が高まっていることは知っている。

 王妃は純血の国に、災いをもたらした張本人と言われて群衆の批判の的になっている。
 その張本人が群衆の前に出るなんて死にに行くようなものだ。
 テルの主張にも王妃は余裕の笑みで振り返る。

「……もし私が殺されでもしたら、イリヤがこの国を崩壊させるでしょうね?彼にはそれだけの力も人望もあるから。それもまた面白いかも」

「…狂ってるな」

そう呟いたのはレイだったけれど、俺もその意見に同感だ。

「ミーナ…。子供達を揶揄うのは辞めなさい?テル君、安心して?イリーナと私が護衛だから」

 ジーナの言葉に王妃はクスッと笑顔を見せてから「そろそろ行きましょう?」と、病室を出て行った。
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