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王妃の思惑
3.王妃の思惑②(テル)
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現状最高峰の治癒魔法をつかえるイリヤですら治せない、レイの熱傷を誰がどうやって治せばいいのか…。
「それを考える時間は私にはたっぷりあったから」
「時間はあってもさ…そんな治癒魔法存在しないから治せない。頭いいのにバカですね?考えるだけ無駄だよ」
「…レイ…やめとけよ…」
思わずこっちが諌めるくらい、目上の人にも不躾な態度を取る。そんなレイを前にしても、王妃は「そうね」と余裕の笑みだ。
「でもね私は魔法を『開発』するのは得意なの。だから、初めは作ろうとしてたの」
王妃はそんなことを言ってのけた。魔力のない俺でも、魔法の開発なんて簡単に出来ることじゃないということくらい理解できる。
「無理に決まってる。そんなこと何年かけてやるつもり?」
魔力をもつレイは俺よりもっと分かっている。
体内の魔力や聖力の流れの把握。混ぜ合わせ方や放出方法。加味しなければいけないことは山程ある。
短期間の新魔法の開発なんて『無理』に決まっていることを。
「9割は完成したのよ?前から研究していたのわもあったしね。ただ…完成させるには、イリヤレベルの聖力の持ち主が必要だった。結局はイリヤの聖力が切れかけているから…それもダメだった」
「どういう意味ですか?」
「ミーナの生み出す魔法は、強力な燃料を持つ者じゃないと扱えないってことよ?」
ジーナの答えに王妃は静かに微笑んだ。
「私は開発はできるけれど、その魔法を使えない。どうあがいても燃料が足りないから。私の開発した魔法を完成させるのは、いつも国王なの」
そういえば、以前国王が言っていた。聖域魔法を開発したのは王妃だと。
元々が生物学者で、更に王妃は神族の血を引いているって聞いたことがある。魔法の開発には数十年はかかると聞いたことがあるけれど、王妃はそれを短期間でやってのけると。
国王の高い聖力があるから成り立つにしても、王妃の功績には目を見張るものがある。
「もう少し早くに最上級の治癒魔法を産み出せれば良かったけれど…。出来た頃にはイリヤが限界だった」
それだけ言うと、今度は眠っているユリアのベッド脇に王妃が腰を下ろした。
「だから考えたの。…イリヤが無理ならユリアちゃんなら治せるんじゃないかって……」
「「は???」」
『パンがないならお菓子を食べれば?…』くらいに驚く王妃の言葉。レイと二人で目を合わせた。
さっき「ユリアのことは絶対秘密」と言い切った王妃が今度は「ユリアに力を使わせよう!」と、矛盾した発言を繰り出している。
「イリヤには治せないって分かった今、傷を癒す力を期待できるのは…ユリアちゃんくらい。それに…ユリアちゃんは、吸収した魔力を操れる…。より強い力を発揮できるはず!そう思ったの」
「でも…セイレーンのことは、外部に漏らしたらいけないって言ってましたよね?」
思わず問いかけると、椅子に座っていたジーナが「そう。誰にも気付かれてはいけない。これは私とミーナだけしか知ら無い計画」と笑う。
「だから手始めに、レイの病室を替えることを提案したの」
そういえば、部屋が変わったのはいきなりだった。しかもセキュリティの1番高い部屋。外からも中からもカードキーが無いと出ることも、入ることも出来ない部屋だ。
ユリアと会わせないように、レイを隔離したのかと思っていたけれど…。二人の話では目的は違ったみたいだ。
「カードキーは2枚しか無い。持ってるのは、ジーナとイリヤに限られた。コピーもスキャンも出来ない…最上級のセキュリティで守られたカードキーよ?」
さすが重役が入院することが多い病院だ。窓は防音。外から中の様子は見えない。しかも部屋は耐魔法の素材で出来ている…らしい。
王妃はすごいでしょ?なんて笑って見せた。
(苦笑いしか浮かんでこない…)
今度はジーナが王妃に替わって話し始めた。
「力を使っても外部には漏らさない、最低限の条件は難なくクリアできた。次の問題はユリアちゃんが、魔力吸収をすること。普通に歌うだけじゃ、治らない可能性もあったから」
「!!…あぁ…それであの話…ですか…?」
ジーナは「正解」と指を鳴らした。
「記憶の封印は20歳にならないと解けないはずだった。でもユリアちゃんはきっかけが有れば思い出すことを、私は知っていた。利用しない手はないわよね?」
「……ユリアが言ってたな。ジーナから過去のことを聞いたって……最低かよ」
レイがそう言う気持ちもわかる。まんまと罠にかかってしまった背景に同情して、ため息をついた。
(何なんだ…この人たちは…?)
「誰も違和感を感じない絶妙なタイミングだったでしょ?」
確かに、レイの熱傷から過去の話しをすることに、おかしいとは思わなかった。
それに、ジーナの心音にはブレのようなものが一切無かった。
人はやましいことがあると、心音が早くなったり…視線が泳いだりする。その変化は一切なかった。
だからこそ、俺もユリアも気付けなかった。
(確か…ジーナさんは公安だったな)
ブルームン国にくる前は、スパイ活動を主に行っていたと、随分前に聞いたことがある。
「すごいわよね?私がジーナに話した内容は『ユリアちゃんにレイ君を治してもらいたい』ということと『出来れば最大限のユリアちゃんの力を引き出して欲しい』ということだけだったの。ここまで完璧な仕事をしてくれるとは思わなかった。ジーナは本当に頼りになる」
ありがとうと笑いかける王妃に、余裕の笑みで「任せてよ?」と応えるジーナ。二人には信頼関係のようなものがあることは分かる。
(けれど…実の息子を巻き込むのか……?)
思わず頭を抱えた。魔力吸収の仕方はジーナさんも知ってたはず。
(それって…ユリアとレイがヤるってことだけど…それを誘発するんだぞ?……それにレイの熱傷は本当だったし)
「……だから嫌なんだよ」
レイが吐き捨てるように言った言葉に「そうだな」と同調してしまった。
それと同時に、初めて「女って怖い」の意味を理解した。…気がした。
(この2人が異常なのか……?)
「それを考える時間は私にはたっぷりあったから」
「時間はあってもさ…そんな治癒魔法存在しないから治せない。頭いいのにバカですね?考えるだけ無駄だよ」
「…レイ…やめとけよ…」
思わずこっちが諌めるくらい、目上の人にも不躾な態度を取る。そんなレイを前にしても、王妃は「そうね」と余裕の笑みだ。
「でもね私は魔法を『開発』するのは得意なの。だから、初めは作ろうとしてたの」
王妃はそんなことを言ってのけた。魔力のない俺でも、魔法の開発なんて簡単に出来ることじゃないということくらい理解できる。
「無理に決まってる。そんなこと何年かけてやるつもり?」
魔力をもつレイは俺よりもっと分かっている。
体内の魔力や聖力の流れの把握。混ぜ合わせ方や放出方法。加味しなければいけないことは山程ある。
短期間の新魔法の開発なんて『無理』に決まっていることを。
「9割は完成したのよ?前から研究していたのわもあったしね。ただ…完成させるには、イリヤレベルの聖力の持ち主が必要だった。結局はイリヤの聖力が切れかけているから…それもダメだった」
「どういう意味ですか?」
「ミーナの生み出す魔法は、強力な燃料を持つ者じゃないと扱えないってことよ?」
ジーナの答えに王妃は静かに微笑んだ。
「私は開発はできるけれど、その魔法を使えない。どうあがいても燃料が足りないから。私の開発した魔法を完成させるのは、いつも国王なの」
そういえば、以前国王が言っていた。聖域魔法を開発したのは王妃だと。
元々が生物学者で、更に王妃は神族の血を引いているって聞いたことがある。魔法の開発には数十年はかかると聞いたことがあるけれど、王妃はそれを短期間でやってのけると。
国王の高い聖力があるから成り立つにしても、王妃の功績には目を見張るものがある。
「もう少し早くに最上級の治癒魔法を産み出せれば良かったけれど…。出来た頃にはイリヤが限界だった」
それだけ言うと、今度は眠っているユリアのベッド脇に王妃が腰を下ろした。
「だから考えたの。…イリヤが無理ならユリアちゃんなら治せるんじゃないかって……」
「「は???」」
『パンがないならお菓子を食べれば?…』くらいに驚く王妃の言葉。レイと二人で目を合わせた。
さっき「ユリアのことは絶対秘密」と言い切った王妃が今度は「ユリアに力を使わせよう!」と、矛盾した発言を繰り出している。
「イリヤには治せないって分かった今、傷を癒す力を期待できるのは…ユリアちゃんくらい。それに…ユリアちゃんは、吸収した魔力を操れる…。より強い力を発揮できるはず!そう思ったの」
「でも…セイレーンのことは、外部に漏らしたらいけないって言ってましたよね?」
思わず問いかけると、椅子に座っていたジーナが「そう。誰にも気付かれてはいけない。これは私とミーナだけしか知ら無い計画」と笑う。
「だから手始めに、レイの病室を替えることを提案したの」
そういえば、部屋が変わったのはいきなりだった。しかもセキュリティの1番高い部屋。外からも中からもカードキーが無いと出ることも、入ることも出来ない部屋だ。
ユリアと会わせないように、レイを隔離したのかと思っていたけれど…。二人の話では目的は違ったみたいだ。
「カードキーは2枚しか無い。持ってるのは、ジーナとイリヤに限られた。コピーもスキャンも出来ない…最上級のセキュリティで守られたカードキーよ?」
さすが重役が入院することが多い病院だ。窓は防音。外から中の様子は見えない。しかも部屋は耐魔法の素材で出来ている…らしい。
王妃はすごいでしょ?なんて笑って見せた。
(苦笑いしか浮かんでこない…)
今度はジーナが王妃に替わって話し始めた。
「力を使っても外部には漏らさない、最低限の条件は難なくクリアできた。次の問題はユリアちゃんが、魔力吸収をすること。普通に歌うだけじゃ、治らない可能性もあったから」
「!!…あぁ…それであの話…ですか…?」
ジーナは「正解」と指を鳴らした。
「記憶の封印は20歳にならないと解けないはずだった。でもユリアちゃんはきっかけが有れば思い出すことを、私は知っていた。利用しない手はないわよね?」
「……ユリアが言ってたな。ジーナから過去のことを聞いたって……最低かよ」
レイがそう言う気持ちもわかる。まんまと罠にかかってしまった背景に同情して、ため息をついた。
(何なんだ…この人たちは…?)
「誰も違和感を感じない絶妙なタイミングだったでしょ?」
確かに、レイの熱傷から過去の話しをすることに、おかしいとは思わなかった。
それに、ジーナの心音にはブレのようなものが一切無かった。
人はやましいことがあると、心音が早くなったり…視線が泳いだりする。その変化は一切なかった。
だからこそ、俺もユリアも気付けなかった。
(確か…ジーナさんは公安だったな)
ブルームン国にくる前は、スパイ活動を主に行っていたと、随分前に聞いたことがある。
「すごいわよね?私がジーナに話した内容は『ユリアちゃんにレイ君を治してもらいたい』ということと『出来れば最大限のユリアちゃんの力を引き出して欲しい』ということだけだったの。ここまで完璧な仕事をしてくれるとは思わなかった。ジーナは本当に頼りになる」
ありがとうと笑いかける王妃に、余裕の笑みで「任せてよ?」と応えるジーナ。二人には信頼関係のようなものがあることは分かる。
(けれど…実の息子を巻き込むのか……?)
思わず頭を抱えた。魔力吸収の仕方はジーナさんも知ってたはず。
(それって…ユリアとレイがヤるってことだけど…それを誘発するんだぞ?……それにレイの熱傷は本当だったし)
「……だから嫌なんだよ」
レイが吐き捨てるように言った言葉に「そうだな」と同調してしまった。
それと同時に、初めて「女って怖い」の意味を理解した。…気がした。
(この2人が異常なのか……?)
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