152 / 236
レイの過去
1.大切な人(ユリア)
しおりを挟む落ち着きなく病室の中を歩き回っている。今日は感情の起伏に自分自身ついて行けてない。
「ユリアちゃん落ち着いて?」
ジーナさんが座るように声をかけてくれたけれど、落ち着いてなんていられない。あんなに苦しんでるレイを始めて見た気がする。
「でも…レイが…」
「大丈夫よ。イリヤが治してくれてるから。座ってこれ食べて?」
そう言ってケーキを目の前に差し出してくれた。とりあえず座ってみたものの、食べる気になんてならない。話も出来ないまま、またレイはどこかに行ってしまった。
(聞いても話してはくれないだろうけど)
無理しないで残していいからね?なんて言いながら、みんなの前にケーキを配っていく。その声もどこか遠くに響いている。
(…パパ…レイに触れた時…「あつい」って言った気がする…)
あつい…熱い…?触れた瞬間に、手を引くくらいに?それってもしかして…
(魔力の…暴発…?)
ガタンと大きな音を立てて立ち上がった。だから、パパも国王も私に気付かれないように必死だったんだ。私は本当にバカだ。何で直ぐに気付かなかったんだろう。
「…ユリア…?」
淹れたての紅茶のカップが、立ち上がった衝撃でテーブルから落ちてしまった。シュウが驚いて見上げているけれど、今はその後片付けをしている時間も惜しい。
「ごめん!後で片付けるからっ!~っ!私やっぱり行かないと!」
灼けるような痛みに、レイはずっと苦しんでたんだよ?…私…そんなことにも気付けなくて。あんな話も聞かせてしまってた。
(『鎮静の歌』で…なんとかなる?…もしならなくても…『回復の歌』を…)
頬を伝う涙を拭いながら、考えを巡らせる。部屋を出ようとする私の前にジーナさんが立ちはだかった。
「…どいて下さい」
「ダメよ?行かせないわ」
「レイが今も苦しんでるってことは、国王でも治癒できなかったんですよね?私なら…」
「それがダメだって言ってるの!」
ジーナさんの叫び声は、今までに聞いたことのないような大声だった。だけど怯んでいる暇なんてない。
テルまで止めようと手を掴んできた。その手を振り払おうとしたけれど、掴まれた手はびくともしない。睨み付けながら「離して」と言って、テルの手を掴んだ。
「ユリア…落ち着けよ?」
「落ち着いてなんていられない!だって…レイがっ!」
「レイがあなたに言わなかったのは…、そうなることを分かっていたからよ?」
「レイの想いを汲んでやれよ。こんな、大勢人がいる国立病院で力使う気か…?お前もそこまでバカじゃないだろ?」
確かに力を使ったら、セイレーンのことがバレてしまうかもしれない。自分を危険に晒してしまうことになる。分かってる。それでも救いたい。
(だってレイは?…自分は、苦しんでたはずなのに。私のことばかり考えてくれてる)
「……レイ君は自分の命に変えても守りたいって思ってるから…行ったところで入れないよ?」
シュウが床のコーヒーカップを拾いながら、落ち着いた声色で呟いた。
(何で…?)
「さっきも話しだけど…ユリアは『大切な人』だからさ」
そういえばさっきもそんな話しをしていた。シュウは泣いている私のそばにゆっくりと近づくと「落ち着いて?」と、背中に手を当ててくれる。
「でも…私は…レイにしてもらうばかりで…何も返せてない…」
シュウが私の涙を優しく拭うと微笑みながら「レイ君は…そうは思ってないよ?」と、優しく呟いた。ゆっくりと椅子に座るように促して、泣いている私の手を離さないでいてくれた。
まだ冷静にはなれないけれど、今行った所でレイに余計な無理をさせてしまうんじゃないかと思えた。嗚咽を漏らす私のことを、シュウは抱きしめてくれた。
その様子にジーナさんとテルは安堵のため息を吐いている。
「…ねぇ…ユリアちゃんとテル君は、どこまで知ってるの?」
ジーナさんが、椅子に座りながらシュウに向かって問いかけている。シュウは少し困った顔をした後に、チラリと私とテルの顔を見て首を振った。
「ジーナさん…。すみません。その話しをしたことが無いから…。分からないです」
「そうよね?シュウからこんな話ししないわよね?それに…ユリアちゃんの記憶が戻ったのも、最近だし…どれだけ戻ってるかも分からないものね」
ジーナさんは悲しそうに呟いて、次にテルを見た。
「テル君は…?セイレーンの力が効きにくいから…もしかしたら、覚えてたりするかしら…?」
問われたテルは、目を伏せて何かを考えている。少しだけ間があったけれど、直ぐに顔を上げてジーナさんを見つめた。
「俺も全部思い出したわけじゃないです。でも…少しだけ…思い出したことがあります…。あれは…冬だった。確か8歳か…9歳の時だ…」
それだけ呟いて、テルは口を覆ってしまった。何かに気付いたように目を逸らして、それ以上何も言わなかった。
「そこまで、思い出したなら…勘のいいテル君なら気付いたよね?」
テルは頷くでもなく、私から顔を背けたまま固まっている。私はというと何も思い出せない。
レイのことは「大好きだった」「守りたい人だった」そのことは思い出した。でも何で…?何があってそうなったの…?それは頭に霞がかかったように思い出せない。
「…ユリアちゃんは記憶が戻ったって言っても曖昧よね…?だって、あの時エレンは制約を付けたの」
「制約?」
「そう。エレンがあなた達に聞かせた歌は『忘却の歌』じゃない。『封印の歌』なの。忘れさせるのはかわいそうって、エレン譲らなかったから」
昔を懐かしむように、ジーナは悲しそうな笑みを浮かべた。それから、何かを決意したように「どうせ、もうすぐ期限が来るか…」と1人ごとを呟いた。
「あの時エレンは、封印された記憶は対象者が『20歳』を迎えると思い出すという制約を付けた歌を聞かせたの…だから、もうすぐみんな思い出すわね?」
シュウも知らなかったようで、目を丸くしている。
「誕生日…1番近いのはシュウね?もう…来月だし。その後数ヶ月で次はあなた達だよね?」
ジーナさんは呟くと何も思い出せない私の前に歩み寄って手を握った。優しくも悲しい微笑みを浮かべて、目を合わせた。
「…封印された記憶の中に…あなたがまだ思い出せない記憶があるの。…今からそれを教えるわ?」
「!!ジーナさん!?でも…レイ君は…?」
「…考えてみてシュウ。…あなたなら…知らずにいる方が辛くない?あの事を受け止められる?」
ジーナさんに言われたシュウは、顔を青くして黙り込んでしまった。
「…決して気分のいい話しじゃないから。受け止められないと思ったら、聞かなくてもいい。思い出さないままで、今のレイを好きでいたいって言うのなら…それでもいいかなって思うけれど、ユリアちゃんはどうしたい?」
迷う事なんて何も無かった。だって何を聞いてもレイを好きで居られる自信があるから。
「聞きたいです」
「…うん。ありがとう。じゃあ…話して行くわね?幼いレイがあなたを好きになった理由と、命に変えても守りたいって思う理由を…」
そう言ってジーナさんは椅子に座って、目を閉じた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる