セイレーンのガーディアン

桃華

文字の大きさ
上 下
146 / 240
ルシウス

1.出会い(ユリア)

しおりを挟む
 アイスティーを飲む手が震える。せっかく用意してもらったのに、味なんて分からない。みんなからの視線が突き刺さる中、時間稼ぎのためにゆっくりとかき混ぜて様子を伺った。

「…話しにくいかもしれないけれど、そろそろ聞いていいかな?」

 そう言うと国王は申し訳なさそうに目の前の椅子に座った。浅はかな時間稼ぎなんて簡単にバレてしまっている。
 ギクリと肩をすくめながら視線をレイに移した。かろうじて椅子に座っているけど圧がすごい。無言でこっちを見てる…。と、言うか睨んでいる。
 ジーナが大きなため息と共にレイの肩に手を置いた。

「睨むのやめなさいよ。ユリアちゃんが話しにくいでしょ」

「偉そうに…。今日話しがあること…ばらしたのはあんただろ?」

(そうなの!?!?)

 目を丸くしながらジーナの方に視線を移すと、ごめんとジェスチャーで謝って気まずそうに視線を逸らした。

(…怒るに怒れない…)

「いい加減覚悟を決めて話せよ…シュウを早く休ませたいし」

苛立つテルに支えられたシュウの顔色は確かに良くない。「大丈夫だから」と言う、声も弱々しくて痛々しい。シュウの優しさが今はキツイ。良心を抉ってくる。

(私にも優しくして欲しい…)

「…分かりました…話します…」

 覚悟を決めた。大きなため息と共にグラスを置くと、ゆっくりと視線を国王に向けた。

「もし…国王様の弟が、私の知っている『ルシウス』なら、それを止めたいって思うし…」

「それって…どう言う意味?」

 レイがいつもより低い声で聞いてきた。「言葉以上の意味なんてない…です」と言いながら視線をそらす。国王は頭を抱えながら大きくため息を吐いた。

「レイ君…。いい加減にしてくれないかな?」

「ひとまずレイはおいといていいから、出会いから話してくれないか?」

 縮こまる私にパパは微笑んで言った。「レイは俺が止める…」と、不穏な言葉と共に目の前に座った。

(パパの目の奥が笑ってないんだけど…)

 あの日のことを思い出すように、大きく息を吐きながら目を閉じた。

***

 ルシウスと私との出会いは夏の日。うだるような暑さが続いていていた駅前だった。
 その頃の私はというと何をしても楽しくなかった。学校と家の往復を繰り返すだけ。それだけで精一杯の日々を過ごしていた。
 ママが死んでからしばらく経っていたけれど、私はまだ普段の自分を取り戻せて無かった。
 パパも仕事でほぼ家に居なかったし、ずっと一緒だったテルも私の傍に居なくなってしまった。
 その頃のテルにはレナちゃんという束縛の強い彼女がいたから、下校が同じになることは無かった。(同じになると、めちゃくちゃ睨まれて怖かったし…)

 そんな時だった。いつもの駅でいつものように降りると、見慣れない小さな白いトカゲのような生き物を見つけた。でもトカゲにしては大きい…よく見ると背中に翼がある。

(これ…ドラゴンの幼体だ!)

ドラゴンなんてこんな街中に出るようなモンスターじゃない。ましてや、白銀のドラゴンなんて見たことも無かった。
 ドラゴンは視線をコチラに向けたまま動かない。ゆっくりと近づいてみると案内するかのように羽ばたき出した。
 追いかけないと。何故かそう思えた。ドラゴンを追って薄暗い路地を歩いた。ドラゴンは時々振り返りながら、速度を私に合わせていた。

(やっぱり…私を案内してる)

しばらく追いかけていると、急にドラゴンは羽ばたくことを止めて、小さく鳴いた。まるで何かを知らせるように。

「どうしたの?」

そう声をかけると、そのドラゴンは首をクイっと振るった。その先にゆっくり周り込むと血塗れた服を着て座っている人を見つけてしまった。

導かれた先に居たのがルシウスだった。

もう一度、ドラゴンは小さく鳴いた。その鳴き声にハッとした。この子はこの人を助けて欲しくて私を導いたんだって。
 
(もしかして…死んでる!?いや、呼吸音は聞こえる…)

 なんて思いながら勇気を出して近づくと、ドラゴンは『待ってた』とでも言うように、するりと足元に絡みついて来た。

「…あの……大丈夫ですか?」

 期待に応えようと声をかけたけど、何も返事は返って来ない。それどころか、ピクリとも動かなかった。とりあえず暑い日だったから、鞄の中から水を取り出し差し出してみた。

「これ…まだ口付けて無いので、良かったら…」

「……」

「…水分取らないと、死んでしまいますよ?」

そう言って顔を覗き込んで声をかけてみた。

「…もう…どうでもいい…」

 やっと聞こえた声は弱々しくてこのままにしておくのは危険だと、素人の私が見てもわかる。白銀のドラゴンが心配そうに見つめている。

「どうでもいいなんて言わないで。雑踏の中、危険を顧みずに助けを呼びに来た、この子が可哀想ですよ?」

そう声をかけると、伏せていた顔を上げた。思わず息を飲む美しさに一瞬たじろいでしまった。
 碧い瞳に端正な顔立ち。左目の下の泣き黒子が色っぽい。声の感じから男性だと言うことが分かった。

「…ああ…そうだな。確かにコイツは可哀想だ。こんな俺の『番』になってしまったんだからな」

「番って…?ドラゴンのこと…?」

 ユリアが聞くと頷くでもなく、フッと息を吐くように微笑んだ。
 ユリアの手から水のボトルを受け取り、息も吐かずに飲み干す。それと同時に男はよろめいた。

「危ないっ…」

頭より先に身体が動いた。咄嗟に手を出したけれど、受け止めきれずに男の下敷きになってしまった。男はそのまま気を失ってしまったのか、ピクリとも動かない。かなり細身だけど私じゃ運べない。
 人を呼ぼうと鞄に手を伸ばすと、その手に向かってドラゴンが炎を吐いた。火花程度だけど。

「熱っ…何?人を呼ぶなってこと…?」

訳ありだってことはこの怪我からも分かる。

「でも…私1人じゃ…」

もういいか…どうせこの後用事があるわけじゃない。なんて考えながら、男が起きるのをそのまま待つ事にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...