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ルシウス
1.出会い(ユリア)
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アイスティーを飲む手が震える。せっかく用意してもらったのに、味なんて分からない。みんなからの視線が突き刺さる中、時間稼ぎのためにゆっくりとかき混ぜて様子を伺った。
「…話しにくいかもしれないけれど、そろそろ聞いていいかな?」
そう言うと国王は申し訳なさそうに目の前の椅子に座った。浅はかな時間稼ぎなんて簡単にバレてしまっている。
ギクリと肩をすくめながら視線をレイに移した。かろうじて椅子に座っているけど圧がすごい。無言でこっちを見てる…。と、言うか睨んでいる。
ジーナが大きなため息と共にレイの肩に手を置いた。
「睨むのやめなさいよ。ユリアちゃんが話しにくいでしょ」
「偉そうに…。今日話しがあること…ばらしたのはあんただろ?」
(そうなの!?!?)
目を丸くしながらジーナの方に視線を移すと、ごめんとジェスチャーで謝って気まずそうに視線を逸らした。
(…怒るに怒れない…)
「いい加減覚悟を決めて話せよ…シュウを早く休ませたいし」
苛立つテルに支えられたシュウの顔色は確かに良くない。「大丈夫だから」と言う、声も弱々しくて痛々しい。シュウの優しさが今はキツイ。良心を抉ってくる。
(私にも優しくして欲しい…)
「…分かりました…話します…」
覚悟を決めた。大きなため息と共にグラスを置くと、ゆっくりと視線を国王に向けた。
「もし…国王様の弟が、私の知っている『ルシウス』なら、それを止めたいって思うし…」
「それって…どう言う意味?」
レイがいつもより低い声で聞いてきた。「言葉以上の意味なんてない…です」と言いながら視線をそらす。国王は頭を抱えながら大きくため息を吐いた。
「レイ君…。いい加減にしてくれないかな?」
「ひとまずレイはおいといていいから、出会いから話してくれないか?」
縮こまる私にパパは微笑んで言った。「レイは俺が止める…」と、不穏な言葉と共に目の前に座った。
(パパの目の奥が笑ってないんだけど…)
あの日のことを思い出すように、大きく息を吐きながら目を閉じた。
***
ルシウスと私との出会いは夏の日。うだるような暑さが続いていていた駅前だった。
その頃の私はというと何をしても楽しくなかった。学校と家の往復を繰り返すだけ。それだけで精一杯の日々を過ごしていた。
ママが死んでからしばらく経っていたけれど、私はまだ普段の自分を取り戻せて無かった。
パパも仕事でほぼ家に居なかったし、ずっと一緒だったテルも私の傍に居なくなってしまった。
その頃のテルにはレナちゃんという束縛の強い彼女がいたから、下校が同じになることは無かった。(同じになると、めちゃくちゃ睨まれて怖かったし…)
そんな時だった。いつもの駅でいつものように降りると、見慣れない小さな白いトカゲのような生き物を見つけた。でもトカゲにしては大きい…よく見ると背中に翼がある。
(これ…ドラゴンの幼体だ!)
ドラゴンなんてこんな街中に出るようなモンスターじゃない。ましてや、白銀のドラゴンなんて見たことも無かった。
ドラゴンは視線をコチラに向けたまま動かない。ゆっくりと近づいてみると案内するかのように羽ばたき出した。
追いかけないと。何故かそう思えた。ドラゴンを追って薄暗い路地を歩いた。ドラゴンは時々振り返りながら、速度を私に合わせていた。
(やっぱり…私を案内してる)
しばらく追いかけていると、急にドラゴンは羽ばたくことを止めて、小さく鳴いた。まるで何かを知らせるように。
「どうしたの?」
そう声をかけると、そのドラゴンは首をクイっと振るった。その先にゆっくり周り込むと血塗れた服を着て座っている人を見つけてしまった。
導かれた先に居たのがルシウスだった。
もう一度、ドラゴンは小さく鳴いた。その鳴き声にハッとした。この子はこの人を助けて欲しくて私を導いたんだって。
(もしかして…死んでる!?いや、呼吸音は聞こえる…)
なんて思いながら勇気を出して近づくと、ドラゴンは『待ってた』とでも言うように、するりと足元に絡みついて来た。
「…あの……大丈夫ですか?」
期待に応えようと声をかけたけど、何も返事は返って来ない。それどころか、ピクリとも動かなかった。とりあえず暑い日だったから、鞄の中から水を取り出し差し出してみた。
「これ…まだ口付けて無いので、良かったら…」
「……」
「…水分取らないと、死んでしまいますよ?」
そう言って顔を覗き込んで声をかけてみた。
「…もう…どうでもいい…」
やっと聞こえた声は弱々しくてこのままにしておくのは危険だと、素人の私が見てもわかる。白銀のドラゴンが心配そうに見つめている。
「どうでもいいなんて言わないで。雑踏の中、危険を顧みずに助けを呼びに来た、この子が可哀想ですよ?」
そう声をかけると、伏せていた顔を上げた。思わず息を飲む美しさに一瞬たじろいでしまった。
碧い瞳に端正な顔立ち。左目の下の泣き黒子が色っぽい。声の感じから男性だと言うことが分かった。
「…ああ…そうだな。確かにコイツは可哀想だ。こんな俺の『番』になってしまったんだからな」
「番って…?ドラゴンのこと…?」
ユリアが聞くと頷くでもなく、フッと息を吐くように微笑んだ。
ユリアの手から水のボトルを受け取り、息も吐かずに飲み干す。それと同時に男はよろめいた。
「危ないっ…」
頭より先に身体が動いた。咄嗟に手を出したけれど、受け止めきれずに男の下敷きになってしまった。男はそのまま気を失ってしまったのか、ピクリとも動かない。かなり細身だけど私じゃ運べない。
人を呼ぼうと鞄に手を伸ばすと、その手に向かってドラゴンが炎を吐いた。火花程度だけど。
「熱っ…何?人を呼ぶなってこと…?」
訳ありだってことはこの怪我からも分かる。
「でも…私1人じゃ…」
もういいか…どうせこの後用事があるわけじゃない。なんて考えながら、男が起きるのをそのまま待つ事にした。
「…話しにくいかもしれないけれど、そろそろ聞いていいかな?」
そう言うと国王は申し訳なさそうに目の前の椅子に座った。浅はかな時間稼ぎなんて簡単にバレてしまっている。
ギクリと肩をすくめながら視線をレイに移した。かろうじて椅子に座っているけど圧がすごい。無言でこっちを見てる…。と、言うか睨んでいる。
ジーナが大きなため息と共にレイの肩に手を置いた。
「睨むのやめなさいよ。ユリアちゃんが話しにくいでしょ」
「偉そうに…。今日話しがあること…ばらしたのはあんただろ?」
(そうなの!?!?)
目を丸くしながらジーナの方に視線を移すと、ごめんとジェスチャーで謝って気まずそうに視線を逸らした。
(…怒るに怒れない…)
「いい加減覚悟を決めて話せよ…シュウを早く休ませたいし」
苛立つテルに支えられたシュウの顔色は確かに良くない。「大丈夫だから」と言う、声も弱々しくて痛々しい。シュウの優しさが今はキツイ。良心を抉ってくる。
(私にも優しくして欲しい…)
「…分かりました…話します…」
覚悟を決めた。大きなため息と共にグラスを置くと、ゆっくりと視線を国王に向けた。
「もし…国王様の弟が、私の知っている『ルシウス』なら、それを止めたいって思うし…」
「それって…どう言う意味?」
レイがいつもより低い声で聞いてきた。「言葉以上の意味なんてない…です」と言いながら視線をそらす。国王は頭を抱えながら大きくため息を吐いた。
「レイ君…。いい加減にしてくれないかな?」
「ひとまずレイはおいといていいから、出会いから話してくれないか?」
縮こまる私にパパは微笑んで言った。「レイは俺が止める…」と、不穏な言葉と共に目の前に座った。
(パパの目の奥が笑ってないんだけど…)
あの日のことを思い出すように、大きく息を吐きながら目を閉じた。
***
ルシウスと私との出会いは夏の日。うだるような暑さが続いていていた駅前だった。
その頃の私はというと何をしても楽しくなかった。学校と家の往復を繰り返すだけ。それだけで精一杯の日々を過ごしていた。
ママが死んでからしばらく経っていたけれど、私はまだ普段の自分を取り戻せて無かった。
パパも仕事でほぼ家に居なかったし、ずっと一緒だったテルも私の傍に居なくなってしまった。
その頃のテルにはレナちゃんという束縛の強い彼女がいたから、下校が同じになることは無かった。(同じになると、めちゃくちゃ睨まれて怖かったし…)
そんな時だった。いつもの駅でいつものように降りると、見慣れない小さな白いトカゲのような生き物を見つけた。でもトカゲにしては大きい…よく見ると背中に翼がある。
(これ…ドラゴンの幼体だ!)
ドラゴンなんてこんな街中に出るようなモンスターじゃない。ましてや、白銀のドラゴンなんて見たことも無かった。
ドラゴンは視線をコチラに向けたまま動かない。ゆっくりと近づいてみると案内するかのように羽ばたき出した。
追いかけないと。何故かそう思えた。ドラゴンを追って薄暗い路地を歩いた。ドラゴンは時々振り返りながら、速度を私に合わせていた。
(やっぱり…私を案内してる)
しばらく追いかけていると、急にドラゴンは羽ばたくことを止めて、小さく鳴いた。まるで何かを知らせるように。
「どうしたの?」
そう声をかけると、そのドラゴンは首をクイっと振るった。その先にゆっくり周り込むと血塗れた服を着て座っている人を見つけてしまった。
導かれた先に居たのがルシウスだった。
もう一度、ドラゴンは小さく鳴いた。その鳴き声にハッとした。この子はこの人を助けて欲しくて私を導いたんだって。
(もしかして…死んでる!?いや、呼吸音は聞こえる…)
なんて思いながら勇気を出して近づくと、ドラゴンは『待ってた』とでも言うように、するりと足元に絡みついて来た。
「…あの……大丈夫ですか?」
期待に応えようと声をかけたけど、何も返事は返って来ない。それどころか、ピクリとも動かなかった。とりあえず暑い日だったから、鞄の中から水を取り出し差し出してみた。
「これ…まだ口付けて無いので、良かったら…」
「……」
「…水分取らないと、死んでしまいますよ?」
そう言って顔を覗き込んで声をかけてみた。
「…もう…どうでもいい…」
やっと聞こえた声は弱々しくてこのままにしておくのは危険だと、素人の私が見てもわかる。白銀のドラゴンが心配そうに見つめている。
「どうでもいいなんて言わないで。雑踏の中、危険を顧みずに助けを呼びに来た、この子が可哀想ですよ?」
そう声をかけると、伏せていた顔を上げた。思わず息を飲む美しさに一瞬たじろいでしまった。
碧い瞳に端正な顔立ち。左目の下の泣き黒子が色っぽい。声の感じから男性だと言うことが分かった。
「…ああ…そうだな。確かにコイツは可哀想だ。こんな俺の『番』になってしまったんだからな」
「番って…?ドラゴンのこと…?」
ユリアが聞くと頷くでもなく、フッと息を吐くように微笑んだ。
ユリアの手から水のボトルを受け取り、息も吐かずに飲み干す。それと同時に男はよろめいた。
「危ないっ…」
頭より先に身体が動いた。咄嗟に手を出したけれど、受け止めきれずに男の下敷きになってしまった。男はそのまま気を失ってしまったのか、ピクリとも動かない。かなり細身だけど私じゃ運べない。
人を呼ぼうと鞄に手を伸ばすと、その手に向かってドラゴンが炎を吐いた。火花程度だけど。
「熱っ…何?人を呼ぶなってこと…?」
訳ありだってことはこの怪我からも分かる。
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