140 / 236
キズナとキオク
13.変わらない(テル)
しおりを挟む「今日だなんて…早すぎるだろ」
ため息と共にひとり『待機室』で呟いた。
国王が現れたのは、今朝一口も食べてないシュウの朝食を下げた時だった。いきなり休憩を言い渡されて「病室には近づかないように」と命令された。戸惑う俺とは違って、シュウは落ち着いていた。今日行われることを知っていて、俺に黙っていたようだ。
(そういう事を教えないところが、シュウらしい)
少し素直になったと思ったけれど、甘え下手なのは変わりない。
国王から許可が下りるまでは、病室の隣にある『待機室』で待て。との命令だった。しかも病室の前には父さんが見張りとして立っている。俺が尋問中に冷静じゃ無くなるということを見越してのことだろう。しばらく待機室に一人にされてしまった。ベッドに横になってみたけれど、全く眠れないし、気が休まらない。
(何であのことを思い出すだけで取り乱すシュウを尋問するんだ?)
全く眠れていないシュウを知っている。それに、食事も取れていない。日に日に弱っていくシュウが不安で仕方ない。
(また、発作が起きたらどうするんだよ)
「…っ!眠れるわけないだろ!!」
頭の中でぐるぐると考えが浮かんでは消える。大声で叫ぶと徐に大剣を掴んだ。
何かしてないと病室に押し入りそうで、とりあえず大剣の素振りを始めることにした。
いつも通りのイメージトレーニング。剣を振るうと無心になれた。手の中で重量のある大剣を回して構える。テーマを決めながら、あらゆる攻撃を想定して避けながら剣を振るう。本気の演武を集中してやってみる。
剣を振るう事に集中すると、忘れかけていた日常が戻って来た気がした。
これが終わったら、いつも通りリウム達が「手合わせして下さい!」なんて言いながらやってくる。剣を振るうみんなを、少し離れた所からシュウが微笑ましいと言って見守っている…。
まだ1週間も経っていないのに、遠い昔のように感じてしまう。そんな何気ない日常が。
(まだ終わらないのか?)
額から流れる汗を拭うと時計を見た。シュウの尋問は思った以上に長引いているようだ。こんな長時間するつもりは無かったけれど、久しぶりに剣を振るったら、時間を忘れて集中できた。
シャワーを浴びて着替え終わると、部屋の椅子に静かに誰かが座っていた。
(父さんにしては、背格好が小さ過ぎる)
「!!国王陛下!?」
ハッとして跪いた。この人はいつもいきなり現れる。
「こんな場所でも鍛錬を欠かさないなんて、僕が見込んだだけあるね」
国王はいつもと変わらない余裕の微笑みを浮かべて話しを続けた。
「尋問と言っても、今日は僕が話を聞いただけ。まだシュウの精神状態が不安定だからね。テル君に要らない心配させてしまったかな?」
(本当の尋問じゃなかったのか)
シュウのことを考えてくれているようで少し安心した。
「…シュウは大丈夫ですか?」
「思ったよりも弱ってるね。いつものシュウじゃなかったよ」
国王は苦笑いを浮かべている。
(当然だろ…あんなことされたんだから)
強がっているだけで、ずっと助けを求めていたシュウを知っている。「大丈夫だ」と自分に言い聞かせて、周りにも余裕に見せるのが得意なだけ。
「娘のことはテル君に任せるよ。僕より安心出来るみたいだ。頼りにしてるよ」
困った顔で微笑む国王に「任せてください」と返事した。
「陛下も大丈夫ですか?」
「君に心配されるようじゃ、僕もまだまだだね」
正しく休む暇もない。膨大な後処理に加えて、怪我人の治療(特にレイ)。まともな精神じゃやってられない状況だろう。そんな状況でも余裕を見せる国王陛下を心底尊敬する。
「大丈夫だよ。昼食の用意をして、そのままガイア君とシュウの護衛を交代するように」
そう言って慌ただしく部屋を出て行った。急いで昼食を取りに行くとシュウの病室へと向かった。父さんに交代を告げると、すぐさま病室に入った。
「シュウ!?」
扉を開けて目に入ったのは、ベッドの上で苦しそうにうずくまるシュウの姿だった。膝を抱きながら荒い呼吸を繰り返し、体は小刻みに震えている。俺の声は全く届いていないようだった。
驚かせ無いようにもう一度、今度はそばで優しく声をかけた。声に気付くとシュウは目を丸くしてこっちを見た。触れていいか聞くと小さく頷いてくれたから、そっと手を重ねた。触れた手は氷のように冷たい。
しばらくすると、シュウの荒かった呼吸が整ってきた。青白い顔で額に汗を浮かべたまま「ありがとう」と言うシュウがもどかしくて、何も出来ない自分に余計腹が立った。
サイドテーブルの上を片付けて昼食を置くと、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。すると今度は「休憩時間にごめん」と謝られてしまった。
(…出会ったときから変わらない…)
あんなに酷い目にあって自分の方が辛いはずなのに、俺の身体を気遣う所とか。
「昼食持って来ただけ」
そう言うとシュウは少し考えてから「後で食べる」と呟いて、ブランケットを引き寄せた。無理に微笑んで言う顔もあの時から変わらない。
(既視感しかない)
次にすることも分かってしまう。きっとブランケットに潜り込んで「食欲ない」って言うんだろ?
その前にゼリーの蓋を開けてシュウの手を引いた。
「ずっと食べて無いだろ?」
「ごめん…食欲無くて…」
(合ってた)
こんな時なのに、出会った時と変わらないシュウに笑ってしまった。胸の中で不思議そうに見上げるシュウに、ごめんと謝った。
「…あの時に似すぎ」
そう言ってもまだ気付いてないシュウにまた笑ってしまう。ゼリーを手に微笑みかけた。
「あの時みたいに口移しがいい?」
ちょっと意地悪してみた。やっと思い出したのか、シュウの顔がみるみる赤く染まっていく。シュウが無言で手にしていたゼリーを奪い取り、一気に飲み干した。
(絶対にブランケットを引き寄せる)
思った通り、シュウは顔を隠そうとブランケットを引き寄せた。あの時と同じなんて笑っていると、シュウは顔を真っ赤にしながら固まっている。
最近は見せなかった顔。照れてどうしようかと困っている顔。多分俺にしか見せたことのない表情。
愛おしくて守りたくてシュウの頬に手を添えた。
「本当…シュウは何も変わらない。俺の好きなシュウのままだから」
そんなことを呟いた気がする。涙ぐみながら見つめ返すシュウが、そっと頬に触れた。
一気に身体が熱を帯びてくる。久しぶりにシュウの方から触れてくれた。
「…キスしてもいい…?」
なんてつい口をついて出てしまった。ヤバいと口を手で押さえたけれど、俺の予想とは違ってシュウは小さく頷いた。
初めてするかのように、胸がうるさいくらいに高鳴る。軽いキスをして、シュウと目を合わせた。照れて微笑むシュウが強く指を絡めるから、可愛いくてもう一度唇を合わせた。
「顔色…良くなってきて良かった」
「うん…もう平気」
何度もキスを繰り返した後に、不自然に立ち上がった。
(これ以上はまずい。理性が持たない)
「あー…スープも飲めそう?」
「飲めそう…かな?」
顔を赤くしながら視線を逸らして頷いた。二人して照れていることがおかしくて笑い合った。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる