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襲撃
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テルは何とかラウグルの攻撃をかわして、ワイトの武器を薙ぎ払う。何分も持たない息も上がってきた。攻撃の精度も落ちてきた。
2人を守りながら、戦うのはもう正直言ってキツイ。速く逃げて欲しいと振り返ると、目に入ったのはファリスとシュウの濃厚なキスシーンだった。
(…何をしてるんだ?)
一瞬で冷静になれた。冷静と言うよりは無になった。殺意がファリスに向きかけた所に、ラウグルが至近距離まで詰めて来た。
(どいつもこいつも)
ラウグルは捕まえた。と言わんばかりに、目をギラつかせて右腕の傷口を掴んだ。
あまりの痛みに目が霞んだ。身体から脂汗が一気に吹き出した。
「ほら、叫んどけよ!痛いって!」
苦痛に顔を歪めながら、倒せる方法を考えた。もう核を簡単に壊す『突き刺す』という行為は出来ない。それなら、次の弱点『首を落とす』は?
首を落としても、消滅はしないがくっ付ける為に隙ができる。そっちを狙う。
顔の前で大口を開けた馬鹿笑い。折れて、詰めやすくなった大剣。今までにないくらい近づいた距離。完璧に油断しきったラウグル。
左手に持った大剣を、ラウグルの左首元に当てた。
(いける!)
そのまま横に振り抜くつもりで、力を込めた…が…。半分くらい斬れた所で剣が止まってしまった。
予想以上に硬い。これ以上は剣が進まない。利き手じゃないにしても、いけると思った。
焦りと諦めが入り乱れて力が抜ける。
「残念だったな」
首から血のような体液を流しながら、ニタリと笑う。首に中途半端に刺さった剣を握ったまましゃべっている。
(弱ってもないのか…)
もうイーター達を倒す策はない。
そう思った時だった…。バンという破裂音と共に、辺り一面に肉片と体液が飛び散った。
(何が…起きた…?)
「テル君!!そのまま振り抜いて!」
シュウの声がする。目の前を見ると、ラウグルの腹が破裂していた。ラウグル自身も何が起きたか分かっておらず、視線を自らの腹に向けたま、固まっている。
ー今なら、いける!
すぐさま、柄を握る手に力を込めると、全力で押し切った。ラウグルの首が床に転がる。
「キサマ!!何をした!!」
体から離れた首は、床に転がったままシュウを睨んで大声で暴れている。
「イリヤの娘!!お前かっ!クソ!」
(シュウの力なのか…?)
シュウはラウグルに向けて手をかざしたまま、ファリスの腕の中に崩れ落ちるように倒れ込んだ。気を失ったのか?
(どうやって…?)
今は考えている暇は無い。首を失った体は、床にどさりと崩れ落ちたが、手足をバタつかせて首に向かって移動し始めた。
やっぱり、核を壊さない限りイーターは消滅しない。
すぐさま、ラウグルの身体に剣を突き立てようと、狙いを定めた。
「ラウグル。何油断してるんだ?本当バカ」
ワイトがラウグルの首を回収して、バタつくラウグルの身体の上に飛び降りた。
剣を構えたテルを振り返ると、自分の唇を思いっきり噛み切った。
「もう遊びはお終いだ」
ワイトは睨みつけると、テルに向かって口を大きく膨らませた。何をする気か考えている暇なんて無かった。
この動作は多分ブレスだ。炎か氷の息を吐き出そうとしている。瞬時に剣でガードの体制を作った。
予想通りにワイトは炎のブレスを吹きつけてきた。
(思った通り…?)
じゃない。ちょっとした違和感。なぜ、わざと唇を噛み切った?ブレスの炎…何かが違う。煙に包まれて息苦しい。大きく息を吸い込むと、異変に気付いた。肺に激痛が走って咳込んだ。慌てて口を抑える手に大量の血が付いている。
(ワイトの特殊能力…体液を武器に出来る…それは気体になっても…?!)
炎によって拡散されたワイトの体液は、吸い込むと肺が無数の針で刺されたかのような激痛がおきる。熱風がかかった顔は赤黒く爛れた。
毒ガスと同じように体の中から身体を蝕む。物理攻撃とは違い、この攻撃を防ぐことはできない。
「残念だね。全員ここで苦しみながら死ぬんだ。さようなら」
ワイトはラウグルの首と身体を持って、窓から外に飛び降りた。
「ファリスっっ!外に…速く…!」
(シュウと…ファリスは…?)
最後の力を振り絞って叫んだ。呼吸がしずらい。身体中が痛い全身が爛れている。目も開かない。喉も裂けるように痛くて、声は出せない。意識も朦朧として来た。
テルはどさりとその場に倒れ込んでしまった。
***
ファリスは頭をフル回転させて考えた。
シュウがキスして来たかと思ったら、ラウグルに手を向けて聞いた事の無い紋唱を唱えた。そしたら、ラウグルが破裂して…シュウはまた意識を失ってしまった。
隙ができたラウグルの首を、テルが切り落として…。そしたら、ワイトの方が炎を吐いて窓から飛び降りた。イーターを倒したのかと思ったら、「外へ!」と叫んでテルが倒れ込んでしまった。
ここからテルを見て、分かったことは『吐血して、身体中爛れてる』ってこと。
(…症状的に…毒…!?)
スモッグに包まれているテルには近づけない。毒ガス的なものなら、こっちもまずい。
ファリスは自己治癒能力を向上させて毒に備えた。それでも、息を吸い込むと、肺が痛い。咳き込む。シュウを急いで教室の外へ出した。多分毒を吸ってる。シュウも早く治療を開始しないと。
でも、今命の危険があるのはテルの方だ。ただ、俺があのスモッグの中に入るとこっちもタダでは済まない。下手したら、死ぬだろう。
「どうしたらいいんだよ…」
「大丈夫?」
焦って叫んだ途端に背後から声をかけられた。なんて言うんだろう。…澄んだ、優しくて美しい声。
思わず振り返ると、淡い色のタイトなワンピース姿の美女が困った顔をして立っていた。
綺麗なルビー色の大きな瞳に、通った鼻筋。ファリスと目が合うと、妖艶な口元で微笑み、シルバーグレージュの髪をなびかせた。しなやかな身体付きに見惚れてしまう。この世のものとは思えない美しさ。…でも、足が片方だけ義足だ…。どこかで見た事がある…。少し考えて、あ!っと跪いた。
「ミーナ王妃様!」
「いえ、こちらこそ驚かせてしまってごめんなさい。あなたは大丈夫そうね?すぐに治療を始めましょう」
所々はシュウと似ているけれど比じゃない。国王が一目惚れするのも理解できる。美しくて、それを鼻にかけない優しさ。
見惚れているファリスには目もくれずに、ミーナはシュウに近づき、呼吸や身体の状態を確かめた。
「シュウをお願い。毒の浄化だけで大丈夫。テル君は私が行くわ」
そう言うと、スモッグの中へツカツカと進んで行った。ミーナが歩くと淀んだ空気が澄み渡る。
どんな魔法…能力?を使ったのかは分からないけれど、周囲の毒を浄化しているようだ。呼吸もしやすくなった。
そして惚れ惚れするような手際の良さで、テルの治療を始めた。テルの体内に回った毒をあっという間に浄化していく。皮膚の爛れを治すと、テルは自発呼吸ができるまでになった。
ミーナはふぅと、安堵のため息をつくとテルの耳元で何かを呟いて…、それからこちらに向かって歩いてきた。
「間に合って良かった。あなたも、シュウを治療してくれてありがとう」
ファリスがハイ!と返事をすると、ミーナは口元に手を当てて微笑んだ。
「今、イリヤがこの学校全体を覆う聖域を張ったわ。これで、イーターは思い通りに動けない。だから…安心してね?」
そう呟くと、ミーナは気を失ったままのシュウの隣りに座り込んだ。
「シュウも、テル君も…まだ動けない。しばらくはここで待機しましょうか?大丈夫。みんなの所にも国王軍のガーディアンが向かっているから」
ミーナはそう言うと窓の外を眺めた。夜の暗闇の中、光のカーテンのように帳が降りる。ファリスは優しい光にやっと自分が助かったんだと実感した途端に、腰が抜けて座り込んだ。
テルですらこの状況…。みんなの無事を祈りながら、ミーナと一緒にテルが目を覚ますのを待った。
2人を守りながら、戦うのはもう正直言ってキツイ。速く逃げて欲しいと振り返ると、目に入ったのはファリスとシュウの濃厚なキスシーンだった。
(…何をしてるんだ?)
一瞬で冷静になれた。冷静と言うよりは無になった。殺意がファリスに向きかけた所に、ラウグルが至近距離まで詰めて来た。
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首を落としても、消滅はしないがくっ付ける為に隙ができる。そっちを狙う。
顔の前で大口を開けた馬鹿笑い。折れて、詰めやすくなった大剣。今までにないくらい近づいた距離。完璧に油断しきったラウグル。
左手に持った大剣を、ラウグルの左首元に当てた。
(いける!)
そのまま横に振り抜くつもりで、力を込めた…が…。半分くらい斬れた所で剣が止まってしまった。
予想以上に硬い。これ以上は剣が進まない。利き手じゃないにしても、いけると思った。
焦りと諦めが入り乱れて力が抜ける。
「残念だったな」
首から血のような体液を流しながら、ニタリと笑う。首に中途半端に刺さった剣を握ったまましゃべっている。
(弱ってもないのか…)
もうイーター達を倒す策はない。
そう思った時だった…。バンという破裂音と共に、辺り一面に肉片と体液が飛び散った。
(何が…起きた…?)
「テル君!!そのまま振り抜いて!」
シュウの声がする。目の前を見ると、ラウグルの腹が破裂していた。ラウグル自身も何が起きたか分かっておらず、視線を自らの腹に向けたま、固まっている。
ー今なら、いける!
すぐさま、柄を握る手に力を込めると、全力で押し切った。ラウグルの首が床に転がる。
「キサマ!!何をした!!」
体から離れた首は、床に転がったままシュウを睨んで大声で暴れている。
「イリヤの娘!!お前かっ!クソ!」
(シュウの力なのか…?)
シュウはラウグルに向けて手をかざしたまま、ファリスの腕の中に崩れ落ちるように倒れ込んだ。気を失ったのか?
(どうやって…?)
今は考えている暇は無い。首を失った体は、床にどさりと崩れ落ちたが、手足をバタつかせて首に向かって移動し始めた。
やっぱり、核を壊さない限りイーターは消滅しない。
すぐさま、ラウグルの身体に剣を突き立てようと、狙いを定めた。
「ラウグル。何油断してるんだ?本当バカ」
ワイトがラウグルの首を回収して、バタつくラウグルの身体の上に飛び降りた。
剣を構えたテルを振り返ると、自分の唇を思いっきり噛み切った。
「もう遊びはお終いだ」
ワイトは睨みつけると、テルに向かって口を大きく膨らませた。何をする気か考えている暇なんて無かった。
この動作は多分ブレスだ。炎か氷の息を吐き出そうとしている。瞬時に剣でガードの体制を作った。
予想通りにワイトは炎のブレスを吹きつけてきた。
(思った通り…?)
じゃない。ちょっとした違和感。なぜ、わざと唇を噛み切った?ブレスの炎…何かが違う。煙に包まれて息苦しい。大きく息を吸い込むと、異変に気付いた。肺に激痛が走って咳込んだ。慌てて口を抑える手に大量の血が付いている。
(ワイトの特殊能力…体液を武器に出来る…それは気体になっても…?!)
炎によって拡散されたワイトの体液は、吸い込むと肺が無数の針で刺されたかのような激痛がおきる。熱風がかかった顔は赤黒く爛れた。
毒ガスと同じように体の中から身体を蝕む。物理攻撃とは違い、この攻撃を防ぐことはできない。
「残念だね。全員ここで苦しみながら死ぬんだ。さようなら」
ワイトはラウグルの首と身体を持って、窓から外に飛び降りた。
「ファリスっっ!外に…速く…!」
(シュウと…ファリスは…?)
最後の力を振り絞って叫んだ。呼吸がしずらい。身体中が痛い全身が爛れている。目も開かない。喉も裂けるように痛くて、声は出せない。意識も朦朧として来た。
テルはどさりとその場に倒れ込んでしまった。
***
ファリスは頭をフル回転させて考えた。
シュウがキスして来たかと思ったら、ラウグルに手を向けて聞いた事の無い紋唱を唱えた。そしたら、ラウグルが破裂して…シュウはまた意識を失ってしまった。
隙ができたラウグルの首を、テルが切り落として…。そしたら、ワイトの方が炎を吐いて窓から飛び降りた。イーターを倒したのかと思ったら、「外へ!」と叫んでテルが倒れ込んでしまった。
ここからテルを見て、分かったことは『吐血して、身体中爛れてる』ってこと。
(…症状的に…毒…!?)
スモッグに包まれているテルには近づけない。毒ガス的なものなら、こっちもまずい。
ファリスは自己治癒能力を向上させて毒に備えた。それでも、息を吸い込むと、肺が痛い。咳き込む。シュウを急いで教室の外へ出した。多分毒を吸ってる。シュウも早く治療を開始しないと。
でも、今命の危険があるのはテルの方だ。ただ、俺があのスモッグの中に入るとこっちもタダでは済まない。下手したら、死ぬだろう。
「どうしたらいいんだよ…」
「大丈夫?」
焦って叫んだ途端に背後から声をかけられた。なんて言うんだろう。…澄んだ、優しくて美しい声。
思わず振り返ると、淡い色のタイトなワンピース姿の美女が困った顔をして立っていた。
綺麗なルビー色の大きな瞳に、通った鼻筋。ファリスと目が合うと、妖艶な口元で微笑み、シルバーグレージュの髪をなびかせた。しなやかな身体付きに見惚れてしまう。この世のものとは思えない美しさ。…でも、足が片方だけ義足だ…。どこかで見た事がある…。少し考えて、あ!っと跪いた。
「ミーナ王妃様!」
「いえ、こちらこそ驚かせてしまってごめんなさい。あなたは大丈夫そうね?すぐに治療を始めましょう」
所々はシュウと似ているけれど比じゃない。国王が一目惚れするのも理解できる。美しくて、それを鼻にかけない優しさ。
見惚れているファリスには目もくれずに、ミーナはシュウに近づき、呼吸や身体の状態を確かめた。
「シュウをお願い。毒の浄化だけで大丈夫。テル君は私が行くわ」
そう言うと、スモッグの中へツカツカと進んで行った。ミーナが歩くと淀んだ空気が澄み渡る。
どんな魔法…能力?を使ったのかは分からないけれど、周囲の毒を浄化しているようだ。呼吸もしやすくなった。
そして惚れ惚れするような手際の良さで、テルの治療を始めた。テルの体内に回った毒をあっという間に浄化していく。皮膚の爛れを治すと、テルは自発呼吸ができるまでになった。
ミーナはふぅと、安堵のため息をつくとテルの耳元で何かを呟いて…、それからこちらに向かって歩いてきた。
「間に合って良かった。あなたも、シュウを治療してくれてありがとう」
ファリスがハイ!と返事をすると、ミーナは口元に手を当てて微笑んだ。
「今、イリヤがこの学校全体を覆う聖域を張ったわ。これで、イーターは思い通りに動けない。だから…安心してね?」
そう呟くと、ミーナは気を失ったままのシュウの隣りに座り込んだ。
「シュウも、テル君も…まだ動けない。しばらくはここで待機しましょうか?大丈夫。みんなの所にも国王軍のガーディアンが向かっているから」
ミーナはそう言うと窓の外を眺めた。夜の暗闇の中、光のカーテンのように帳が降りる。ファリスは優しい光にやっと自分が助かったんだと実感した途端に、腰が抜けて座り込んだ。
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