セイレーンのガーディアン

桃華

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襲撃

14.話したいことがある(テル)

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 殴りかかってくるイーターの腕を斬り斬り落とすと、心臓の核を狙って大剣を構え直した。
 間合いを詰めて懐に飛び掛かる。敵の身体は大きいから、間合いを詰めるのは簡単だ。

 足を一歩踏み出したところで、イーターの異変に気がついた。

(嘘だろ!?)

 切り落としたはずの腕が、もう既に生えている。

「バカが。こんなのはかすり傷だ!」

 ガハハと大きく口を開けて笑う余裕まで見せて、逆に腕を広げてこちらに向かって来た。

 このままだと捕まる。

 突き刺そうと構えた大剣を咄嗟に振りかぶると、剣を掴もうとしていたイーターは、前のめりになってよろけた。
 そこを狙って死角から、渾身の力を込めて蹴りを食らわせる。
 流れは悪くない。当たりどころも良かったはずだ。
 死角からノーガードで蹴りを受けた巨体は宙を舞い、轟音を響かせて壁にめり込んだ。

「すごい身体能力だね。君何者だい?少し興味が沸いたよ」

 傍観していただけのもう一人のイーターは、わざとらしく驚いた表情を見せて立ち上がった。

「どうも…」

 返事をしようとしたタイミングで、壁が崩れる音が響いた。

「やめろワイト。コイツは俺の獲物だって言っただろ。手を出すな」

「!!」

 崩れた壁に目をやると、さっきまでめり込んでいた巨大なイーターが、何事も無かったように歩いてくる。

(…まぁ…そうだよな…)

 その体には傷一つ見当たらない。もう再生している。正しく化け物なんだろう。首を鳴らしながらフードを被ったイーターと並んだ。

(さぁ…どうするかな?)

 脂汗が頬を伝う。目の前には二体のイーター。この頑丈さや攻撃力、それと任務を遂行できる知能は、多分国王軍隊長クラスだろう。

 シュウを守るには、このイーター化け物2体を倒さないといけない。
 しかも、シュウを治療しているファリスに近づけさせないように、戦わないといけない。

(かなり不利な状況だな)

 けれど俺はコイツらを倒して、シュウを助け出す。聞きたいことも、言いたいこともたくさんある。

(このまま死ぬ訳にはいかない。俺もシュウも…)

 落ち着けと自分に言い聞かせて、大剣を構えた。

「2回も吹っ飛ばされたのは久しぶりだぜ!興味が沸いた。名前も知らない奴に喰われるのは嫌だよな?俺はラウグル。で、こっちはワイトだ!俺の能力はなぁ…!!」

「それ以上は止めろよ?やっぱり、お前と組むのは嫌だ。バカだから」

 ワイトが懐から短剣を出して、ラウグルの自己紹介を遮った。

「別に俺の能力を教えた所で、なんの影響もねーよ。どうせコイツは、俺に喰われておしまいなんだからな」

 ラウグルが笑いながら、ワイトの肩を叩いている。

 ラウグルの興味の対象は、シュウではなく俺。それならそっちの方が好都合だと、わざとらしく声を上げて笑った。

「俺を喰えると思ってるのか?ラウグルだったか?そっちのイーターの言う通り、馬鹿なんだな?」

 余裕の表情を作ると『かかってこいよ』と手招きをした。

「かわいそうだな。自分の実力も分からねーのか。いいか?ワイト絶対手を出すんじゃねーぞ?」

 思った通り。ラウグルは単純。俺の挑発にあっさりと乗ってきた。

 うざそうに『お手上げ』と手を挙げたワイトは、きっと手出しはしてこないだろう。

 それと同時に、ファリスに『隙を見て逃げろ』と、目配せをした。
 ファリスは、じっとこちらを見つめながら小さく頷いた。

 戦いが長引けば長引くほど不利になる。イーターのように頑丈でなければ、切れた腕が元に戻ることも無いんだから。

短時間で確実に仕留めないといけない。

 イーターは核さえ破壊出来れば消える。人型の場合は大抵心臓だ。

 ウォーと、雄叫びが聞こえたかと思うと、ラウグルの身体が2倍に膨れ上がった。
 青黒い皮膚は赤くなり、裂けた口から牙が更に長く伸びた。かざした手には鉤爪が伸びてゴーレムとドラゴンを足したような風体になった。

(簡単にはいかないか…)

 こちらが大剣を構える前に襲いかかって来た。

 大きな身体に似合わない素早い動き。そこから振り下ろされた鉤爪は、何とか剣で受けた。衝撃が伝わって、てがジンと痺れる。

(っ…力負けする)

 受け流す為に後ろに飛び退くと、今度は横から回し蹴りが飛んでくる。
 それを腕でガードするが、巨体から繰り出される蹴りの衝撃に、腕からメキッと鈍い音が聞こえた。

 ガードしたはずの腕は折れ、体が宙を舞った。

「っ…!!」

 このままだと壁に激突する。何とか衝撃を和らげる為に、無理矢理空中で身体を捻り、吹っ飛ばされた勢いを利用して教室の壁を蹴り上げた。
 何とか激突は免れたが、腕がこのままじゃまずい。自己治癒を最大限に使う。

(この程度なら10秒有れば治る…はずだ)

 イーター達に気付かれないように、慎重に…だけど素早く腕を治す。
 その為に教室中を動き回った。この自己治癒がバレるのはまずい。

「逃げ回るのか?つまんねーだろ!さっさとかかってこいよ!」

 挑発は無視してひたすらにラウグルの攻撃を避ける。
 巨体にしては速いが、素速さは俺の方が上だ。
 ラウグルの攻撃は大きい分、全て大ぶりになる。攻撃した後に隙が出来る。
 腕は思い通り、数十秒でくっついた。その瞬間に、わざと立ち止まるった。

(ここからは攻撃にまわる)

 ラウグルの攻撃を誘う。攻撃の癖は見抜いた。拳を振るう時は必ず右から並行に振り抜く。それと、大振りだからコンマ数秒よろける。

 ギリギリまで引きつけると、素早く懐に潜りこみ、ガラ空きの心臓目がけて剣を突き出した。

「そこから狙うか!ますます面白いやつだなっ!だが残念だったなっ」

 狙いは完璧だったのに、剣はラウグルの身体を貫かない。
 まるで、鋼鉄に剣を突き立てたように弾かれた。

(硬いっ!?)

「俺の皮膚は赤くなると強度が増すんだ。残念ながら、炎も剣も効かねーよ」

 ラウグルの馬鹿笑いに舌打ちすると、すぐに距離を取った。
 ラウグルを観察すると首元や手首…関節は青黒いままだ。

(もっと早く気づけば良かった)

「それなら…皮膚の色が変わってない所が弱点ってことだな」

「へー。良く気付いたな!!お前すごいな!」

「…ラウグル、お前本当にバカだろ?自ら弱点バラすバカがどこに居るんだよ」

「分かった所で無駄だからだよ!そんな所斬られた所で問題ない!直ぐに治るからなぁ」

 確かに言う通りかも知れない。だけど、そんなことはどうでもいい。弱点があるならそこを攻める。

 もう一度大剣を構えると、大きく息を吐いた。
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