セイレーンのガーディアン

桃華

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国王からの依頼

7.同じ秘密(ユリア)

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 ゼルとアスカの二人とは、養成校の駅前で待ち合わせた。
 明け方まで戦っていた駅には、所々にイーターとの戦いの痕が残っている。
 地下はまだ立ち入り禁止で、地下鉄は止まっているようだ。応援に来てくれた、プロガーディアンはまだ後処理をしている。
 その中の1人と目が合い軽く会釈をして、その場を離れようとしたときだった。

 隣りを歩いていたシュウはその現場で足を止めた。

「……ドラゴンイーターが現れたんだよね?大変だったね。殉職者が三人も出てしまったし…」

 違和感が拭えない。足を止めてシュウを振り返った。

「あのさ…。さっきから気になっていたんだけど。今朝のこと何でそんなに詳しいんだ?」

 俺は今朝のことを話してはいない。それに、シュウはずっと俺と一緒にいた。それなのに、シュウは詳細を把握してる。

(何で知ってるんだ…?)

 聞かれたシュウは、瞳を大きく開いて黙り込んだかと思ったら、スマホを俺の目の前に翳した。

「……アスカだよ?連絡取り合っていたから」

「嘘…。俺と会ってからスマホ触ってないじゃん」

 俺が詰めていくと、シュウは目を細めてコロコロと笑い始めた。

「何で笑うんだ?」

「意外と疑り深いなって。テル君がお父様と仲良くなる訳だって納得したよ」

「それは褒め言葉?」

「笑ってごめんね?さすがだなって思ったの」

「それはどうも…で、何で?」

「私が聞いたのは、テル君と会う前に…。だよ?シャワー浴びてたんだよね?アスカから「終わったーっ」て連絡もらってたの。イーターが現れて大変だったって」

(確かに…。それならあり得るか)

 アスカとシュウは幼い頃から仲がいい。イーターと戦わせてもらえないシュウの事を知っていてもおかしくはない。 
 だから、イーター討伐に行った日は、アスカが色々とシュウに教えていたのかもしれない。
 俺の今日聞いた「守りたい者」の話はアスカが知っててもおかしくはない。
 アスカはお人好しだ。(レイと違って)そうなると、シュウの意思を尊重して戦いの詳細を教えていてもおかしくはない。
 近い将来…。セイレーンが見つかった時のために。シュウがイーターからセイレーンを守れるように。

(親友だもんな…)

「……着歴見せようか…?」

「いいよ。もう納得できた…」

「そう?…良かった。疑いが晴れて…」

 シュウがそう微笑んだ途端に、アスカが名前を呼びながら手を振っているのが見えた。
 その隣りには、まだ少し眠そうにしているゼルが立っていた。

「さすがアスカ。時間ぴったりだね」
「そうだな」

 合流してすぐに、電車に乗って四人てユリアの待っている家に向かうことにした。

***


 ハァハァと肩で呼吸をしながらリビングのソファーの上で丸まった。
 結局、流された私は二回目もレイを受け入れてしまった。
 そしてその事を、終わった後にすごく後悔した。

 一回目の時より魔力を留めるのが難しい。多分、私の体内に流れる魔力量が多すぎる。
 苦しそうにしている私の隣りで、レイは服の上から手を当ててくれている。

「さっきみたいに集めることはできる?」

 後ろから抱き寄せるレイを見上げながら『出来ない』と、首を振った。
 
 さっきと同じ要領でやっているはずなのに混ざらない。吸収した魔力の量が多いのかもしれない。
 魔力は熱い熱のままで体内を駆け回ってる。

(今、声出すと『魅了』になる…それは分かる…)

(もう一度、集中しないと)

 目を閉じて最初から魔力を集めるイメージをする。額から汗を滴らせながら、何とかできたのは『集める』というところまでだった。
 集めて留めることが出来たら…、何とか『魅了』を防げる。

「汗すごいけど…キツイ?」

「…っ…っチカラは抜くと…っダメ…かも」

 今留めてる魔力がバラけてしまうと『声』に魔力がこもってしまう。それも自分でなんとなく分かる。

「へー…。吸収した魔力を集めて固定すると、声に力はこもらないんだな」

 若干関心しながら顔を覗きこむレイに、ちょっとだけイラッとしてしまった。

(誰のせい…!?)

 レイの服を強く握りながら、荒い息遣いを繰り返していた。
 そんな時だ…。タイミング悪くテルが帰って来たのは…。
 扉の開く音と…何故かみんなの話し声がする。

(嫌な予感がする……。このままリビングにくるんじゃ……)

 思った通り。次の瞬間にはリビングの扉が開いた。

「ただいま……」

「あ……お帰り」

 目を丸くして固まるみんなに、冷静にそんなことを言えてしまうレイ。またしてもカオスな状態だ。

 呼吸を荒くしているユリアにみんな絶句している。

(そうなるよね…)

 顔は火照ってるし。身体はしっとり汗ばんでレイの腕の中にいるし。

「……何?今度はバイブでも挿れた?」

すっっごい白けた目でテルが言った。

「…それいいね。今度からそうする?」

 ノリノリでそんなことを言うレイを睨みつけた。

「…ち…違っ」

 反論しようと声をだすと、留めていた魔力が散りそうになる。最早反論すらできない。

「…ユリアどうなってるんだ?ヤッたんじゃなかったのか?何で大丈夫なんだ」

「俺が教えた。仕組みさえ分かってしまえば大丈夫。ユリア、コントロール上手かったよ?」

 レイがいたずらに笑って、私の肩を引き寄せた。その瞬間、力がフッと抜けそうになった。

「…っもう…無理かも…」

 なんとか抑えてたのにコントロール出来ない。

「…待って…ユリアの様子がおかしい」  

 異変に気づいたシュウがソファーに駆け寄ってきた。肩で息をする私の呼吸の手を取った。
 そのまま脈を測り「大丈夫?」と優しく声をかけてくれる。

「……魔力が溢れ出さないようにしてる?暴発しそう…?」

 驚いて声が出そうになるのを必死に堪えて頷いた。

(……何かに気づかれた?)

 目を丸くしている私に、シュウはやさしく微笑んで『大丈夫』と言ってくれた。

「それなら大丈夫…。私が何とかするよ」

(……え?……)

 微笑んだシュウの顔が近づいた。しかも唇が触れそうな程の近距離。

「少し口を開いて?リラックスしてね?」

 そう言うと、私の肩を押さえるようにレイに指示を出した。

(治癒魔法?体内の要らない魔力を排除する治癒魔法なんてあるのかな…?)

 そんなことを考えていると、シュウは更に顔を近づける…。至近距離で見つめるシュウはあまりに綺麗で息を呑んだ。

 うっすらピンク色で柔らかそうな唇。ふくよかな胸が腕に当たってる。見惚れているとその唇が私の唇に触れた。

「!?」

 パニックになって頭が真っ白になった。
 息を吸うことも忘れていた。その少し開いた口内をシュウの舌が念入りに弄る。
 口蓋から歯茎…唇の裏を丁寧なぞっていく。

(何されているの?!)

 自分だけが分かってないのかと思ったけど、見上げたレイも訳がわからず驚いていた。
 と、いうかこの場にいる全員が驚いていた。
 本の数十秒でその行為は終わり、シュウはゆっくりと唇を離すと、2人の間に伝う銀糸を手で拭った。

「っぷはっ!!!」

 あんなことをした後なのに、シュウは冷静で…。私は顔を真っ赤にした。

「……どうかな?」

 濡れた唇で私の顔を覗き込んだ。

「!!どうって……っ……え?」

 問われて気付いた。さっきまでコントロール出来なかった魔力の熱が、消えてる。

「……大丈夫……。……え……?何で…」

 シュウは心なしか瞳の色がうっすらと紅くなっている気がする…。
 目が合うといつものように静かに笑いかけた。

「……私ね、サキュバスとのクォーターなの。純血の天使族じゃない。身体の中の魔力は私が吸収したから…。もう大丈夫」

「…え…」

 シュウが微笑みながら呟いた一言で、全員が息をのんだ。
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