59 / 240
親睦会
2
しおりを挟む
放課後の訓練が始まり十日が経った。
モンスターの凶暴化騒ぎのあった実戦ルームは、今は私たちの貸切となっている。
予選会はかくれんぼ。その性質上AチームとBチームが合同で特訓する事が多かった。
隠れる役である『対象人』はAチーム指導教官のイリーナか、Bチーム指導教官のトム。
対象人をゴール地点に運ぶことを阻む役も、その二人のどちらかが指揮をとってガーディアン仲間に略奪指示をだす。
(二人共クラス1stのガーディアンということは、今回の件で初めて知った)
「かくれんぼ」は、私とテルの耳のいい特性が役に立った。
モンスターと人の心音の違いが分かるのは、当たり前。慣れて来た今では、Bチームと隠れている教官との違いまで分かるようになった。
だからこそ、誰よりも早く対象人を見つけ出すことができた。それなのに、ゴールに着けない。
ゴール地点に行くまでに何度も略奪されてしまう。
Bチームは本気で略奪しにくるし、襲いかかってくるガーディアンは強い。追加ルールで「対象人」のバングルをガーディアンに壊されたらその時点で失格となるから、全くゴールに着けない。
初めは1時間半だった放課後訓練は、三日後には2時間…五日後には3時間というよう感じで、訓練は毎日遅くまで続いた。
その鬼のフィールド訓練が終わると、今度は反省会…。今はその反省会中だ。
(今日も家に着く頃には真っ暗だ…)
「Aチームは対象人を見つけ出すのは早いけど、対象人を疎かにしすぎ。今日は3回バングルを壊されかけた。個人プレーに走り過ぎよ」
膝に顔を埋める私の頭上で、イリーナ教官の声が響いた。
「Bチームはいつも先を越されて悔しくないのか?対象人は見つけて終わりじゃ無い。先に奪われてしまうなら、奪い取る戦術ももっと考えるべきだ」
トム教官の声もするけれど…。隣りのBチームもみんなぐったりしている。
(それはそうだ…)
この10日でSクラスのモンスターを、一人100体は倒している。みんな疲れきっている。
流石のテルも口数が少ないし。身内を贔屓するわけじゃないけど、テルは体力はある方なのに。
現に訓練中は四方八方に気を配り、襲ってくる相手への攻撃指示を出しつつ、自分も戦う。
対象人を見つけるタイミングの指示や、特性に合った人員配置は全部テルが担っているし。
(リーダーだな…本当に)
「Aチームは集まって」
イリーナがみんなに声をかけた。その声に立ち上がろうとすると足が震える。立ち上がることすら辛い。
「今まで部隊長であるリーダーは決めて無かったけれど…。今日までの動きを見て決めたわ。Aチームのリーダーは、テル。そして副リーダーはシュウね」
誰からも異論はないし、そうだろうなって思っていた。テルはやっぱり周りを見て指示を出すのが上手いし…。シュウはそもそもみんなの動きを見てサポートする立場だ。
「テル、リーダーになったからには、ユリアにも優しくしないとダメよ?」
多分、立ち上がれない程消耗してしまっている私を見て、イリーナはテルに叱ってくれた。
「今日は比較的楽な『護衛』に回したんですけどね?しかも、最後の最後に攻撃を見過ごして対象人怪我させるし…」
テルが大きなため息と共に嫌味を言ってくる。
(…怒ってる…?)
今までのフィールド訓練はずっと『捜査』だった。だから今日は疲れの取れていない私を見越して、テルが護衛に回るよう言ってくれた。
しかも、襲い掛かるモンスターはほぼほぼ3人が倒してくれていた。
(それなのに…)
いつもその役割はテルだった。護衛をしながら指示を出す感じ。
今日はテルが捜索になり対象人を見つけ出し、狙っているガーディアンに気配りしながら指示をだしていた。
私は護衛に集中していればいいだけだったのに…。テルより楽なはずだったのに。
後ろから対象人を狙っていた、ガーディアンに気付くのが遅れた。そのフォローに回ったのもテルだったし。
「ユリアの一番の役割は捜索と撹乱。運動量が多いのは分かっているけど、すぐにバテ過ぎ」
正論すぎて何も言えなかった。私じゃレイやゼルの役目は担えない。シュウのように治癒もできないし、アスカのようにいいところで補助もできない。
(…足引っ張ってる…)
予選は2日間だし本当はこんな事でバテてられない。膝に顔を埋めて泣きそうになる。こんなことで泣いてなんていられない。しっかりしないとダメだ。
そう、思えば思う程…顔を上げられなくなった。
「大丈夫だよユリア。いきなりの配置換えだったし仕方ないよ。頼れるところは頼っていいし、疲れたら疲れたって言ってね?」
私の肩を抱きながら、シュウはフォローしてくれた。そして、テルに言い過ぎだと言ってくれている。
テルは絶対にシュウに言い返さないから。シュウはそれを知っていて、テルがヒートアップしてくるといつも助けに入ってくれる。
シュウに諌められたテルは「言い過ぎた」と謝ってくれた。
「悪いのは私だし…。ありがとう…もっと体力付けるね」
「初めてなんだし仕方ないよ。テルがおかしいだけ。ユリアはいい仕事してるよ」
なんて言いながらアスカも声をかけてくれる。みんな優しい。
「二人共ピリピリしてるわね?」
静観していたイリーナが話しに入ってきた。元はと言えば教官が言った言葉のせいだけど。
「ああ、そうか。家でも二人きりだもんね」
教官は納得するように頷くと、今度はシュウの顔を見た。
「シュウ…今日は泊まりで二人のサポートしてあげたら?明日、明後日は休みだし。フィールド訓練も休みにするからさ…」
「まてまて。何でシュウが泊まりで…」
「…そうだよね?ガイアさんもいないし…奥様は亡くなられたって聞いてたのに。帰りも遅くて大変だったよね?大丈夫。今日は泊まりでサポートするから…」
「…泊まりって…シュウ何言ってるんだ?俺の家でもあるんだけど…」
「まってシュウ…落ち着いて」
「大丈夫。私はそこまで疲れてないよ。だから気にしないでね」
シュウはもう泊まる気になってしまっている。私とテルは顔を見合わせて固まった。
「だって。良かったじゃない?」
イリーナ教官はクスッと笑ってテルの肩に手を置いた。
「…誰の差し金ですか?」
青い顔をしたテルはその手を払いながら問いかけた。
「さぁ…?誰でしょうね?」
なんて含みを持たせたセリフを残して、イリーナ教官は部屋を出て行ってしまった。
「何…シュウ泊まるの?それなら私も泊まるよ」
そう言ってくれたのはアスカだった。
「!!そうだ!いいこと考えた!!みんなで親睦会しようよ。ゼル君もレイも…来るよね?」
シュウとテルを二人にしてしまうのは、何となくまずい気がして、気が引けたけれど…。みんながいれば、この問題は解消される。
それに仲良くなるのはいいことだし。我ながらいいことを思いついた。
ゼルは嬉しそうに頷いているし、レイも行くと言ってくれた。
さっきまでのピリピリした空気は消え去り、皆んなで学校を後にした。
モンスターの凶暴化騒ぎのあった実戦ルームは、今は私たちの貸切となっている。
予選会はかくれんぼ。その性質上AチームとBチームが合同で特訓する事が多かった。
隠れる役である『対象人』はAチーム指導教官のイリーナか、Bチーム指導教官のトム。
対象人をゴール地点に運ぶことを阻む役も、その二人のどちらかが指揮をとってガーディアン仲間に略奪指示をだす。
(二人共クラス1stのガーディアンということは、今回の件で初めて知った)
「かくれんぼ」は、私とテルの耳のいい特性が役に立った。
モンスターと人の心音の違いが分かるのは、当たり前。慣れて来た今では、Bチームと隠れている教官との違いまで分かるようになった。
だからこそ、誰よりも早く対象人を見つけ出すことができた。それなのに、ゴールに着けない。
ゴール地点に行くまでに何度も略奪されてしまう。
Bチームは本気で略奪しにくるし、襲いかかってくるガーディアンは強い。追加ルールで「対象人」のバングルをガーディアンに壊されたらその時点で失格となるから、全くゴールに着けない。
初めは1時間半だった放課後訓練は、三日後には2時間…五日後には3時間というよう感じで、訓練は毎日遅くまで続いた。
その鬼のフィールド訓練が終わると、今度は反省会…。今はその反省会中だ。
(今日も家に着く頃には真っ暗だ…)
「Aチームは対象人を見つけ出すのは早いけど、対象人を疎かにしすぎ。今日は3回バングルを壊されかけた。個人プレーに走り過ぎよ」
膝に顔を埋める私の頭上で、イリーナ教官の声が響いた。
「Bチームはいつも先を越されて悔しくないのか?対象人は見つけて終わりじゃ無い。先に奪われてしまうなら、奪い取る戦術ももっと考えるべきだ」
トム教官の声もするけれど…。隣りのBチームもみんなぐったりしている。
(それはそうだ…)
この10日でSクラスのモンスターを、一人100体は倒している。みんな疲れきっている。
流石のテルも口数が少ないし。身内を贔屓するわけじゃないけど、テルは体力はある方なのに。
現に訓練中は四方八方に気を配り、襲ってくる相手への攻撃指示を出しつつ、自分も戦う。
対象人を見つけるタイミングの指示や、特性に合った人員配置は全部テルが担っているし。
(リーダーだな…本当に)
「Aチームは集まって」
イリーナがみんなに声をかけた。その声に立ち上がろうとすると足が震える。立ち上がることすら辛い。
「今まで部隊長であるリーダーは決めて無かったけれど…。今日までの動きを見て決めたわ。Aチームのリーダーは、テル。そして副リーダーはシュウね」
誰からも異論はないし、そうだろうなって思っていた。テルはやっぱり周りを見て指示を出すのが上手いし…。シュウはそもそもみんなの動きを見てサポートする立場だ。
「テル、リーダーになったからには、ユリアにも優しくしないとダメよ?」
多分、立ち上がれない程消耗してしまっている私を見て、イリーナはテルに叱ってくれた。
「今日は比較的楽な『護衛』に回したんですけどね?しかも、最後の最後に攻撃を見過ごして対象人怪我させるし…」
テルが大きなため息と共に嫌味を言ってくる。
(…怒ってる…?)
今までのフィールド訓練はずっと『捜査』だった。だから今日は疲れの取れていない私を見越して、テルが護衛に回るよう言ってくれた。
しかも、襲い掛かるモンスターはほぼほぼ3人が倒してくれていた。
(それなのに…)
いつもその役割はテルだった。護衛をしながら指示を出す感じ。
今日はテルが捜索になり対象人を見つけ出し、狙っているガーディアンに気配りしながら指示をだしていた。
私は護衛に集中していればいいだけだったのに…。テルより楽なはずだったのに。
後ろから対象人を狙っていた、ガーディアンに気付くのが遅れた。そのフォローに回ったのもテルだったし。
「ユリアの一番の役割は捜索と撹乱。運動量が多いのは分かっているけど、すぐにバテ過ぎ」
正論すぎて何も言えなかった。私じゃレイやゼルの役目は担えない。シュウのように治癒もできないし、アスカのようにいいところで補助もできない。
(…足引っ張ってる…)
予選は2日間だし本当はこんな事でバテてられない。膝に顔を埋めて泣きそうになる。こんなことで泣いてなんていられない。しっかりしないとダメだ。
そう、思えば思う程…顔を上げられなくなった。
「大丈夫だよユリア。いきなりの配置換えだったし仕方ないよ。頼れるところは頼っていいし、疲れたら疲れたって言ってね?」
私の肩を抱きながら、シュウはフォローしてくれた。そして、テルに言い過ぎだと言ってくれている。
テルは絶対にシュウに言い返さないから。シュウはそれを知っていて、テルがヒートアップしてくるといつも助けに入ってくれる。
シュウに諌められたテルは「言い過ぎた」と謝ってくれた。
「悪いのは私だし…。ありがとう…もっと体力付けるね」
「初めてなんだし仕方ないよ。テルがおかしいだけ。ユリアはいい仕事してるよ」
なんて言いながらアスカも声をかけてくれる。みんな優しい。
「二人共ピリピリしてるわね?」
静観していたイリーナが話しに入ってきた。元はと言えば教官が言った言葉のせいだけど。
「ああ、そうか。家でも二人きりだもんね」
教官は納得するように頷くと、今度はシュウの顔を見た。
「シュウ…今日は泊まりで二人のサポートしてあげたら?明日、明後日は休みだし。フィールド訓練も休みにするからさ…」
「まてまて。何でシュウが泊まりで…」
「…そうだよね?ガイアさんもいないし…奥様は亡くなられたって聞いてたのに。帰りも遅くて大変だったよね?大丈夫。今日は泊まりでサポートするから…」
「…泊まりって…シュウ何言ってるんだ?俺の家でもあるんだけど…」
「まってシュウ…落ち着いて」
「大丈夫。私はそこまで疲れてないよ。だから気にしないでね」
シュウはもう泊まる気になってしまっている。私とテルは顔を見合わせて固まった。
「だって。良かったじゃない?」
イリーナ教官はクスッと笑ってテルの肩に手を置いた。
「…誰の差し金ですか?」
青い顔をしたテルはその手を払いながら問いかけた。
「さぁ…?誰でしょうね?」
なんて含みを持たせたセリフを残して、イリーナ教官は部屋を出て行ってしまった。
「何…シュウ泊まるの?それなら私も泊まるよ」
そう言ってくれたのはアスカだった。
「!!そうだ!いいこと考えた!!みんなで親睦会しようよ。ゼル君もレイも…来るよね?」
シュウとテルを二人にしてしまうのは、何となくまずい気がして、気が引けたけれど…。みんながいれば、この問題は解消される。
それに仲良くなるのはいいことだし。我ながらいいことを思いついた。
ゼルは嬉しそうに頷いているし、レイも行くと言ってくれた。
さっきまでのピリピリした空気は消え去り、皆んなで学校を後にした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる