セイレーンのガーディアン

桃華

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交わる過去

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 何分も経たないうちに、外からヘリの大きな音が響いてきた。
 シュウはこの国のプリンセス。ヘリを飛ばすことくらい余裕だと気がついて、すぐに外へでた。

「ユリア!!」

 やっぱりシュウが来てくれた。叫びながら駆け寄ってきたシュウは、ショート丈のルームウェアに髪はルーズなお団子姿。
 だけど落ち着いていた。すぐに治療体制に入り、身体中をくまなくチェックしてくれた。
 
「ユリアにケガはなさそうね。すぐにテル君の元へいくね?」

 魔力の暴発という事になっているから、私の心配までしてくれてることに心が痛んだ。
 
「シュウ!ここだ!」

 リビングからレイの叫び声がする。シュウは部屋に入ると、倒れているテルの元へと駆け寄った。
 脈拍や呼吸を調べると、強張った表情ですぐに両手をお腹の傷にかざした。

「……呼吸かなり弱くなってる。テル君かなり危険な状態だね…。必ず助けるから…」

 自分に言い聞かせるかのように呟くと、シュウの両手から強い光が溢れた。 
 シュウの治癒魔法は内臓まで達した熱傷を、ものの数分で塞いだ。

(すごい…)

 さっきまで短く荒い呼吸だった、テルの呼吸は安定している。顔色も明らかに良くなった。

(…良かった…)

 その場にペタリと座り込んで膝を抱いた。

「うん…とりあえず、もう大丈夫だよ」

 シュウはテルの額の汗を拭きながら、大きく息を吐いてそう言った。

「…間に合って良かった…。多分テル君じゃ無かったら死んでた」

 ありがとうを言おうとする口を、レイの手が押さえた。危うくまた声を出してしまうところだった。

「ユリア今声が出ないから。煙を吸い込んで、さっきすごい咳こんでいたから。一時的だし治療は必要ないよな?」

レイに言われて大きく頷いた。

「…大丈夫?苦しくない?」

 心配してくれている。声を出せないかわりに、スマホを取り出し『ありがとう。シュウがいて良かった』と打ち込んだ画面を見せた。シュウは、にっこり微笑んで頷いてくれた。

「あとは、レイ君の首の打撲の治療だね。すごく腫れてる…」

 忘れてたと言うレイの首に手を当ててすぐに治してくれた。


***


 薄らと意識が戻ってきた。身体はまだ重い。何で倒れているのか、何があったのか目を閉じたままで考えた。

(確か…ユリアのせいでレイに殺されかけたんだ…)

 死んだかと思ったけど生きていたんだ。なんて考えて寝返りを打とうと頭を動かした。
 顔に触れる温かくて柔らかい感触が心地よい。それにいい香りがする…。
 ここはどこだろうとそっと目を開くと、微笑むシュウと目が合った。

「……もう大丈夫?」

「……は…?何で…?」

 柔らかい感触はシュウの太ももだった。余計に混乱してすぐに動けなかった。

「レイ君から魔力の暴走にテル君を巻き込んでしまったって連絡もらって、それで駆けつけたの。…間に合って良かったテル君じゃ無かったら死んでたよ」

 焦って呟いた言葉にシュウは微笑みながら答えてくれる。そういうことになっていて、レイも正気に戻っていたことを知ってホッとした。

(それよりも…)

「何で…シュウが膝枕を…?」

「あ…運ぼうかと思ったんだけど私たちじゃ無理で…。でも床の上じゃ痛そうだねって話してたらレイ君が『膝枕でもしてやれば?』って…」

 レイは以外な所で気が回る奴だって、今日初めて知った。
 俺がシュウのこと好きなのは、態度に出てたし。今回はあいつのせいで死にかけたけど。……まぁ、許せそうだ。

「ありがとう。寝起き最高だった…」

「そう…?それなら良かった」

 本当はかなりドキドキしていたけれど、気づかれないように平静を装って起き上がった。
 酷い熱傷を負っていたはずの体は、ただ重いだけで動けるようになっていた。
 焦げていた腹部は赤みだけを残して塞がっている。そっと腹部に手を当ててみた。なんの違和感もなく完全に治っている。

「この傷…シュウが一人で治療してくれたのか?」
 
 俺自身、再生能力が高いとはいえ、あれだけの熱傷をシュウ一人で治癒できるなんて思えなかった。

「急だったから…私一人で治癒したよ。違和感とかある?治ってるとは思うんだけど…どうかな?」

「大丈夫。…というか…すごいな。シュウは…」

「大したことないよ。無事に治ってよかった」

 頬を染めながら優しい笑顔で覗き込む。その行動も表情もシュウの全てにまたドキっとする。それを隠すように、片手で口を覆った。
 好きだって伝えてるから、隠す必要なんてないのだけれど。これ以上格好悪い所は見せたくない。

「…そう言えば…レイとユリアは?」

 そばに置いてあった着替えの服を手に取りながら、わざとらしくそう聞いた。

 レイは「母親に状況を説明する」と言って帰ったらしい。ユリアは後片付けをしているようだ。廊下の方から物音がしている。

「じゃあ、私も帰るけど…。ユリアまだ声が出ないみたいだし、もし不安な事があったらいつでも呼んでね?」

 なんて手を振りながらリビングを出ようとする、シュウの腕を掴んだ。
 どうしたの?と見上げるシュウを直視できない。

(肌の露出が多すぎる…)

 ブラトップにシアーカーデを羽織り、ショート丈のパンツ姿。陶器のように艶やかで白い肌。ブラトップから溢れそうな胸。それに、細くくびれたウエスト。柔らかくて触り心地の良さそうな太もも。男を魅了する全てが備わっている。

 そんな格好で夜道にシュウを1人で帰らせるとか絶対に有り得ない。

「迎えを呼んだ方がいいよ…?」
「大丈夫だよ…?」
「…それなら俺が送るよ」
「それはダメ。テル君怪我人だし」
「…その格好でさすがに外は歩かせられない」

 これを言うと俺もその身体に目が行ってしまってるってバレるから言いたくは無かったのに。と、目を逸らして言った。

 ここまで言われてやっと気付いたシュウは自分の格好に顔を赤らめた。

「れ…連絡をもらったとき、ちょうどストレッチ中で…。……そうだね。うん。迎えに来てもらうね」
 
 そう言ってどこかに連絡している。そのタイミングで戻ってきたユリアは、慌てて俺の手を引いて玄関を指差してる。

「なんだよ。慌てて」

 早く開けろと口パクで急かしてくる。
 玄関の扉を開けると、身長170程の男が立っていた。年は20代後半か30代…金髪のセンターパート。
 白いサマーニットに黒のパンツ姿で清潔感がある。目はクリッとまるくて可愛い感じ…。

この顔は…。ハッとしてお辞儀をした。

「お嬢様を引き留めてしまい、申し訳ありませんでした。…国王陛下」

 まさか王自身が迎えに来るとは思って無かった。

「やあ、久しぶりだね。テル君いつの間にこんなに大きくなったんだい?僕の身長越しちゃってるし。ユリアちゃんも元気そうで良かった」

 笑った顔がシュウに似ている。なんて考えていると、遅れてやって来たシュウも驚いていた。

「お父様…なんで?」

「やあ、大事な娘がヘリまで飛ばして向かった場所が、ガイア君の家だったからさ?」

「!?…ガイアさんの?…うそ…」

 何故かシュウは顔を赤らめた。

「……?」

 確かに俺の親父は王直属のガーディアンだ。
 シュウの記憶を消されてはいるけど、そこで交流があったのか。なんて動揺しているシュウの隣で冷静に考えていた。

(…いうかなんで顔を赤らめた?)

「そうだよ?気づかなかった?テル君似てると思うけど?ほら、シュウが大好きな、ガイア君に…」

「まって!!言わないで!違うの。好きって、そういう意味じゃ無いの!尊敬してるっていう意味で…」

 シュウは何故か俺じゃなくて、ユリアに弁明している。逆に本気だったんじゃないかと思えてきた。慌てふためくシュウを尻目に王は話を続けた。

「あれ?違ったの?ここ最近はガイア君に会えて無くて寂しいっていってたじゃん」
「もう!本当に辞めてよ!」

 プイっと顔を背けてしまったシュウの肩に、王はクスクスと笑いながら手をかけた。

「ごめん。言い過ぎたね?今日来たのは久しぶりに、二人の顔を見たかったから、いい機会だと思ってね」

 王がさっきまでのフランクな口調から、いきなり真面目な表情になった。ユリアとテルはお互いに顔を見合わせた。

「渡したい物も、話したいこともあるんだ…外でもいいかな?」

 ユリアと二人で顔を見合わせると、ユリアは首を振った。まだ、声を出すと『魅了』になってしまうんだろう。

「…すみません。諸事情があって…ユリアは今声が出せないんです。なので…俺だけでもいいですか?」

 ユリアは緊張から、また不意に声を出してしまうかもしれないのだろう。多分、国王はユリアのことを知っていると思うけれど、ここにはシュウがいる。
 説明は出来ないけれど、国王は何となく察してくれた。

「…何か事情があるんだね?いいよ。テル君一人で来てくれないか?渡したいものはそこにある」

「分かりました。行きましょうか?」

そう言うと国王は頷いてから、乗って来た車へと俺を案内してくれた。
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