セイレーンのガーディアン

桃華

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中間試験

10.終息(ユリア)

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 扉を出た途端に体から力が抜けた。足は震えているし手に力も入らなくて、派手に転んでしまった。

(全身火傷でヒリヒリしてる…)

 体は痛いし、起き上がる気力も無くなくなってその場に倒れたまま動けなくなった。
 アスカは隣りで「疲れたー」なんて言って天を仰いでる。

「モンスター討伐にご協力ありがとうございます!扉は閉じました。後の処理はこちらに任せて下さい」

「天使族の方は、怪我人の治癒にご協力下さい」

そんなアナウンスが響き渡っていた。

 実戦ルームの前の廊下は、同じように避難した人達で溢れかえっている。
 倒れたまま辺りを見渡すと、救護室に入れなかった怪我人が、廊下の簡易ベットで治療を受けている。みんな一様に疲れた表情で、うずくまている人だらけ。

 そんな中でも、天使族のシュウは忙しそうに怪我人の手当てをしている。ユリアに気付くと、真っ先に駆け寄ってきてくれた。

「ユリアの火傷はすぐに治すね?ゼル君悪いけど…レイ君はそこに寝かせてくれる?」

シュウは空いてるベッドを指差して、私の治療に取り掛かる。
 ゼルと呼ばれた美女は「分かりました」と、廊下のベッドにそっとレイを寝かせた。

「…気を失っているけど外傷は軽いから。安心してね?ユリアを先に治すよ」

 心配そうな私の視線に気付いたのか、シュウは私の治療をしながらレイの状態を説明してくれた。
 レイは自分の魔力による熱傷。さらに、炎の耐性もあるからユリアの火傷の方が酷い。そんな事を教えてくれた。
 シュウの言う通りレイはすやすや眠ってる。鎮静の歌が効いたみたい。その寝顔を見つめて「良かった」と安心して大きな息を吐いた。

「どう?痛みはない?」

「うん!ありがとう!」

「良かった。無理はしないでね?」

 にっこり笑って今度はアスカの元へと向かった。こんな混乱状態でもシュウの動きに無駄がない。
 私とは大違いだ。なんて思いながら壁にもたれかかった。
 治癒魔法で身体の痛みは引いたけれど、体のだる重さは消えない。それに何と言っても眠くて目を擦った。

「ありがとう。お前いなかったらヤバかった」

 美女に向かってテルがお礼を言っているのが聞こえてきた。確かにレイを助けることができたのはその子のお陰だ。
 (私もお礼しないと)なんて、重い体を引きずりながらテルの元に行った。

「ありがとう…。…レイを運んでくれて…」

 ちょっと牽制した言い方だったかな?このくらい良いよね?なんて…言った後に罪悪感。

「いえ…大したことして無いですよ。みんな無事で良かったです」

 そう笑う顔がすごく色っぽい。美女は嫌味の無い微笑みでユリアに笑いかけた。顔もいいけど…性格まで良さそうだ。

「ユリアさん…で、合ってますか?安心してください。勘違いしてるみたいだから言っておきますが僕…男ですよ」

 牽制した事が完璧バレてる…。

(…ん…?今…なんて…)

 全く男に見えない。だって唇はふっくらとして薄いピンク。まつ毛は長いし体の線が細い。だけど…改めて見ると制服は男のモノだ。

「…!?え…?!?」

「良く間違えられます。母親に似てるからですかね?」

 またニコッと笑った。やっぱり男には見えない。

「じゃあ、僕はそろそろいきます」

 そう言うとゼルは寝転んでいるアスカの顔を覗き込んだ。

「今日はアスカさんのお役に立てて良かった…」

 アスカは慌てて身体を起こしてる。ゼルと視線を合わせて無理矢理な笑顔を見せた。

「…あ…うん。こっちこそ、助かったよ。本当ありがとうね?」

 アスカにそう言われて、嬉しそうに顔を赤らめている。

「また…カフェに来て下さいね?」

「うん。みんなでまた行くよ」

「良かった…お待ちしてますね?」

 なんて少しの間アスカと会話すると、照れ笑いをしてゼルは走り去ってしまった。
 頬を赤らめるその表情が、なんていうか…

「……かわいい……」

 思わず呟くとアスカも「あれで男とか反則だね?」と笑ってる。
 テルは隣で「言ってるだろ?」と、アスカを見た。
「アスカのこと好きなんじゃないかって」と言って笑ってる。
 アスカは「もう…今はそれに乗る気分じゃ無いから」と流してテルの腕を指差した。

「そんなことより…腕の傷でも治してもらったらどう?」

 傍にいたシュウが「えっ?」と呟いてテルの腕を見た。私も気付か無かったけど、テルの左腕はパックリ割れて血が流れ落ちている。

「ああ、本当だ」

 なんて、擦り傷かのように滴る血を拭ってつぶやいた。

(まぁ、テルは自己治癒能力が高いから…。血の割にはもう傷も塞がりかけてるけど。放っておいてもすぐ治るし)

 そんなことは知らないシュウが慌てて、駆け寄ってきた。

「ごめんなさい!テル君平気そうな顔してたから」

「いいよ。俺は頑丈だし…」

「ダメだよ。怪我をしたのだって、みんなを守ったからでしょう?」

 シュウは諌めるようにいうと、血の滴るテルの腕を取りあっという間に治してしまった。テルは「ありがとう」と、治った腕を振ってみせた。

「お礼を言うのは私だよ。テル君がモンスターを近づけないようにしてくれてたから。だから、安心して治療に専念できたの」

 シュウはテルを見上げて同じように「ありがとう」とにっこり微笑んだ。

 分かりやすくテルの顔が綻んでいる。テルは見たことも無いような、優しい微笑みを浮かべて、「それなら良かった」なんて視線を逸らして呟いてるし。

(まぁ…そうなるよね?)

「シュウ!個室が空いたわよ!!」

 少し離れた所から聞こえた声に、シュウが「今から怪我人を運びます!」と返事をした。
 それからテルに「レイ君を運んで貰っていい?」と、声をかけた。
 テルは「分かった」と返事をして、意識の無いレイを個室へと運んで行く。

「…あ…私も一緒に行ってもいいかな?」

シュウは目を丸くして振り返った。何も出来ないけれど、少しでもそばにいたかった。

(…歌が効き過ぎたんじゃないか不安だし)

「もちろんだよ。気を失ってるだけだと思うけど、不安だよね?」

 シュウは私の手を引いて「一緒に行こう?」と言ってくれた。テルも「当たり前だろ?」と、言ってくれてる。

「ありがとう…」と呟いて、レイと一緒に個室の入った。
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