セイレーンのガーディアン

桃華

文字の大きさ
上 下
20 / 240
新しいクラス

8.長い一日(ユリア)

しおりを挟む
 アスカがお薦めだと言っていたカフェは、校内に併設されたお店だった。
 こじんまりしていて、落ち着いた雰囲気のカフェは、養成校の癒しの場所みたい。私達が入った時には、すでに大勢の生徒で賑わっていた。
 特にアスカがお薦めだと言っていたジェラートのゲージの前には、すでに人だかりが出来ていた。

「本当だ…すごい人気だね?」

「そうでしょ?でも本当に美味しいからさ…とりあえず、並ぼうか?」

 頷きながら、行列の最後尾に並んでジェラートのメニュー表を眺めた。

「今日はあの店員の子…いるかな?」
「最近入った可愛い子?」
「そう、そう!見てるだけで癒される…。声まで可愛いし…」

 耳を澄まさなくても女の子達が騒いでいる声が聞こえてくる。そんなに騒がれるなんて、どんな子だろうと考えていると直ぐに自分達の順番になった。

「すごく美味しそう!どうしよう…迷う…」

 ショーケースに並んだジェラートはどれも美味しそう。それに種類も豊富で目移りしてしまう。

「期間限定のピスタチオも美味しいですよ」

 迷っていると店員がお勧めを教えてくれた。

「そうなんだ。じゃあ、それで…」

 顔を上げると息を飲むほど綺麗な店員さんだった。微笑みながらジェラートをカップに入れてくれた。
 お人形のように色素の薄く丸い瞳に見惚れてしまう。
 それに少しハスキーな声がアンバランスで魅力的だ。

(さっきの話しの店員て…きっとこの子だ!!!)

「あの…大丈夫ですか?」

 考えていると、ジェラートを受け取り忘れてしまっていた。
 慌ててカップを手にして謝ると、満面の笑顔で「ありがとうございます」と、カップを手渡してくれた。

(何…養成校なのに…可愛い子しかいない)

「次の方…いつもありがとうございます。今日もティラミスにしますか?好きですよね?」

 今度はアスカに向かって満面の笑みを見せている。

(アスカのこと…覚えてるんだ)

可愛いだけじゃなくて、お客様の顔を覚えているなんて…。店員としてのレベルも高いなんて感心して、アスカを待った。

「今日は桃のやつにしようかな?」

「この前お勧めしたやつですね?絶対に気に入ると思います!」

 なんだか店員さんが嬉しそう。アスカと話している顔が輝いてる。
 頬が紅潮してさらに可愛さを増したその子は、アスカに桃のジェラートと…何故かもう一つカップを渡した。

「どうぞ…これは僕からです」

「え?いいよ」

「いいんです!…あの、明日も来てくださいね!次の方どうぞ」

 カップを2つ持ったまま、アスカは固まってしまっている。

「アスカ、あんな可愛い子と知り合い」

「最近入った子だけど…、注文する時しか話したことないよ?でも、私モテるから」

 アスカが両手に持ったジェラートを、自慢気に掲げるから吹き出してしまった。

「相手…女の子じゃん」

「女にモテるの」

「どうしてだろ…妙に納得してしまう」

 凛々しい顔立ちと、サバサバしてる物言いだから…。多分モテのは本当だろう。

「まぁ、そんなことどうでも良くて。後でシュウも来るから座って待ってようか?」

「やったぁ!女子会だー」

 アスカと談笑したり、美味しいジェラートを食べたりしていると、シュウから連絡が入った。

「…テルも一緒に来るみたい」

思わずむせてしまった。

「え…?なんで」

「シュウが誘ったんじゃない?私が誘っても来なかったのにね?」

「まぁ、シュウに誘われたら私だって断れないよ」

「確かに」

 あの潤んだ瞳で「一緒に行こう?」なんて言われたら、誰だって断らないよね。何て話をして笑いあった。

***

「二人ともお待たせ」

 遅れて来た二人の距離が近い。テルが椅子を引いてシュウを座らせてるし。私以外には、大抵の人にテルは優しい。本当に

(そーゆーところにみんな騙されるんだろうな)

「シュウは何がいい?」

 私には絶対に聞かないくせに。むしろ買わせに走らせるくせに。

(なんだこいつ)

 アイスを食べながら睨んだ。…バレないように。後で何言われるか分からないから。

 シュウは「私が…買ってくるよ?」と立ち上がるけど、テルはもう一度座るように促している。

「いいよ。シュウはユリアをかまってやって」

 シュウの頭をポンと叩くと、カウンターへ向かった。

「……あからさますぎない?」

テルが去って行ったから、アスカに向かってポツリと呟いた。

「……拗ねてるの?」

「拗ねてないよ!アスカ、変なこと言わないで」

 アスカがごめんと大声で笑っている。本当に違うのに。私はいつもテルのパシリなのに。

「アスカの笑い声すごい響いてるけど?」

 カフェラテと、ジェラートを手にテルが戻ってきた。
 お腹を抱えて笑ってるアスカに、テルが問いかけた。
 アスカが何かを言う前に、何でもないっ!と首を激しく振って、話に割って入った。
 テルは、まだ笑っているアスカを尻目にシュウにジェラートを手渡した。

「なぁ、アスカ。あの店員のこと知ってるか?」

 テルはカウンターをこっそり指差したのは、さっきの店員さんだった。

「ユリアにも聞かれたけど、最近入った子だってこと以外知らないよ」

 アスカの言葉に「そうか」と、つぶやいてシュウの隣に座った。

「あの子がどうしたの?」

「俺がここに着いた時から殺意むけてる。入った時はずっとアスカをみてたから。知り合いかと思ってた」

「やっぱり、アスカのこと好きなんだよ!」

 さっき思ったことは勘違いなんかじゃ無かった。

「ほら私、女の子にモテるから」

またふざけて困った表情を作っている。

「あいつ、多分男だぞ?」

「「…え?」」

 思わず声を合わせて驚いた。しれっとテルがカフェラテを飲み干してそう言った。

 レイさんと同じクラスだったことや、編入初日にテルが呼び出しくらってたことより、あの子が男だと言うことが今日1番驚いてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...