セイレーンのガーディアン

桃華

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新しいクラス

2.入学早々…(ユリア/テル)

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 実戦の授業は新鮮だった。一般ではカリキュラムに無かった『魔法学』や『モンスター討伐の基礎』を学ぶ授業があったり、実技では模造刀での実戦訓練があったりで、午前だけで死にそうに疲れてしまった。
 やっとランチタイムになったけれど、全く動く気力は出なかった。

「大丈夫…?」

 机で突っ伏していると、アスカが声をかけてきた。

「初日だし、疲れちゃったよね?良かったら、食べてね?」

 シュウそう言いうと、プリンを机に置いてくれた。涙ぐみながらプリンを手に取ると「大袈裟だね」と2人は笑いながら、お弁当を広げた。

「ありがとう。2人がいなかったら、初日で死んでた!」

 冗談じゃなく本気で思っていたけれど、アスカとシュウはまたしても顔を見合わせて笑った。移動教室の名前と授業も一致しない状態だったから、2人が「一緒に行こう?」と、手を引いて連れて行ってくれたことが嬉しかった。

 お昼を食べようとしたところで、やっと教室がざわついている事に気がついた。どうやら、目当ては『テル』のようで、人だかりができている。最早身動きの出来ない暗いに取り囲まれていた。

「なんかテルさん、初日なのに有名人だね?」

 シュウが目を丸くしながら、その様子を見て言った。

「まぁ、目立顔立ちだよね。だから教官も、レイに面倒見るように言ったんだろうけど…。本当ごめんね。あいつ他人に興味ないし、優しくできないから」

 アスカは申し訳なさそうにしている。確かに1日中テルはレイに置いてかれそうになって走って移動していた。

「そんなことないよ?だって、編入試験の会場に案内してくれたし…。私が緊張してたから、お菓子もくれたし…」

 そこまで話した所で、アスカとシュウが目を丸くして固まっている事に気がついた。

(変なことでも言ったかな…?)

「…嘘でしょ?あのレイがそんなことするなんて思えないんだけど?」

「そっか。アスカはあの時いなかったよね?編入試験の日、ユリアは確かにレイ君と一緒だったよ?その時もおかしいなとは思ったけれど、そんな感じだったんだ…」

「え?その日何があったの?」

 アスカは信じられないとでも言わんばかりに、詳細を話すようにユリアに詰め寄ってきた。戸惑いながらも、編入試験の時に迷子にならないように、手を引いてくれたことや、緊張して変なことばかり言う私を、お菓子をくれて和らげてくれたことを話した。

「だから、女慣れしている人なのかと思ってた…て、どうしたの?」

 話しの最中から、アスカは明らかに動揺していた。

「ない!ないって!女慣れどころか…女性不信だし!誰とも話しをしない根暗だよ?」

「アスカ…言い過ぎだよ。でも…そうなんだ。レイ君話している所珍しいから、…少し見たかったな」

 そんな感じじゃなかったのに、2人が言うということはあの日が『特別』だったのかもしれない。確かに今日一日、誰かと話している所を見てないし。
 チラリとレイを見ると、1人で教室を出ようとしている所だった。

(何だか気になる…)

「そうだ!レイさんにお礼しないと!」

 不自然に席を立つと、レイを追いかけて教室をでた。

「え、ユリア!!」

「…行っちゃった」

 アスカとシュウは顔を見合わせた。

***

「俺の代わりにAクラスになったやつ、どこ?」

 教室に大きな声が響いたのは、ユリアが教室を出たすぐ後の事だった。

 オレンジの毛を逆立てた…いかにも肉体派な男が教室の入り口から叫んでいる。テルのことは気付いていて、それでいて出かたを見ているんだろう。ケンカを売る気満々と言った感じだ。

(面倒そうな奴…)

 周りを巻き込んでもまずいから、仕方なく歩み寄った。

「俺だけど?」

 男はテルを舐めるように見ると、わざとらしく吹き出した。

「すぐ戻れそうだな。元Aクラスで実技体術系の成績1番のセイヤ」

 テルの肩をポンと叩くと後ろの席へ歩き出した。

(…?!それだけ?)

 その後に、セイヤが向った場所はシュウの元だった。

「…何しに来たの?」

 シュウの真横に立ったセイヤを、アスカが睨みつけた。

「俺が用あるのはシュウだ。お前は関係ない」

「何?」

 シュウはニコっと口の端を上げて見せたが、目は笑っていなかった。

「冷たいじゃん?…で、いつヤらせてくれるんだ?」

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべると、シュウの肩に腕を回した。

「離れなさいよ。行こう。ユリアの様子見てこよう?」

 アスカがシュウの手を引いて席から離れたると、セイヤはイラっとしながら2人の背中を睨んでいる。

「つーかお前は、俺にヤリ捨てされたこと根に持ってるんだろ?アス…」

(…そう言うことね) 

 言い終わるか終わらないかで、ペットボトルをセイヤに向かって投げた。
 セイヤはそのペットボトルを受けた。

(不意打ちだったのに受けれるか。見かけによらず、反射神経いいな)

「ワルい。ゴミ箱かと思った」

 テルはわざとらしく謝りながら言った。

「喧嘩売ってるのか?」

 セイヤも睨み返し、メリケンサックを嵌めた。

 セイヤを怒らせない方がいいよ…と隣にいた子が声をかけて来たが…もう遅い。
 その子に離れてと声をかけると、セイヤが飛びかかってきた。それを軽く躱すと、体制を崩したセイヤは机や椅子をなぎ倒して、倒れ込んだ。

「あ、悪い。受けたほうが良かったか?」

 バカにしたようなテルの態度に、セイヤは顔を赤くして立ち上がった。

「バカにしてるだろ!」


「体術1位の実力が見たかっただけ。まぁ、この程度かって思ったけれど」

 セイヤは怒りに震えながら、拳を振り上げる。

(この程度なら、受け止められるな)

 テルはその拳を片手で受け止めて足払いをかけた。派手に転ぶかと思ったら、そのまま空中で身体を捻り、踵落としをかけてきた。

(確かに、すごい身体能力だな。反応できるけど)

 そう思いながらガードした。ガードした腕は痺れた。

(攻撃力も中々だ)

 冷静に分析さていると、セイヤは壁を蹴りテルに突っ込んできた。

(まずい…!)

 気がつくと、女子生徒がセイヤの攻撃線上にいる。直撃するとかなりまずい。

(…っ間に合わない!)

 バキっと鈍い音が教室に響いた。女子生徒をシュウが庇っていた。セイヤの拳はシュウの側頭部に当たり血が流れている。

「…えっ…シュウ…??な…なんで」

 女子生徒は覆い被さっているシュウに驚いて震えている。出血している側頭部を押さえながら、立ち上がるとシュウは静かな声で言った。

「教室内での武器の使用及び、戦闘行為は禁止されています」

側頭部からはとめどなく血が流れ出し、シュウの足元は血溜まりになっている。
 セイヤは舌打ちすると、教室を後にした。

 それを見送ると、シュウは気が抜けたようにその場に座りこんだ。

「いった…」

 殴られた頭を押さえ込んではいるが、とめどなく血が噴き出して、床まで真っ赤になっている。

「大丈夫か!?」

「シュウっ!無茶しないでよ」

 アスカとテルが駆け寄った。シュウは2人に気づくと、ニコッと微笑んだ。傷口を抑えている手からは、暖かい光が出ている。天使族の回復術だ。傷口は徐々に塞がっていく。

「大丈夫。もう塞がるから」

 シュウがいい終わる前にテルは自分のブレザーを被せて抱き上げた。
「いや、無理だろ?この出血量だぞ?」

「あ、歩けます!」

 シュウは足をバタつかせているけれど、気にせずアスカに声をかけた。

「アスカお前も来てくれ。救護室の場所知らないし」

 アスカは呆然としていたけれど、声をかけられて頷いた。3人で静まり返った教室を後にした。
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