8 / 8
7
しおりを挟む
記憶を残して欲しいとお願いするつもりだったのに。
エレンさんと話しをすると、それは俺のわがままだって思った。
絶対に…俺はユリアの秘密を周りに言うことはしない。でも……魔力の暴発が起きたら…?
混乱してユリアの名前を呼んでしまうかもしれない。
(それは…俺にもわからない…)
救ってくれたユリアを忘れたくない。それにユリアにも自分の事を忘れて欲しくない。でも忘れることでしかユリアを守れない
自分でも何が正しいのか分からなくて、泣くしか出来なかった。そんな俺の頭を、エレンさんは優しく撫でてくれている。
「レイ君なら…忘れたくないって、言ってくれると思ってた。私は二人に離れて欲しくないって思っていたの…。だから、レイ君の記憶は消さない」
思いがけない言葉に驚いて顔を上げた。エレンさんは誰にも内緒だと、唇に人差し指を当てて話を続けた。
「記憶を残すのはレイ君だけ。他のみんなの記憶は消す。…ユリアも含めて。理由は…分かるよね?」
理由はユリアのことを知っている人から、その存在が漏れることを防ぐ為だ。
そしてユリアの記憶を消さなければいけないのは…。俺の為にセイレーンの力を使ってしまうから…だ。
小さく頷きながら涙を拭って顔を上げた。エレンさんがいい表情だねと、また笑いかけてくれる。それから、真剣な顔で手を握った。
「ユリアはレイ君を忘れる。レイ君はどこかで会ったとしても、声もかけてはいけない。辛いことだけど約束できる?」
俺は目を逸らさずにもう一度力強く頷いた。
「…ありがとう。レイ君だけは覚えててあげてね?自分でも忘れてしまうユリアの事を…」
(忘れるわけない…)
全部覚えているに決まってる。俺に微笑みかけてくれたキラキラと輝く笑顔も。助けたいと泣いてくれたことも。何気ない日常で見せてくれた、あどけない表情も…。名前を呼んでくれた声も。優しい歌声も。
「でも…そんなユリアを大人になったら迎えに行ってあげて?」
(何言ってんの?記憶を消すんだろう?ユリアは大人になっても、俺のこと気付かないじゃん)
なんて思いながら見上げる、可愛げのない俺の頭をエレンさんは優しく撫でて話を続けた。
「大人になって強くなってさ、誰よりも強くなって…。ユリアを迎えに行ってあげてよ。もしかしたら、その時に私がかけた魔法が解けて…レイ君のこと思い出すかもしれないから」
(ユリアの記憶が戻ることが、あるってことなのか?)
消えたものが簡単に戻るとは到底思えないけれど。そうだったら…素直に嬉しい。
エレンさんの言った言葉は、あの日俺に希望を持たせる為の方便だと思った。けれど、その言葉は俺の心の支えになったんだ。
「そうだ!いいことを思いついた。記憶を無くしてしまうユリアに、レイ君を思い出せるような『プレゼント』を用意してあげて?」
「……思い出す日なんて本当に来るの?」
減らず口ばかり叩いていた俺は、エレンさんに対してそんなことを言った。すごく訝しげに問いかけ、そして目を逸らした。
「シンデレラだって魔法が解けたんだから、ユリアの魔法も解けるかもしれないじゃない?その時に『ガラスの靴』みたいな、目印があった方がレイ君も探しやすいでしょ?」
何言ってんの?と、しらけた俺に向かってエレンさんは無邪気に笑いかけた。
…別にプレゼントは良かったんだ。記憶を無くす前に、ユリアに自分の思いを伝えるつもりでいたし。
ピアスが欲しいとこの前話していたから。それを渡す気でいたんだ。
(言われて用意したみたいになった……。最悪だ……)
「はぁ…」と、気の抜けた返事をすると、エレンさんは嬉しそうにまた笑った。
***
「ただいま~話しは終わった?」
アスカの馬鹿でかい声が玄関から響いてきた。紅茶のカップを片付けながら大きなため息をついた。
「終わったよ~。ありがとう、アスカちゃん」
エレンさんが俺の代わりに返事をしてくれた。アスカの頭を撫でて、ユリアを呼んでくるように言っている。
分かった!と、返事をしたアスカは、ショッパーを両手に抱えたユリアを連れてきた。
「…すごい量…」
「あ!…今行かなくて良かったって、ホッとしたでしょ?」
思わず呟いた言葉に、ユリアが頬を膨らませて言い返してくる。
「うん。分かってるじゃん?」
「次は一緒に行こうね?」
「やだよ」
「ジーナさん!!次はレイも一緒に行きたいって!!」
「そんなこと一言も言ってないって」
なんていつものやりとりを、二人で出来るのもあと僅かな時間しかないんだ。
そう思いながらユリアを見つめた。
(覚悟はもうできた)
強くなろうと思った。大人になった時に、ユリアを迎えに行ける程強く…。
幸い暴走する程の高い魔力を持っているし。ユリアを狙っているのが、イーターなら…。ガーディアンになって、ユリアを守ろう。
記憶は戻らなくても、ユリアが生きている限り…セイレーンでいる限り、ガーディアンになったらいつか会えると思った。
イーターにセイレーンが捕まったら、それこそ両親達が恐れていた事態となる。
ユリアに危険が迫った時は「セイレーンが見つかった」という名目で、ガーディアンを護衛につけるはずだと思ったから。
それなら『セイレーンのガーディアン』になれるように強くなろう…。そう思った。
エレンさんと話しをすると、それは俺のわがままだって思った。
絶対に…俺はユリアの秘密を周りに言うことはしない。でも……魔力の暴発が起きたら…?
混乱してユリアの名前を呼んでしまうかもしれない。
(それは…俺にもわからない…)
救ってくれたユリアを忘れたくない。それにユリアにも自分の事を忘れて欲しくない。でも忘れることでしかユリアを守れない
自分でも何が正しいのか分からなくて、泣くしか出来なかった。そんな俺の頭を、エレンさんは優しく撫でてくれている。
「レイ君なら…忘れたくないって、言ってくれると思ってた。私は二人に離れて欲しくないって思っていたの…。だから、レイ君の記憶は消さない」
思いがけない言葉に驚いて顔を上げた。エレンさんは誰にも内緒だと、唇に人差し指を当てて話を続けた。
「記憶を残すのはレイ君だけ。他のみんなの記憶は消す。…ユリアも含めて。理由は…分かるよね?」
理由はユリアのことを知っている人から、その存在が漏れることを防ぐ為だ。
そしてユリアの記憶を消さなければいけないのは…。俺の為にセイレーンの力を使ってしまうから…だ。
小さく頷きながら涙を拭って顔を上げた。エレンさんがいい表情だねと、また笑いかけてくれる。それから、真剣な顔で手を握った。
「ユリアはレイ君を忘れる。レイ君はどこかで会ったとしても、声もかけてはいけない。辛いことだけど約束できる?」
俺は目を逸らさずにもう一度力強く頷いた。
「…ありがとう。レイ君だけは覚えててあげてね?自分でも忘れてしまうユリアの事を…」
(忘れるわけない…)
全部覚えているに決まってる。俺に微笑みかけてくれたキラキラと輝く笑顔も。助けたいと泣いてくれたことも。何気ない日常で見せてくれた、あどけない表情も…。名前を呼んでくれた声も。優しい歌声も。
「でも…そんなユリアを大人になったら迎えに行ってあげて?」
(何言ってんの?記憶を消すんだろう?ユリアは大人になっても、俺のこと気付かないじゃん)
なんて思いながら見上げる、可愛げのない俺の頭をエレンさんは優しく撫でて話を続けた。
「大人になって強くなってさ、誰よりも強くなって…。ユリアを迎えに行ってあげてよ。もしかしたら、その時に私がかけた魔法が解けて…レイ君のこと思い出すかもしれないから」
(ユリアの記憶が戻ることが、あるってことなのか?)
消えたものが簡単に戻るとは到底思えないけれど。そうだったら…素直に嬉しい。
エレンさんの言った言葉は、あの日俺に希望を持たせる為の方便だと思った。けれど、その言葉は俺の心の支えになったんだ。
「そうだ!いいことを思いついた。記憶を無くしてしまうユリアに、レイ君を思い出せるような『プレゼント』を用意してあげて?」
「……思い出す日なんて本当に来るの?」
減らず口ばかり叩いていた俺は、エレンさんに対してそんなことを言った。すごく訝しげに問いかけ、そして目を逸らした。
「シンデレラだって魔法が解けたんだから、ユリアの魔法も解けるかもしれないじゃない?その時に『ガラスの靴』みたいな、目印があった方がレイ君も探しやすいでしょ?」
何言ってんの?と、しらけた俺に向かってエレンさんは無邪気に笑いかけた。
…別にプレゼントは良かったんだ。記憶を無くす前に、ユリアに自分の思いを伝えるつもりでいたし。
ピアスが欲しいとこの前話していたから。それを渡す気でいたんだ。
(言われて用意したみたいになった……。最悪だ……)
「はぁ…」と、気の抜けた返事をすると、エレンさんは嬉しそうにまた笑った。
***
「ただいま~話しは終わった?」
アスカの馬鹿でかい声が玄関から響いてきた。紅茶のカップを片付けながら大きなため息をついた。
「終わったよ~。ありがとう、アスカちゃん」
エレンさんが俺の代わりに返事をしてくれた。アスカの頭を撫でて、ユリアを呼んでくるように言っている。
分かった!と、返事をしたアスカは、ショッパーを両手に抱えたユリアを連れてきた。
「…すごい量…」
「あ!…今行かなくて良かったって、ホッとしたでしょ?」
思わず呟いた言葉に、ユリアが頬を膨らませて言い返してくる。
「うん。分かってるじゃん?」
「次は一緒に行こうね?」
「やだよ」
「ジーナさん!!次はレイも一緒に行きたいって!!」
「そんなこと一言も言ってないって」
なんていつものやりとりを、二人で出来るのもあと僅かな時間しかないんだ。
そう思いながらユリアを見つめた。
(覚悟はもうできた)
強くなろうと思った。大人になった時に、ユリアを迎えに行ける程強く…。
幸い暴走する程の高い魔力を持っているし。ユリアを狙っているのが、イーターなら…。ガーディアンになって、ユリアを守ろう。
記憶は戻らなくても、ユリアが生きている限り…セイレーンでいる限り、ガーディアンになったらいつか会えると思った。
イーターにセイレーンが捕まったら、それこそ両親達が恐れていた事態となる。
ユリアに危険が迫った時は「セイレーンが見つかった」という名目で、ガーディアンを護衛につけるはずだと思ったから。
それなら『セイレーンのガーディアン』になれるように強くなろう…。そう思った。
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【本編完結】記憶をなくしたあなたへ
ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。
私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。
あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。
私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。
もう一度信じることができるのか、愛せるのか。
2人の愛を紡いでいく。
本編は6話完結です。
それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる