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13.テル
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「シュウが戻って来ないの!」
模擬戦を終えた所で、ミリヤが青い顔をして走ってきた。
「ヘテル教官に備品を一階倉庫に取りに行くように頼まれたんだけど、シュウには三階だって間違えて伝えたみたいで…」
「間違えた…?違う。多分わざとだよ」
隣にいたレイはそう呟いた。
レイから、ヘテル教官は『純血主義者』かもしれないことを聞いていた。
だとしたらレイの言う通り。その伝達ミスは意図したものだとしか思えない。
その狙いは…シュウを蔑めることだ。
「私が備品庫に向かう途中…前にシュウに絡んでたCクラスの悪魔族が数人で廊下歩いてたの…。授業中なのに。それもあって不安で…」
全身から嫌な汗が吹き出した。それは、ヘテルの思惑が分かってしまったから。
「あっ…!!テル君っ?!」
ミリヤの話が終わらない内に走り出した。
「俺も行く。ミリヤはゼルにヘテルを捕まえるように言って。ゼルにもヘテルの正体は伝えてあるから」
「え?レイ君まで…正体って?」
「それと、ゼル以外にこのことは絶対誰にも言うなよ?ユリアにも、誰にも俺たちの行き先は伝えるな」
後ろからそう指示を出しているレイの声が聞こえてきた。
そんなことどうでもいい。シュウが無事でいてくれたら…。全部が杞憂で終わってくれたなら。
そう思っていたのに…。
鍵のかかった扉を蹴り破った。
大きな音と共に目に飛び込んできたのは、口の端から白濁を滴らせ、床に倒れていたシュウだった。
その姿を見た瞬間に息が出来なくなった。
身体の血が湧き立つ。頭に血が昇るのに手足は冷たく震えた。
鼻につく嫌な臭いが充満している備品庫。床に倒れているシュウの乱れた服も…身体も…白濁で汚れていた。
露わになった白い肌は、所々強く吸われたせいで赤く染まり、噛み傷ができて血が滲んでいる。
男はその華奢な身体に跨り、豊満な胸を鷲掴みにする。
跨られたシュウは虚な瞳のままで涙を流している。
何をされたのか…一目瞭然だった。
慟哭した。冷静さを失った。手加減なんてできるわけがない。
何かを言いながら、手を掲げてくる男を壁に投げつけた。
殴りかかってきた奴の手を取り、全力で床に叩きつけて、その身体を踏み付けた。
咳き込みながら吐血する男の返り血を浴びた。
それを拭うこともせず、今度はシュウに跨ったままで手を掲げてきた男を殴り飛ばした。
それは、あの授業の時に俺が手首を折った男だった。
気付いた瞬間壁に激突して呻き声をあげる男に追い討ちをかけ、殴りつけた。
「ヘテルがやれと言った」
「俺たちは悪くない」
「助けてくれ」
「やめろ」
怯えながらそんなことをほざく男を、見下しながら更に殴りつけた。
後悔が襲う。あの時に殺せばよかった。そしたら、シュウがこんな目に遭うこともなかったのに。
(今度は間違えない…殺す…)
それしか考えられず男を何度も殴りつけた。
(殺す…)
顔の骨が折れて、原型を留めていない男は、許してと涙を流して懇願した。
(殺す…)
許す気なんて無かった俺は、表情も変えずに拳を振り上げた。
その拳が急に氷つき、床に張り付いた。
(これは悪魔族の魔法)
まだ仲間がいたのかと、振り返ると立っていたのはレイだった。
「テル、それ以上殴るとそいつ死ぬよ?」
俺に向かって手を掲げ、振り上げられないように氷の魔法で拘束している。
立ち上がれないように、ご丁寧に足まで氷つけられて動けない。
「…死ねばいいだろ?こんな奴。レイ…お前…コイツらに加担するのかよ?」
睨みつける俺に向かって、レイは大きなため息をつくと炎を纏った手で、俺を拘束していた氷を溶かす。
「別に俺はお前が人殺しになってもいいけどさ…。お前がいないとダメなヤツいるだろ?…頭冷やせよ」
レイに言われて我に返った。コイツらを殴り殺しに来たわけじゃない。
「…っシュウ!!」
横たわったまま瞳を閉じていたシュウを抱き上げて、羽織っていたジャケットでその身体を包んだ。
「…テル…くん…?」
抱き上げた瞬間に閉じていた瞳が開く。
「ごめん…シュウ…」
俺の顔を見た瞬間、虚ろだったシュウの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
「テル君っ…っ…私…っ…」
「何も言わなくていいから…」
「っ…」
華奢な身体を震わせて泣いているシュウを抱きしめることしかできなかった。
急にシュウの身体から力が抜けた。胸の中で気を失ってしまったようだ。
「…レイ…ここを任せる。シュウを救護室に連れて行きたい」
レイは俺が言う前に魔法で氷漬けにしていた。
「任せとけ。コイツらは俺がやる」
さっき俺に頭を冷やせと言ったやつと、同一人物とは思えなかった。
けれど、そんなことはどうでもいい。
力なく寄りかかるシュウを抱き上げて、ありがとうと伝えると備品庫を出た。
模擬戦を終えた所で、ミリヤが青い顔をして走ってきた。
「ヘテル教官に備品を一階倉庫に取りに行くように頼まれたんだけど、シュウには三階だって間違えて伝えたみたいで…」
「間違えた…?違う。多分わざとだよ」
隣にいたレイはそう呟いた。
レイから、ヘテル教官は『純血主義者』かもしれないことを聞いていた。
だとしたらレイの言う通り。その伝達ミスは意図したものだとしか思えない。
その狙いは…シュウを蔑めることだ。
「私が備品庫に向かう途中…前にシュウに絡んでたCクラスの悪魔族が数人で廊下歩いてたの…。授業中なのに。それもあって不安で…」
全身から嫌な汗が吹き出した。それは、ヘテルの思惑が分かってしまったから。
「あっ…!!テル君っ?!」
ミリヤの話が終わらない内に走り出した。
「俺も行く。ミリヤはゼルにヘテルを捕まえるように言って。ゼルにもヘテルの正体は伝えてあるから」
「え?レイ君まで…正体って?」
「それと、ゼル以外にこのことは絶対誰にも言うなよ?ユリアにも、誰にも俺たちの行き先は伝えるな」
後ろからそう指示を出しているレイの声が聞こえてきた。
そんなことどうでもいい。シュウが無事でいてくれたら…。全部が杞憂で終わってくれたなら。
そう思っていたのに…。
鍵のかかった扉を蹴り破った。
大きな音と共に目に飛び込んできたのは、口の端から白濁を滴らせ、床に倒れていたシュウだった。
その姿を見た瞬間に息が出来なくなった。
身体の血が湧き立つ。頭に血が昇るのに手足は冷たく震えた。
鼻につく嫌な臭いが充満している備品庫。床に倒れているシュウの乱れた服も…身体も…白濁で汚れていた。
露わになった白い肌は、所々強く吸われたせいで赤く染まり、噛み傷ができて血が滲んでいる。
男はその華奢な身体に跨り、豊満な胸を鷲掴みにする。
跨られたシュウは虚な瞳のままで涙を流している。
何をされたのか…一目瞭然だった。
慟哭した。冷静さを失った。手加減なんてできるわけがない。
何かを言いながら、手を掲げてくる男を壁に投げつけた。
殴りかかってきた奴の手を取り、全力で床に叩きつけて、その身体を踏み付けた。
咳き込みながら吐血する男の返り血を浴びた。
それを拭うこともせず、今度はシュウに跨ったままで手を掲げてきた男を殴り飛ばした。
それは、あの授業の時に俺が手首を折った男だった。
気付いた瞬間壁に激突して呻き声をあげる男に追い討ちをかけ、殴りつけた。
「ヘテルがやれと言った」
「俺たちは悪くない」
「助けてくれ」
「やめろ」
怯えながらそんなことをほざく男を、見下しながら更に殴りつけた。
後悔が襲う。あの時に殺せばよかった。そしたら、シュウがこんな目に遭うこともなかったのに。
(今度は間違えない…殺す…)
それしか考えられず男を何度も殴りつけた。
(殺す…)
顔の骨が折れて、原型を留めていない男は、許してと涙を流して懇願した。
(殺す…)
許す気なんて無かった俺は、表情も変えずに拳を振り上げた。
その拳が急に氷つき、床に張り付いた。
(これは悪魔族の魔法)
まだ仲間がいたのかと、振り返ると立っていたのはレイだった。
「テル、それ以上殴るとそいつ死ぬよ?」
俺に向かって手を掲げ、振り上げられないように氷の魔法で拘束している。
立ち上がれないように、ご丁寧に足まで氷つけられて動けない。
「…死ねばいいだろ?こんな奴。レイ…お前…コイツらに加担するのかよ?」
睨みつける俺に向かって、レイは大きなため息をつくと炎を纏った手で、俺を拘束していた氷を溶かす。
「別に俺はお前が人殺しになってもいいけどさ…。お前がいないとダメなヤツいるだろ?…頭冷やせよ」
レイに言われて我に返った。コイツらを殴り殺しに来たわけじゃない。
「…っシュウ!!」
横たわったまま瞳を閉じていたシュウを抱き上げて、羽織っていたジャケットでその身体を包んだ。
「…テル…くん…?」
抱き上げた瞬間に閉じていた瞳が開く。
「ごめん…シュウ…」
俺の顔を見た瞬間、虚ろだったシュウの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。
「テル君っ…っ…私…っ…」
「何も言わなくていいから…」
「っ…」
華奢な身体を震わせて泣いているシュウを抱きしめることしかできなかった。
急にシュウの身体から力が抜けた。胸の中で気を失ってしまったようだ。
「…レイ…ここを任せる。シュウを救護室に連れて行きたい」
レイは俺が言う前に魔法で氷漬けにしていた。
「任せとけ。コイツらは俺がやる」
さっき俺に頭を冷やせと言ったやつと、同一人物とは思えなかった。
けれど、そんなことはどうでもいい。
力なく寄りかかるシュウを抱き上げて、ありがとうと伝えると備品庫を出た。
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