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3.テル
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国王の演説もあり、今朝の養成校は異様な盛り上がりをみせていた。
(ユリアの言った通りだった)
車からシュウが降りた途端に、周りの空気が一変するのが分かった。
「テル君が、シュウの婚約者って本当だったんだ…」
「一緒に登校して来てるもんね…」
「ショック…」
「でも、それってテル君の優しさを利用してるだけじゃんね」
「国王陛下まで使って?」
「うわぁ…。やること下衆以下じゃん。あざと…」
ヒソヒソとこっちを見て呟く声が聞こえてくる。俺の耳がいいだけで、多分シュウには聞こえてないくらいの声量だ。
「おはよう!色男!」
そんな空気の中、普段通りに声をかけてくれたのは、愛想のいい守衛のおじさんだった。
「おはよう。おじさんは相変わらずだね」
「がははは。お前は大変そうだな。それより驚いたよ…。この別嬪さんがまさかプリンセスだったとはな!!」
おじさんの声で注目を浴びる中、シュウは微笑みながら頷いた。
「隠していたみたいで…ごめんなさい」
また、そうやって謝るんだ。そうやって自分は悪く無いのに、受け入れて…謝って…。悲しみも怒りも、飲み込んで微笑んで…。
(「大丈夫」も「ごめん」も、もう言わせたくないのに)
「シュウは謝らなくていいよ」
「そうだよ。お嬢さんは悪くない。悪いのはこいつだよ。始めて連れて来た時に、俺に紹介すれば良かったんだよ。俺の彼女はプリンセスだって」
おじさんがそう言って俺の腕を小突いた。周りから注目も浴びているし、いい機会だ。
「あの時は…まだシュウから返事を貰ってなかったんだ」
わざとらしく大きな声を出して、シュウの手を引いた。
目を丸くして俺を見上げるシュウに微笑みかけた。
「困らせること分かってて好きだって伝えた。この国のプリンセスだとか…身分とかそんなのどうでも良かった。俺がシュウを好きになった。だからシュウが「いいよ」って言ってくれた時、嬉しかった……」
そんな俺の言葉を聞いて群衆は息をのんで鎮まり返った。
シュウの顔が段々と紅く染まっていく。何かを言おうと口を開くけれど、声にはならずにパクパクしてるだけ。
いつもは冷静なシュウがかなり焦っている。
「好きだよ。シュウが好き」
焦っているシュウを見るのは久しぶりで、口元が緩んでしまう。
「……遊んでるよね?……」
顔を真っ赤にしながら、不貞腐れてそっぽを向いてしまったシュウに「ごめん」と謝りながら、握った手を引いて抱きしめた。
「…何かされたらすぐ俺に言って。全員ぶっ殺すから」
シュウの背中越しに、鎮まり返っている群衆を睨みつけた。
こんなことで、シュウを守れたなんて思ってない。だけど…少しだけ気が晴れた。
「ガハハ。若いっていいなぁ…!やっちゃえ、やっちゃえ!!」
おじさんの大笑いが聞こえる。胸の中のシュウは真っ赤になって顔を覆ってしまっているし。
「……あのさ……こんな所で何やってんの?」
振り返ると白けた顔で立っているレイと、何故か顔を覆って真っ赤になっているユリアがいた。
「ユリアと待ち合わせしてたんだろ?ずっと待ってたんだけど?」
「…あ…忘れてた」
「!!忘れちゃダメだよ。ごっ……ごめんね、ユリア!!」
シュウは腕の隙間から器用に抜け出して、ユリアの元に走って行ってしまった。
ユリアが気にしないでと、シュウに笑いかけている。
そんな後ろ姿を見つめながら、俺たちも養成校の中に入った。
「…置いてかれてんじゃん。…いいの?」
「いいよ。まだ目に入る場所だし。それに、言いたいことは言えたから」
「…………」
レイが何か言いたそうに、俺を白い目で見つめてきた。
「…何?」
「……サムい……」
「レイ。…お前ケンカ売ってんの?」
レイはベッと舌を出しながら、ユリアを追いかけて行ってしまった。
おじさんに「ありがとう」と、お礼をすると「頑張れよ」と返された。
(……良かった…)
おじさんのおかげで、牽制することができたし…。
ユリアとレイのおかげで、前と変わらない学校生活を送れそうな予感がしていた。
***
Aクラスのみんなのシュウへの態度は変わらなかった。
久しぶりに来たシュウにみんな「久しぶりー」と、声をかけてくれていた。
「やっとシュウが来てくれて良かったよ。実戦授業の時なんて、シュウいなかったら誰も仕切れないの」
なんて、声をかけて来たのは天使族のファリスだった。同じく、天使族のミリヤはシュウの顔を見ただけで、泣き出してしまっていたし。
なぜか釣られてユリアも泣き出した。
(お前は毎日のように会っていただろ…)
「そうね…。救護室が大変なことになってた。ファリスじゃ仕切りは無理だよね…」
「アスカ…言い様がひど過ぎるだろ」
「本当のことじゃないですか?」
「…ゼルまで…なんなんだ?お前たち…」
そんなみんなを見て、シュウも病室では見せたことのない笑顔を見せていた。
(…学校…来て良かった…)
心ない言葉をかける奴らばかりじゃないことにホッとする。
シュウの笑顔にホッとした。緊張の糸も切れそうになる程に、みんなの笑い声はいつも通り。
(このクラスにいる限り安心だ)
「まぁ…ファリスも頑張ってたよ。シュウの足元にも及ばないけどな…」
「っ…テル!!お前、それ庇ってないからな!!」
そう思いながらその輪の中に入っていった。
(ユリアの言った通りだった)
車からシュウが降りた途端に、周りの空気が一変するのが分かった。
「テル君が、シュウの婚約者って本当だったんだ…」
「一緒に登校して来てるもんね…」
「ショック…」
「でも、それってテル君の優しさを利用してるだけじゃんね」
「国王陛下まで使って?」
「うわぁ…。やること下衆以下じゃん。あざと…」
ヒソヒソとこっちを見て呟く声が聞こえてくる。俺の耳がいいだけで、多分シュウには聞こえてないくらいの声量だ。
「おはよう!色男!」
そんな空気の中、普段通りに声をかけてくれたのは、愛想のいい守衛のおじさんだった。
「おはよう。おじさんは相変わらずだね」
「がははは。お前は大変そうだな。それより驚いたよ…。この別嬪さんがまさかプリンセスだったとはな!!」
おじさんの声で注目を浴びる中、シュウは微笑みながら頷いた。
「隠していたみたいで…ごめんなさい」
また、そうやって謝るんだ。そうやって自分は悪く無いのに、受け入れて…謝って…。悲しみも怒りも、飲み込んで微笑んで…。
(「大丈夫」も「ごめん」も、もう言わせたくないのに)
「シュウは謝らなくていいよ」
「そうだよ。お嬢さんは悪くない。悪いのはこいつだよ。始めて連れて来た時に、俺に紹介すれば良かったんだよ。俺の彼女はプリンセスだって」
おじさんがそう言って俺の腕を小突いた。周りから注目も浴びているし、いい機会だ。
「あの時は…まだシュウから返事を貰ってなかったんだ」
わざとらしく大きな声を出して、シュウの手を引いた。
目を丸くして俺を見上げるシュウに微笑みかけた。
「困らせること分かってて好きだって伝えた。この国のプリンセスだとか…身分とかそんなのどうでも良かった。俺がシュウを好きになった。だからシュウが「いいよ」って言ってくれた時、嬉しかった……」
そんな俺の言葉を聞いて群衆は息をのんで鎮まり返った。
シュウの顔が段々と紅く染まっていく。何かを言おうと口を開くけれど、声にはならずにパクパクしてるだけ。
いつもは冷静なシュウがかなり焦っている。
「好きだよ。シュウが好き」
焦っているシュウを見るのは久しぶりで、口元が緩んでしまう。
「……遊んでるよね?……」
顔を真っ赤にしながら、不貞腐れてそっぽを向いてしまったシュウに「ごめん」と謝りながら、握った手を引いて抱きしめた。
「…何かされたらすぐ俺に言って。全員ぶっ殺すから」
シュウの背中越しに、鎮まり返っている群衆を睨みつけた。
こんなことで、シュウを守れたなんて思ってない。だけど…少しだけ気が晴れた。
「ガハハ。若いっていいなぁ…!やっちゃえ、やっちゃえ!!」
おじさんの大笑いが聞こえる。胸の中のシュウは真っ赤になって顔を覆ってしまっているし。
「……あのさ……こんな所で何やってんの?」
振り返ると白けた顔で立っているレイと、何故か顔を覆って真っ赤になっているユリアがいた。
「ユリアと待ち合わせしてたんだろ?ずっと待ってたんだけど?」
「…あ…忘れてた」
「!!忘れちゃダメだよ。ごっ……ごめんね、ユリア!!」
シュウは腕の隙間から器用に抜け出して、ユリアの元に走って行ってしまった。
ユリアが気にしないでと、シュウに笑いかけている。
そんな後ろ姿を見つめながら、俺たちも養成校の中に入った。
「…置いてかれてんじゃん。…いいの?」
「いいよ。まだ目に入る場所だし。それに、言いたいことは言えたから」
「…………」
レイが何か言いたそうに、俺を白い目で見つめてきた。
「…何?」
「……サムい……」
「レイ。…お前ケンカ売ってんの?」
レイはベッと舌を出しながら、ユリアを追いかけて行ってしまった。
おじさんに「ありがとう」と、お礼をすると「頑張れよ」と返された。
(……良かった…)
おじさんのおかげで、牽制することができたし…。
ユリアとレイのおかげで、前と変わらない学校生活を送れそうな予感がしていた。
***
Aクラスのみんなのシュウへの態度は変わらなかった。
久しぶりに来たシュウにみんな「久しぶりー」と、声をかけてくれていた。
「やっとシュウが来てくれて良かったよ。実戦授業の時なんて、シュウいなかったら誰も仕切れないの」
なんて、声をかけて来たのは天使族のファリスだった。同じく、天使族のミリヤはシュウの顔を見ただけで、泣き出してしまっていたし。
なぜか釣られてユリアも泣き出した。
(お前は毎日のように会っていただろ…)
「そうね…。救護室が大変なことになってた。ファリスじゃ仕切りは無理だよね…」
「アスカ…言い様がひど過ぎるだろ」
「本当のことじゃないですか?」
「…ゼルまで…なんなんだ?お前たち…」
そんなみんなを見て、シュウも病室では見せたことのない笑顔を見せていた。
(…学校…来て良かった…)
心ない言葉をかける奴らばかりじゃないことにホッとする。
シュウの笑顔にホッとした。緊張の糸も切れそうになる程に、みんなの笑い声はいつも通り。
(このクラスにいる限り安心だ)
「まぁ…ファリスも頑張ってたよ。シュウの足元にも及ばないけどな…」
「っ…テル!!お前、それ庇ってないからな!!」
そう思いながらその輪の中に入っていった。
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