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魔王様本当に目が覚める
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「起きてください魔王様」
毎日同じ時間にそう呼びかけるところから、ギルガメッシュの仕事はスタートする。
朝は声かけだけで、とくに反応がなければ部屋の掃除に取り掛かる。
そして昼になると魔王を半分ベッドの上に起こし食事をとらせる。完全に起きているわけではないのでこっくりこっくり船を漕いでいるのだが、食べ物を口の前に運ぶとパクリと食いつくさまは、赤ちゃんだったころの妹エリザベスを思い出させる。
そして腹が満ち満足げな魔王を再び横にすると、残りの時間は宰相の手伝いをして終わる。
それがここ最近のお決まりのパターンだった。
「うぅ、うぃん……ん…………」
重たい瞼を擦りながら、チカチカと炎が揺らめくような輝きを放つ真っ赤な瞳が半分だけ開かれた。
「魔王様?」
「……宰、相……?」
ウーンと背伸びをすると。寝ぼけ眼で目の前で驚いたような顔をさらしている牛魔族を見る。
「………………」
「あっ、本当に起きた!」
起こしておきながらひどい言い草である。
魔王は思わず眉をしかめたが、当の牛魔族はすでに目の前からいなくなっていた。
「魔王様!」
牛魔族から連絡を受けた宰相が、すぐさまベッド脇に駆け寄ってきた。
「おはようございます、魔王様」
「あぁ、宰相。どれくらい寝ていた──」
自分の体をぺたぺた障りながら、何かを確認するように魔王が尋ねる。
「約500年ほどです」
「500年か──」
おおよその年齢を計算する。
「25、6といったところか……」
そう言いながら持ってこさせた鏡を見て、首をひねる。自分で計算した年齢より少し幼く見える。
「この間寝ぼけて魔力暴走を起こしたので、そのせいかもしれませんね」
普通なら魔力暴走を起こしても、すぐに魔素を取り入れれば失った分の魔力を回復できるのだが、今の魔界は魔王が眠る前に比べ極端に魔素量が少ない。そのせいで魔力が回復ができず、無くした魔力の分だけ覚醒前の体が反応して今の魔力量にあった体に縮んだのかもしれない。察した宰相がそう仮説を述べた。
「そうなのか……」
いまいち納得いかなという感じだが、まあこうなってしまったものは仕方ない。
「ウルクも、長い間ご苦労だった」
眠りにつく前に牛魔族のウルクとは少しだけ話しただけだったが、少しづつ思い出してきた記憶を頼りに宰相の後ろに控えていた牛魔族に労いの言葉をかける。
「牛魔族は年がわかりずらいというが、お前も本当に変わらない……?」
「いやむしろ若返っているような……」とだんだん覚醒してきた頭でまじまじと見詰める。
「魔王様、この牛魔族はウルクではございません。ウルクの孫です」
「孫!?」
「ギルガメシュと申します」
ギルガメシュが頭を垂れる。
「また大層な名前だな」
「牛魔族は」と呆れたように笑う。
「腹が減った」
「はい魔王様」
目に涙を浮かべながら宰相が魔王の言葉に頷く。
「ギル、魔王様に食べ物をお持ちしろ、もうおかゆでなく普通のものでいい、でもなるべく消化に良く柔らかいものからな」
「へぇ」
ギルガメシュが部屋を飛び出していく。
「ギル?」
魔王が眉間に皺をよせる。
「はい、ギルガメッシュのことでございます」
「ふーん…………」
扉を見てから再び宰相を見る。
「リーレン」
「…………」
「おい、リーレン」
「っ。はい」
あまりに長い間耳にしてこなかったので、それが自分の名前であったことに気が付くのに数秒かかる。
すっかり忘れかけていた懐かしい自分の名前。宰相が、飛び上がるように返事をする。
「昔のように俺もお前をリーレンを呼ぶ、だから俺のこともラエンと呼べ、いいな」
「しかし魔王様、それでは他の魔族たちに示しがつきません──。ただでさえ今の魔族たちは魔王様のお顔を知らないものばかりなのに」
「だからいいんだろ、誰も俺が魔王だとはわからないから。どうやら、俺が眠っている間にこの魔界はとても平和になったようだし」
確かにこの500年人間たちとの争いは一切なかった。それに加え高位魔族を魔王城近くから追い出してしまったので、魔王城付近では大きな派閥争いもなかった、なので魔王城で働いている若い魔族たちは本当に争いごとと無縁な平和ボケした世代ばかりだといえる。
「なら今すぐには魔王は必要ないだろう。それにこんなに若い俺を魔王だと認めないかもしれない、勇者が来るまであと500年ほどある、それまでは、俺はただのラエンだ」
「しかし、魔王様」
「ラエンだ」
「──ラエン様」
「ラ・エ・ン」
「ラエン……」
「そうだ、リーレン」
「でもやはり、せめて様だけは……」
それを聞いてラエンがうーんと何かを考えるように上を向く。
「わかった、じゃあ二人の時以外は、様をつけることを許す」
「許すって……」
宰相ことリーレンは諦めたようにため息を付いた。魔王ことラエンは一度言い出したことは絶対に曲げないことをよくわかっている。ここが妥協点だ。
「わかりましたラエン」
ラエンはリーレンのその言葉に満足げな笑みを浮かべたのだった。
毎日同じ時間にそう呼びかけるところから、ギルガメッシュの仕事はスタートする。
朝は声かけだけで、とくに反応がなければ部屋の掃除に取り掛かる。
そして昼になると魔王を半分ベッドの上に起こし食事をとらせる。完全に起きているわけではないのでこっくりこっくり船を漕いでいるのだが、食べ物を口の前に運ぶとパクリと食いつくさまは、赤ちゃんだったころの妹エリザベスを思い出させる。
そして腹が満ち満足げな魔王を再び横にすると、残りの時間は宰相の手伝いをして終わる。
それがここ最近のお決まりのパターンだった。
「うぅ、うぃん……ん…………」
重たい瞼を擦りながら、チカチカと炎が揺らめくような輝きを放つ真っ赤な瞳が半分だけ開かれた。
「魔王様?」
「……宰、相……?」
ウーンと背伸びをすると。寝ぼけ眼で目の前で驚いたような顔をさらしている牛魔族を見る。
「………………」
「あっ、本当に起きた!」
起こしておきながらひどい言い草である。
魔王は思わず眉をしかめたが、当の牛魔族はすでに目の前からいなくなっていた。
「魔王様!」
牛魔族から連絡を受けた宰相が、すぐさまベッド脇に駆け寄ってきた。
「おはようございます、魔王様」
「あぁ、宰相。どれくらい寝ていた──」
自分の体をぺたぺた障りながら、何かを確認するように魔王が尋ねる。
「約500年ほどです」
「500年か──」
おおよその年齢を計算する。
「25、6といったところか……」
そう言いながら持ってこさせた鏡を見て、首をひねる。自分で計算した年齢より少し幼く見える。
「この間寝ぼけて魔力暴走を起こしたので、そのせいかもしれませんね」
普通なら魔力暴走を起こしても、すぐに魔素を取り入れれば失った分の魔力を回復できるのだが、今の魔界は魔王が眠る前に比べ極端に魔素量が少ない。そのせいで魔力が回復ができず、無くした魔力の分だけ覚醒前の体が反応して今の魔力量にあった体に縮んだのかもしれない。察した宰相がそう仮説を述べた。
「そうなのか……」
いまいち納得いかなという感じだが、まあこうなってしまったものは仕方ない。
「ウルクも、長い間ご苦労だった」
眠りにつく前に牛魔族のウルクとは少しだけ話しただけだったが、少しづつ思い出してきた記憶を頼りに宰相の後ろに控えていた牛魔族に労いの言葉をかける。
「牛魔族は年がわかりずらいというが、お前も本当に変わらない……?」
「いやむしろ若返っているような……」とだんだん覚醒してきた頭でまじまじと見詰める。
「魔王様、この牛魔族はウルクではございません。ウルクの孫です」
「孫!?」
「ギルガメシュと申します」
ギルガメシュが頭を垂れる。
「また大層な名前だな」
「牛魔族は」と呆れたように笑う。
「腹が減った」
「はい魔王様」
目に涙を浮かべながら宰相が魔王の言葉に頷く。
「ギル、魔王様に食べ物をお持ちしろ、もうおかゆでなく普通のものでいい、でもなるべく消化に良く柔らかいものからな」
「へぇ」
ギルガメシュが部屋を飛び出していく。
「ギル?」
魔王が眉間に皺をよせる。
「はい、ギルガメッシュのことでございます」
「ふーん…………」
扉を見てから再び宰相を見る。
「リーレン」
「…………」
「おい、リーレン」
「っ。はい」
あまりに長い間耳にしてこなかったので、それが自分の名前であったことに気が付くのに数秒かかる。
すっかり忘れかけていた懐かしい自分の名前。宰相が、飛び上がるように返事をする。
「昔のように俺もお前をリーレンを呼ぶ、だから俺のこともラエンと呼べ、いいな」
「しかし魔王様、それでは他の魔族たちに示しがつきません──。ただでさえ今の魔族たちは魔王様のお顔を知らないものばかりなのに」
「だからいいんだろ、誰も俺が魔王だとはわからないから。どうやら、俺が眠っている間にこの魔界はとても平和になったようだし」
確かにこの500年人間たちとの争いは一切なかった。それに加え高位魔族を魔王城近くから追い出してしまったので、魔王城付近では大きな派閥争いもなかった、なので魔王城で働いている若い魔族たちは本当に争いごとと無縁な平和ボケした世代ばかりだといえる。
「なら今すぐには魔王は必要ないだろう。それにこんなに若い俺を魔王だと認めないかもしれない、勇者が来るまであと500年ほどある、それまでは、俺はただのラエンだ」
「しかし、魔王様」
「ラエンだ」
「──ラエン様」
「ラ・エ・ン」
「ラエン……」
「そうだ、リーレン」
「でもやはり、せめて様だけは……」
それを聞いてラエンがうーんと何かを考えるように上を向く。
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宰相ことリーレンは諦めたようにため息を付いた。魔王ことラエンは一度言い出したことは絶対に曲げないことをよくわかっている。ここが妥協点だ。
「わかりましたラエン」
ラエンはリーレンのその言葉に満足げな笑みを浮かべたのだった。
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第一章にあたる作品
・起きてください魔王様!~勘違い群像劇コメディ~
ライト文芸大賞 参加作品
「ばなな姫 ~最悪な出会い~」
考察
・色々な小説投稿サイト使った感想や考察や収益
・アルファポリス 消える24hポイントの謎 考察 2021年
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・紅い月〜私を見ないでください。あなたを殺してしまうから〜
・屈強な兵士たちの受難
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