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幸せとは
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「みんな……よく聞け。1本の矢なら折れるが、21本? いや24? まあ、とりあえず、お前たち兄弟一人一人が矢だとして、それを束ねた矢なら折れない、だから、みんな争うのではなく、力を合わせハッ──グハッ、仲、よく……」
そうして俺は、この世界では65歳で人生の幕を閉じた。
この世界での人間の平均寿命が50歳ほどなので、長生きしたほうだ、それに俺には前世で生きた23年分の記憶もある、合わせて88歳分の人生、そこまで悪くなかった。
『お勤めご苦労様でした』
懐かしい声に、俺の一度消えた意識が目を覚ます。
『あっ、女神様』
そこには俺をこの世界に導いてくれた女神の姿があった。
『ということは、俺は死んだんだな。また』
『そうです』
『女神さまが迎えに来てくれたということは、俺はまたどこかに転生させられたりするんですか?』
『いいえ』
『まあ、そうですよね、そんなポンポン転生なんてさせてられませんよね』
無言で女神はほほ笑む。
そう俺は自分の寿命を異世界のエネルギーの補充に充てる代わりに、この異世界でチート能力を持って転生したのだ。
強制ではなかった。
地球に残った場合寿命は全うできるが、交通事故の後遺症で死ぬまでほぼベッドのうえで過ごすか、残りの寿命を異世界のエネルギーに変換する代わりに、特別な力をもらったうえで新たな生を異世界で受けるかという二者択一を迫られたのだ。
地球ではすでに家族はなく、親しい友もいなかった俺は、何の迷いもなく異世界にいくことを選んだ。
それに、前世の記憶と、チート能力という特典もつくのだ、文句どころか、よくぞ俺の前に現れてくれたと感謝したいほどだった。
『こちらの世界はどうでしたか?』
伯爵の子で魔法も剣もチート能力を持って生まれた俺は、こちらの世界で敵なしだった。
魔族にさらわれたエルフの美女や王女を救い、幾戦もの戦いに勝利を治めた、最後には一つの大国の皇帝になった。
男の夢であるハーレムも作り、お妃や子供も数十人以上いた。
ただ、俺の女神から授かった特殊な能力は子供たちに遺伝するものではなかったので、子供たちには俺のような、剣も魔法もずば抜けた才能がないことに、口には出さないがみなが落胆した。
それに妃たちも、みな表面上は仲良くしていたが、裏では自分の子を皇太子にしようと、色々暗躍していた。
それを知った時の俺の心情と言ったら……。
『まあ色々ありましたが、それなりに楽しい人生でした』
胸躍る冒険に、数多き愛。
死ぬ間際にも私生児が見つかり、ひと悶着あったが……。
まあどんまい子供たち。みなで仲良く国を支えてくれ。
By 父。
って感じである。
哀愁ただよう笑みを浮かべる。
『で、これから俺はどうなるのですか?』
『それなのですが、あなたのこの世界での役目は終えました。ここで死を迎えまた転生輪廻の輪の中に帰るのですが、ただここであなたには二つの選択肢があります』
『また選択できるんですか?』
『はい、ただ今回は、チートや前世の記憶を引き継ぐなど、特別なことはできません。普通の魂と同じように真っ新な魂になって、転生の輪に帰ります』
『そうなんですね』
なら選択とはなんだろう? 俺は首をひねった。
『あなたには、この異世界か前世で生きた地球、どちらの輪廻に戻るか選択ができます』
そういうことか。俺は納得した。
『今回はなにも得点はないんですよね』
『能力的な得点と言えるものはあげれませんが、あなたには、ここに来てもらった恩もあるので、出生先の希望ぐらいは今までのお礼として、私の方で口添えをしたいと思います』
なんともありがたい言葉である。
これで最悪な環境下に生まれることはないということだ。
『それなら──』
俺は女神に言った。
※ ※ ※
「陽一!」
桜の舞い散る入学式、俺は幼馴染と真新しい制服で第一志望であった高校の門をくぐった。
「はあ、ここから俺たちの新しい青春が始まるんだな」
頬を高揚させてそういう友に、俺も同じように微笑みかける。
「今年こそは彼女を作るぞ」
「俺は別に」
「また、そんなことを言う。せっかくモテるのにもったいない。えっ、まさかそっち系?」
「違うよバカ。ただ俺はまだ友達同士でたくさん遊びたいなって、彼女なんて、結婚する一人と付き合えればいいんだし、急ぐ必要はないだろ」
「おまえ昔からそういうとこだけ、枯れた爺さんみたいなこというよな」
友は呆れたような視線をよこす。
確かに、俺は昔からどうも女が苦手だった。別に嫌いというわけではない、可愛いなと思う子もいた。でもいざ付き合おうとなると、急に不安になるのだ。
「ハーレムは男の夢だろ」
そういう友がいると心の底から考え直せといいたくなく。
「俺はいいんだ。俺は友達と秘密基地を作ったり、のんびりキャンプしたり、男だけでバカやる時間が一番楽しいんだ。だからといって別に女の子がいやなわけじゃない、ただそこに、愛だ恋だのが関わるのが嫌なんだ」
「まあ、それもなんとなくわかるけど、普通高校生にもなれば愛だ恋だと騒ぎたいだろ」
そんな友の叫びに俺は愛想笑いを浮かべる。
「全く、お前はよほど前世で女運が悪かったんだろうな」
友と言葉に、俺は「そうかもな」と笑って返した。
そうして俺は、この世界では65歳で人生の幕を閉じた。
この世界での人間の平均寿命が50歳ほどなので、長生きしたほうだ、それに俺には前世で生きた23年分の記憶もある、合わせて88歳分の人生、そこまで悪くなかった。
『お勤めご苦労様でした』
懐かしい声に、俺の一度消えた意識が目を覚ます。
『あっ、女神様』
そこには俺をこの世界に導いてくれた女神の姿があった。
『ということは、俺は死んだんだな。また』
『そうです』
『女神さまが迎えに来てくれたということは、俺はまたどこかに転生させられたりするんですか?』
『いいえ』
『まあ、そうですよね、そんなポンポン転生なんてさせてられませんよね』
無言で女神はほほ笑む。
そう俺は自分の寿命を異世界のエネルギーの補充に充てる代わりに、この異世界でチート能力を持って転生したのだ。
強制ではなかった。
地球に残った場合寿命は全うできるが、交通事故の後遺症で死ぬまでほぼベッドのうえで過ごすか、残りの寿命を異世界のエネルギーに変換する代わりに、特別な力をもらったうえで新たな生を異世界で受けるかという二者択一を迫られたのだ。
地球ではすでに家族はなく、親しい友もいなかった俺は、何の迷いもなく異世界にいくことを選んだ。
それに、前世の記憶と、チート能力という特典もつくのだ、文句どころか、よくぞ俺の前に現れてくれたと感謝したいほどだった。
『こちらの世界はどうでしたか?』
伯爵の子で魔法も剣もチート能力を持って生まれた俺は、こちらの世界で敵なしだった。
魔族にさらわれたエルフの美女や王女を救い、幾戦もの戦いに勝利を治めた、最後には一つの大国の皇帝になった。
男の夢であるハーレムも作り、お妃や子供も数十人以上いた。
ただ、俺の女神から授かった特殊な能力は子供たちに遺伝するものではなかったので、子供たちには俺のような、剣も魔法もずば抜けた才能がないことに、口には出さないがみなが落胆した。
それに妃たちも、みな表面上は仲良くしていたが、裏では自分の子を皇太子にしようと、色々暗躍していた。
それを知った時の俺の心情と言ったら……。
『まあ色々ありましたが、それなりに楽しい人生でした』
胸躍る冒険に、数多き愛。
死ぬ間際にも私生児が見つかり、ひと悶着あったが……。
まあどんまい子供たち。みなで仲良く国を支えてくれ。
By 父。
って感じである。
哀愁ただよう笑みを浮かべる。
『で、これから俺はどうなるのですか?』
『それなのですが、あなたのこの世界での役目は終えました。ここで死を迎えまた転生輪廻の輪の中に帰るのですが、ただここであなたには二つの選択肢があります』
『また選択できるんですか?』
『はい、ただ今回は、チートや前世の記憶を引き継ぐなど、特別なことはできません。普通の魂と同じように真っ新な魂になって、転生の輪に帰ります』
『そうなんですね』
なら選択とはなんだろう? 俺は首をひねった。
『あなたには、この異世界か前世で生きた地球、どちらの輪廻に戻るか選択ができます』
そういうことか。俺は納得した。
『今回はなにも得点はないんですよね』
『能力的な得点と言えるものはあげれませんが、あなたには、ここに来てもらった恩もあるので、出生先の希望ぐらいは今までのお礼として、私の方で口添えをしたいと思います』
なんともありがたい言葉である。
これで最悪な環境下に生まれることはないということだ。
『それなら──』
俺は女神に言った。
※ ※ ※
「陽一!」
桜の舞い散る入学式、俺は幼馴染と真新しい制服で第一志望であった高校の門をくぐった。
「はあ、ここから俺たちの新しい青春が始まるんだな」
頬を高揚させてそういう友に、俺も同じように微笑みかける。
「今年こそは彼女を作るぞ」
「俺は別に」
「また、そんなことを言う。せっかくモテるのにもったいない。えっ、まさかそっち系?」
「違うよバカ。ただ俺はまだ友達同士でたくさん遊びたいなって、彼女なんて、結婚する一人と付き合えればいいんだし、急ぐ必要はないだろ」
「おまえ昔からそういうとこだけ、枯れた爺さんみたいなこというよな」
友は呆れたような視線をよこす。
確かに、俺は昔からどうも女が苦手だった。別に嫌いというわけではない、可愛いなと思う子もいた。でもいざ付き合おうとなると、急に不安になるのだ。
「ハーレムは男の夢だろ」
そういう友がいると心の底から考え直せといいたくなく。
「俺はいいんだ。俺は友達と秘密基地を作ったり、のんびりキャンプしたり、男だけでバカやる時間が一番楽しいんだ。だからといって別に女の子がいやなわけじゃない、ただそこに、愛だ恋だのが関わるのが嫌なんだ」
「まあ、それもなんとなくわかるけど、普通高校生にもなれば愛だ恋だと騒ぎたいだろ」
そんな友の叫びに俺は愛想笑いを浮かべる。
「全く、お前はよほど前世で女運が悪かったんだろうな」
友と言葉に、俺は「そうかもな」と笑って返した。
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