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占い師

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「はい、今付き合ってる人との相性は良いので、結婚を考えてもいいと思います」
「本当ですか?」
「はい、お互いを尊重し大切にすれば、きっといいパートナーになるでしょう」

 最後の客を見送ってから私はかぶっていたベールを机の上に置いた。
 私の商売はいわゆる占い師である。

 姓名判断、水晶占い、タロット占い。とりあえず一通りできる。そして私の強みは相手の本当は望んでいる言葉がわかるということだ。
 洞察力も高い方だがそれだけでは説明できない、勘が鋭いというか第六感が働くというか。

 だからといって占いは適当ということはない、占いは昔からのデータの積み重ね、全く見当違いなものとも言えない。

 ただ占い師のもとにやってくる客は、所詮当たるも八卦当たらぬも八卦。
 データの積み重ねのもとに、ぜんぜん求めていない言葉をもらうより、多少はずれても、自分が聞きたい言葉を聞きにくる客のほうが圧倒的に多い。

 だからちゃんと占ったうえで、その人の本当に聞きたい言葉をうまく絡めながらアドバイスするのだ、すると客は満足して帰っていく。

 そうして、私は結構当たると評判な占い師として知られるまでになっていた。
 でも中にはただ占い師を否定するためだけに来る客もいなくはない。

「本当に占いが当たるというのなら、万馬券を当ててみろ」
「占いは未来の道しるべにするものであって、宝くじの番号や万馬券を当てるものではありません」

 私だって未来が見えるなら見てるわい、万馬券買ってるわい。
 とは言い返しません。
 
 でも本当に未来までは望まなくても、これだけ人の恋愛相談うけているのに、自分の恋愛はさっぱりなのは悲しい限りである。

 私は勘が良すぎて相手の望むことをすぐやってしまうのだが、初めは気が利くと喜んでくれている男たちは、この職業と相まって、そのうち本当は未来予知ができてるんじゃないかと怯えだし、離れていってしまうのだ。

「すみません、まだ大丈夫ですか?」

 ”close”の看板を出そうと席を立った時、飛び込みで一人の客が入って来た。

「あの、もう──」

 断ろうとした時目と目が合った。
 体に電流が走った。

「大丈夫です。どうぞおかけください」
「あ、はい。ありがとうございます」

 私を凝視したまま固まっていた彼は、私の言葉に慌てて席に着いた。

「で、今日はどんな占いを?」
「えぇと、本当は仕事について占ってもらいたかったんですけど……」

 そう言って彼はチラリと私を上目遣いで見ると、一瞬言い及んでから意を決したように言葉を発した。

「一目惚れってあると思いますか!」
「はい、あると思います!」

 食い気味の答えと、その場に落ちる一瞬の沈黙。
 その沈黙を破るように彼がプッと吹き出した。
 私は冷静さを取り戻すようにコホンと一つ小さく咳払いをした。

 占い師は自分のことは占えない。
 だが相手のことは占える。

 彼の未来は明るく輝いている。
 そしてそのパートナーは世界一の幸せ者になるだろう。
 占いの結果も、私の勘もそう示してる。


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