起きてください魔王様!〜過保護な宰相の日々〜

トト

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やっぱし魔王様はまだ起きない

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 牛男は生まれてからまだ100年は経っていない、なので眠ったままの魔王様しか見たことがない。
 魔族も種族によってまちまちだが、だいたい20歳までは人間と同じように成長し、その後は緩やかになる。だいたい10年で1歳年を取るような感じである。
 宰相の見た目は自分より50年ほど年上に見える、でも魔王様は自分とそんなに年齢がかわらないように見えた。なので500年も眠ったままだと聞いた時は、若い魔王で、眠っている間は時間がとまっている種族なのだと勝手に思っていた。魔族の中には仮死状態だと年を取らない種族がいるからだ。
 しかし、まさか眠っている間年を取らないどころか、若返る種族とは、聞いたことがない。

「若く見えても、お前よりずっと年上で聡明でこの世界を支配できるだけの力をもったお方だ」

 冷たい冷気を吹きかけられたような気がした。

「──へっ、へい、わかってます……」

 大きな体を小さく縮こませながら牛男が頭を垂れる。

「ちなみに私は不死ではないが不老だ、お前のひいひいひい爺さんが村を作りたいと魔王城に申請した時に許可をだしたのはこの私だ」
「あ。ありがとうございます」

 いったいこの宰相も何歳なのだろう。考えてみたが途中で怖くなって思考を止めた。そしてとりあえずお礼を述べる。

「で、お前たちがすることはもうわかったな」
「へ、へぃ」

 いやよくわからない。でも今はそう答えるしかここを生きてでれる保証はない。
 すっと宰相の手が伸びた。

「ヒッ!」

 牛男が恐怖で短く悲鳴を上げた。
 しかしその手は牛男ではなく、もっていた桶の中に向けられた。

「すっかり冷めてしまったな。それにお前が揺らしたせいで、タオルも濡れてしまった。こんなもので魔王様を拭いたら。冷たさで部屋を焼かれてしまうかもしれない」

 ガタガタを歯が揺れた。

「すぐに新しいのをお持ちします」
「うむ」

 深々と頭を垂れ牛男は弾けらたように部屋を飛び出していった。

「魔王様」

 スヤスヤと寝息を立てる魔王の髪をそっとかき上げる。
 世界中のあらゆる国を一睨みで震え上がらせた、恐怖の大魔王。

 その屈強な肉体からあふれ出る威厳と貫禄。また幾戦の戦いから受けた傷の残る強面だった姿は、見るものを恐怖ですくみ上らせたものだった。
 前の800年の眠りで少し若返った時もまだまだ、魔王としての貫禄は十分そなえ魅力的な雄のフェロモンを強く放っていたのだが、この500年で、牛男のようなまだ赤ん坊のような兵士にまで軽く見られてしまうまで若返ってしまった。あと500年も眠ってしまったら……

『宰相。遊んで』

 まだ幼かった魔王のある日の姿を思い浮かべながら「それも悪くはない」と思いつつ首を振る。
 魔族のほとんどは弱肉強食の考えしか持たない。強いものには絶対の忠誠を、でも少しでも弱みを見せたらいつ反旗をひるがえすかわかったものではない。
 
 魔王が眠って若返るのはその肉体だけといわれているが、多少精神も肉体に引っ張られ幼くなってる気がする。
 見た目も若く、寝起きは判断力も低下している魔王様を狙うのは勇者だけではないということだ。魔王様が完全に覚醒するまで、私が魔王様をお守りしなくては。

『おのれ勇者! 1000年後また相見えようぞ! それまでしばしの安息を貪るがよい』

 それに前回勇者に倒された時に、魔王様は1000年で復活するようなことを人間の勇者に言ってしまったのだ。
 きっと人間たちも1000年後の魔王復活に向けて準備をしているはず、その時まだ覚醒できず寝ぼけていたりしたら、さすがの魔王様もただではすまないだろう。傷を癒すのに眠りにつくにしても、これ以上幼くなられたら……。
 さすがに赤ん坊までは若返らないとは思うが、そんなに永く眠った魔王を知らないのでどこまで若返るのか永く仕えている宰相すら知らない、たぶん魔王本人もわかってないだろう。

 またあの貫禄のにじみ出た屈強な見た目を取り戻すのに、今だって何百年かかることか。

 勇者には1000年後を約束したが、魔王様にはもう一刻も早く目覚めてもらい、ちゃんと頭が動くようにしてもらわなければ、たぶん魔王様もそう思って少しながめに宣告をしたに違いないのだ。
 前回受けた傷もすっかり癒え、ただ二度寝を満喫するようにむにゃむにゃと眠る魔王を眺めながらそれを確信するように頷く。

「魔王様起きてください」

 そうして今日も宰相は幼子を起こすようにやさしく肩をゆらすのだった。
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