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瓦版

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「さぁ、さぁ皆さんお立合い。昨晩あの江戸を騒がす二大義賊、ネズミ小僧とネコ娘が協力して悪に鉄槌を下したよ」

 人々が行き交う大通りに、朝早くから瓦版売りの活気あふれた声が響く。

「ネコ娘がお侍様やお役人たちをバッタバッタとなぎ倒している隙に、攫われた娘さんたちの前に音もなく現れたネズミ小僧。さっと手をかざしたらあら不思議、あの頑丈な南京錠がわけもなく開いちまった。そしてあっという間に屋敷の外まで娘たちを連れ出しちまった」

 瓦版売りの語りかけに、行き交う人々が足を止めるだす。

「でもただ娘を逃がしただけじゃあすぐに役人に娘たちも捕まってしまう。そりゃあ可哀そうだが、娘たちは借金のかたに身売りされた商品だからそれはしかたないことだ」

 瓦版売りが憐れむように口をへの字にしながら首を振る。
 しかし次の瞬間パッと顔を輝かすと、ひときわ大きな声であげる。

「しかしそこは抜かりないね。我らがねずみ小僧様! さっと懐から取り出した借用書、それに書かれた金額以上の代金を娘さんたちに一緒に手渡した!」

 ざわざわと町民が騒ぎ出す。

「これで借金をチャラにしろと?」
「盗んだ金で娘を買い戻すなんて、奉行所には通じないよ」

 誰かがヤジを飛ばす。
 しかしそのヤジを待ってましたとばかりに、瓦版売りが膝を叩いて、ヤジに向かって声をあげる。

「大丈夫。盗んだ書類はそれだけじゃーなかったんだ」

 瓦版を叩きながら、調子を上げていく。

「賭博場を裏で牛耳っていたのはあの安久田様、いや”様”なんてもう必要ない、安久田の野郎。やっていたのはただの賭博じゃなかった。違法賭博だったんだ」

 それにと。と急に辺りをキョロキョロすると急に声を潜めて話し出す。
 町民たちは話を聞きたくて、瓦版売りに一歩近づく。

「最近行方不明になっていた子供たちも、屋敷から見つかったんだってさ」

 その話に町民たちが「えぇ」と驚きの声をあげる。
 通りを歩いていた人々も、なんだなんだとさらに集まって来る。

「人身売買をしてったってことか」

 腹立たしげに口々に文句を言い出す町民。

「でもこれで安久田も賭博場もお縄さぁ。いかさま賭博でおった借金はもちろん取り消し。損害は娘たちがそれ以上の金額をネズミ小僧からいただいている。一件落着言うことなし」

 そんな町民たちに、瓦売りが嬉しそう締めくくる。町民からも感嘆の声が上がる。

「詳しく知りたい方はこの瓦版に全て書いてあるよ。ほら買った買った!」
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