【完結】夜を舞う〜捕物帳、秘密の裏家業〜

トト

文字の大きさ
上 下
10 / 11

瓦版

しおりを挟む
「さぁ、さぁ皆さんお立合い。昨晩あの江戸を騒がす二大義賊、ネズミ小僧とネコ娘が協力して悪に鉄槌を下したよ」

 人々が行き交う大通りに、朝早くから瓦版売りの活気あふれた声が響く。

「ネコ娘がお侍様やお役人たちをバッタバッタとなぎ倒している隙に、攫われた娘さんたちの前に音もなく現れたネズミ小僧。さっと手をかざしたらあら不思議、あの頑丈な南京錠がわけもなく開いちまった。そしてあっという間に屋敷の外まで娘たちを連れ出しちまった」

 瓦版売りの語りかけに、行き交う人々が足を止めるだす。

「でもただ娘を逃がしただけじゃあすぐに役人に娘たちも捕まってしまう。そりゃあ可哀そうだが、娘たちは借金のかたに身売りされた商品だからそれはしかたないことだ」

 瓦版売りが憐れむように口をへの字にしながら首を振る。
 しかし次の瞬間パッと顔を輝かすと、ひときわ大きな声であげる。

「しかしそこは抜かりないね。我らがねずみ小僧様! さっと懐から取り出した借用書、それに書かれた金額以上の代金を娘さんたちに一緒に手渡した!」

 ざわざわと町民が騒ぎ出す。

「これで借金をチャラにしろと?」
「盗んだ金で娘を買い戻すなんて、奉行所には通じないよ」

 誰かがヤジを飛ばす。
 しかしそのヤジを待ってましたとばかりに、瓦版売りが膝を叩いて、ヤジに向かって声をあげる。

「大丈夫。盗んだ書類はそれだけじゃーなかったんだ」

 瓦版を叩きながら、調子を上げていく。

「賭博場を裏で牛耳っていたのはあの安久田様、いや”様”なんてもう必要ない、安久田の野郎。やっていたのはただの賭博じゃなかった。違法賭博だったんだ」

 それにと。と急に辺りをキョロキョロすると急に声を潜めて話し出す。
 町民たちは話を聞きたくて、瓦版売りに一歩近づく。

「最近行方不明になっていた子供たちも、屋敷から見つかったんだってさ」

 その話に町民たちが「えぇ」と驚きの声をあげる。
 通りを歩いていた人々も、なんだなんだとさらに集まって来る。

「人身売買をしてったってことか」

 腹立たしげに口々に文句を言い出す町民。

「でもこれで安久田も賭博場もお縄さぁ。いかさま賭博でおった借金はもちろん取り消し。損害は娘たちがそれ以上の金額をネズミ小僧からいただいている。一件落着言うことなし」

 そんな町民たちに、瓦売りが嬉しそう締めくくる。町民からも感嘆の声が上がる。

「詳しく知りたい方はこの瓦版に全て書いてあるよ。ほら買った買った!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

銀の帳(とばり)

麦倉樟美
歴史・時代
江戸の町。 北町奉行所の同心見習い・有賀(あるが)雅耶(まさや)は、偶然、正体不明の浪人と町娘を助ける。 娘はかつて別れた恋人だった。 その頃、市中では辻斬り事件が頻発しており…。 若い男女の心の綾、武家社会における身分違いの友情などを描く。 本格時代小説とは異なる、時代劇風小説です。 大昔の同人誌作品を大幅リメイクし、個人HPに掲載。今回それをさらにリメイクしています。 時代考証を頑張った部分、及ばなかった部分(…大半)、あえて完全に変えた部分があります。 家名や地名は架空のものを使用。 大昔は図書館に通って調べたりもしましたが、今は昔、今回のリメイクに関してはインターネット上の情報に頼りました。ただ、あまり深追いはしていません。 かつてのテレビ時代劇スペシャル(2時間枠)を楽しむような感覚で見ていただければ幸いです。 過去完結作品ですが、現在ラストを書き直し中(2024.6.16)

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

居候同心

紫紺
歴史・時代
臨時廻り同心風見壮真は実家の離れで訳あって居候中。 本日も頭の上がらない、母屋の主、筆頭与力である父親から呼び出された。 実は腕も立ち有能な同心である壮真は、通常の臨時とは違い、重要な案件を上からの密命で動く任務に就いている。 この日もまた、父親からもたらされた案件に、情報屋兼相棒の翔一郎と解決に乗り出した。 ※完結しました。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

家康の孫と信玄の娘

葉城野新八
歴史・時代
凍てつく悲しみの果てにあったのは、未来という希望の陽だまり。 夫を失い、子を二度も失って、仏壇のまえで供養の経をあげるだけの毎日を送っていた信玄の娘――見性院のもとに、慶長十六年のある日、奇妙な依頼が舞い込んだ。それはなんと、家康の孫を預かって欲しいというのである―― 会津松平家の家祖、会津中将保科正之を世に送りだしたのは、信玄の娘だった。 数奇な運命をたどった二人の物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

処理中です...