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ネズミ小僧VS男
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ネズミ小僧が自分の首元を指しながらニヤリと笑う。
男はネズミ小僧が指さした場所と同じところに手を持っていき、いつの間にかそこに小さな針が刺さっていることに初めて気がついた。
「ネズミ小僧は、殺人はしないんじゃなかったのか」
どうせこれも麻酔針なのだろうと、くらくらする頭で威嚇する。
「ネズミ小僧はしないさ。でも女・子供を助けるのはネコ娘の仕事だろ。ここで死体が見つかれば、役人たちはどちらの仕業だと思うかな」
「何を言っているんだ……?」
「今回、協力してるんだよ。外の役人を引き連れて走り待っているのは彼女だよ」
ニコニコと話している間にも、男の心臓は早鐘の様に早く打ち出し、呼吸も荒くなっていく。
「仲間に罪をかぶせるのか」
さんざん人に悪事を働いている口が、仲間を語る。
毒なんて嘘何だろうと言わんばかりに、ネズミ小僧を睨みつけた。
「仲間?」
その瞬間ニタリと、本当に楽しそうに笑うネズミ小僧の顔を見た。
思わず男もゾッとする。仮面をつけていてもその瞳に浮かぶものが残忍で残酷なものだとわかったからだ。
「あっしは、自分を過信するものや己の信念を疑わない真っすぐな瞳が、絶望と屈辱で歪むのを見るのが好きなんですよ」
何を言っているのかという目で男はネズミ小僧を見詰める。
「いままでたまたま悪い奴に気が強い者が多かっただけで、あっしはその顔が見れるなら、本当に誰がどうなろうと構わないって思ってるんです」
まともの頭を動かすことすら辛くなってきた男は、ただ、この目の前の男が、世間一般が騒いでいるような、善行で動いている人物ではないということだけが、肌で分かった。
そんなことを考えている間にも、心臓に杭が撃ち込まれるような痛みが走る。
(これは麻酔なんかじゃ絶対にない)
恐怖が男の顔にはっきりと浮かぶと、ネズミ小僧が心底嬉しそうにブルリと体を震わせて悦に入った表情を浮かべた。
「あぁ、いい表情だ」
それから少し困ったように言葉を続ける。
「あっしの仕事は蔵にあったこの宝石を盗み出した時点で成功なんです、本当言うと、今はネコさんの信頼を得るかどうしようか迷いちゅなんです」
ネズミ小僧が言わんとしていることがだんだんわかって来る。
本当にネズミ小僧にとって男が死のうが死ぬまいが関係ないのだ。それによって世間からなんと言われようとも。
寧ろネズミ小僧の言うように、ネコ娘に罪を擦り付け、その顔をみたいという気持ちこそ本当なのかも知れない。
「解毒剤はあるのか」
ぜいぜいとそう訊ねる。
「まぁ、できればあっしもまたネコさんと遊びたいんで、罪を擦り付けるより、旦那に生きてもらってた方がいいですかね」
友達に相談するように話しかけながら、懐から薬瓶を覗かせる。
「帳簿の、ありかは話す──、だから……よこせ──」
「話すのが先ですよ。早く話さないとろれつが回らなくなりますよ。旦那」
すでに立っていられず四つん這いになり顔を伏せる男の、苦しむ姿を楽しむかのように、ネズミ小僧は男の顔を持ち上げてそう言った。
すでに、うまく舌がまわらない。それでも男は必死に帳簿のありかを話した。
「──だ。…………」
ニヤリと笑うネズミ小僧、男が震えながらネズミ小僧の懐に手を伸ばしたがその手は何もつかめず宙を切った。
「あぁ、間に合わなかったか……」
無駄話はするものじゃないね。ネズミ小僧は地面に倒れている男をひょいと担ぎ上げると、女たちが閉じ込められていた牢に放り込んだ。
「まぁだいたいの場所はわかったし。どうにかなるだろ」
牢の中でうぅと微かにうめき声をあげた男を一瞥すると。
「そこで朝まで反省してな。死ぬほど苦しいが死にはしませんよ」
そう笑って言い捨てた。
「しかし、やっぱり男の泣き顔よりは……」
真っすぐで力強いまるで夜空のような瞳を思い浮かべ、ホォと吐息をもらす。
「全て片付いたら、いやな顔をしながらそれでも礼をいってくれるかな」
ネズミ小僧はフフフと小さく笑う。その光景を思い浮かべてうっとりと頬を赤らめた。
男はネズミ小僧が指さした場所と同じところに手を持っていき、いつの間にかそこに小さな針が刺さっていることに初めて気がついた。
「ネズミ小僧は、殺人はしないんじゃなかったのか」
どうせこれも麻酔針なのだろうと、くらくらする頭で威嚇する。
「ネズミ小僧はしないさ。でも女・子供を助けるのはネコ娘の仕事だろ。ここで死体が見つかれば、役人たちはどちらの仕業だと思うかな」
「何を言っているんだ……?」
「今回、協力してるんだよ。外の役人を引き連れて走り待っているのは彼女だよ」
ニコニコと話している間にも、男の心臓は早鐘の様に早く打ち出し、呼吸も荒くなっていく。
「仲間に罪をかぶせるのか」
さんざん人に悪事を働いている口が、仲間を語る。
毒なんて嘘何だろうと言わんばかりに、ネズミ小僧を睨みつけた。
「仲間?」
その瞬間ニタリと、本当に楽しそうに笑うネズミ小僧の顔を見た。
思わず男もゾッとする。仮面をつけていてもその瞳に浮かぶものが残忍で残酷なものだとわかったからだ。
「あっしは、自分を過信するものや己の信念を疑わない真っすぐな瞳が、絶望と屈辱で歪むのを見るのが好きなんですよ」
何を言っているのかという目で男はネズミ小僧を見詰める。
「いままでたまたま悪い奴に気が強い者が多かっただけで、あっしはその顔が見れるなら、本当に誰がどうなろうと構わないって思ってるんです」
まともの頭を動かすことすら辛くなってきた男は、ただ、この目の前の男が、世間一般が騒いでいるような、善行で動いている人物ではないということだけが、肌で分かった。
そんなことを考えている間にも、心臓に杭が撃ち込まれるような痛みが走る。
(これは麻酔なんかじゃ絶対にない)
恐怖が男の顔にはっきりと浮かぶと、ネズミ小僧が心底嬉しそうにブルリと体を震わせて悦に入った表情を浮かべた。
「あぁ、いい表情だ」
それから少し困ったように言葉を続ける。
「あっしの仕事は蔵にあったこの宝石を盗み出した時点で成功なんです、本当言うと、今はネコさんの信頼を得るかどうしようか迷いちゅなんです」
ネズミ小僧が言わんとしていることがだんだんわかって来る。
本当にネズミ小僧にとって男が死のうが死ぬまいが関係ないのだ。それによって世間からなんと言われようとも。
寧ろネズミ小僧の言うように、ネコ娘に罪を擦り付け、その顔をみたいという気持ちこそ本当なのかも知れない。
「解毒剤はあるのか」
ぜいぜいとそう訊ねる。
「まぁ、できればあっしもまたネコさんと遊びたいんで、罪を擦り付けるより、旦那に生きてもらってた方がいいですかね」
友達に相談するように話しかけながら、懐から薬瓶を覗かせる。
「帳簿の、ありかは話す──、だから……よこせ──」
「話すのが先ですよ。早く話さないとろれつが回らなくなりますよ。旦那」
すでに立っていられず四つん這いになり顔を伏せる男の、苦しむ姿を楽しむかのように、ネズミ小僧は男の顔を持ち上げてそう言った。
すでに、うまく舌がまわらない。それでも男は必死に帳簿のありかを話した。
「──だ。…………」
ニヤリと笑うネズミ小僧、男が震えながらネズミ小僧の懐に手を伸ばしたがその手は何もつかめず宙を切った。
「あぁ、間に合わなかったか……」
無駄話はするものじゃないね。ネズミ小僧は地面に倒れている男をひょいと担ぎ上げると、女たちが閉じ込められていた牢に放り込んだ。
「まぁだいたいの場所はわかったし。どうにかなるだろ」
牢の中でうぅと微かにうめき声をあげた男を一瞥すると。
「そこで朝まで反省してな。死ぬほど苦しいが死にはしませんよ」
そう笑って言い捨てた。
「しかし、やっぱり男の泣き顔よりは……」
真っすぐで力強いまるで夜空のような瞳を思い浮かべ、ホォと吐息をもらす。
「全て片付いたら、いやな顔をしながらそれでも礼をいってくれるかな」
ネズミ小僧はフフフと小さく笑う。その光景を思い浮かべてうっとりと頬を赤らめた。
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